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5.なんだか怒涛のような日でした

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「ブフォ!」
「アンタッ!何してんだいっ!」
「私は、君の為に」
「大馬鹿者ぉ!」
「ヒィィ!」

バキィ!

 彼女により豪快に投げられた椅子が壁に当たり粉々になった。

 背の高い迫力満点の美女が、私を攫った人に今度は腕を振り上げており、ターゲットの彼は頭をかばい本気で震えいる。

「フガッ」

 そろそろ私の存在を思い出して頂きたいと勇気を持ってアピールをしてみた。

「あっ!嬢ちゃん!すまないねぇ!うちのがとんでもない事をしちまったよ!」

 やはり、というか会話からして分かりきっていたけれど、大柄迫力満点美女と私を拘束しここまで担いできたのが不思議なくらいの細い男は夫婦らしい。

「大丈夫かい?ほら、水だよ。毒なんて入ってないから、ほらね? ゆっくり飲みな」

口に巻かれていた布がはずされ、やっと呼吸がしやすくなったヨダレだらけの私の前に綺麗な布とグラスにタップリの水が差し出された。

 戸惑う私に安全だと美女が口をつけ渡された。気遣いはありがたいけれど、まわし飲みに抵抗があるので、申し訳ないがグラスの向きをかえて、アドバイス通りにゆっくりと口に含む。

 いや、ぬるい水がこんなに美味しいとは感動ものである。

「ありがとうございます」

お礼を言うのも変だけど。

「此処は、ちなみに何処でしょうか? 私、いきなり消えた状態なので帰らないと…」

 目隠しもされていたので、今いる場所が分からない。この室内は魔法石の灯りを灯しているという事は、完全に夜になっているのかな。

「いや、焦る必要もないのか」

 心配してくれる家族はこの世界にはいないし、明日は定休日だ。

 あ、でも…レインさんは、少しは気にかけてくれているのかな。

「あの、何の為に誘拐されたのかは分からないですが、本気の殺意を私に向けてしまうと、多分もう改善されて大丈夫だとは思いますが、その方が怪我をしてしまうかもしれないので、オススメはできないです」

 ぽかんと口を開く二人の様子から、私の能力を知らないで連れてきたのかな。

「……アタシは、城の食堂で長年騎士達の飯を作ってるんだよ。ただ、最近、昼飯を食べに来る子達が目に見えて減っていてね」

あ、それって。

「そうだよ。街の路地の空家になるはずだった家に住みだした若い店主の店、メシヤ。アンタだろ?」

えっと。

「確かに飯屋は私がご飯を提供していますが。あの、すなわち旦那さんが営業妨害された奥さんの為に私を誘拐したというので合ってます?」

二人はコクリと頷いた。

「よかったらお店で人気のあるメニューなどを教えましょうか?」

あ、フリーズした。

「あのー、もしも~し!」
「ハッ、悪いね!歳だから聞き間違いをしたようだよ!」
「いえ、間違ってません。なんならデザートも作られますか?」

 何故、そんな化物を見た様な顔をしているのか?

ドカンッ

「ウプッ」
「何だ?!」

 地響きの様な衝撃の後、白い粉が舞い上がり腕で咄嗟に目を庇う。

暫く耳を澄ませていると。

「ひぅ」
「私です。怪我、されていますか?」

 ぎゅっと誰かに抱きしめられて、思わず悲鳴をあげそうになれば聞き慣れた痺れる魅惑の声で。

「レインさん」
「はい。遅くなりすみません」
「いえ、助かりました」

 埃がまだ舞い散ってはいるけれど、抱きしめられているのが彼だと分かり、力が抜けた。

「あ、壁が」

 空気の流れを感じてふと右側に視線を向ければ、壁に大人がくぐれるサイズの穴が空いていた。

「加減はしたのですが、瓦礫を当ててしまい申し訳ない」

 そうレインさんは言うと、私の頭や身体から欠片らしき粉を払い始めた。

「あ、もう大丈夫ですよ」

 あまりにも至近距離な状況に気づいてしまうと、落ちつかなくて、手で彼の胸辺りを押して見上げると。

「動けば足が砕ける。その手も同様にな」

今まで見た事がない冷たい目が私の背後に向けられて、声さえもとても低い。

 私が言われているわけではないのにブルッと震えてしまい、それを見逃すような人ではなくて。

「直ぐに騎士団から人が来ます。我々はとりあえず此処を離れましょう」
「えっ、ちょ」

 軽くないはずの私をヒョイと横抱きし、そのままお店の裏にある自宅へと強制的に運ばれてしまった。




***



「こんな遅い時間だったなんて、すみません。事情聴取みたいのが明日あるのは説明で分かったので、帰ってもらって大丈夫ですよ」

 連れ去られて少し気を失っていたらしいのもあり、既に日付が変わり深夜になっていた。

 自宅に着くなりベッドに降ろされ寝かされた私は、彼に申し訳なくて早く帰れと促すも。

「一度寝てください。側にいますから」
「え?」

何故?

「護れず、怖い思いをさせてしまい、すみませんでした」

 伸びてきた大きな手が私の手を握り、すっぽりとそれに包まれて自分の手が震えている事にやっと気づいた。

「あ、私」
「嫌でなければ居させて下さい」

私、実は怖かったんだ。

「いるので安心して下さい」
「いやいや、レインさんも寝ないと身体によくないですよ」
「慣れているので問題、いえ、では図々しいですが、対価を下さい」
「え?」

 レインさんの顔があまりにも近づいてきたから思わず目を閉じれば、目尻になにかがさらりと触れた。

「これで何も問題ないですよね? 少し眠りやすくしますね」

私の頭が困難している間に、彼は私の額に手をあててきて。

「お休みなさい」

 急に瞼を開けていられなくなり、意識も遠くなる中、彼の穏やかな声が聞こえた。



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