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第五章 姫様と宰相

みんなとの昼食と仕入れの契約

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 西側の方へ向かうと、美味しそうな匂いがしてきた。
 ナイフとフォークの絵が描いてある看板があるので、どうやら飲食店エリアのようだ。
 屋台もたくさん並んでいる。
 一瞬、飲食店の前で屋台を出していいのか?と思ったが、それぞれの店が屋台も出しているみたいだ。

 肉の串焼きや海鮮焼き、肉まんみたいな物もある。
 ハンバーガー屋台の参考になるので見ていると、ジュースは木製のコップで販売していて、みんな飲み終わったら屋台のゴミ箱に入れている。
 木製のコップは、やはり再利用するんだな。

 肉まんは何かの葉に包んで渡しているようだし、串焼きはそのままだ。
 ちょっと手が油で汚れてしまうだろうけど、お客はあまり気にしていないようだな。
 笹籠に入れている屋台も無いから、みんな包む物が無くて困っているみたいだ。
 紙が高価だから、元の世界で当たり前にあった物が無いんだろうし、ゴミも増えるから良くない。

 笹籠も、屋台にゴミ箱を設置して返してもらって、俺が「洗浄」をかければ再利用できる。
 でもそれだと、寺院の笹籠を作る仕事が減ってしまうな。

 う~ん⋯。
 子供達でも出来る簡単な仕事と考えると難しい。

 孤児を養ってる寺院だし、俺には銀行に振り込まれる金が、たぶん使い切れないほどある。
 権利金の振り込みもあるし、魔物を倒してギルドに買い取ってもらうだけで大金が手に入るし、収納にはフィリスさんなら買い取ってくれそうな宝石や魔石がたくさんある。
 フィリスさんもそれで儲かるだろうから、簡単に手に入れた宝石を売るのに罪悪感は湧かない。

 銀行の残高は確認していないが、もうお金の事は気にしないでおこう。
 寺院には、無理矢理にでも大金を渡す方法をユナ達に相談してみるか。
 子供達には遊んでて欲しいが、この世界ではそうもいかない。
 寺院には、学校みたいな役目をやってもらえないか相談してみよう。

 ミーシャ達が居る飲食店に入ると、まだ昼前なのにお客がたくさん居た。
 奥の席にミーシャとアイリが居たので、サプライズする為に何も言わず席に座った。

アイリ「んぐっ! た、タカシさん!?」

ミーシャ「どうしたんですか?」

 サプライズは成功したようで、2人とも驚いた後、嬉しそうな笑顔になった。

「ヘイラスには珍しい物が売ってるって聞いていたから、1度来てみたかったんだ」

 店員が注文を取りに来たが、獣人女性のミーシャ達と同じ席に人間男性の俺が居るので、かなり驚いていた。
 俺はジュースと、肉まんみたいな物をアイリに聞いて注文した。

 2人は、商人達が仕入れをしている間は暇なので、朝早くヘイラスに着いた後お風呂屋へ行って朝風呂に入り、今は食べ歩きをしているらしい。
 昨日あれから仮眠を取り、朝一番に着くように、夜中に再出発したようだ。
 疲れているだろうから、2人に「回復」の魔法をかけてあげると凄く喜んでくれた。

 ジュースと肉まんが来たので食べてみると、中には具が何も入ってなかった。
 美味しいが、これは蒸しパンだな。
 次にジュースも飲んでみたが、少し甘味のある炭酸水だった。

 ユナがミンチ肉の料理は肉団子くらいしか知らないと言っていたから、肉まんも無いんだろう。
 まあ味の薄いパンも無かったから、パンの中に具を入れるという発想が浮かばなくても不思議じゃない。

