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第四章 料理と仕事

エアコンと付与魔法

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 セドム村に帰ってくると、ニールさんとラルフさんが、早速魔骨を加工したいと言ってきた。しかしジョーイ社長に聞いてからじゃないと、いくら遠慮なくと言ってもダメな気がする。それに魔薄膜も作ってもらわないといけない。

「一応、ジョーイ社長に聞いてからにしましょう。実は今、魔薄膜が大量に必要な建物を畑に作ってもらっているんです」

コリン「魔薄膜を⋯⋯?」

「とりあえず、ジョーイ社長の所にみんなで行きましょう」

 現場に行った方が説明しやすいので、歩いてビニールハウス建設予定地の畑にみんなで向かった。



 畑に着くと、ジョーイ社長とジャックさんが、パイプを等間隔で地面に固定している所だった。

ジャック「あ、お帰りなさいタカシさん」

「お疲れ様です」

ジョーイ「ありがとうございますタカシさん。他の社員にまで道具を買ってくださって⋯⋯」

「いえいえ。みんなが喜んでくれて、俺も嬉しいですよ」

ニール「親方! 俺、ずっと欲しかった『アルチザン』の道具を買って貰いましたよ!」

ジョーイ『アルチザン』か! 良かったなニール。お前にはあのくらいの道具が必要だから、出来の悪い道具で仕事をさせてるのを申し訳なく思ってたんだ」

コリン「俺達も、ずっと欲しかった道具を買って貰いました」

 みんなが嬉しそうに、道具を収納鞄から出して見せると、ジョーイ社長が焦っていた。

ジョーイ「お前ら、それ⋯⋯!」

 ジョーイ社長が、コリンさんとベンさんの道具を見て、かなり驚いている。あの2つは魔道具だから、かなり高額な事を察しているのだろう。ジョーイ社長がバラすとマズイので、「念話」で口止めした方がいいな。

『ジョーイ社長。みんなには、値段を見ないで選んでもらったので、内緒に⋯⋯』

 するとジョーイ社長が、俺の目を見て頷いた。

「よ、良かったなぁ⋯。ああ、ラルフ。魔薄膜を作る道具を作ってくれないか? 今作ってるのは、テントを大きくしたような建物で、周りを魔薄膜で覆いたいんだ」

ラルフ「そうなんですか? かなり大きなテントになりそうだから、魔薄膜がたくさん必要ですね」

「これは、作物を育てる為の建物なんです。上手くいけば、春にしか栽培できない作物が、寒い冬でも採れるようになります」

ジョーイ「そ、そんな建物だったんですか!?」

「ええ。年中ファプールを食べたいって人が居るもんで」

 ヨダレを垂らしていたアイリを思い出して笑いながら言ったが、みんな目を見開いてビックリしていた。

ジャック「ファ、ファプールって、自然に生ってるのも珍しい果実ですよ!?」

ニール「それに気温の変化に凄く弱いから、時季を少し外れただけで落果(らっか)してしまい、痛みやすいのですぐに腐ってしまう」

 ニールさんはファプールに詳しいのかな? 

ラルフ「で、でもタカシさん。確かに魔薄膜は断熱の効果が高いですが、冬にファプールが生るほどの断熱効果は無いですよ?」

コリン「ファ、ファプールを、年中⋯⋯じゅるるっ!」

 コリンさんが、口から垂れたヨダレを啜(すす)っている。キリン族だからファプールが好きなのかな? アイリの時と同じ表情で、ちょっと面白い。

ベン「コリン。気持ちはわかるが、ヨダレ垂れてるぞ!」

 どうやら象族のベンさんも、ファプールが好きらしい。動物園で、象やカバがスイカを美味しそうに食べてるのを見た事あるから、草食の獣人はフルーツが好きなのかも知れない。
 アイリは肉食の狼族だが、女の子だからかな? 今まで出会った獣人女性は、肉食種族でも草食種族でも、甘いスイーツが好きだった。猫族の獣人は魚が大好物だから、ジョーイ社長はハチミツが好きなのかも。ちょっとプーさんみたいなイメージをしてしまったが、これは失礼かも知れない。
 ならユナやエマちゃんの好物は、油揚げだったりして⋯。いや、揚げ物が無い世界だし、狐が油揚げを好きなんて、おとぎ話な気がする。試しに作って食べさせてみたくなってきたな。

