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「少し大丈夫かい?」

 ノックの後に現れたのはペリドールの父だった。

「勿論です」

 熱を出してから6日後、医師から徐々に動いて良いと許可が出たはずなのに周囲からは念の為数日後からに下さいとお願いされた。

 兄や泣き顔のルビー従ったもののベッドに戻されちょっと不満な私の元に父が訪れた。

「顔色が良くなってきたね。あとは食欲が戻れば安心だ」

 数日前迄は私の父だったマラカイト・カルデリアは、ほっとしたように微笑んだ。

「あの、ディーお兄様…いえ、デマントイド様は」
「ん?あぁ、気にしなくて良いよ」

 にっこり笑顔があまりにも不自然なのですが。どうしようかな。今後の事もあるし避けては通れないと思うのですが。

「では、正式にペリドール・グラッサムとしての今後の話をしたいのですが」

 少しでも見通しがつけば気持ちが安心できる。私は、この家にいつまで居られるのだろうか?学校はあと一年あるけれど、直ぐに領地に行かないといけないのかな。

 領地経営に関する知識はゼロに等しいのに。

「あ、すみません」

 頭を撫でる大きな手で我に返った。自分の世界に入り込んでいたらしい。悪い癖だ。

「デマントイドを抑制しきれなかった。本当にすまない。君はずっと私の私達の娘だ」

 優しい疑いのない視線は、葉月として目覚めてしまってからも変わることがなかった。

「私が……ペリドールと呼んで辛くないか?」

──あぁ、だからこそ怖かった。

 血は繋がっていないとはいえ娘を溺愛している親が、気づかないなんて有り得ない。

 おそらく最初から気づいていたのだろう。私は、謝るべきなのだろうか。

 でも、どう説明するのが正解なの?

「すまん。そんな顔をさせたかったわけじゃないよ。ただ」

 言い淀む父は、兄達が小さな声で葉月と名を呼ぶのを耳にしたのだろう。

「お父様。私は、ペリドールですが、ある日そうではなくなってしまい。でも、ペリドールでもあって」

 駄目だ。自分の語彙力が酷すぎる。

「ペリドール、ペリィでいいかい?」

 そうだよね。私は葉月だけど、ペリドールとして今を生きている。

 私の中のペリドールはもう混ざってしまったような状態で感情的な起伏も違和感がない。

 以前は、ペリドールが喜んでいるとかがなんとなく分かっていたのに。

「はい。お父様。私もこれからもお父様とお呼びしてもよいでしょうか?」

 少し弱気になり、おずおずと尋ねてしまった。

「勿論だよ!」
「わぷっ」

 強く抱きしめられてびっくりした! だって、こんな近いスキンシップは初めてだったから。

 もしかして何か違和感を感じで距離をとっていたのかな。

 そういえば、いつも私の可愛い娘とか言われて名前、呼ばれていなかったかも。

「優しすぎる」
「当たり前だろう?」
「ふふっ」

 キョトンとした父の顔を見て笑ってしまった。

 その表情を見て兄達にバレた時に話をしておけばよかったな。そうすれば、もう少し距離を縮められていたなと反省した。

「それで、今後の話ですがいくつか聞いてもよいですか?」
「ペリィは真面目だなぁ。よし!何でも話してみなさい!」

 後悔しても仕方がない。これから挽回すればいいのよ。

「では、まずは」

 葉月が、やっとペリドールとして生きると決めた瞬間でもあり、父と子として関係が深くなった日でもあった。

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