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照日

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第七話 【僕は文章が書けない/中編】 田辺雪彦 著

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 学校の帰りに本屋で転校生にあった。目が合ったが声はかけてこない。僕を怒らせたと思っているのだろう。いつも一緒にいる藤沢も今日はいない。

 あれから結局僕は同じ日々に戻った。一日、しかも夜だけ本を読まなかったが、空白の時間に耐えられずに翌朝からはいつも通り読んでいた。本が好きなんだな、といわれるけど自分ではそうじゃないような気がする。たしかに子供の頃からよく読んでもらって、本に限っては上限なしに買い与えられ、それは夢中で読み続けたものだけど、今となっては癖のようなもので選択して本を読んでいるという訳ではないのだ。読む本はさすがに選んでいるが。

 さっきから転校生とは何度も同じ棚の前に立つので、腹を決めて自分から声をかけた。

「この間のことは悪かった。怒鳴るつもりはなかったんだ。おまえはなにも悪くないから忘れてくれ」

 転校生は隣で頷いた。頷いた気配がした。顔を見ていないので定かではない。

「気にしないけど忘れなくてもいいかな」

 どういう意味だ?

「…別に構わない」
「よかった」

 持ちきれなくなった本を半分転校生が持ってくれた。どうしてこういうことが自然にできるんだろうな。

「雪彦くんってこの本何日くらいで読むの」
「他に借りてる本もあるから三日くらいだな」
「三日…」

「雪彦くんは頭の中で音読する?」

 何の話だろう。

「しないな。早く読めない」

「僕の体感でしかないけど…なんだか好きだなって感じる文章は音がきれいなんだよ。リズムがいい。
 音読を聞くわけでも声に出して読んでるわけでもないんだけどそう思うんだ。
 頭の中で音読してるんだと思う。

 漫画がアニメ化して『想像してた声と違う』ってことあるじゃない。
 あれって別にものすごく想像力働かせて声を考え出すわけじゃないよね。きっと自然に頭の中で声になってるんだ」

 
 文章の音?リズム?声?文字は文字じゃないか。
 違いが何かあるって言うのか、あるとしてもただの出来不出来や読み手の好みで…

『どんな風に面白くなかったの?』

 あ、そうか。
 あの本

「瀬名」

 瀬名はくるりと振り向いた。

「あの本は読みにくかったな」

 それを聞いた瀬名は心底嬉しそうに笑った。

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