「ファプールを人工的に栽培するには、太陽の光りも必要なので、魔薄膜で覆って壁を透明にする必要があるんです。中の温度を一定に保つ魔道具を作って、ファプールが生るのに最適な温度にするつもりです。ただ初めて栽培するので、農業が得意なビーフさんを雇って、相談しながら成功させるつもりです。成功すれば、セドム村の収入源になりますから」

 説明すると、全員が感動しているような顔になってしまった。今日はよく人を固まらせてしまう日だ。俺の言ってる事が非常識なんだろうな。全部地球の知識なんだが⋯⋯。

ニール「温度を一定に保つ魔道具って、どんな感じの物ですか?」

「風魔法と水魔法を付与した物で、冷えた空気が出るようにするんです。そうすれば、暑い夏でもこの建物の中は涼しくなります。逆に寒い冬は、風魔法と火魔法を付与した物で、暖かい空気が出るようにします。しかしそうすると、冬は特に空気が乾燥しますから、湿度も必要な作物の為に、水魔法と火魔法を付与した物で蒸気を出して、湿度も一定にするつもりです」

ラルフ「す、凄過ぎる⋯⋯」

ニール「それならファプールを栽培できそうですね!」

 エアコンみたいな魔道具を考えていたので、わかりやすく説明すると、更にみんなが驚いた。

ジョーイ「中の温度を下げる事ができる魔道具ですか⋯⋯」

コリン「そんな魔道具、聞いた事無いです」

 あれ? 風の魔法と氷の魔法はあるんだから、あってもおかしく無いと思っていたんだが⋯⋯。冷蔵庫みたいな魔道具はあるんだし。

ベン「その魔道具、獣人には凄く欲しい物ですよ。特に獣人女性は暑さに弱いですから」

 そうなのか! 確か獣人は寒さに強いとユナが言っていたが、逆に暑さには弱いのか。だいぶ暑くなってきたから、ユナ達が夏バテみたいになってるかも知れないな。
 ならユナの家にエアコンを付けてあげよう。きっと喜んでくれる。それに暑い夏にセックスするなら、エアコンがあった方がいいし、おっぱいを押し付けてもらって、くっついて寝たい。エロ方面に役立つと思うと凄くやる気が出てくるのは、文明の発展に欠かせないと誰かが言っていた気がする。

「そうなんですね。ならみなさんの家に付ける分も作りましょうか? あ、いや、作る物が多すぎますね⋯。順番に作って行きましょう」

ジョーイ「い、家に冷たい空気が出る魔道具を!?」

ラルフ「それは凄く贅沢ですよ!」

ベン「魔法で出した水がいつでも飲めるだけでも贅沢なのに⋯⋯」

ジョーイ「魔法で出した水って何だ?」

 水道を付ける事を言って無かったので、ジョーイ社長とジャックさんが驚いている。

「さっき魔骨でシャワーを作って欲しいってお願いしてる時に思い付いたんですが、ステンレスのパイプと部品を組み合わせて、台所に水とお湯が出る魔道具を取り付けたいんです」

ジャック「だ、台所で魔道具の水が出る⋯⋯」

ジョーイ「それはまた凄く贅沢な⋯⋯。流石タカシさんですね!」

「魔薄膜を作ってもらうのと、魔骨の加工、ステンレスから水とお湯が出る道具、涼しい空気が出る道具、どれを優先して作っていくか、ジョーイ社長に相談しようと思ってたんです」

