11 / 30
11.断捨離、良い気分だわ
しおりを挟むもぐもぐ
「家柄や頭が良いからって……負けないんだから!」
パンを口に頬張ばりながら昨日のアンデシンの態度を思い出し苛立ちを口にしたと同時に彼の舌なめずりを思い出しゾワリと鳥肌が立った。
「確か、今日はお父様の帰りが早いって執事が言っていたわよね。真相を確かめて本当だったら泣いてみるか」
娘に甘い父親には有効な気がする。
「それにしても濃い」
銀杏切りされた小さなリール、林檎そっくりな果物にフォークをブッ刺し口に放り込むと日本で食べていた林檎よりも濃い味が口の中に広がる。
ジューサーにかけてジュースにしてもよいなと思いながら再びムカムカと怒りが復活してきた。
「だいたい私に必要なのは健康なの! 彼氏でも旦那でも、パートナーでもない!」
ガゼボでの本日の昼食は、パンと具だくさんスープにデザートの果物。それらを改めて眺めつつ次の段階かなと思った。
「うーん、幼児食に近い完了に上げても大丈夫そうかな」
ペリドールの弱りきった胃腸の為に全粥、いわゆるおかゆから始めて軟飯、最近は柔らかめのご飯にしているが、味付けはかなり薄いまま、いわゆる赤ちゃんが食べる離乳食レベルまで下げていたのには理由がある。
「なんせ濃くて油っこい。ついでに辛い料理も多いのよね。お菓子もボリュームが凄いしなぁ」
素材は悪くないのだ。調理も丁寧で下処理もされているだけに残念である。
「かといって流石に薄いかな」
鶏肉や玉ねぎに似た野菜をメインとしてスープを作ってもらっていたが、そろそろ違う旨味成分を増やすか。
「きのこ類や二枚貝も少量入れるか」
グラタンとか良いなぁ。
「アサリやハマグリの汁物も飲みたい」
味噌はあるのだろうか?
「白身魚のすまし汁でもよいか」
食べるのが好きな私の頬は緩みっぱなしだ。
「食事を考えるのって、楽しいなぁ」
しかも自分をプロデュースである。成果も身を持って感じるし許可を取らずに新しい事が出来る。
「お嬢様、お食事中に申し訳ございません!お探しの品がございました!」
「え、本当?!ってシトリンは今日はお休みの日よね?」
急に現れた侍女にちょっと驚きつつも、わくわくしてしまい乱暴に置いてしまったフォークが音をたてたが気にしていられない。
「はい。こちらです」
侍女の制服ではなく私服姿のシトリンが、いそいそと私物であろう立体的な鳥の飾がついたド派手なフェルト生地の手提げバッグから取り出されたそれは、可愛いバッグとは異なりすぎる金属で縁取られた本。ではなくて日記帳である。
「随分年代物にみえるけど。お金は足りたの?」
「はい。お嬢様が売られた品々は、有名な宝石店の品ですので」
「ならよかった。あ、いらないから次のお休みにでも使ってね」
受け取れないと渋るシトリンに、じゃあ兄弟に何か買ってあげてと粘ればポケットに微々たるお金をしまってくれた。
趣味の悪いペリドールの伯母が押し付けがましく置いていった品々を売っぱらい気持ちは清々しい。ペリドールは長話や意地悪に耐えていたようだけど。
私は無理だから!
「物なんて必要最低限でいい」
改めてシトリンから受け取った日記帳にそっと手をふれてみる。
「お嬢様。店主が言うにはご使用前に鍵を決めなければならないそうです」
「わかったわ」
単なる日記帳なんて、どこでも売っている。私が欲しかったのは、特別なモノ。
「詳しく教えてもらえる?」
* * *
皆が静まり返った深夜、自室の小さな灯りを灯しただけの薄暗い状態で、私は息を潜めながら昼間の古めかしい日記帳を取り出した。
「習得した火の魔法でメモ書きは燃やしていたけど、やっぱり読み返したりしたいしね」
完璧なんて事は何事においてもないと思うから正直、日記が誰かに読まれたらと不安はつきまとう。
「でも、記憶力が特別優れているわけでもない私には、この方法が頭の中の考えを整理できるから譲れない」
この日記は、単なるその日の天気や気分を記すものではない。
「平和な未来の為に」
昼間、シトリンに教えてもらった通りに手順を進めていき最後に中央にはめられた雫の形をした小さな石に所有者の血、即ち私の血を一滴たらす。
「イテ」
指先から出た赤い血を美しい空色の石に抵抗はあるけれど仕方がないわよね。
それは直ぐに変化が現れた。
「石の色が緑に」
カチッ
小さな音なのに、響いたそれは鍵が解除された音。
「説明まであるなんて親切ね」
見開きには、使用する際の注意点などが記されていたのだ。それを読み次のページをめくって、さっそく書いた。
『対象攻略者は何人か?』
『誰も選ばないはありなのか?』
『私は、もう戻れないのか?』
周囲を見渡せる余裕が出来てきた私にとって最近、気づいたのが。
『何故、専属侍女たち以外の働いている人は、私ことペリドールに対しての好感度が低い?』
どうしてかな。
「ペリドール、貴方は何をしでかした?」
勿論、返答はなかった。
10
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい
ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。
だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。
気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。
だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?!
平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。
香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー
私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。
治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。
隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。
※複数サイトにて掲載中です
悪役令嬢に転生―無駄にお色気もてあましてます―
朝顔
恋愛
現実世界では男だったが、乙女ゲームの悪役令嬢の子供時代に転生してしまう。
今度こそは、好きなように生きて、穏やかで平和な一生を送りたいと願うが、思いとは逆の方向へ。
転生した悪女は脇役のお色気担当!恋愛なんて考えられないのに、体はだけは豊満に育ってしまう。
ノーマークだった、攻略対象の王子から求婚され、ドタバタしながらも、幸せなハッピーエンドを目指して頑張るお話。
シリアスは少なめ、ギャグよりです。
糖度は高めを目指しております。
そして乙女ゲームは始まらなかった
お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。
一体私は何をしたらいいのでしょうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる