ついてない日に異世界へ

波間柏

文字の大きさ
上 下
10 / 16

10.サクサクいきましょう!

しおりを挟む

「只の小娘が務まると思うているのか?」

本音はそれか。

「その小娘がいないと、この国、この世界がやっていけないんですよね? でも、それって」
「な、何を!」
「周りの方々は、動かないでくれます?」

 女王陛下とやらに手を伸ばせば、周囲が殺気立ったので牽制しておく。私は、傷つけるつもりはない。

「死人、出したくないの。今はね」

 私は、王だという彼女の頭に鎮座している金色の冠を掴んだ。

「ねぇ、これ売ってお金にして」

色々な石が嵌め込まれ、とにかくセンスの欠片もないそれをリードに投げた。

「──本気なんだな」

かなりの重量になるそれを軽々と受け止めた彼は、私を射るように見た。

「ええ。勿論」
「私は認めない!! リード・サン・バドワー!我に返せ!」

陛下様が叫んでいる。いえ、元だ。


「元、陛下。この世界を救う為にいる私が王の座につくのは、間違っていないですよね?」
「なにをお前は!無礼ぞ!」
「無礼はあなたよ。今、この世界に必要なのは、貴方ではなく私でしょう?」

 国のトップになったって無理はないでしょ。

「早速だけど、他の国のトップ達と会議をしたいと思います。ひいては全ての国の王と環境に詳しい専門家を呼んで下さい。早急にここに集めて!」

 手を叩き、ただ立っているだけの人々に渇をいれる。

「あ、あとコレは、要らない」
「止めてください! あぁ!」

さようなら。

 私の手にしていた古いノートは、私の声なき声で燃えた。

「な、なんという事をっ!」

 綺麗な髪や服を床につけ一心不乱に黒い燃えカスとなったそれを震える手で神官長がかき集めだした。

「そんな事しても手が汚れるだけですよ。それより案内してくれません? 私を喚んだ場所に」

──これからが本題よ。



✻ ✻ ✻



「へぇ~、これがそうなの」

 お城の屋上の一角にそれは在った。

 大きな岩を横にスライスしたようなものがポツンと敷かれている。周りはまるでそれを護るかのように青々としたアイビーに似た蔦が埋め尽くしていた。

 膝をつき、石に触れると。ボゥと反応する。

「光るのね。これは文字なのかな?」

 文字に触れると、その周辺の光はいっそう強さを増す。

「な、何をなさるおつもりですか?!」

 案内役として連れてきた神官長は、リードの部下に腕をガッチリ拘束されている為もがく事すらできない。

「何って、こうするに決まっているじゃないですか」

 私は光る文字盤の中央に立ち右手を空へと上げ目をつぶる。しばらくすると空の手にずっしりと来た。

「うーん。やっぱり私、優秀じゃない? ねぇ、リード先生?」
「気味悪い呼び方は止めろ」

 曇っていた空からは細かなひょうが降ってきて私以外の皆さんの体に音をたてて当たる。

コレになりそびれた物だろう。

「えいっ!」
「お止めくださいー!!」

 私の手には、氷の杭のような物が日も出ていないのに白く輝く。神官長の悲壮な叫びを無視し、それを両手でおもいっきり盤に突き立てれば。

「なんという事を!」

 盤はくだけちり、光る粉になり風にのって消えた。

「これで、もう人を喚ぶ事はできない。あーちょっとスッキリした」

 モヤモヤとした気持ちが薄くなったなぁ。私は振り向き顔面蒼白の美しい男に追い討ちをかけるように尋ねた。

「もう一ヶ所あるわよね?」

 それに反応したのは、何故かリードだ。

「どういう事だ?」

 その精悍な顔は、本当に知らないようだ。

「対なのよ。これ」

 頭の回転の速い彼はそれだけで察したようだ。

「そう。リード先生、正解よ」

私は、口にだした。

「喚び出す盤と送り出す盤は対になっている。すなわち帰る装置は存在する」

帰す手段は存在した。

──なんて最低な国なんでしょうね。

「神官長様、案内して?」

 私の口は笑った形をしているけれど、眼は違う。

 睨みつけた私に、神官長は膝から崩れ落ちた。




しおりを挟む

処理中です...