ジョーイ「セドム村の復興作業はだいたい終わっているので、後は社員じゃなくても大丈夫です」

コリン「ステンレスの道具は、部品に穴を空けて組み立てるだけなので、時間はかからないと思いますよ」

ベン「涼しい空気が出る魔道具って、どんな物ですか?」

「側面の板を1枚分外した、横に長い木の箱を作ってもらって、⋯⋯⋯こんな感じで、長い板が上下に可動する仕組みを付けて、中に今度は横に可動する短い板を10枚くらい並べた⋯⋯こんな感じです。中の短い板は、数枚ずつ同時に動かせる作りにして欲しいです」

ニール「あー、なるほど! 空気の向きを上下左右に変えられる訳ですね!」

 流石ニールさんだな。エアコンの作りを一発で理解してくれた。

ラルフ「これも簡単に作れそうですよ」

ジョーイ「なら、とりあえずラルフは魔薄膜を作る道具を作ってくれ。ニールは魔骨の加工を。コリンは涼しい空気が出る箱、ベンは水とお湯が出るステンレスの道具を頼む。俺とジャックも、この骨組みを組み立て終えたら手伝いに行く」

みんな「「「わかりました、親方!」」」

 ラルフさんだけ何か言いたそうな顔をしている。魔骨を加工したいんだな。

「ニールさん。魔骨の加工をいくらか置いといてください。ラルフさんも加工したいと思うので」

ラルフ「⋯⋯! あ、ありがとうございます!」

ニール「半分ずつにしような」

ラルフ「ああ、そうしてくれ」

ジョーイ「ラルフも魔骨の加工をしたかったんだな。そういう事は遠慮なく言ってくれ」

ラルフ「はい!」

 ラルフさんが嬉しそうに返事をした。いい会社だな。職人ばかりだが、それぞれ得意な事が違うし、お互いの腕を尊重し合ってるから、いい仕事仲間なんだろう。

 やる事が決まったので、みんなそれぞれの作業に取り掛かる。みんな休憩所の近くで作業するみたいなので、俺も付いて行った。

 魔薄膜を作る道具は俺にはよくわからないので、とりあえずコリンさんにエアコンの説明をしながら1台作ってもらう。
 ニールさんとベンさんは、休憩所の小屋で作業するみたいなので、最初に出来たエアコンは小屋に付けて、涼しい環境で仕事してもらおう。

コリン「タカシさん。中の板ですけど、どんな感じにしたらいいですか?」

 ちょっと考え事をしてる内に、エアコンくらいの横長の箱が出来ていた。風の出る所も作ってある。まだ10分くらいだぞ! 
 中の羽か⋯。うちにあったエアコンは、確か4枚の羽が連動して動かせて、右、真ん中、左、に分かれていた。4枚ずつ、計12枚付けてもらうか。いや、部屋の大きさによっては小さくてもいい。2種類作ってもらおう。

「中の羽は、4枚ずつ連動して動かせる作りに出来ますか? 右、真ん中、左に涼しい空気が出て、部屋全体に拡がるように計12枚。あと狭い部屋なら少し小さくてもいいので、2種類作ってもらって、小さい部屋用は箱の大きさを7割くらいにして、中の板は3枚ずつで、計9枚にしましょう」

コリン「タカシさんの頭の中で、凄くいろいろ考えがあるんですね。発想が凄過ぎて、学ぶ事が多いです。板を連動させる構造をどうしたらいいか⋯。1枚動かしたら、4枚一緒に動くって事ですよね?」

