フェイバーブラッド ~吸血姫と純血のプリンセス~

ヤマタ

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第52話 地下に蠢く狂気

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 体中に痛みを感じる愛佳は、誰かが呼びかける声を聞いて目を覚ました。

「神木さん、大丈夫か!?」

「・・・相田朱音、ここでなにを?」

「なにって、ヤバそうな事件が起きたらしいって神木さんがメッセージを送ってきたから来たんだよ。そしたら当の本人が倒れているんだもんな」

「ああ、そうだったわね。いててて・・・・・・」

 朱音に手伝ってもらって立ち上がる。周囲にはパトカーや救急車が何台も止まっていて、事態の把握と人名救助に全力を出しているようだった。

「何があったんだ?」

「レジーナの仕業よ。アイツが変な結晶体を使って攻撃したのよ」

「で、この有様なのか」

「ええ。しかも、攻撃に巻き込まれて死亡した人が傀儡吸血姫化していた」

「そんなことを・・・・・・レジーナは底知れない脅威だな本当に」

 この区画は爆撃を受けたように破壊されて、きっと生存者は愛佳だけだろう。そんな恐ろしい行為を平然とできるレジーナへの怒りが湧くし、仕留め損なった自分が不甲斐ないとも愛佳は思っていた。

「二人とも大丈夫かしら?」

 千秋達も美広の車で到着し、愛佳達に駆け寄る。この異常な光景に眉をしかめながらも、愛佳が無事であったことに安堵しているようだ。

「けどアタシが来た時にはレジーナの姿はなかったな。逃げちまったのか・・・・・・」

「それなら問題ないわ。アイツを追跡できる」

 愛佳は不敵な笑みを浮かべ、何か確信を持ったように言う。

「えっ? どうやって?」

「アイツはトラックで逃走したんだけど、そのトラックのコンテナの中にあたしの刀が置き去りにされているの。その刀はお札を変化させたもので、巫女のあたしはお札のある方向を探知できる。つまり、その方向に進めばレジーナに辿り着けるって寸法よ」

「けどレジーナが刀をトラックから捨てていたらどうする?」

「・・・・・・アイツにそんな脳はないことを祈りましょ」

 巫女の使うお札は特別な加工のされた物で、一般的に販売されているお札とは格が違う。そのため紛失を防ぐ手段が講じられていて、例え落としてもその方向を巫女に知らせる機能が付いている。この機能を利用すればトラックのある場所を特定することができるということだ。

「なら急ぎましょう。また同じような攻撃を仕掛ける可能性があるもの」

「そうね。これはヤツを仕留めるチャンスだし、神木愛佳と愉快な仲間達、出撃の時よ!」

「ゆ、愉快な仲間達・・・?」

 負傷をものともせず、やる気に満ちた愛佳。千秋はそんな愛佳に愉快な仲間扱いされながらも、レジーナを倒せるチャンスだという点には同意する。
 美広のワゴン車に全員が乗り、愛佳に導かれるままお札の方角へと急行していく。





 暫く車で走行すると人気のないエリアに辿り着いた。周囲に民家は無く荒れた湿地帯が広がっている。かつて田園地帯として開発される予定であったが、お役所が土地買収をして街が管理を行う場所となったようだ。
 
「この先に反応を感じるわ。間違いなくお札へと近づいている」

 水道局の古い看板を通り過ぎると雑草の茂る駐車場が目に入った。そこに一台の大型トラックが止まっており、愛佳は間違いなくそれがレジーナの乗っていたトラックだと確信する。

「レジーナが近くにいるかもしれない。あたしが先行するから慎重に付いてきなさい」

「分かった。一応早坂さんにも連絡しておくぜ」
 
 朱音が早坂に現状を連絡し、ワゴン車を降りた一行は愛佳を先頭にしてトラックに近づいていく。しかし邪気も殺気も感じないことからトラックの中にはレジーナはいないようだ。

「あったわ! あたしのよコレ」

 トラックに連結されたコンテナ内部に愛佳の刀が落ちていた。後方の扉を突き破ってそのまま放置されたままで、レジーナもまさかこの刀が原因で居場所を探られるとは思ってもみなかっただろう。
 その刀をお札へと戻して胸の谷間に仕舞い、行方をくらましたレジーナに繋がる手がかりがないか捜索を開始する。

「あの、皆さん。わたし達の下には貯水施設があるようですよ」

 二葉が駐車場の近くにある地図を指さす。そこには周囲の地形の他、地下に貯水施設があると記されていた。
 貯水施設とは大雨などの水害において効果を発揮する防災施設であり、地上に溢れた水を貯水槽に誘導することで地上の氾濫を防ぐ役割を持っている。
 