「この炭酸ジュースは、どうやって作ってるの?」

アイリ「たんさん? シュワシュワの事ですか?」

 炭酸は通じないようだ。

ミーシャ「シュワシュワは、タカシさんが作ってくれた水の出る魔道具みたいな物があるんですよ」

 炭酸の出る魔道具があるという事は、俺なら作れるな。
 ハンバーガー屋台で出すジュース用に、帰ったら作ってみよう。

 少しだけ料理を食べて店を出ると、ミーシャ達が俺と一緒にヘイラスを回りたいと言ってきた。
 
「食べたい物があったら遠慮なく言って。ヘイラスは初めてだし、珍しい食材や調味料なんかを知りたい」

ミーシャ、アイリ「「はい♪」」
 

 みんなでキョロキョロしながら、いろんな店を見て回っていると、アイリが海の方へ行ってみたいと言うので、ヘイラスの海沿いへ向かった。

 ここにも海洋人居住区があるようで、魚を売っている店や海鮮焼きを売っている屋台がたくさんあった。
 ホタテの串焼きや牡蠣のバター焼きを買い食いしながら屋台を一通り回り、海洋人居住区の端まで来ると、アイリが寄りたい店があると言うのでそこへ向かった。
 何でも、メグちゃん達猫族の獣人が好きな食材が売っているらしい。

 ヘイラスの海鮮人居住区でも裏通りにあるその店に行ってみると、店先に鰹節が大量に積み上げられていた。

「か、鰹節!?」

アイリ「え?」

 嬉しくて大きな声を上げた俺に、アイリがビックリしている。

ミーシャ「ここはカツオを干した保存食専門のお店で、猫族の獣人が好きなんです。私もカツオ干しは好きなんですよ」

 カツオ干しというらしい。
 ミーシャはライオン族で、一応猫科だから鰹節が好きなのは解る。
 詳しく聞くと、薄く一口サイズに切って硬い干し肉のように噛んで味わうらしい。
 試食品があるので見てみると、5ミリくらいの厚さで切られていた。
 
ミーシャ「人間族のタカシさんには、ちょっと硬いと思いますよ?」

 試食してみようとした俺に、ミーシャが心配そうに言ってきた。
 理由を聞くと、肉食の獣人は硬い物を噛み砕く歯があるから大丈夫だけど、人間には硬くて噛めないと言われた。
 確かに鰹節は、透けるほど薄く削らないと噛めないくらい硬いな。

アイリ「鰹干しを3本もらえますか?」

店主「はい。ありがとうございます」

「あっ、俺も下さい」

店主「え? 人間族の方には硬いと思いますが、大丈夫ですか?」

「ああ、薄く削るので大丈夫です。どのくらい有りますか?」

 たくさん欲しいので買えるだけ買いたいが、買い占めるのは良くないだろう。

店主「あっ、えっと⋯200個くらいなら有ります!」
 
「全部欲しいんですが、買い占める訳にはいかないでしょうから、150本ほど売ってくれませんか?」

店主「は、はいぃ! あっ、いえ、あまり売れないので、買っていただけるなら全部でも大丈夫ですぅ!」

 いいのか?
 店主が言うには、たまに猫族の獣人が買いに来るくらいなので、近々店を辞めようと思っていたらしい。
 厚く削るから食べにくいんであって、野菜カンナで薄く削れば誰でも食べられるのにな。

 鰹節があれば美味しい出汁が取れるし、タコ焼きに必要なので、定期的に買いに来るから是非お店を続けてほしいとお願いすると、店主は涙目になってお礼を言ってきた。
 貴重な鰹節職人だから、廃業されたら俺が困る。

 鰹節は1つ銀貨30枚だと言うので、金貨60枚で200個買った。
 自分で作ってみようと簡単に考えていたが、俺が想像していたより難しいみたいなので、鰹節職人に製造は任せよう。
 鰹が必要だろうから、海洋人のナディさんに聞いて海で大量に捕まえて来てもいい。
 ナディさんもそろそろ海で泳ぎたいだろうし、スク水姿のナディさんを見たい俺の言い訳になる。

 鰹節職人の店主は「オカカ」という海洋人男性で、猫族や肉食の獣人向けに鰹節を作って売っていたが、ヘイラスに猫族の獣人が少ないので、たまにしか売れなかったらしい。
 それに保存食として売っていたのも良くなかったみたいだし、一応権利を取っていると言うので、自分で作らなくて良かった。