「はい。えーっと、板4枚を2本の細長い棒で繋げて⋯⋯⋯軸はこう。⋯⋯⋯っで、こうするんです」

 また絵を描きながら説明した。ようは分身人形と同じ作りだ。

コリン「な、なるほど! これは凄い構造ですね! こうすれば、1枚動かすだけで、4枚とも同じように動く。タカシさん、天才ですよ!」

 職人に言われるとちょっと嬉しいが、俺が考えた訳じゃないので何か罪悪感が⋯⋯。
 コリンさんはすぐに小さな板を切り出して、穴を開けて繋げてしまった。マジで早いなぁ。「遅延」を使わないと、何してるかわからないくらい早い。嬉しそうに4枚の羽を左右に動かして、失礼ながら気持ち悪いリアクションをしている。4枚同時に動く度に、うへへっとか聞こえる。職人心をくすぐったようだ。

コリン「タカシさん! 凄いですよ! なるほど⋯。ニールが言っていた通りになりますね!」

「それを4枚ずつ付けてもらえますか? 小さい方は3枚ずつで」

コリン「はい! ラルフに言ったら綺麗に仕上げてくれそうですが、俺でもいいですか?」

 ラルフさんは宮大工のような職人だ。しかし横長の箱に宮大工の技術なんて勿体ない気もする。ようは涼しい風が出ればいい。

「もちろん。じゃあそれで作ってください」

 コリンさんは、嬉しそうにエアコンを作りだした。


「転移」の付与をどうしたらいいか悩んでいたので、エアコンが何台か完成するまで、「付与魔法」の魔法書を読んでみる。最初に読んだ時は、どんな魔法かという説明しか読まなかったから、何か解決する方法が書いてあるかも知れない。

「付与魔法」⋯⋯魔法の効果を物に付与できる魔法。
 攻撃魔法を付与した場合、魔力を込めるだけで魔道具が作動し、魔力消費もないので、誰にでも使う事ができる。
 ただし無種魔法を付与した場合、詠唱を全て唱えないと発動しない。付与した無種魔法を使うのと同じ魔力が必要である。と書いてある。
 あれ? 「念話」とか「バリア」とか、かなり魔力消費が多いはずなのに、何でユナ達は使えるんだ? それに詠唱も、魔法名と対象を指定するだけで発動している。もしかして、俺が付与したからか? 何かそんな気がする。
 しかし俺以外の誰かが作った、無種魔法を付与した魔道具を買って来ないと確かめようが無いな。
 付与魔法の魔法書を更に読んでいくと、熟練した付与魔法師は、付与する時に魔道具を使える対象を指定できると書いてあった。つまりユナの魔道具は、ユナしか使えないようにもできるって事か。盗まれたりした時の為に、付与し直した方がいいな。あ! この方法なら、「転移」を使う人を指定できる。そうすれば誰でもセドム村や東区に行ける訳じゃなくなるな。
 やり方を調べていくと、魔法を付与した魔道具に、長い詠唱をして使用対象を指定するようだ。そして次のページには、更に熟練した付与魔法師は、別の詠唱をして魔道具の効果を細かく設定できるとも書いてあった。
 凄いな、付与魔法。ちゃんと読まないとダメだな。10ページくらいしか読んでなかったから、まだまだ便利な付与のやり方がありそうだ。とりあえず使用対象を指定する詠唱と効果の設定の詠唱を読んで、念じる日本語を考えていく。

