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第17話 心休まる場所
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千祟真広率いる過激派吸血姫との戦いに勝利した千秋達。戦場となった義堂寺は静寂に包まれ、屋根の大部分が崩落した本堂は寂しい廃墟そのものと化している。
「皆、お疲れ様」
屋根から地上へと降りた千秋達を小春が手を振って迎える。戦闘中は蔵の中に隠れていたが、窓から様子は窺っていて此度の戦いがいかに激戦だったかは前線に立たなくたって分かった。だからこそ一人も欠けることなく生還できてホッと胸をなで下ろす。
「千秋ちゃん、大丈夫? 顔色が良くないようだけど」
小春の目も暗がりに慣れて千秋の体調の悪さにも気がつく。疲労困憊で歩幅も小さく、戦闘中のような活気ある様子とは真逆だ。
「ちーちは凶禍術を使って体が限界なんだ。そうだ、赤時さんが血を飲ませてあげれば回復するかも」
「なるほど。さあ千秋ちゃん、私の血を」
小春は髪を手でよけ、首筋を差し出す。
「ありがとう、小春。それじゃあ頂くわね・・・・・・」
ゆっくりとした動作で噛みつき血を吸い出す。疲れもあって普段よりも小春の血が美味しく感じ、今の千秋の気分は砂漠地帯でオアシスを見つけた旅人だ。
多めに血を飲んだことで千秋の体力は回復し始め、これならすぐにでも元通りになるだろう。これがフェイバーブラッドの効果の一つであり、小春が協力してくれる心強さを改めて実感していた。
「でもまさか真広さんが出てくるなんてなぁ。もしアタシと神木さんだけだったら死んでいたね」
「そうね・・・悔しいけど千祟千秋がいたからこそ勝てたんだとあたしも思う」
愛佳の本分は吸血姫狩りなのだが、吸血姫である千秋の手を借りなければ間違いなく瞬殺されていただろう。これはプライド的には許せないことだが理性は案外冷静で、共存派吸血姫との共闘は必要なことだと実感している。
「いえ、私だけでもどうしようもなかったし、ここにいる全員のおかげよ」
「あら謙虚ね」
「傲慢な真広と同じにしないでちょうだい。ちゃんと感謝するのが私なのよ。小春のことも匿ってくれたし、時間も稼いでもらって助かったわ」
「素直で謙虚で逆に気持ち悪い」
「えぇ・・・・・・」
またしても気持ち悪いと言われて千秋は少し悲しそうに眉を下げる。
「でも・・・勝ったとはいえ逃がしてしまったわ。ヤツらはまた現れるでしょうね」
「だろうね。でもちーちの怖さを知らしめることができたし、戦力をかなり削ることができたから少しは引っ込んでいてくれるだろうよ」
「だといいけれど、次会ったら必ず仕留める」
千祟真広を倒せば過激派勢力に打撃を与えることができるし、私怨からも絶対に殺さなければならない相手だ。
「さっき相田さんが言っていた凶禍術っての凄かったね。千秋ちゃんの髪が真っ赤になって、月明かりを反射して眩しかったよ」
「アタシも久しぶりに見たけどやっぱカッコイイよな。アレは千祟家に伝わる秘儀でアタシ達みたいな吸血姫には使えないんだ」
「それほど千祟家ってのはスゴイ血筋なんだね」
「そりゃあ吸血姫界隈では有名な家柄だしな。中でもちーちは純血のプリンセスって呼ばれていて畏怖の対象でもあるのさ」
「千秋ちゃん自体が恐れられるほどの吸血姫なんだ」
かつての真広が自分の真の後継者に千秋を指名したことにより、他の吸血姫から一目置かれる存在となったのだ。
「そんな千秋ちゃんの役に立てて嬉しいよ」
「ふふ、そんなかしこまらないで。さあ今日はもう帰りましょう。明日も学校だし」
肉体的にはフェイバーブラッドによって疲れも取れはじめていたが精神的な疲れまでは癒せない。殺意だけでなく、真広への様々な感情が千秋の中で渦巻いているのだ。
迎えに来た美広の車に乗り、千秋と小春は義堂寺の立つ棚山を後にした。ちなみに朱音と愛佳のことも送ると申し出たが遠慮して先に帰っている。