 定期的に売ってもらう約束をして、ミーシャ達と海の方へ向かった。

 海鮮焼きをつまみながら、タコが売っていないか探してみると、魚が並んでいる所とは別の、店の横に置いてある箱に何匹か入っていた。

魚屋「いらっしゃい! 何の魚が欲しいんだい?」

 ヘイラスの魚屋も威勢がいい接客だな。

「こっちのタコが欲しいんですが、全部売ってもらえますか?」

魚屋「たこ? それはオクトパースだよ。俺達海洋人しか食べないと思ったんだが、いいのかい?」

 タコは海洋人しか食べない?
 あっ、確かアメリカ人とかはタコを気持ち悪がって食べないと聞いたことがある。

アイリ「お、オクトパースを食べるんですか?」

 アイリ達も、ちょっとビックリしている感じだな。

「これで美味しい料理が出来るんだ。じゃあ全部ください」

魚屋「ありがとうお兄さん! 全部捌くから、ちょっと待っててくれ」

 店主が箱からタコを取り出すと、アイリとミーシャが気持ち悪そうに見ていた。
 改めて見ると、ウニョウニョ動いて気持ち悪いが、俺には美味そうにしか見えない。
 タコ焼きにしてしまえば分からないだろうから、2人には中身がタコだと教えずに食べさせてみよう。

 店主が塩を使ってヌメリを取りながらタコを捌いて、内蔵と骨みたいな部位を取って箱に詰めてくれた。
 タコは全部で20匹、金貨1枚にまけてくれた。

 タコの入った箱を担いで人の居ない所で収納し、海洋人居住区を見て回っていると、いつの間にか昼前になっていた。

「そろそろお昼だけど、食べ歩いていたから微妙だな」

アイリ「そうですね。このまま見て回りますか?」

 ミーシャはまだ食べたそうだ。
 見た目より食いしん坊みたいだな。

「ユナとエマちゃんにお弁当を作ってるから、昼食は2人と食べるよ。2人にも同じお弁当を作って持ってくるから、帰りの夜営の時に食べて。コレットに帰ったら、ユナの家で美味しい料理を食べて、いっぱいエッチもしような」

ミーシャ、アイリ「「あはぁぁぁぁ♡♡♡」」

 2人とも、期待して欲情してしまった。
 帰って2人の分のオムライス弁当を作るついでに、商人さん達の分も作ってあげようと思ったので、商人さん達の種族を聞くと、馬族の獣人が2人と、ラクダ族の獣人2人だった。
 理由は分からないが、獣人で商人になる人は、馬族かラクダ族の人が多いらしい。

 2人はまだ食べ歩きをすると言うので、俺はセドム村の家屋へ「転移」した。


 玄関をノックして中へ入ると、みんなが丸いパンとフライドポテトを作っていた。

「そろそろお昼休憩にしようか?」

みんな「「「は~い♪」」」

 みんなの分までお弁当を作ってないので、ユナとエマちゃんを連れて家屋を出た方がいいな。

ユナ「みんなお弁当を作ったので、森へ行って食べませんか?」

 みんな俺と一緒にお弁当を食べたくて、ハンバーガー用のパン作りの合間にお弁当を作っていたらしい。

「いいね! じゃあこの間行った、川の近くに行こうか?」

みんな「「「はい♪」」」

 みんなも連れて行ってあげたかったから、丁度良かったな。

 ニーナさん達やマリーさん達も呼んでみんなに手を繋いでもらい、セドム村の山の川に「転移」した。


エリダ「涼しくて素敵な場所ですね!」

「ここでお弁当を食べようか?」

みんな「「「はい♪」」」

 嬉しそうに返事をして、それぞれシートを広げて座った。
 ユナとエマちゃんは、みんなに遠慮しているのか、みんなに譲っているのか、俺から離れて座り、みんなは俺を囲むように座った。
 どうも何か打ち合わせ済みのようだな。