コリン「タカシさん。タカシさん?」

「⋯⋯⋯え? ああ、すみません。どうかしましたか?」

 念じる日本語を考えていたので、コリンさんが呼んでるのに気が付かなかった。

コリン「魔法書を読んでらっしゃるのにすみません。とりあえず1台できたので、確認してみてください」

 魔法書を読んでる内に、エアコンが完成していた。エアコンらしく、白いペンキを塗ってもらおうかと思っていたが、木目が綺麗だからこのままの方がいいな。

「完璧な仕事ですね。俺が作って欲しかった通りの物ですよ。羽も⋯⋯⋯うん、大丈夫です」

 風が出る所の羽を動かしてみると、ちゃんと角度を変えて止まるくらいの硬さだった。説明するのを忘れていたのに、よく考えて作ってくれている。

コリン「上下左右に動く板は、木のギアを付けて段階的に動くようにも出来ますが、こっちの方がいいですか?」

 そんな構造にも出来るのか! 座椅子の背もたれみたいな構造だな。でもこれの方が好きな角度で止められるから、このままでいいだろう。

「このままで大丈夫です。付与魔法の魔法書を読み返していて、ちょっと試したい事があるので、さっき渡した『テレパシー』の石を貸してもらえますか?」

コリン「はい」

 コリンさんが「念話」を付与した石を渡してくれたので、念じる日本語をいろいろ試していく。コリンさんには2台目のエアコンを作っていてもらおう。
 石を掌に乗せて、「対象指定」と念じたが何もおこらない。違うな。⋯⋯⋯「使用対象指定」と念じると、「人物指定」と出たので、エアコンを作っているコリンさんを見ながら、「コリン」と念じた。たぶんこれで大丈夫だろう。

 次に、さっき完成したエアコンに、「氷結」という水魔法と「扇風」という風魔法を付与した。魔力を込めると、予想通り涼しい風が出たが、このままでは風の強さを変えられない。冷え過ぎると風邪をひいてしまうな。
 俺はさっき読んだ、魔道具の効果を設定できる長い詠唱の最後の言葉を、日本語で考えてみる。詠唱の最後は「コンフィグレーション」だ。しかし意味がわからない。学生時代にもっと英語を勉強しておくんだった。
 コンフィグって何だっけな? いや、設定するんだからプログラムとか⋯⋯違う、これは英語だ。ちょっと待てよ。設定するんだから⋯⋯。『設定』⋯⋯と念じると、『条件』と出た。「設定」かよ! 自分の馬鹿さ加減が嫌になる。
 ちょっと落ち込みながら「条件」を、「込める魔力の強さで、扇風の強さを可変可能」と念じた。試しに少しだけ魔力を込めると、微風くらいになったので、今度は多めに魔力を込めると強風くらいになった。
 魔力を込め過ぎると、羽が壊れるくらいの風が出るかも知れないから、使う人に言っておくようにしよう。
 もしかしたらエアコンと同じように、結露して水が垂れるかと思っていたが、そんな様子は無いので壁に穴を開けなくてもいいな。

「コリンさん。これを小屋の壁に付けて、試しに使ってみましょう」

コリン「も、もう付与されたんですか?」

 付与魔法って、もしかしたら普通は時間が掛かるのかな? 俺は女神チートがあるから、付与が早過ぎるのかも知れない。

「はい。ただ、魔力を込め過ぎると、風が強過ぎて羽が壊れるかも知れないので、使う時は少しずつ込めてみてください」

コリン「はい⋯? 壁に取り付けるなら、裏に長めの板を付けた方がいいので、ちょっと待ってくださいね」

 ん? ああ、なるぼと。エアコン本体より少し長めの板を付けて、はみ出た部分をネジで固定するのか。先に言ってあげるべきだったな。空っぽの木の箱だから、頑丈に取り付けなくても落ちたりしないだろうが、もし落ちたらかなり危ない。俺でも壁に取り付けるくらい出来そうだが、やはりプロに任せよう。

 板を付け終わったコリンさんと、エアコンを持って休憩所の小屋に入ると、ニールさんは魔骨の加工をしていて、ベンさんはステンレスの部品に穴を開けていた。ステンレスのシャワーは、すでに10個くらい完成している。やはり早いな。ニールさんの魔骨製シャワーも、すぐに完成しそうだ。

