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6.ライルSide
しおりを挟む「最近ため息ばかりですね」
「そうか?」
「気づいていないなんて、かなり重症ですよ」
補佐のカールはそう言うと書類の束を置き去っていった。また増えた書類を見てため息が出た。
私の名は、ライル・ガウナー
最近この町ヴァンフに配属された騎士だが、悩みが二つある。
一つは、ここヴァンフを含めた一帯を治める辺境伯、ガウナー家の当主の体調が思わしくない。そこで当主には跡継ぎがいない為その弟が呼ばれた。そう私だ。
本来長男が家を継ぐ為私は爵位は得ることなく騎士として一生を終えるはずだった。いや、今もそう願っている。だが、周りはそうは思わず最近は、休みの日に屋敷へ呼び出され半ば強制的に領主としての仕事を教え込まれ始めた。顔色の悪い兄に懇願され逆らうこともできず、幼少を共に過ごしたカール、今ではかなりのやり手らしいが、そいつを補佐につけられ机に縛られる日が続いていた。
二つ目は、息抜きがしたくなり酒場を探し夜の道を歩いて迷いこんだ謎の店とその店主、マリー・クラウス。
引き出しから黒い小さな箱を取り出し蓋を開けた。そこには、昨日私の髪紐と交換させられ渡された指輪が一つ。
店主は妹にだと断定しこの品を渡してきたが、改めて指輪を見るとやはり派手な妹のシュリーの好みではない。
むしろ店主に合う気がするのだがー。
『私は、騎士様と今も、この先もご縁があるとは思っておりません』
新緑を閉じ込めたような瞳に闇夜を思わせる黒い髪のマリーの表情は完全に私を拒絶していた。
いっそ、気持ちがいいくらいの態度だった。
騎士と分かっていても、まったく物怖じしない姿が印象的だった。あと彼女の料理も。
関わりたくないと態度でだしているのに彼女は帰りがけに煮込んだ野菜をくれた。
確か…オデンと言っていたそれは、初めての味で最初は薄味でどうかと思ったが食べるうちに癖になる味へと変わり、屋敷の料理人に見せ作れないか聞いたが、やってみますがと頼りない返事がきた。
「──少し調べてみるか」
私は指輪の箱の蓋を閉じ引き出しの中へ戻すと再び書類に手をつけ始めた。
その時、私は彼女に惹かれていることにまだ気づいていなかった。
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