「・・・そう。お姉ちゃんが居たのね・・・・・・」
美広は千秋から今日の事を聞き、千秋と真広と戦った事実に心を痛めていた。千秋の決意は知るところであるが、できれば千秋が曇るような事態だけは起きて欲しくない。しかし過激派との戦いを・・・いや、どちらかが生きている限り激突する宿命からは逃れられないのだろう・・・・・・
「しかも凶禍術を使ったって・・・体は大丈夫なの?」
「一時は動けなくなったけれど、小春の血のおかげで今は問題ないわ」
「ならいいけど・・・戦いに送り出しておいて言えることではないけど、無理し過ぎないで」
千祟家の一人である美広も凶禍術を使うことはできる。しかし才能が無いためか長時間維持できないし扱いこなせない。その点千秋なら有効に使えるのだろうが、肉体への過剰な負荷がかかることに違いはない。
「もしお姉ちゃんの居る場所が分かったら、その時は私も呼んで」
「ママ・・・?」
「お姉ちゃんとは私が戦うわ。千秋ちゃんに嫌な役ばかり味わわせたくないもの」
「でも・・・・・・」
「一度くらい全力を出さないとね。確かに能力差はあるけど・・・やれるだけやってみる」
以前小春に姉と刺し違える覚悟があると話したことがある。それは今だって変わっていないし、むしろその覚悟は大きくなっていた。真広は千秋の心身を傷つける存在で美広にも許せない相手となっている。
千祟宅へと帰り軽くシャワーを浴びた小春は寝床に就こうとする。すると部屋の扉が開いて千秋がパジャマ姿で室内に入ってきた。
「あれ、どうかしたの?」
「その・・・夕方仮眠を取った時みたいに、また一緒に寝たいなって・・・・・・」
恥ずかしそうに千秋がもじもじとしながら呟く。戦いの前に一つの布団に二人で密着しながら仮眠を取ったのだが、また同じようにして就寝したいらしい。
「イヤだったかしら・・・?」
「ううん、そんなことないよ。ほらどうぞ」
小春は布団をめくり手で自分の隣へと誘う。一緒に寝るのは小春にとってイヤなことなどではない。
「あ、ありがとう」
拒否されなくて安心した千秋は小春のすぐ隣に横になり、ふぅっと一息ついた。
「温かい・・・小春の体温が伝わって来て心地良いわ」
「うふふふ・・・・・・」
「どうしたの?」
「いやあ千秋ちゃんって意外と甘えん坊で寂しがり屋さんなんだなって」
「そ、そんなこと・・・あるかもしれないわね」
きっと小春の温もりを知ってしまったからだろう。小春と会う以前の千秋はこんなではなかった。人と距離を取って生きてきたのに、今では少しでも多くの時間を共にしたいと願っている。
「それに逃げ場にしているのよ、私は」
「逃げ場?」
「小春と一緒ならマイナス思考にならずにいられる・・・辛いことを考えずにすむって・・・最低よね」
「そうかな? 私はそうは思わないけどな」
逃げ場にしてくれるほど千秋が自分を信頼してくれている証拠だと小春は捉えていた。
基本的に人間というものは他人に弱ったところを見せたくないもので、これは生物としての本能に起因する。例えば野生の動物などが弱れば狩られるのと同じで、他者につけいられる隙を与えることになるからだ。
「逃げたっていいじゃない。千秋ちゃんは特に重い因縁を背負っているようだし、一人で抱え込むのは体にも心にもよくないよ。私で助けになれるなら、喜んで受け入れるよ」
「どうしてそう優しいの? だから一層依存したくなるわ」
「してくれていいよ。千秋ちゃんなら」
この感情をどうしたものか千秋には分からない。小春に対する気持ちがますます昂っているが解放する方法を知らなかった。
「小春・・・ずっと傍に居て。私を見捨てないで」
「どっちかというと、見捨てられるのは私のほうじゃ?」
フェイバーブラッドの代わりが見つかれば自分はいらなくなるのではという不安が無いわけではない。
「私がそんなことするわけないでしょう?小春に代わりはいないし、こんなにも想っているのよ?」