「なるほど・・・貯水施設は広大な広さがあるから、拠点にするのにうってつけってことね。しかも地下だから目立たないし」

「でも有事の時に水を流し込まれたら全滅しちまうよ?」

「恐らく貯水施設としての機能はレジーナによって破壊されているのよ。施設を稼働させるような水害はなかなか起きるものではないし、占領されていても誰も気がつかない」

「お役所の人間は何か事が起きてからじゃないと働かないしな。それだものレジーナにつけ込まれるわけだ」

 ずさんな管理がなされているのは分かり切ったことだ。役所が管理するここら一帯の荒れ具合を見れば、そもそも貯水施設の存在そのものを忘れていてもおかしくない。

「とにかく中に入ってみましょう。レジーナがいるのならばここで仕留める」

「いよいよ決着の時か・・・・・・」

 影で暗躍していたレジーナを倒せば少しは街も平和になることだろう。
 千秋達は駐車場近くの物資運搬用ターミナルへと侵入し、そこから昇降リフトを使って地下貯水施設へと降りていく。





「レジーナ、ヤツらのお出ましのようだ」

「ン・・・以外と早かったな。よく嗅ぎつけたものだ」

 宝条の報告を受け、レジーナは傀儡吸血姫達に防衛ラインを引かせる。
 貯水施設は大きく二つのエリアに分かれており、一つはレジーナ達のいる貯水槽エリアで、その上に制御室などを擁する管理エリアがある。敵を管理エリアで食い止められればベストであり、もし突破された場合はレジーナ自らが貯水槽エリアで迎え撃つ算段のようだ。

「宝条、貴様も上の階で千秋達を迎撃しろ」

「は? 私が前衛に出るってこと?」

「そうだ。貴様が傀儡吸血姫の指揮を直接執るんだ」

「え~・・・だってそんな危険なこと・・・・・・」

「ここで力を使わずしてどこで使う? 世界を取るつもりなら、本気を見せてみろ」

「よく言うよ本当に・・・・・・」

 ぶつくさと文句を言いながら宝条は傀儡吸血姫達と上階に向かっていった。
 戦力を分けずとも、ここで戦えばいいのだがレジーナには思惑がある。それは宝条を敵に始末してもらうというものだ。宝条は協力者ではあるが決してレジーナに従属しているわけではなく、あの態度ではいずれ邪魔になるのは目に見えている。ブラッディ・コアさえあればもう宝条などいなくても問題はないので、足枷になるのならいっそ死んでほしかった。
 それにリスクはなるべく負いたくないのがレジーナであり、宝条達に敵の戦力を削らせ弱ったところをまとめて潰せれば自らが危険に晒されずとも勝てる。
 全てはレジーナの利己的な考えによる作戦なのだ。

「千祟千秋は逢魔凶禍術を発現した。だがこちらとて準備は万端だからな・・・・・・貴様だけが特別な吸血姫だと思うなよ」

 奇襲を受けたわけだがレジーナは冷静だった。何故なら勝つための要素はこの場に揃えているからで、あとはそれらを駆使して殲滅するだけだからだ。





 リフトが地下一階へと降り立つと、ジャンボジェット機さえも格納可能な程に広いメイン通路があった。奥にはリフトローラーや資材庫と書かれた電灯が瞬いており、地上から降ろした建築資材などを通すための広さのようだ。

「ようこそ、待っていたよ」

 そのメイン通路の中心に腕を組んで立っているのが宝条で、周囲には多数の傀儡吸血姫達も控えていた。敵にこちらの侵入はバレていたらしいが、千秋達は動揺もせず魔具を装備する。

「レジーナもいるのね?」

「ああ。千祟千秋、キミのことをレジーナは待っているよ」

「随分と親切に教えてくれるのね?」

「キミは特別に強いからレジーナに押し付けようと思って。私も生き残りたいからね」

 宝条の信条は生き残るということで、正面から戦って千秋に勝てる見込みは少ないことからレジーナに対処させようとしている。レジーナも宝条も信頼関係は無く、互いに互いを利用することしか考えていないからこその押し付け合いだ。

「ならちーち、アタシ達はコイツらを倒すよ」

「頼むわね。すぐにレジーナを倒して援護に戻ってくるから」

「そりゃあコッチのセリフだぜ。コイツらをさっさと蹴散らしてちーちの加勢をする。だから、死ぬな」

「アナタもね」

 対して千秋達は信頼する仲間だからこその戦力分配である。逢魔凶禍術すら習得した最強の千秋を敵の親玉にぶつけ、朱音達は他の敵が千秋の邪魔をしないように抑えるのが役目だ。

「小春、行くわよ!」

「うん!」

 千秋は小春をお姫様抱っこの要領で抱き上げ、宝条が示す地下二階への階段を下って行った。
 それを見送った宝条率いる過激派吸血姫部隊と、共存派吸血姫プラス巫女連合の戦いの幕が上がる。


 戦局は、ついに最終決戦へと移ったのだ・・・・・・


     -続く-
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