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1.ドアを開ければ
しおりを挟む「冷たい」
そりぁそうだろう。私は浅い噴水の中にいるようだ。
「会社のドアを開けたはずなんだけど」
普通なら手動の扉を押せば湿気まじりの夏のなまぬるい風と明るい光を灯している自販機が見えるはずだ。それが今、真っ青な空で噴水の水は日の光によってきらきらと輝き、薔薇の花が咲き乱れ蝶々まで飛んでいる。
「この脳内が花畑になった状態を現実化したような光景は?」
確かにとても綺麗。ただし、私は残念な状態だった。
それは何故か。
皆さんは、服を着たままお風呂に入った事があるだろうか。大人の三十路過ぎた女子の感想を教えてあげよう。
「最悪っ! 全部ぐっしょぐしょなんてありえない! ものすごい気持ち悪っ」
叫びながら重要な事に気がついた。全身びしょ濡れということは。
「バッグは?! 携帯!」
慌てて周りを見れば噴水の枠の外に見慣れたバッグを見つけた。なんとか立ち上がりバッグに手を伸ばそうとした時。
「「※※!」」
十数人の人が走ってきた。勿論方角は、目的地は此処らしい。ざっと数えて15人以上。手には武器らしきものを持っている。
「※※?」
その集団の中から二人の男が進み出てきて、一人が話しかけてきたけれど、言葉が全く分からない。
「何を言っているのか分かりません」
「※※~?」
なんか苛々してきた。
だから。
「だから、言葉が分からないんです!」
そう、ここ数日ついてない日が続いていた。
今日だって朝から最悪だったうえに定時二分前に周りがとらなかった電話をとった瞬間に残業は確定した。
「※!」
大きな別の声に我にかえれば、集団をかき分けてきた一際ガッチリした男が現れた。
その男は、あっと言う間もなく目の前にいた。太い大きな腕が伸びターゲットは、間違いなくこの私。
「なんでよ」
本当になんなの?
私、何かした?
ちゃんと今日だって残業して終わらせたよ?
大きな手が迫ってくる。
「※※!」
嫌だ。
もう嫌。
その聞いた事がない言葉も嫌。
「──触るな!!」
耳をふさぎ目をつぶり思いっきり叫んだ。
どれくらい経ったか。
さっきまでの人の気配や言葉が聞こえなくなり、いやに静かな空気に私は恐る恐る、耳をふさいでいた手を緩めて目を開けた。
「氷?」
私の周囲は光る氷で囲まれていた。
──この時、私は、初めて奇跡と呼ばれている力を使った。
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