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第25話 血で繋がった二人
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心霊スポットとして話題になっていた洋館は過激派吸血姫の隠れ家となっていて、そこに踏み込んだ千秋達は見事敵を殲滅することに成功した。これで街はまた一歩平穏に近づいたのである。
「やれやれ・・・ヒドい目に遭ったな」
朱音は一階玄関口で千秋と小春と合流し床にドサッと腰を降ろす。二度も窓から落ちるし、ロープで体を縛られるしで今回の戦いは散々だった。
「相田さん達も無事で良かったわ。それで、敵の首領は?」
「神木さんが倒してくれたよ。あのマントの吸血姫はまったくオカシなヤツでさぁ。ありゃきっと変態だね」
「相田さんよりも?」
「ちーちまでそんな事を言う・・・・・・」
愛佳にも同じように言われたことを思い出して、自分の評価とは一体と朱音はうな垂れる。
「傀儡吸血姫があんなだったのも、主人が変わったヤツだったからということね」
「どういうこと千秋ちゃん?」
「傀儡吸血姫は精製主の性格や生態に影響を受けるのよ」
「つまりこの館に居た傀儡吸血姫を作ったリーダーが変態だったから、千秋ちゃんにああいう・・・変なことをしたんだね?」
「そういうことよ。傀儡吸血姫は生前の記憶などは保有しておらず、精製主への忠誠心を持って生まれ変わった存在。そんなヤツらだから親とも言える精製主を参考にして活動するのよ」
傀儡吸血姫は人間の死体を利用して作られる点は同じだが、術を行使した精製主によって個性のようなモノが形成される。ここに居た傀儡吸血姫がサディスティックで変態的な拷問を好んだのも全てはマントの吸血姫の影響だ。
「なるほど。でも傀儡って操り人形って意味だよね? にしては結構自由に喋ったりしてるね」
「大昔の初期の傀儡吸血姫は文字通り操り人形のようだったらしいわ。でもそれだと意思疎通や任務に支障があるから術が改良されて、今では人格のようなモノを発現するようになっているのよ。なので辞書を参考にするなら、他者の言いなりになって手先として利用される存在、という意味が適当と言えるでしょうね」
死者の体を利用するだけでも充分に冒涜的だが、そこに新たな人格を植え付けるというのは更に非人道的な行いだ。だから共存派は傀儡吸血姫の精製を禁忌としてきたし許せるものではない。
「館の周囲にも敵影は無かったわ。これで一件落着ね」
メンバーで唯一疲労を溜めていない愛佳は館の周りの索敵を行い安全を確かめて戻って来た。正確には太陽光から得られるエネルギーによって体力を回復したので疲れが残っていないのだ。
「神木さんがいてくれて良かったよ。じゃなきゃアタシ達は捕まったままだったもんな」
「ふっ、あたしの凄さをよく理解できたようね」
「ああ。巫女ってのはたいしたもんだ」
「まあ運よく立ち回れただけで、あたしもピンチに陥ることはあったし」
ちょっと立ち位置が違ければ朱音や千秋のような目に遭っていたかもしれない。戦いとは実力だけでは生き残れず、運などによっても左右されるものだ。
「上の階にある吸血姫の遺体はどうする? 埋めちゃいましょうか?」
「それは任せられる人がいる。アタシが連絡しておくよ」
「警察にいる共存派の吸血姫ね? そういうことなら頼むわ。遺体を残しておいて、それを肝試しに来た一般人に見つかっちゃったら大事になるもんね」
愛佳はマントの吸血姫の遺体がある三階へと歩き出し、朱音はそれに付いて行きながら早坂へと連絡を行う。
千秋と小春は玄関近くに残り床に座ったまま休息を取ることにした。
「どうしたの小春?」
階段を昇った愛佳達の姿が見えなくなった直後、小春は千秋の腕をギュッと掴んで体を密着してきた。縋りつくような様子を見て千秋も体を寄せる。
「私はここにいるわ。もう大丈夫よ」
「うん、そうなんだけど・・・手を離したら誰かに盗られちゃいそうで・・・・・・」