「そっか。なら私達の将来は安泰だね」
未来を誓い合ったパートナーが別れる例はいくらでもあるが、千秋とは一生一緒にいるような気がした。
「そういえばさ、一つ気になったことがあるんだけど」
「何かしら?」
「純血のプリンセスって、どういう由来なの?」
「千祟家は吸血姫だけで繁栄してきた血筋なの。つまり人と交わったことのない吸血姫のサラブレッドとも言えるもので、偉大だった千祟真広の娘であったことから純血のプリンセスって」
「ふむふむ・・・ん?」
小春は何かに引っかかったようだ。
「吸血姫って女性だけの種族だよね?それでどうやって子孫を・・・?」
「気づいてしまったわね・・・・・・」
千秋は小春の耳元に顔を近づける。
「教えてあげるわ。吸血姫の繁殖の仕方をね」
「繁殖・・・?」
スッと動いた千秋の手が小春の服をめくり下腹部に指を這わせる。それがくすぐったくて身動きするが、直後にお腹の内側から不思議な感覚が広がり始めた。
「なに、これ・・・体が熱い・・・!」
「まずはこうやって対象者の子宮に術をかけるの。これで準備は完了よ」
「えっ・・・?」
「そして噛みつけば子宮に子が宿る。簡単でしょう?こうして女性同士でも子孫を残せるのが吸血姫なの」
とろけた目の小春の脳では千秋の話は半分くらいしか理解できていない。思考力そのものが低下しているのだ。
「どうする? このまま私が小春の首筋に歯を立てるだけでいいのよ?」
「だめぇ・・・まだ、そういうのは・・・・・・」
「ふふ、そうね。軽々しくすることではないわね」
千秋はもう一度小春の下腹部を撫で上げ術を取り消した。それでも体の熱は冷めず、小春はまるで自慰をしている時のような荒い息を吐いている。
「小春には吸血姫のことをもっと知ってもらいたいわ。勿論、私についても」
「う、うん・・・・・・」
「まあとりあえず今日は寝ましょう。小春も疲れたでしょう?」
疲れてはいるが、それ以上に千秋の術のせいで眠気など飛んでいってしまった。その責任をどう取ってもらうか考えつつ、いたずらっぽい笑みを浮かべる千秋の腕を抱き寄せた。
-続く-
「皆、お疲れ様」
屋根から地上へと降りた千秋達を小春が手を振って迎える。戦闘中は蔵の中に隠れていたが、窓から様子は窺っていて此度の戦いがいかに激戦だったかは前線に立たなくたって分かった。だからこそ一人も欠けることなく生還できてホッと胸をなで下ろす。
「千秋ちゃん、大丈夫? 顔色が良くないようだけど」
小春の目も暗がりに慣れて千秋の体調の悪さにも気がつく。疲労困憊で歩幅も小さく、戦闘中のような活気ある様子とは真逆だ。
「ちーちは凶禍術を使って体が限界なんだ。そうだ、赤時さんが血を飲ませてあげれば回復するかも」
「なるほど。さあ千秋ちゃん、私の血を」
小春は髪を手でよけ、首筋を差し出す。
「ありがとう、小春。それじゃあ頂くわね・・・・・・」
ゆっくりとした動作で噛みつき血を吸い出す。疲れもあって普段よりも小春の血が美味しく感じ、今の千秋の気分は砂漠地帯でオアシスを見つけた旅人だ。
多めに血を飲んだことで千秋の体力は回復し始め、これならすぐにでも元通りになるだろう。これがフェイバーブラッドの効果の一つであり、小春が協力してくれる心強さを改めて実感していた。
「でもまさか真広さんが出てくるなんてなぁ。もしアタシと神木さんだけだったら死んでいたね」
「そうね・・・悔しいけど千祟千秋がいたからこそ勝てたんだとあたしも思う」
愛佳の本分は吸血姫狩りなのだが、吸血姫である千秋の手を借りなければ間違いなく瞬殺されていただろう。これはプライド的には許せないことだが理性は案外冷静で、共存派吸血姫との共闘は必要なことだと実感している。
「いえ、私だけでもどうしようもなかったし、ここにいる全員のおかげよ」
「あら謙虚ね」
「傲慢な真広と同じにしないでちょうだい。ちゃんと感謝するのが私なのよ。小春のことも匿ってくれたし、時間も稼いでもらって助かったわ」
