フェイバーブラッド ~吸血姫と純血のプリンセス~

ヤマタ

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第23話 窮地

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 一階へと転落した千秋は小春を抱え、迫る傀儡吸血姫を斬りつけながら部屋を出る。普段ならば取り囲まれても対処できるのだが小春を守りながらではさすがに厳しい。

「正面からも敵・・・一体どれだけの戦力があるのよ」

「この街は全国的に見ても失踪者が多いっていうけれど、その原因は過激派吸血姫だね間違いなく」

「まったく迷惑な連中よ」

 千秋は部屋の一つに飛び込んで扉を閉め、近くにあった本棚を横倒しにしてバリケードとした。これで出入り口を塞ぐことができ少しは時間稼ぎができるはずだ。
 外に逃げ出すという選択肢もあったが、日光の元で能力が下がってしまってはそれこそ数の差を覆すことはできなくなる。

「小春、あのクローゼットの中に隠れていて。そして私がいいと言うまで決して出て来てはダメよ。例え私がピンチになろうとも」

「う、うん・・・・・・」

「もし私が死んだら相田さん達を待つのよ。あなたをヤツらに渡すわけにはいかないから」

 言われた通りに小春は部屋の奥にあるクローゼットへと隠れた。次の瞬間、扉とバリケードとしていた本棚が破壊され、十体近い傀儡吸血姫がジリジリと千秋ににじり寄る。

「もう逃げ場はないぞ。吸血姫め」

「なら正面からやり合うだけよ」

「へへへ・・・力任せなだけが戦いじゃないってね・・・・・・」

 卑下た笑いを傀儡吸血姫達が浮かべている。勝利の確信があるのかは知らないが千秋とて負ける気はしない。

「さあ、正々堂々・・・」

「騎士じゃないんだから正々堂々なんて戦うかよ」

 傀儡吸血姫が拳サイズの球体を千秋の近くに投げつけた。狙いが狂ったのかと思ったのだが、

「なにっ!?」

 床に接触した瞬間、まるで落雷したかのようにカッと閃光が放たれて千秋の視力が奪われる。これは閃光球らしく、このような小道具を使う敵は初めてだった。

「チッ、小賢しいマネを・・・!」

 敵の気配は近く千秋は刀を気配に向けて振るうが当たらない。それどころか殴りつけられて壁際へと倒れてしまった。

「終わりだな吸血姫」

「なあ、コイツ千祟真広に似ていないか?」

「そういえばそうだな。確か千祟千秋という娘と敵対しているらしいが・・・・・・」

「ならその千祟千秋じゃないのか?」

「かもしれない。だとしたら面白い獲物だな・・・よし捕らえよう」

 まだ視界がボヤける千秋は立ち上がろうとするが、平衡感覚すら乱れて膝を付くのが精一杯だった。そんな千秋の手足に傀儡吸血姫はワイヤーを括り付け、ワイヤーの先端に付いているアンカーを壁に突き刺す。これで千秋は壁へと大の字で磔にされる形となった。

「くっ・・・この程度!」

「動くな。首をへし折るぞ」

 首には鉄製のケーブルが巻き付けられてしまい、グッと引っ張られて千秋は苦し気な表情で呻く。

「私達のご主人様に忠誠を誓うなら許してやってもいいけどな?」

「今の私に誓えることがあるとすれば、そのご主人様とやらの首を撥ねてやることくらいかしらね」

「よくもほざく・・・まあいい、ご主人様が来るまで私達が相手してやるよ・・・覚悟しな」

「こんなことして、後で絶対に後悔させてやるわ。傀儡吸血姫の分際でこの私に・・・」

「黙れよ。お前は私達に負けたんだ」

 傀儡吸血姫は千秋の無防備な腹に拳を叩きこむ。
 拘束を解こうにも首を縛られているせいで下手に動くことができず、ただ暴行を受けるしかない。

「本来ならアンタ達なんか瞬殺なのよ・・・!」

「瞬殺できる相手に嬲られるのはどんな気分だ? 千祟家の吸血姫だからってチョーシにノッてんじゃねぇぞ」

 もう一発が下腹部にめり込んだ。千秋は痛みをこらえながらも強気な態度を崩さず睨みつける。

「泣き言一つ言わない根性は大したもんだな」

「バカにしないでくれるかしら。痛みで私を屈服させられると思わないで」

「タフさは認めてやる。じゃあ別の手段でいくとしよう」

 傀儡吸血姫は千秋の制服のボタンを外していき、その柔肌を露出させた。

「な、なにを・・・!?」

「ぐへへへ・・・ご主人様が捕まえた人間をこうやって弄んでいるのを見て、やってみたいと思っていたんだ」

 傀儡吸血姫達は薄気味悪い笑みを浮かべながら、懐から筆やハケを取り出す。そしてその毛先で千秋の身体を撫で上げた。

「ひゃっ!? ふ、ふざけているの・・・?」

「いやいや至ってマジメだよ。確かに痛みは頑張れば耐えることもできるだろうが、くすぐりに耐えられる者はそうはいない。オマエがよほどの不感症でない限りはな」

「くふっ・・・ふふふ・・・や、やめなさい!」

「感度は充分なようだな。ほらほらいつまで耐えられるかな?」

 腋やおへそといった部位までくすぐりのターゲットとなり、千秋は未知なる刺激に笑いを抑えきれない。このような屈辱的な状況に怒りを覚えながらも身体は反応してしまうのだ。