「ふふふ、私は小春のものなの?」
「アッ、ごめん・・・図々しかったね・・・?」
「いえそんなことないわ。図々しくなんてないし、言う通り小春のものよ」
千秋は小春の手に自分の手を重ねる。その温もりは不愉快な真夏の暑さとは違い心底安らぐものだ。
「小春は私のものだし、私は小春のもの・・・お互いにお互いのものってことね」
「だね・・・えへへ、本当に特別な関係だよね私達って」
「そこらの恋人達とは比べられないくらい深い関係だし、絶対に替えの効かない相手だものね」
「まるで運命の赤い糸で繋がっているみたい」
「私達を結び付けたのは真っ赤な血だけどね?」
「血、か・・・・・・」
フェイバーブラッドもそうだが二人を強く結びつけたのは相性の良さである。通常の吸血とは違い、相性の良い相手による吸血は極上の心地よさをもたらしてくれるのだ。これも小春が千秋への協力を申し出た理由で、もし相性が悪かったら今のような関係にはなっていなかっただろう。
「ねえ千秋ちゃん、血、飲まない?」
「いただこうかしら。疲れた体に小春の血は極上だもの」
「いっぱい飲んでいいよ。私が干からびるくらい」
「ここで干からびてもらっては困るわ。これからもずっと味わいたいのだから。でも・・・お言葉に甘えて存分に飲ませてもらうわよ」
千秋は小春の耳元でそう囁いた後、首筋へと噛みつく。犬歯が皮膚を貫通して血管すらも捉えた。
「あぅ・・・千秋ちゃん・・・・・・」
千秋がそのまま小春を押し倒し、まるで最初に会った時の吸血のように激しく啜っていく。一滴すらも惜しく、こぼすまいと更にグッと強く顎に力を加える。
「き、気持ちいいよぉ・・・もっとしてぇ・・・・・・」
全身を包み込む多幸感を抱きしめるように、小春は千秋の背中と後頭部に腕を回して引き寄せた。もう二人の間には隙間など一切なく空気すらも入り込むことができない。
「ふぅ・・・沢山飲んだから体力も一気に回復したわ」
「もう終わり・・・?」
「これ以上は死んでしまうわよ」
「む~・・・・・・」
満足した千秋とは違い小春はまだ続けて欲しいようだ。軽くむくれながら千秋に足までをも絡めた。
もはやここが外だということを完全に忘れているようだが、
「・・・アンタ達、何やってんの?」
「ファッ!? 神木さん!?」
声が聞こえて視線を上げると、階段の途中で愛佳が呆れたように見ていた。小春達の現状を傍から見れば、いかがわしい行為を堂々としていると勘違いされても仕方ない。
「まったくそういうイチャイチャは家でしなさいよ」
「ち、違うんだよ血をあげていただけなんだよ」
「それでそんな体勢になるの・・・?」
「寝てしたほうがね、やりやすいんだよ」
「へぇ・・・?」
愛佳にも二人が血の受け渡しをしていたのは分かっているが、にしても距離感がオカシイのではと思ったのだ。しかし小春達にとっては普通だし、その親密さを理解できないのはまだ愛佳がウブだからであろう。
「やりますなぁ二人とも。神木さん、アタシ達も対抗して・・・」
「は? なにに対抗するって?」
「だからさ、アタシに神木さんの血を飲ませてちょうだいな。で、ちーち達のようにヤッてさ・・・」
「イヤよ。前にも言ったけど吸血姫に飲ませる血はないわよ」
「ちぇー。そろそろオーケーが貰える時期かと思ったんだけどな」
唇を尖らせてブツブツと呟く朱音を無視して吸血を終えた小春達の元へと階段を降りる。
「警察にいる吸血姫がすぐに来るっていうし、あたし達は帰りましょう」
「そうだね。ここは暑くて、早くクーラーの効いた場所に行きたいよ」
真夏の廃墟など長居する場所でもない。
小春達は吸血姫が巣くっていた廃墟を後にして街へと帰っていくのだった。
時刻は夕方となり、街中のファミレスに小春達の姿があった。吸血で体力が無くなり、少しフラついている小春を慮った千秋が寄ることを提案したのだ。
「ふぃー・・・冷房は人類が生みだした最高の機械だよね」
席でクーラーの風を浴びる小春は解け始めた雪だるまのように姿勢が崩れていく。