ニール「あ、タカシさん。ここの太さはこのくらいで大丈夫ですか?」

 絵は描いたが、サイズを細かく言って無かったな。でも手に持って使いやすいサイズに作ってくれてるのは流石だ。

「そこの太さは、この金具にハマる太さにお願いします。お風呂場の壁に掛けて使えるようにもしたいので」

ニール「なるぼと、そうすれば手に持ってなくても、お湯を浴びる事ができますね! それに取り外しが可能な所が、流石タカシさんの発想ですな」

 俺の発想じゃないんだが、もう説明がややこしいから、そういう事にしておこう。

ベン「ステンレスの方は、これで大丈夫ですか?」

「はい、完璧です。みなさん素人の俺の説明で、よくこんな完璧に作れますね? 本当に凄いですよ」

ニール「いえいえ、タカシさんは絵を描いてくれましたし、何に使う物か言ってくれたので、サイズはだいたい想像がつきましたよ」

 手に持って使うと言ったから、手に持ちやすいサイズを想像してくれたのか。

コリン「何処に付けますか?」

 壁の上の方に付けたいが、リモコンがある訳じゃないので、手が届く高さにしないと羽が動かせない。男性ばかりだし、ベンさんが居るから、185cmくらいの高さでも大丈夫だろう。

「こっちの壁の真ん中辺りに、羽に男性の手が届く高さで、なるべく高い位置にお願いします」

コリン「はい。ベン、ちょっと手伝ってくれ」

ベン「おう。あ、これを使ったら簡単だぞ!」

 ベンさんが嬉しそうに、さっき買ったインパクトドライバーをコリンさんに渡した。ベンさんがエアコンを持ち上げて、コリンさんが脚立に乗って取り付けるようだ。
 ベンさんは背が高いし力持ちだから、エアコンの取り付けに向いてる。ユナの家に取り付ける時は、一緒に来てもらおう。
 コリンさんは、インパクトドライバーを嬉しそうに使って、あっという間にエアコンを取り付けた。

「じゃあコリンさん。その魔道具を使う時と同じ魔力を、エアコンに込めてみてください」

コリン「えあこん?っていう魔道具なんですね」

 名前を言って無かったな。コリンさんがエアコンに魔力を込めると、ちょうどいいくらいの、強中弱なら中くらいの風が出た。普通に魔力を込めて中くらいか。

ベン「わっ! 涼しい風が⋯!」

ニール「これはいいですね! 我々も、女性ほどでは無いですが、暑さには強くないので、休憩所が涼しいのは助かります」

 獣人男性も暑さに弱いのか。暑いから熱中症になったら大変だ。冷たい飲み物を休憩所に置いといてあげよう。

「コリンさん。次は少し多めに魔力を込めてみてください」

コリン「は、はい⋯?」

 コリンさんは不思議そうな顔をして、またエアコンに魔力を込めた。すると少しだけ風が強くなった。

「もう少し多めに」

 魔力調整が難しいのかな? 設定し直さないとダメか? コリンさんがもう1度魔力を込めると、きょうくらいの風が出た。

「あ、その魔力の感じを覚えておいてください。それ以上込めると、羽が壊れるかも知れません」

 注意事項を説明したが、全員がまた固まっていた。今度は何だ?