 みんながお弁当を収納鞄から出したので、俺も収納からオムライス弁当を出した。
 いただきます!と言うと、みんなもいただきます!と言って楽しい昼食が始まった。

リムナ「わぁぁぁ♪ タカシさんのお弁当、凄く美味しそうですね!」

「これはオムライスという料理で、ケチャップを絡めたお米の料理だよ」

みんな「「「わぁぁぁ♪」」」

 みんなが俺のお弁当を覗き込んで歓声を上げた。
 ユナとエマちゃんの近くには、エリダさん、リカさん、モナミさんが居て、3人もユナ達のオムライス弁当を見て歓声を上げているし、ユナとエマちゃんも凄く嬉しそうにしている。

「じゃあ、ちょっと交換しながら食べようか?」

メル「い、いいんですか?」

「もちろん! みんなのお弁当も美味しそうだから、俺も食べてみたいし」

 そう言うと、全員が嬉しそうに喜んだ。
 たぶんこれが狙いだったんだろう。
 ユナとエマちゃんも、俺にみんなとコミュニケーションを取ってほしいと思っていたみたいだ。

 オムライスを一口分スプーンで掬って、まずは隣のリムナさんに食べさせる。

「リムナさん、あ~んして」

リムナ「え? あっ、はい! あ~ん♡ あむっ、んんっ! う~ん、凄く美味しいです♪」

メル「た、タカシさん! 私も、あ~ん♡」

 メルさんが口を開けてねだってきたので、メルさんにも俺が食べさせた。

メル「んん~♪ ケチャップの味と卵がフワフワで、凄く美味しいです!」

 それからみんなが「私も! 私も!」と言ってきたので、半口分くらいずつ掬って食べさせた。
 俺のお弁当が無くなってしまったが、みんなが凄く喜んでくれたので良かったな。
 味見してなかったけど、ユナとエマちゃんも絶賛していたので、味は大丈夫だったみたいだ。

 それからみんなが自分のお弁当を一口ずつ俺にあ~んして食べさせてくれた。
 みんな喜んでくれたが、流石にお腹一杯だ。
 俺に食べさせることを考えて作ってくれたらしく、どのお弁当も美味しかったし、みんな久しぶりに自然の中で食事が出来て楽しそうだった。
 なら⋯⋯。

「今度ここで料理をして、川で遊ぼうか?」

みんな「「「わぁぁぁ♪」」」

ユナ「じゃあ、みんなの水着を買ってあげてくれませんか?」

 流石ユナ。
 みんなが遠慮して頼みにくい事を素直に言ってくれる。
 川で遊ぶなら、確かに水着が必要だな。

「そうだね。ミミさん、お願いしていいかな?」

ミミ「はい、お任せください♪」

 どうやらここまで計画していたみたいだ。
 まんまとみんなの狙い通りになったようだが、俺もみんなの相手をしたかったし、全員の水着姿を見てみたい。
 だが⋯⋯チンポがヤバい気がするな。

 ハンバーガーの生産は順調だし、このまま少しくらい遊んでもいいんじゃないかと思ったが、みんな俺の頼んだ仕事を頑張りたいと言うので、1時過ぎまで休憩して家屋へ戻った。


「俺もまだ観てないけど、実は新しい演劇を仕入れてきたんだ。だから夜はみんなで楽しく過ごして」

みんな「「「ありがとうございます♪」」」

エマ「また違う演劇も観られるんですね!」

「うん。それに演劇だけじゃなくて、曲芸や面白い話をする芸人さんも居るらしいから、それもお願いしておいたよ」

ユナ「なら、ポップコーンやポテトチップがあった方がいいですね!」

 ユナ達もお菓子を食べながらテレビを観ることが気に入ったみたいだ。
 ポテトチップの他の味は作り方がすぐ思い付かないが、キャラメルポップコーンなら、たぶん作れる。
 新しい演劇を楽しく観てもらう為に、それも作って置いておこう。