「素直で謙虚で逆に気持ち悪い」
「えぇ・・・・・・」
またしても気持ち悪いと言われて千秋は少し悲しそうに眉を下げる。
「でも・・・勝ったとはいえ逃がしてしまったわ。ヤツらはまた現れるでしょうね」
「だろうね。でもちーちの怖さを知らしめることができたし、戦力をかなり削ることができたから少しは引っ込んでいてくれるだろうよ」
「だといいけれど、次会ったら必ず仕留める」
千祟真広を倒せば過激派勢力に打撃を与えることができるし、私怨からも絶対に殺さなければならない相手だ。
「さっき相田さんが言っていた凶禍術っての凄かったね。千秋ちゃんの髪が真っ赤になって、月明かりを反射して眩しかったよ」
「アタシも久しぶりに見たけどやっぱカッコイイよな。アレは千祟家に伝わる秘儀でアタシ達みたいな吸血姫には使えないんだ」
「それほど千祟家ってのはスゴイ血筋なんだね」
「そりゃあ吸血姫界隈では有名な家柄だしな。中でもちーちは純血のプリンセスって呼ばれていて畏怖の対象でもあるのさ」
「千秋ちゃん自体が恐れられるほどの吸血姫なんだ」
かつての真広が自分の真の後継者に千秋を指名したことにより、他の吸血姫から一目置かれる存在となったのだ。
「そんな千秋ちゃんの役に立てて嬉しいよ」
「ふふ、そんなかしこまらないで。さあ今日はもう帰りましょう。明日も学校だし」
肉体的にはフェイバーブラッドによって疲れも取れはじめていたが精神的な疲れまでは癒せない。殺意だけでなく、真広への様々な感情が千秋の中で渦巻いているのだ。
迎えに来た美広の車に乗り、千秋と小春は義堂寺の立つ棚山を後にした。ちなみに朱音と愛佳のことも送ると申し出たが遠慮して先に帰っている。
「・・・そう。お姉ちゃんが居たのね・・・・・・」
美広は千秋から今日の事を聞き、千秋と真広と戦った事実に心を痛めていた。千秋の決意は知るところであるが、できれば千秋が曇るような事態だけは起きて欲しくない。しかし過激派との戦いを・・・いや、どちらかが生きている限り激突する宿命からは逃れられないのだろう・・・・・・
「しかも凶禍術を使ったって・・・体は大丈夫なの?」
「一時は動けなくなったけれど、小春の血のおかげで今は問題ないわ」
「ならいいけど・・・戦いに送り出しておいて言えることではないけど、無理し過ぎないで」
千祟家の一人である美広も凶禍術を使うことはできる。しかし才能が無いためか長時間維持できないし扱いこなせない。その点千秋なら有効に使えるのだろうが、肉体への過剰な負荷がかかることに違いはない。
「もしお姉ちゃんの居る場所が分かったら、その時は私も呼んで」
「ママ・・・?」
「お姉ちゃんとは私が戦うわ。千秋ちゃんに嫌な役ばかり味わわせたくないもの」
「でも・・・・・・」
「一度くらい全力を出さないとね。確かに能力差はあるけど・・・やれるだけやってみる」
以前小春に姉と刺し違える覚悟があると話したことがある。それは今だって変わっていないし、むしろその覚悟は大きくなっていた。真広は千秋の心身を傷つける存在で美広にも許せない相手となっている。
千祟宅へと帰り軽くシャワーを浴びた小春は寝床に就こうとする。すると部屋の扉が開いて千秋がパジャマ姿で室内に入ってきた。
「あれ、どうかしたの?」
「その・・・夕方仮眠を取った時みたいに、また一緒に寝たいなって・・・・・・」
恥ずかしそうに千秋がもじもじとしながら呟く。戦いの前に一つの布団に二人で密着しながら仮眠を取ったのだが、また同じようにして就寝したいらしい。
「イヤだったかしら・・・?」
「ううん、そんなことないよ。ほらどうぞ」
小春は布団をめくり手で自分の隣へと誘う。一緒に寝るのは小春にとってイヤなことなどではない。
「あ、ありがとう」
拒否されなくて安心した千秋は小春のすぐ隣に横になり、ふぅっと一息ついた。
「温かい・・・小春の体温が伝わって来て心地良いわ」
「うふふふ・・・・・・」