隣に座る千秋はそんな小春の様子を観察しながらニヤついていて、愛佳には不審者に見える。
「ふふふ、とても可愛いわ小春」
「アンタはどんな赤時だって可愛いと思うんでしょ?」
「ええ。よく分かっているじゃない。小春の国宝級の可愛さにアナタは何も感じないの?」
「まあ確かに可愛い方だとは思うけど」
「良さが分かるならよし。けれど絶対に渡さないわよ」
「盗らないわよ・・・・・・」
ヤレヤレとため息をつきながら愛佳は朱音へと視線を移す。
「可愛いと言えば、アンタも可愛らしいトコロがあるのね」
「おっ、やっとアタシの魅力に気が付いたか」
「そういうんじゃなくて・・・アンタ、敵に捕まって三階に連れ去られている時に、あたしに助けてって死にそうな声で言ってきたでしょう?意外と弱々しい面もあるんだなって思ったの」
「担がれて運ばれている時か? そん時は神木さんがどこにいるか分からなかったし助けてなんて言ってないぞ?」
朱音は首を傾げながら愛佳の言葉を否定する。しかしあの時確かにか細い声で助けてという訴えが聞こえてきたのだ。
「えっ? じゃあ千祟か赤時が言ったの?」
「いえ、私も敵に捕まっていたけど助けてとは言っていないわ。小春はクローゼットに隠れていたから声も上げていないし」
うーんと愛佳は考え込むが、どうやら千秋達三人共に言っていないようだ。となれば気がつかなかっただけで第三者がいたのかもしれない。
「それじゃあ他の誰かがいたの・・・?」
「敵を倒した後に探索したが誰もいなかったけどなぁ。一応早坂さんに連絡して廃墟に誰か残っていないか聞いてみるか」
今頃廃墟で後始末をしているであろう早坂に朱音が電話し、監禁されている人でもいないか訊いてみる。
「なるなる・・・分かりました」
「どうだった?」
「それがな、早坂さんが廃墟中を既に捜索したらしいんだが、吸血姫も含めて誰もいなかったってさ」
「・・・ということは」
「ああ・・・ということは・・・・・・」
ゾクッと寒気に襲われた愛佳と朱音は同じ結論に達した。心霊スポットで謎の声が聞こえたとするのならば、その答えは自然と導き出せるだろう・・・・・・
「「お、お化けーーーっ!?」」
二人の叫びがファミレスの中に響き渡った。
-続く-
「やれやれ・・・ヒドい目に遭ったな」
朱音は一階玄関口で千秋と小春と合流し床にドサッと腰を降ろす。二度も窓から落ちるし、ロープで体を縛られるしで今回の戦いは散々だった。
「相田さん達も無事で良かったわ。それで、敵の首領は?」
「神木さんが倒してくれたよ。あのマントの吸血姫はまったくオカシなヤツでさぁ。ありゃきっと変態だね」
「相田さんよりも?」
「ちーちまでそんな事を言う・・・・・・」
愛佳にも同じように言われたことを思い出して、自分の評価とは一体と朱音はうな垂れる。
「傀儡吸血姫があんなだったのも、主人が変わったヤツだったからということね」
「どういうこと千秋ちゃん?」
「傀儡吸血姫は精製主の性格や生態に影響を受けるのよ」
「つまりこの館に居た傀儡吸血姫を作ったリーダーが変態だったから、千秋ちゃんにああいう・・・変なことをしたんだね?」
「そういうことよ。傀儡吸血姫は生前の記憶などは保有しておらず、精製主への忠誠心を持って生まれ変わった存在。そんなヤツらだから親とも言える精製主を参考にして活動するのよ」
傀儡吸血姫は人間の死体を利用して作られる点は同じだが、術を行使した精製主によって個性のようなモノが形成される。ここに居た傀儡吸血姫がサディスティックで変態的な拷問を好んだのも全てはマントの吸血姫の影響だ。
「なるほど。でも傀儡って操り人形って意味だよね? にしては結構自由に喋ったりしてるね」
「大昔の初期の傀儡吸血姫は文字通り操り人形のようだったらしいわ。でもそれだと意思疎通や任務に支障があるから術が改良されて、今では人格のようなモノを発現するようになっているのよ。なので辞書を参考にするなら、他者の言いなりになって手先として利用される存在、という意味が適当と言えるでしょうね」