「違う味のポップコーンも作っておくから、それも楽しみにしてて」

みんな「「「わぁぁぁ♪♪」」」

 みんな凄く嬉しそうだ。
 仕事を頼んでいるし、ぶっちゃけ無給でも喜んで働いてくれるから、みんなの為に何でもしてあげたい。
 本当はエッチな事もしてあげたいし、ユナ達も許してくれるから俺もしたいが、なかなか切っ掛けが思い付かない。
 欲情させてしまっているのは俺のせいだけど、この世界に来るまで童貞だった俺には、「欲情させてごめんね。みんなとセックスしたいんだ」とは流石に言えない。

 みんなが丸いパン作りとフライドポテト作りに取り掛かったので、俺は寝室へ降りてテレビに演劇を追加してから、リカさんと完成間近のお店へ向かった。


「ありがとうございます。まさか自分のお店が持てるなんて⋯」

「今日中には完成するらしいよ。前にも言ったけど、お客さんがセドム村の人だけになっちゃうから、最初は暇だと思う。さっき食べたオムライスや他の料理も教えるから、料理が上手なリカさんに作れるようになってほしいんだ。収納箱に入れておけば無駄にならないから、ちょっとくらい作り過ぎても⋯⋯あっ、エマちゃんが料理を上手になりたいって言ってたから、教えてあげてくれないかな?」

「はい、もちろん! お姉さんのユナさんの方が上手だよって言ったんですが、ユナさんは忙しいし、お店で料理を作る手伝いがしたいからって聞いています」

 エマちゃんは将来、料理屋をしたいと言っていた。
 確かにユナは料理が上手だし、料理を作って人に食べさせるのも好きだが、リカさんの方が料理を作る回数が多い。
 練習するならリカさんのお店の方がいいし、帰ってからユナにも料理を教われるからって考えたのかも知れないな。

 リカさんのお店へ行って調理場を借り、ミーシャ達と商人さん達のオムライスをリカさんに教えながら作り、初めてだがキャラメルポップコーンも作った。
 
「このポップコーンは初めて作ったんだけど、ちょっと味見してみて」

「はい。あむっ⋯んん! 甘くて美味しいですぅ♪」

「良かった。たくさん作ったから、夜に演劇を観ながらみんなで食べて。ちょっとオムライスを届けてくるから、帰って来たらオムライスのフワフワ卵の作り方と、プリンの作り方も教えるよ」

「はい! 行ってらっしゃい♪」

 嬉しそうなリカさんに手を振りながら、ヘイラスの街近くに「転移」し、人の居ない路地を「探索魔法」で探してから再「転移」した。


 ミーシャ達を探すと、今は北側の方に居るみたいなので、街を見ながらそこへ向かった。

 どうやら北側の方は調味料や小麦粉みたいな物が大量に売っている、商人向けのエリアみたいだ。

ミーシャ「あっ、タカシさん。お帰りなさい♪」

「ただいま。さっき言ったお弁当を作ってきたから、収納鞄に入れておいて」

ミーシャ、アイリ「「はい♪」」

 2人にチキンバンバンのモモ肉入りのオムライス弁当を渡し、商人さん達用の鶏胸肉とニンジンたっぷりのオムライス弁当も渡した。

アイリ「今は商人さん達と合流して、そろそろ帰るところなんです」

「そうなの? 俺もちょっと会ってみたいんだけど、紹介してくれないか?」

ミーシャ「はい。商人さん達も、ハンバーグドッグのことを聞きたがっていました」

 昨日ハンバーグドッグを食べさせて、凄く興味を持たれたと言っていたな。
 マヤおばさんのお店に商品を卸している商人さん達だから、醤汁やソースも仕入れているだろう。
 俺が毎回ヘイラスに「転移」して大量に仕入れるより、マヤおばさんのお店に卸してもらった方が、マヤおばさんのお店が儲かるな。
 マヤおばさんは、ユナとエマちゃんの親代わりみたいな人だから、どうせなら儲けさせてあげよう。