「どうしたの?」
「いやあ千秋ちゃんって意外と甘えん坊で寂しがり屋さんなんだなって」
「そ、そんなこと・・・あるかもしれないわね」
きっと小春の温もりを知ってしまったからだろう。小春と会う以前の千秋はこんなではなかった。人と距離を取って生きてきたのに、今では少しでも多くの時間を共にしたいと願っている。
「それに逃げ場にしているのよ、私は」
「逃げ場?」
「小春と一緒ならマイナス思考にならずにいられる・・・辛いことを考えずにすむって・・・最低よね」
「そうかな? 私はそうは思わないけどな」
逃げ場にしてくれるほど千秋が自分を信頼してくれている証拠だと小春は捉えていた。
基本的に人間というものは他人に弱ったところを見せたくないもので、これは生物としての本能に起因する。例えば野生の動物などが弱れば狩られるのと同じで、他者につけいられる隙を与えることになるからだ。
「逃げたっていいじゃない。千秋ちゃんは特に重い因縁を背負っているようだし、一人で抱え込むのは体にも心にもよくないよ。私で助けになれるなら、喜んで受け入れるよ」
「どうしてそう優しいの? だから一層依存したくなるわ」
「してくれていいよ。千秋ちゃんなら」
この感情をどうしたものか千秋には分からない。小春に対する気持ちがますます昂っているが解放する方法を知らなかった。
「小春・・・ずっと傍に居て。私を見捨てないで」
「どっちかというと、見捨てられるのは私のほうじゃ?」
フェイバーブラッドの代わりが見つかれば自分はいらなくなるのではという不安が無いわけではない。
「私がそんなことするわけないでしょう?小春に代わりはいないし、こんなにも想っているのよ?」
「そっか。なら私達の将来は安泰だね」
未来を誓い合ったパートナーが別れる例はいくらでもあるが、千秋とは一生一緒にいるような気がした。
「そういえばさ、一つ気になったことがあるんだけど」
「何かしら?」
「純血のプリンセスって、どういう由来なの?」
「千祟家は吸血姫だけで繁栄してきた血筋なの。つまり人と交わったことのない吸血姫のサラブレッドとも言えるもので、偉大だった千祟真広の娘であったことから純血のプリンセスって」
「ふむふむ・・・ん?」
小春は何かに引っかかったようだ。
「吸血姫って女性だけの種族だよね?それでどうやって子孫を・・・?」
「気づいてしまったわね・・・・・・」
千秋は小春の耳元に顔を近づける。
「教えてあげるわ。吸血姫の繁殖の仕方をね」
「繁殖・・・?」
スッと動いた千秋の手が小春の服をめくり下腹部に指を這わせる。それがくすぐったくて身動きするが、直後にお腹の内側から不思議な感覚が広がり始めた。
「なに、これ・・・体が熱い・・・!」
「まずはこうやって対象者の子宮に術をかけるの。これで準備は完了よ」
「えっ・・・?」
「そして噛みつけば子宮に子が宿る。簡単でしょう?こうして女性同士でも子孫を残せるのが吸血姫なの」
とろけた目の小春の脳では千秋の話は半分くらいしか理解できていない。思考力そのものが低下しているのだ。
「どうする? このまま私が小春の首筋に歯を立てるだけでいいのよ?」
「だめぇ・・・まだ、そういうのは・・・・・・」
「ふふ、そうね。軽々しくすることではないわね」
千秋はもう一度小春の下腹部を撫で上げ術を取り消した。それでも体の熱は冷めず、小春はまるで自慰をしている時のような荒い息を吐いている。
「小春には吸血姫のことをもっと知ってもらいたいわ。勿論、私についても」
「う、うん・・・・・・」
「まあとりあえず今日は寝ましょう。小春も疲れたでしょう?」
疲れてはいるが、それ以上に千秋の術のせいで眠気など飛んでいってしまった。その責任をどう取ってもらうか考えつつ、いたずらっぽい笑みを浮かべる千秋の腕を抱き寄せた。
-続く-
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