期限付きの聖女

波間柏

文字の大きさ
上 下
5 / 56

5.私は、何をすればいいの?

しおりを挟む

 そんなに時間は経ってないと思う。喉は痛いし鼻水と涙できっと顔はひどい。これじゃあ六花の事言えないな。

「うわっ」

 脇のあたりに何か来たと気づいた時には、逆さまになっていた。

「訓練の妨げになる」

 声からして緋色のマントを貸してくれた人に間違いない。

「団長ー! 訓練再開させますよー!」

 肩に担がれている私は、苦しい態勢ながらも、どでかい声がしたほうに顔をなんとか向けようとするが、次の言葉でやめた。

「顔を見せたくないのでは?」

そうでした。



* * *


 なにやら暗い細道を通過し、地面がでこぼこの石じゃなくアイボリーの磨かれた石に変わったなというか、この体勢に限界がきた頃、下ろされた。やたら慎重で、ちょっとあの怖そうな人がと内心驚いたのは、勿論口には出さない。

 なんとなく目を見て話す元気がなくて自分の借りたルームシューズを見ていたら、感情のない声で聞かれた。

「部屋の場所は覚えていますか?」

寝ていた場所。

「バルコニーからしか出た事がないのでわかりません」

答えた直後、なんか強い視線を感じる!

 もしかして怒っているのかな? 沈黙が間が辛い。と思えば、下を向いていた私の前に手袋をした大きな手がうつり逃れる間もなく、それはマントの結び目を丁寧に解いていく。白い手袋に、暗い赤い色の服の袖には豪華な刺繍が見える。

 格好いいけど、さっきの訓練場には合わなさそう。ぼんやりとしているうちに、金色の紐は完全に解け、マントが外された。

 とりあえず建物まで連れてきてもらったのは、正直助かった。あとは、その辺の人に道聞くことにしよう。

「えっと、ありがとうございま…ふぶっ」

 頭を下げようとしたら上から何か降ってきて、それは、今借りていたマントだ。

「あの、これは?」

返事がくるまえに、体が浮いた。

「人がいる場所を通ります。貴方の服装は外を出歩くには不向きだ」

 確かに顔も酷いけどパジャマというか丈の長いストンとしたワンピースだけど。非常識なのかな。

「すみ…ありがとうございます」

 とりあえず、送ってくれるのは助かるのでお礼を伝えた。担がれた時より格段に居心地がいい。なんだか眠くなる。

 そういえば、私、これから何をすればいいのかな?

 寝落ちそうになりながら、そんな事を考えていたら訓練場でいなくなった蝶々さんが、いきなり現れた。

「あっ、蝶々さん」
『今、試す? できる』

頭に入ってくる声

「試すって、何を」

 何をするの? と言い終わる前に視界が変わった。

「うわっ、浮いてたよね」

 横抱きから、姿勢を正したと同時に、ふわりと着地した。

 凄い。って喜んでいる場合じゃない。強い風が借りているマントをはためかすので飛ばないように急いで胸元で結んだ。絡まって上手くできなかったけど、とりあえずいっか。

『この国 名 グラス 今 いる搭 昔作られた 城壁の一部 なる 』

 蝶々さんに言われて、回りをぐるりと見た。二重の壁で内側には立派なお城と規則正しく並ぶ茶色い煉瓦作りのような建物が無数ある。そして二枚つめの壁との間も色が灰色の建物が。その先は。

 平らの草原に茶色い色の線が何本か見えるけど道かな。

「ここ、一番高い場所だ」

 雲ひとつない青空とずっと先がわからないほど広がる草原の緑はとても綺麗だ。

『少し 前 草ない 人 血 流した たくさん だから かえた』

 風が強いのに、ゆったりと浮いている蝶々さんは途切れながらも教えてくれる。

「えっと、蝶々さんが綺麗にしたの?」

そうだと強く光った。

「うーん。じゃあ私は、何をすればいいの?」

 蝶々さんが、凄いのは理解した。というか普通じゃない存在なんだなと訓練場でなんとなく気づいていた。

 なら、その蝶々さんが出来ないような事って何だろう?

「え?!」

 自分のお腹辺りが光だしていて、何かが出てきた。

『ヒイラギ 鍵 かける 者 』

手に掴んだそれは。

「──ヴァイオリン?」

それも子供用の物だった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23

処理中です...