 商人に収納魔法を付与した収納箱の存在を知られるのは、この世界の流通に影響がある気がして心配だから、何か言い訳が必要だろう。


 待っていると、獣人の商人さん達が近付いてきた。

オグリ「商品の仕入れが終わったので、そろそろコレットに帰りましょうか?」

ミーシャ「はい。あの、こちらはハンバーグドッグを作ったタカシさんです」

「初めまして。ミーシャ達の知り合いで、タカシといいます。ちょっと相談があるので、時間を頂けませんか?」

オグリ「大丈夫ですよ。私は商人のオグリといいます。ミーシャさん達にはいつもお世話になっていますし、ハンバーグドッグを考えたタカシさんには是非お会いしたかったので、こちらこそよろしくお願いします!」 

 よっぽどハンバーグドッグが気に入ったみたいだな。

 荷馬車への商品の積み込みは終わったらしいので、ヘイラスの出口近くに移動して、広場で話すことにした。

「実はマヤさんのお店に定期的に卸してほしい商品があるので、仕入れを頼めないかと思いまして」

オグリ「はい。仕事の依頼なら喜んでお引き受けしますよ。何が必要ですか?」

「醤汁と、えっと⋯黒いドロっとしたソースが3種類、小麦粉をたくさん、後はさっき俺が店主に頼んだのですが、鰹干しをお願いしたいんです」

 トンカツなどのソースは、正式名が分からない。
 3種類あるし、ソースといってもいろんなソースがあるだろう。

オグリ「黒いドロっとしたソースで3種類なら、たぶん醤汁ソースですね。小麦粉と鰹干しは、どのくらい必要ですか?」

 醤汁ソースというらしい。
 
「小麦粉は、とりあえず300キロほどと、鰹干しは在るだけ買い占めてしまったので、次の仕入れの時に買えるだけお願いします」

 タコ焼きと、お好み焼きも販売してもいいし、タコ焼きソースとお好み焼きソースが手に入るなら、小麦粉は大量に必要だ。
 オグリさん達は、月に2回ヘイラスに仕入れに来るというので、醤汁とソースも買えるだけ、小麦粉は500キロに増やした。

オグリ「毎回小麦粉を500キロは、ちょっと厳しいかもしれません。お力になれず申し訳ありません。ですが他の商品はお任せください」

 俺以外にも定期的に仕入れを頼まれているだろうし、小麦粉500キロに、醤汁やソースに鰹干し、流石に無理があるか。
 小麦粉なら他の店でも売っていると思うが、屋台をやるなら確保しておきたいな。

「今から話すことは、絶対内密にお願いします」

オグリ「は、はい!」

「実は物をいくらでも収納出来て、収納された物の時間が止まる魔道具がありまして、俺が頼んだ商品は、それに収納して仕入れてほしいんです。高価な魔道具ですが、もし盗まれても俺なら何処に在るか分かりますし、収納したり取り出したりする人を俺なら指定出来ます。それを渡すのでお願いします」

オグリ「⋯⋯収納の魔法⋯ですか!?」

 かなり驚いている。
 収納魔法のことを知っているのか分からないが、やはり商人からしたら喉から手が出るほど欲しい物なんだろう。
 だが獣人とはいえ、商人に収納箱を簡単に渡しては、この世界の流通が狂ってしまう。
 いくらでも仕入れ出来たら、オグリさん達以外の商人達が失業してしまうだろう。

「はい。収納魔法が付与された魔道具で、俺が指定した人しか起動出来ないようになっています」

 こう言っておけば、とりあえず大丈夫だろう。

オグリ「は、はいぃっ! ミーシャさん達が護衛してくれますから、是非お任せください!」

 かなりの勢いで返事をされた。
 貴重な収納箱を渡すと言ったが、盗まれても俺なら回収出来るし、俺が指定した人しか起動出来ないと言ったから、そこまで心配しなくても大丈夫だと理解してくれたようだが、貴重な魔道具を運ぶことに緊張もあるみたいだ。
 悪いが、緊張感は持っていてもらおう。

 醤汁やソースは高価であまり売れないらしく、買い占めても大丈夫だと言うので買い占めてもらい、小麦粉は1トン買ってもらった。
 流石に仕入れのお金が足りないと言うので俺が立て替えたが、「なら収納箱に収納して自分で持って帰った方が仕入れ代が掛からないのでは?」と、口には出さないが不思議そうな顔をされた。