「もう観念したらどうだ?それとも続けて欲しいマゾなのか?」

「ち、違うわよ・・・くくく・・・アンタ達に服従なんて・・・はぁはぁ・・・死んでもしないだけよっ・・・・・・」

「強情なヤツだな。どうやらお客様は続行コースを選んだようだし、徹底的に嬲ってやるからな」

 責めは激しさを増していき千秋を縛るワイヤーの軋む音も強くなっていった。



 クローゼットに隠れている小春は、そんな千秋を隙間からただ見ていることしかできない。もし自分も吸血姫なら助けに行けるのだが、フェイバーブラッド持ちとはいえ非力な少女であることに変わりはないのだ。

「ち、千秋ちゃん・・・・・・」

 千秋が弄ばれている光景に小春の胸が苦しくなる。それは千秋の尊厳を貶めるような行為が行われていることへの怒りや悲しみもあるのだが、どちらかというとまるで寝取られているシーンを見せつけられている現状への不快感からくるものであった。小春にとっても千秋は真に大切な存在であり、その相手に自分以外が触れていることが許せず嫉妬心がどんどん増幅されている。

「でもなぜだろう・・・す、すごく卑猥だ・・・・・・」

 見たくないのに目が離せず、繰り広げられる予想外の出来事を注視してしまうのは小春の脳が壊れはじめているせいだろうか・・・・・・




 愛佳は千秋達の状況を知る由もなく傀儡吸血姫達と交戦していた。すでに数体を撃破し残るは三体だけとなっている。

「さあ終わりにしましょう」

「くそ・・・巫女とはいえ一人相手なら勝てると思ったのに!」

「甘く見られたものねぇ。傀儡吸血姫如きが巫女様に勝てるわけないでしょ!」

 刀を腰だめに構えて一気に敵との距離を詰める愛佳。迎撃するべく傀儡吸血姫がナタを振り下ろしてきたが、それを回避した愛佳の反撃が炸裂した。

「ば、ばかなっ・・・・・・」

 ナタを持った傀儡吸血姫は両断され赤い粒子となって散り、残る二体にロックオンする。

「お前達も同じように消し飛ばしてやる!」

「チィ・・・!」

 愛佳をワイヤーで絡めとって廊下に引きづり出した傀儡吸血姫が、もう一度ワイヤーを繰り出して足に引っかけようとした。
 しかし、

「もう見切ったわ、そんなの!」

 さっきは油断で引っかかってしまったが、警戒していた愛佳に同じ技は通用しない。ワイヤーを軽い跳躍で避けて敵の頭上から刀を振り下ろす。

「しまっ・・・・・・」

 これでまた一体を倒し、残った傀儡吸血姫と一対一の構図をなる。こうなれば巫女が圧倒的に有利であるのは覆しようがない。

「これで勝ったと思うなよ。我らがご主人様は健在だ。オマエなど容易に蹴散らせる力があるお方なのだ」

「あっそ。それは戦うのが楽しみね」

「調子に乗っていられるのも今のうちだ。あの加虐趣味なご主人様にたっぷりと痛めつけられて死ね!」

「残念だけどあたしは他人に好き勝手されて悦ぶようなM気質ではないわ」

「どうかな? ご主人様によって被虐趣味に目覚めるかも・・・」

 と言っている間に愛佳によって傀儡吸血姫は切り殺される。いい加減話を聞くのがダルくなったのだ。

「そんな変態ではないのよあたしは。ただでさえ変態な吸血姫が味方にいるんだから、あたしだけはマトモでいないといけないのよ」

 その変態吸血姫である朱音のことが気になり、先程の部屋に戻って割れた窓から外を見渡す。ここから落ちたはずだが建物の付近には朱音も傀儡吸血姫の姿もない。

「どこ行ったのかしら? まあどうせ無事でしょうけど」

 下の階に落ちた千秋と小春の姿も見えず、仕方なく愛佳は館の中を捜索することにした。傀儡吸血姫はご主人様がどうたらと言っていたし、この館を支配する過激派吸血姫もどこかにいるのだろう。
 そのターゲットとなる吸血姫を探そうと部屋を出ると、

「・・・タスケテ・・・・・・」

 か細く掠れるような声で誰かが助けを求めてきた。その声質が朱音に似ている気がして近くにいるのだろうかと周囲を見渡す。

「ん・・・? アレは・・・?」

 廊下の端、数人の傀儡吸血姫が上階に向かうのが見えたのだが、その傀儡吸血姫に担ぎ上げられているのは朱音で間違いなかった。ロープで全身を巻かれていて、その様子は生贄として捧げられる供物のようだ。

「捕まってんじゃないわよ、あのアホ」

 ため息をつきながらも、捕縛された朱音を助けないわけにもいかないので後を追うことにした。
 
   -続く-
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