ニール「風の強さを調整できるんですか!?」

コリン「魔道具って、そんな事ができる物なんですか!?」

ベン「凄過ぎる⋯⋯!」

 調整できる事に驚いているのか。熟練した付与魔法師じゃないと出来ないって書いてあったしな。

コリン「タカシさんの魔道具って、魔石を付けてないのに、1度魔力を込めると『リリース』と詠唱するまで可動し続けるのも凄いです!」

 普通は違うのか? 凄い付与魔法師だと思われてるみたいだから、ちょっと聞きにくいな。帰ったらユナに聞いてみよう。あ、コリンさんの念話の石を試してみないと。

「ベンさん。これはコリンさんのテレパシーの石なんですが、ちょっと使ってみてもらえますか?」

ベン「は、はい!」

 まだ驚いているベンさんが、念話の石に魔力を込めた。

ベン「『テレパシー』⋯⋯⋯ん? タカシさん、『セレクト』の文字が出ません」

 よしよし、こっちも成功だ! だが渡した全員分に「使用対象指定」をしないといけないな。ゆっくりやっていこう。

「ちょっとこの魔道具に関しては、本人にしか使えないように改良しました。盗まれて悪用される事もあるかも知れないので」

 何度も驚かせて申し訳ないが、慣れてもらうしかないな。ついでに俺は、小屋の太めの柱に「転移」を付与して、「使用対象指定」を「ジョーイ社長とニーナさんとナナさん」にした。
 それから「設定」と念じ、「条件」を「王都東区の獣人居住区に転移」にした。ニーナさんとナナさんには、少し歩くけど東区から南区へ買い物に行ってもらおう。また消耗品が無くなったり、欲しい物があったら困るだろうし、獣人居住区以外に転移して、人に見られたら良くない。
「転移」を付与した事を言うと、また驚かせてしまうので、後でジョーイ社長にだけ言っておくか。

コリン「あ! 驚いている場合じゃなかった。えあこんを作らないと⋯」

ベン「そうだな。仕事、仕事!」

 みんなが何とか作業に戻ったので、俺はジョーイ社長の居る畑に向う。

「ジョーイ社長の所に行ってきます。ニールさん、大きめの魔物の死体を、外の魔吸木の実を入れている収納箱に入れておきますから、よろしくお願いします」

ニール「わかりましたー」


 休憩所を出て、収納箱にガイズベアーの死体を入れてから畑まで歩いていくと、木陰で汗を拭いているジョーイ社長とジャックさんが楽しそうに話していた。骨組みは、すでに半分くらい組み立てられている。

「ジョーイ社長、ジャックさん、相変わらず仕事が早いですね」

ジョーイ「骨組みだけなんで、これくらいは普通ですよ」

 笑いながらそう言ったジョーイ社長と、ちょっと暑そうなジャックさんに、収納から冷たい飲み物を出して渡した。

「休憩所にコリンさんが作った、涼しい風が出る魔道具を付けたので、暑かったら休憩所で休んでください」

ジャック「そうなんですね! 後で行ってみます」

 ついでに2人の念話の石も、「使用対象指定」をしておいた。
 ジョーイ社長に「転移」の説明をしておかないと。

「ジョーイ社長。さっき休憩所の柱に『転移』の魔法を付与しておいたので、仕事が終わったら毎日家に帰ってあげてください」

ジョーイ「は、はい!? え? あ、ああ、そうなんですか。わ、わかりました」

 俺の非常識に慣れているジョーイ社長も、流石に驚いている。

「ジョーイ社長とニーナさんとナナさんしか使えないように付与してますし、東区にしか転移できないので、帰る時はみんなと肩を組んで、『セレクト』を『肩を組んでいるみんな』にしてください」

ジョーイ「は? は、はい! 慣れたつもりでいたんですが、流石に驚きました」

「すみません。さっきから社員さんを驚かせてばかりなので、後でジョーイ社長の方から説明をお願いします。毎日家に帰って、家族団欒して欲しかったんです」

ジョーイ「ありがとうございます」

「東区からもセドム村に転移出来るようにしたいんですが、ジョーイ社長の家の横に生えてる木に、魔法を付与していいですか?」

ジョーイ「あ、はい。あの木は私が植えた木なので大丈夫です」

 ちょっと東区に行ってくるか。マイアさんとロンダに渡した念話の石も、「使用対象指定」をしておいた方がいいし。

「じゃあちょっと東区に行ってきますね」

 ジョーイ社長と、驚いて固まっているジャックさんに見送られながら、東区に転移した。


 マイアさんにも説明しないといけないので、ジョーイ社長の家に行く。獣人居住区を歩いていると、ミリアちゃんとミユさんが、俺を見付けて嬉しそうに走ってきた。

ミリア「タカシさん! ありがとう♪」

 俺の腰に飛びつくように抱き着いて、いきなりお礼を言われた。何か凄くいい匂いがするから、シャンプーのお礼かな?