死者の体を利用するだけでも充分に冒涜的だが、そこに新たな人格を植え付けるというのは更に非人道的な行いだ。だから共存派は傀儡吸血姫の精製を禁忌としてきたし許せるものではない。
「館の周囲にも敵影は無かったわ。これで一件落着ね」
メンバーで唯一疲労を溜めていない愛佳は館の周りの索敵を行い安全を確かめて戻って来た。正確には太陽光から得られるエネルギーによって体力を回復したので疲れが残っていないのだ。
「神木さんがいてくれて良かったよ。じゃなきゃアタシ達は捕まったままだったもんな」
「ふっ、あたしの凄さをよく理解できたようね」
「ああ。巫女ってのはたいしたもんだ」
「まあ運よく立ち回れただけで、あたしもピンチに陥ることはあったし」
ちょっと立ち位置が違ければ朱音や千秋のような目に遭っていたかもしれない。戦いとは実力だけでは生き残れず、運などによっても左右されるものだ。
「上の階にある吸血姫の遺体はどうする? 埋めちゃいましょうか?」
「それは任せられる人がいる。アタシが連絡しておくよ」
「警察にいる共存派の吸血姫ね? そういうことなら頼むわ。遺体を残しておいて、それを肝試しに来た一般人に見つかっちゃったら大事になるもんね」
愛佳はマントの吸血姫の遺体がある三階へと歩き出し、朱音はそれに付いて行きながら早坂へと連絡を行う。
千秋と小春は玄関近くに残り床に座ったまま休息を取ることにした。
「どうしたの小春?」
階段を昇った愛佳達の姿が見えなくなった直後、小春は千秋の腕をギュッと掴んで体を密着してきた。縋りつくような様子を見て千秋も体を寄せる。
「私はここにいるわ。もう大丈夫よ」
「うん、そうなんだけど・・・手を離したら誰かに盗られちゃいそうで・・・・・・」
「ふふふ、私は小春のものなの?」
「アッ、ごめん・・・図々しかったね・・・?」
「いえそんなことないわ。図々しくなんてないし、言う通り小春のものよ」
千秋は小春の手に自分の手を重ねる。その温もりは不愉快な真夏の暑さとは違い心底安らぐものだ。
「小春は私のものだし、私は小春のもの・・・お互いにお互いのものってことね」
「だね・・・えへへ、本当に特別な関係だよね私達って」
「そこらの恋人達とは比べられないくらい深い関係だし、絶対に替えの効かない相手だものね」
「まるで運命の赤い糸で繋がっているみたい」
「私達を結び付けたのは真っ赤な血だけどね?」
「血、か・・・・・・」
フェイバーブラッドもそうだが二人を強く結びつけたのは相性の良さである。通常の吸血とは違い、相性の良い相手による吸血は極上の心地よさをもたらしてくれるのだ。これも小春が千秋への協力を申し出た理由で、もし相性が悪かったら今のような関係にはなっていなかっただろう。
「ねえ千秋ちゃん、血、飲まない?」
「いただこうかしら。疲れた体に小春の血は極上だもの」
「いっぱい飲んでいいよ。私が干からびるくらい」
「ここで干からびてもらっては困るわ。これからもずっと味わいたいのだから。でも・・・お言葉に甘えて存分に飲ませてもらうわよ」
千秋は小春の耳元でそう囁いた後、首筋へと噛みつく。犬歯が皮膚を貫通して血管すらも捉えた。
「あぅ・・・千秋ちゃん・・・・・・」
千秋がそのまま小春を押し倒し、まるで最初に会った時の吸血のように激しく啜っていく。一滴すらも惜しく、こぼすまいと更にグッと強く顎に力を加える。
「き、気持ちいいよぉ・・・もっとしてぇ・・・・・・」
全身を包み込む多幸感を抱きしめるように、小春は千秋の背中と後頭部に腕を回して引き寄せた。もう二人の間には隙間など一切なく空気すらも入り込むことができない。
「ふぅ・・・沢山飲んだから体力も一気に回復したわ」
「もう終わり・・・?」
「これ以上は死んでしまうわよ」
「む~・・・・・・」
満足した千秋とは違い小春はまだ続けて欲しいようだ。軽くむくれながら千秋に足までをも絡めた。
もはやここが外だということを完全に忘れているようだが、
「・・・アンタ達、何やってんの?」
「ファッ!? 神木さん!?」
