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第一章 人生が始まった日

謎の女

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「--もう一度聞くぞ。この女、来たんだ?」

佐藤は間宮の問いに答えを持っていなかった。
(確かにこの女、から現れたんだ?)

あの時は朝田とその不倫相手と思しき人物だけを注視していた。
だから周りの有象無象には興味が無かった。
とはいえ、季節外れの格好だ。それもコスプレの様な。
こんな女いたら少しくらい目につきそうだ。
だが、覚えがない。
考えれば考える程、不思議な人物だった。

だが何とか無理やり説明もできるだろう。
例えば、脇の建物から出てきたとか。
なんとでも説明は出来るはずだ。
そう思えば思うほど、尚更この人物はどうやって出現したのかが気になった。

「なぁ、カズよー。」
「何だよ?」
「この女調べてみないか?」
間宮がとんでもない提案をしてきた。
「はぁ?オカルトはお前の専門だろ?」
それに相手は一般人で、無関係な人物だ。メリットもないし、犯罪になりそうだ。
「人探しはお前の専門だろ?」
間宮はまっとうな意見を返してきた。
確かにそれはそうだが・・・
「正式な依頼なら・・・正当な対価で受けなくもない。」
自分自身、好奇心がうずいていたがそう答えた。だが・・・
「だけど、こんな映像だけじゃぶっちゃけ無理だぞ、多分。」
「確かにこの映像だけじゃノーヒントに近いもんな。」
こういう依頼が無いことは無い。
独立する前の大手探偵事務所に勤めていた時に経験したことがあった。
顔写真のみから身元を洗うような依頼だ。
軒並み長期戦となるし、人海戦術となる。
佐藤の様な小規模な探偵事務所では、基本的にお断りする案件だ。

「まぁそうだよな。うちの会社でも流石に許可が下りないと思うわ。」
間宮の雑誌社でも仕事がら人探しの様な事が行われることもあるし、総力を上げれば成果も期待できるだろうが、
さすがに動員するほどのメリットが無いようだ。

「でもなぁ…」
「なんだよ?」
「記者としての勘だけど、なんかありそうなんだよな、この子」
「勘かよ…」
そうは言ったが、佐藤の探偵としての勘も同じくそう告げていた。

「あっ」
その時にずっと画面を眺めていた恵が声をあげた。

「この子、また映ってますよ。」
2人は画面に視線を戻した。
画面では先ほどの男の方がウロウロとしている様子が映っていた。
「なんだ、男の方か」
ガッカリしたように間宮がつぶやいた。
「で、こいつ何してんだ?」
明らかに挙動不審な拓也の様子が映っていた。
側から見たら不審者だろう。
しばらくしたら画面外に消えていった。
時間にしたら発光した時から1時間ほど経過していた。
「何だったんだ?さっきの女でも探してたのか?」
その通りだったが、この3人には知る由もない。

「あ、今度はさっきの女の子だ!」
数分経って、またも恵が声を上げた。
今度は光が項垂れながらとぼとぼと歩いてくる様子が映っていた。

そして、画面端ギリギリ映っている建物の隅っこに座り込んだ。
「何してんだ?」
「何でしょう?」
この時光は何も出来ずに落ち込んでいた。
しかし、最近の監視カメラは鮮明になったとはいえこの遠目ではそこまでは見て取れなかった。
「もしかして当たり屋的な?新しいターゲットでも探してるとか」
「そんな感じには見えなかったけど。」

「お?さっきの男もまた戻ってきたぞ。」
「あ、女の子の方が近づいて行きましたね。」
「なんか話してますね。」
「おいカズ、唇は読めないのか?」
「出来るか、アホ。漫画とかの探偵じゃないんだぞ。」
「動きましたよ。そこの・・・喫茶店に入るのかな?」
「これただのナンパじゃねーの?」
「もともと知り合いかもですよ。」
「そんなのはどうでもいいよ。問題は女の出どころ!」

流石に店内の様子までは映っていなかった。
しょうがなしに2人が出てくるまで映像を進めてみる。
しかし1時間経っても出てくる様子がない。

「出てこないな・・・」
「この店って別の出入り口あったっけ?」
「わかんないです~」
「出てくるところ見落としたか?」
そして2時間が経過し、諦めかけていたころようやく2人の姿が映し出された。

「やっと出てきた・・・」
「ずいぶん長居してたな」
「やっぱりなんか怪しいな~。たかだかデートとかナンパでこんな長居しないだろ。」
「人によるだろ。まぁなんか臭いとは思うけど。」
「例えば、女はこの男に何かを目撃されて、口止めの話し合いをしていた・・・とかどう?」
間宮が突拍子もないことを言い出した。
「いやー、この子は当たり屋で、慰謝料を請求していたとかじゃないですか?」
恵も同じように妄想を披露した。
「普通にナンパして、お付き合い交渉してただけだと思うけど。男がしつこくて長引いたんだろ。」
佐藤はもっともらしい意見を述べた。だが問題が1点あった。
「誘ったの女の方からじゃなかったか?」
確かに映像で見た限りは逆ナンだった様な気がする。
だからなんだって感じだが。
どっちから誘ったなんて些末な問題だ。
男女のことをとやかく言うほど野暮じゃない。
「じゃあ逆ナンだったんじゃねーの。それだけの話だ。」

そうこう話しているうちに拓哉と光は画面外に消えていった。
二人並んで歩いて行ったことだし、やっぱり逆ナンだったか知り合いだったかってところだろう。
不思議な光に、突然現れた女。
不思議なことは続いたが、オチとしてはそんなところだろう。
タダ飯にはありつけたんだし、今日の収穫としては十分だろう。
佐藤はそう結論づけて、残っていたビールを飲み干した。
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