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最終章 未来へ

ただいま

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「このままレンタカー返却に行けばいいの?」
運転していた野村が尋ねた。
時刻は十九時半ごろ。
順調に走れば、ギリギリ返却も間に合う時間だろう。

「ひかりんの作戦は失敗。大人しく家に帰る。それで良いよな?」
唯志は後部座席の二人に問いかけた。

「うん。俺は大丈夫。」
と拓哉は二つ返事で答えた。

「あの、唯志君は?まだやることある?それにその、怪我は大丈夫かな?」
光は唯志の動向が気になったようだ。

「とりあえず今日は何も。それに正直に言うと、めちゃくちゃ痛い。とりあえず何も動けないかな。」
唯志はそう答えたが、逆に言うと怪我が完治したら何か動くという意味だろうか。

「怪我、辛い?病院とか行く?」
光は後ろから心配そうに見つめている。

「今日はもう病院もやってないだろうし、薬とか買って帰るよ。病院は明日だな。」
「わ、私もついてく!」
光は唯志の言葉にすぐ反応した。
「ひかりん仕事は?」
「あ、そっか。仕事だ。」
そしてすぐしょんぼりとした。

「うー、でも心配だし。」
光はうんうんと悩んでいる。

「大丈夫だよ。お守りもあるし。」
唯志が後ろを向いてニヤッと笑った。
その手には光が手紙と一緒に投函した、パワーストーンのストラップが揺れていた。

「え!?・・・読んだの?」
光の顔がみるみる真っ赤になっていく。

「手紙?読んだよ。来る途中に。」
唯志は「ふふ」と鼻で笑いながら答えた。
「そう言えば来る時なんか読んでたね。あれ、何だったの?」
野村が何気なく質問した。

「さて。なんだろーね、ひかりん。」
唯志は言いながらくつくつと笑っている。
一方の光は「わーわー」と叫びながら、顔を覆っていた。

――
レンタカーを返却して、四人で大阪駅方面に向かった。

「うー、読まれた。読まれてた。」
光は相変わらず顔を真っ赤にして、ぶつぶつと言っていた。
そしてその様子を見ている拓哉は、どんな手紙の内容だったのかが気になりやきもきしていた。

「じゃあ、ノムさんはそっちの路線だな。」
改札を通った後に、唯志が野村に声をかけた。
「あ、そっか。ノムさんそっちか。」
拓哉も思い出したかのように野村に声をかけた。
光のことが気になりすぎて上の空だったんだろう。
うーうー唸ってた光も、今更気づいたのかハッっとしていた。

「うん、それじゃまたー。」
野村が手を振って自分の路線側に移動していった。

「ノムさん、今日はありがとうー。」
光はぶんぶんと手を振りながらお礼を言った。

そして三人は自分たちの最寄り駅に向かう路線のホームに向かった。

――
最寄り駅までの移動中、三人は無言だった。
光は相変わらずうーうー唸っているし、平然としているが唯志は汗をかいていた。
恐らく怪我が痛むんだろう。
拓哉は何も言えず、ただボケーッとしている。

――
最寄り駅で降りて、三人は歩いてそれぞれの家へと向かっていた。

「じゃ。俺はこっちだから。それじゃ――」
分かれ道で唯志が声をかけてきた。
声をかけられると同時に、光が唯志の方へ一歩近づいた。
「唯志君!」
光は食い気味に唯志に声をかけた。

「?」
唯志は光の勢いに少し驚いていた。

「あの、私、その・・・。怖かった。消えなくてすんで、本当に嬉しい。」
光は涙目だったが、表情は晴れやかな笑顔だった。

「唯志君、あの・・・。守ってくれてありがとう。」
光は唯志の方をまっすぐに見つめた。
「いいって。んじゃ、またな。」
唯志はそう言って片腕をあげると、自宅側に向かって歩き始めた。

「あの、唯志君!」
光は今にも帰ろうとしている唯志に呼びかける。

「どした?」
唯志は光の方を一瞥した。

「えっと、その・・・。また、遊びに行っても良い?」
光はもじもじと小声で唯志に伺った。

「さて、どうかな~?」
唯志はくつくつと笑いながら手を振って去って行った。
歩き方が少しぎこちないのは痛みのせいだろうか。

「唯志君のイジワル・・・。」
光が拗ねたようにボソッと呟いた。

「今のは良いって意味だと思うよ。」
拓哉は不服そうな表情をしていたが、光に伝えた。
「嫌ならはっきりと言う人だから。」
続けてそう言った。
この辺は付き合いの長さが垣間見れる。
「そうなのかな。うー。」
唸っている光を尻目に、拓哉も自分たちの家に向かって歩き始めた。
そしてその後を光が小走りで追いかけていく。

なんとなくだが、一気にさみしくなった気がする。
そう思った拓哉だった。
思えばこのところ慌ただしかったせいだろうか。

一つのことに、区切りがついた。
そんな気がした。

――
部屋に戻ると、御子が泣きながら光に飛びついてきた。
同じシェアハウスの女性同士。
相当嬉しかったんだろう。

「うわーん、光―。無事でよかったー。」
泣きじゃくる御子を光がなだめていた。
「ただいま、御子ちゃん。帰ってきちゃった。」
「ええんやで。ほんま良かった。」
光が御子の頭を撫でてる。
微笑ましいな、と拓哉は思った。

ぐぅ~

家に帰って気が抜けたのか、光のお腹が鳴った。

「あ。その、何も食べてなかったし、緊張してたし!」
光は焦りながら弁明していた。
「カレーあるで!美味いで!」
御子が涙を拭って笑顔で答えた。
「作ったの光ちゃんだけどね。」
拓哉は「ふふ」と笑いながらツッコんだ。
「うっさいわ、吉田!」

ここしばらくなかった。
家を出る前はもうないと思っていた、賑やかな日常が帰ってきた。
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