声が聞こえて視線を上げると、階段の途中で愛佳が呆れたように見ていた。小春達の現状を傍から見れば、いかがわしい行為を堂々としていると勘違いされても仕方ない。
「まったくそういうイチャイチャは家でしなさいよ」
「ち、違うんだよ血をあげていただけなんだよ」
「それでそんな体勢になるの・・・?」
「寝てしたほうがね、やりやすいんだよ」
「へぇ・・・?」
愛佳にも二人が血の受け渡しをしていたのは分かっているが、にしても距離感がオカシイのではと思ったのだ。しかし小春達にとっては普通だし、その親密さを理解できないのはまだ愛佳がウブだからであろう。
「やりますなぁ二人とも。神木さん、アタシ達も対抗して・・・」
「は? なにに対抗するって?」
「だからさ、アタシに神木さんの血を飲ませてちょうだいな。で、ちーち達のようにヤッてさ・・・」
「イヤよ。前にも言ったけど吸血姫に飲ませる血はないわよ」
「ちぇー。そろそろオーケーが貰える時期かと思ったんだけどな」
唇を尖らせてブツブツと呟く朱音を無視して吸血を終えた小春達の元へと階段を降りる。
「警察にいる吸血姫がすぐに来るっていうし、あたし達は帰りましょう」
「そうだね。ここは暑くて、早くクーラーの効いた場所に行きたいよ」
真夏の廃墟など長居する場所でもない。
小春達は吸血姫が巣くっていた廃墟を後にして街へと帰っていくのだった。
時刻は夕方となり、街中のファミレスに小春達の姿があった。吸血で体力が無くなり、少しフラついている小春を慮った千秋が寄ることを提案したのだ。
「ふぃー・・・冷房は人類が生みだした最高の機械だよね」
席でクーラーの風を浴びる小春は解け始めた雪だるまのように姿勢が崩れていく。
隣に座る千秋はそんな小春の様子を観察しながらニヤついていて、愛佳には不審者に見える。
「ふふふ、とても可愛いわ小春」
「アンタはどんな赤時だって可愛いと思うんでしょ?」
「ええ。よく分かっているじゃない。小春の国宝級の可愛さにアナタは何も感じないの?」
「まあ確かに可愛い方だとは思うけど」
「良さが分かるならよし。けれど絶対に渡さないわよ」
「盗らないわよ・・・・・・」
ヤレヤレとため息をつきながら愛佳は朱音へと視線を移す。
「可愛いと言えば、アンタも可愛らしいトコロがあるのね」
「おっ、やっとアタシの魅力に気が付いたか」
「そういうんじゃなくて・・・アンタ、敵に捕まって三階に連れ去られている時に、あたしに助けてって死にそうな声で言ってきたでしょう?意外と弱々しい面もあるんだなって思ったの」
「担がれて運ばれている時か? そん時は神木さんがどこにいるか分からなかったし助けてなんて言ってないぞ?」
朱音は首を傾げながら愛佳の言葉を否定する。しかしあの時確かにか細い声で助けてという訴えが聞こえてきたのだ。
「えっ? じゃあ千祟か赤時が言ったの?」
「いえ、私も敵に捕まっていたけど助けてとは言っていないわ。小春はクローゼットに隠れていたから声も上げていないし」
うーんと愛佳は考え込むが、どうやら千秋達三人共に言っていないようだ。となれば気がつかなかっただけで第三者がいたのかもしれない。
「それじゃあ他の誰かがいたの・・・?」
「敵を倒した後に探索したが誰もいなかったけどなぁ。一応早坂さんに連絡して廃墟に誰か残っていないか聞いてみるか」
今頃廃墟で後始末をしているであろう早坂に朱音が電話し、監禁されている人でもいないか訊いてみる。
「なるなる・・・分かりました」
「どうだった?」
「それがな、早坂さんが廃墟中を既に捜索したらしいんだが、吸血姫も含めて誰もいなかったってさ」
「・・・ということは」
「ああ・・・ということは・・・・・・」
ゾクッと寒気に襲われた愛佳と朱音は同じ結論に達した。心霊スポットで謎の声が聞こえたとするのならば、その答えは自然と導き出せるだろう・・・・・・
「「お、お化けーーーっ!?」」
二人の叫びがファミレスの中に響き渡った。
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