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14.私は、正気よね?
しおりを挟むカシュ
「んー! やっぱりこのお酒は缶から出して氷入れたほうが美味しいわ」
ベッドの縁によりかかり部屋を見渡した。伯母の所有している賃貸アパートをずっと借りていた。
今は、壁にはったカレンダーもささやかながら置いていた観葉植物もない。
「これで夢だったら、本当のアホよね」
リードに啖呵きって、すぐに会社に退職届けを出した。
『あなた、引き継ぎはどうするのよ!』
『ファイルにまとめてあります。今いる人にも教えておきますし。体調不良の為、申し訳ございません』
「あの社長の顔! まさか私が辞めると思っていなかったんだろうな」
長くいれば陰口を言われ、かといっていざ辞めると紙を出せばまた文句。
「年休、有給すべてとる子は私が初めてらしいし。ちょっとスッキリした」
『もう沢ちゃんもそんな歳か~そろそろ考えないとじゃない~?』
喚ばれた日、営業のベテランに言われた何気ない言葉。悪気はないのは理解していても小さなトゲとなる。
「ムカつく台詞まで思い出したじゃない。そりゃあ、好みの人と出会いとかあればいいわよ。したくても相手いないんだもの。あ、もう人妻か?」
そう。好みの奴はいた。
「でも、まさかの異世界にとはね」
手には変わらず綺麗な模様。これだけが、唯一現実だと、私が正気なんだと教えてくれる。
「心は決まっている。けれど」
おつまみのナッツを口に放り込み、残りのお酒をグラスに注ぎ一気に飲んだ。
「ふー、弱気になるなよ私。あっ」
足元が急に光り出した。眩しすぎて目を閉じればあの気持ち悪い浮遊感。
「いたっ」
「よぉ、ナツ」
お尻を床にもろにぶつけ、その痛さに涙目になりながら主を見上げた。
「もっと優しく喚べないわけ?」
「充分配慮しているつもりだが」
憎たらしいくらいに自信に満ちている顔がある。
でも、悔しいかな。安心する自分がいた。
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