ミユ「タカシさん、洗髪液や髪油を買ってくださって、ありがとうございました。話を聞いた東区の獣人女性みんなが、朝からお風呂に殺到して大人気でしたよ♪」

 やっぱりか。シャワーも付けたら、更に喜んでくれそうだな。

「喜んでもらえて良かったです。無くなったらまた補給するので、遠慮無く使ってください。ミユさんは尻尾がフワフワだから、たくさん使いたいでしょ?」

 ミユさんはフェネック族だから、耳がかなり大きいし、尻尾もユナくらいフワフワだ。たくさんシャンプーとリンスが必要だろう。

ミユ「尻尾にも? い、いいんですか!?」

「尻尾がフワフワの獣人女性は、尻尾にも使うって聞きました。遠慮しないで使ってください」

ミユ「ありがとうございます! あの、私の髪の匂いは、ど、どうですか?♡」

 真っ赤な顔で少し恥ずかしそうに聞いてくる。髪の匂いを嗅いでいいんだろうか。欲情した顔をしているから大丈夫か。
 俺はミリアちゃんに抱き付かれたまま、ミユさんの髪の匂いを嗅いだ。花のようないい匂いで、ミリアちゃんと同じ匂いだな。しかし女性の髪の匂いを嗅ぐと、何でこんなに興奮するんだろう。ミユさんは耳が大きくて可愛いから、前からちょっと触ってみたかったので、耳も少し撫でてみる。

ミユ「あ⋯⋯♡ んんっ⋯⋯はぁぁ、タカシさんが私の耳を⋯♡」

 ヤバイ! 東区の道端で、獣人女性を欲情させてしまった。

「す、凄くいい匂いです」

 慌てて手を離してそう言うと、ミリアちゃんも嬉しそうに赤くなった。2人はたまたま同じ物を使ったからだな。
 嬉しそうな2人と話していると、お風呂屋の方からリタとロンダが歩いてきた。朝風呂帰りみたいだ。

リタ「あ、タカシさん。洗髪液と髪油をありがとうございました」

ロンダ「女性用の石鹸も、ありがとうございました」

「喜んでくれて嬉しいよ。さっきミユさんにも言ったんだが、無くなったら補給するから、遠慮なく使ってくれていいよ」

リタ、ロンダ「「はい♪」」


 俺が今からマイアさんの家に行くと言うと、丁度みんなも向かう所だと言うので、ミリアちゃんと手を繋いで、マイアさんの家に歩いて向かう。

「マイアさんの家に何か用があるの?」

リタ「私達、社長の家で内職の仕事をしてるんです」

ロンダ「タカシさんに病気を治してもらってから、女性用の鞄や財布を作って、南区の店で買い取ってもらってます」

ミリア「私も手伝ってるんだよ」

 12歳のミリアちゃんまで⋯。偉いな。俺はミリアちゃんの耳と頭を撫でてあげた。

ミユ「ミリアちゃんと私の妹のサラが作った財布は、南区の女性に結構好評なんです」

「凄いねぇ、ミリアちゃん」

ミリア「えへへ♪ もっと撫でて、タカシさん♡」

 本当に偉いな。周りの羨ましそうな目が気になるが、家に着くまでいっぱい撫でてあげよう。みんな元気になって、仕事を頑張ってるんだな。
 詳しく聞くと、元気になったので、南区の店で働きだした東区の獣人もたくさん居るらしい。毎日お風呂に入っているし、服も綺麗だから、南区でも雇ってもらえるようになったという。普通の生活が出来ているようで、俺も助けた甲斐があるな。

 東区の獣人居住区周辺は、もうスラム街のような雰囲気は無い。みんなが綺麗にしているんだろう。しかし盗賊紛いのハーフエルフとかが来ないのだろうか? 俺達も風呂に入れろ!とか言ってくるヤツが居ても、おかしく無い気がするんだが⋯。家に着いたら、その辺の事を詳しく聞いてみよう。
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DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

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