 確かにそうなってしまうし、俺が騙されやすいバカだと思われそうなので、俺は冒険者で魔物を倒すことを仕事にしていて、ギルドから魔物討伐を依頼されて忙しいと言い訳しておいた。

 収納箱は、俺が収納魔法を付与して作った訳じゃなく、かなり苦労して手に入れた貴重な魔道具だと説明するつもりだったが、どうやら昨夜食べたハンバーグドッグが熱々出来立てだったことから、俺がミーシャ達の鞄に収納魔法を付与したことまで察したようだ。

 バレてしまったようなので観念して聞いてみると、「付与魔法を使えるだけでも凄いのに、聞いたこともない収納魔法を使えて、更にそれを付与できてしまうなんて⋯⋯」と、かなり驚かれた。
 
 収納魔法が伝説級の魔法だとは聞いていたが、どうやら収納魔法を付与出来るのは異常みたいで、そんな魔道具を作ってほしいなんて思わないと言われた。

 会話の内容から、俺が思っているより付与魔法はかなり難しいみたいなので、後で付与魔法の魔法書で調べてみると、付与魔法師は魔法を付与した後、失敗しても成功しても魔力が枯渇して2週間ほど寝込んでしまうのが普通らしい。
 そう言えば、失敗も多いとユナが言っていた気がする。
 チート過ぎるな、俺。

 オグリさんが俺に都合良く理解してくれたみたいなので、収納箱を渡してヘイラスからの仕入れを頼んだ。
 俺がマヤおばさんの店から買って、マヤおばさんから仕入れの金を受け取るから、特に今は払う金は無い。
 口止めしたし、この収納箱は俺とオグリさんとマヤおばさんしか起動できないよう「設定」したが、収納箱を持っていることでオグリさん達が狙われるかも知れないし、街道には魔物も出る。
 それに新手の盗賊が居るかも知れないので、俺は内緒でオグリさん達の馬車に「監視」の魔法を付与した。
 今まで「監視」の魔法が起動したことは無いけど、「監視」の魔法は害悪を持った者が近付いただけで俺に分かる魔法らしいし、ミーシャ達が護衛するからたぶん大丈夫だろう。
 何かあったらすぐ「転移」して駆け付けるようにしよう。

 他に珍しい物がないか聞くと、さっきミーシャ達と行った海沿いの店に多いと教えてくれたので、コレットに帰るミーシャ達とオグリさん達と別れ、海沿いの店を見に行く。


 海沿いの店を見て回っていると、鰹干しが売っていた店の近くに昆布が大量に置いてあった。
 店主らしき海洋人女性に話を聞くと、網に絡まっていた昆布を置いているだけだと言う。

「これ、パリパリになるまで干してくれたら、俺が買い取りますよ」

店主「ええっ!? こんな物が欲しいんですか?」

「はい。これは一旦干してから鍋で煮ると、美味しい出汁が取れるんです」

店主「そうなんですか? 干すだけで買い取ってもらえるなら、これ1枚銀貨1枚でいいですが、どのくらい必要ですか?」

「定期的に欲しいので、月に200枚ほどお願いします。知り合いの商人で、オグリさんという馬族の獣人男性に仕入れを頼むので、その人に渡してください」

「わかりました。ありがとうございます♪」

 今まで捨てていた物を、干すだけで買い取ってもらえると分かり、かなり嬉しそうだ。
 先払いで金貨2枚渡して、積まれている昆布を10枚貰っておいた。
 俺なら「乾燥」の魔法が使えるから、帰ったら試してみよう。

 もう少し見て回りたいが、リカさんに料理を教える約束をしているし、カレーやタコ焼きも作ってみたいので、ヘイラスの街を詳しく見て回るのは次にした。
 時間がある時に、みんなで買い食いしながら見て回ろう。

 ヘイラスの入口、いや出口か? で木札を返却し、少し歩いてからリカさんの店へ「転移」した。
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