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第51話 落涙
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「ここは・・・?」
気を失っていたリリィがようやく目を覚まし、周囲の状況を確認する。彼女が横たえられているのは薄暗い洞窟の中のような場所で、まさに不気味としかいいようのない空間であった。
「気がついたか」
「フェアラト・・・!」
近づいてくる気配を察知して上体を起こそうとしたのだが、縛り付けられているように体が動かない。かろうじて動く目でフェアラトの姿を捉え、睨みつける。
「どうしてこんなことを?」
「全てはドラゴ・プライマス様のためだ」
「魔龍の長のため?」
「ソレイユクリスタルとヴォーロクリスタルのパワーで間もなくドラゴ・プライマス様は復活し、世界は作り替えられる。私はそのお手伝いがしたかったのだ」
無の表情から一切変化のないフェアラトの言葉を聞きながらリリィは反撃の機会をうかがっていたのだが、未だに体は動かなかった。どうも魔術によって自由を奪われているようだと直感して焦る。
「抵抗しようとしても無駄だ。私の魔法陣でお前の魔力を吸収しているから逃げることもできない」
以前戦ったクイーン・イービルゴーストが詩織を捕らえた時に使った手段だ。こうなれば他者の救助を受けなければ自力での脱出は不可能である。
「わたしをどうするつもり?」
「こちらの戦力として活用させてもらう。お前が敵となれば、あの勇者とて力を発揮できまい」
「アンタに屈して仲間になったりしない。さっさと殺しなさい」
「無理に言うことをきかせるまでだ」
フェアラトは禍禍しいオーラを放つダークオーブを取り出し、ゆっくりとリリィに近づく。
「な、なにを?」
「これをお前の体内に入れる」
「冗談でしょう!?」
「そう思うか?」
冗談なわけがない。国王を殺すことすら厭わない者が、その程度のことで躊躇うはずがない。
「このダークオーブを取り込んだらお前は私の命令通りにしか動けなくなる。だが安心しろ。ルーアルのこれまでの失敗作とは違い、人の姿は保てるだろう。そうでなければ勇者へのカウンターに使えないからな」
思い出されるのはラドロの風の首領であったイゴールだ。彼はルーアルによってダークオーブを埋め込まれてパワーアップしたのだが、異形の怪物へと変異してしまった。フェアラトの説明ではそうはならないらしいが、とはいえ恐怖しかない。
「卑怯者め!」
「卑怯者で結構。勝てばいいのだ、勝てばな」
フェアラトはしゃがんでリリィの腹部に手を伸ばし、衣服を引き裂いた。そして露わになった素肌にダークオーブを押し当てる。
「い、いやっ!!」
「黙っていろ」
「うっ・・・!」
口を手で塞がれ声を上げることすらできなくなったリリィは絶望で涙を流す。
「これでお前も魔族の仲間入りだ」
ダークオーブが半透明になり、少しずつリリィのお腹の中へ入っていく。その嫌悪感と苦痛でリリィの瞳から光が失われる。心の中で詩織の名前を呼ぶが、霞みゆく詩織のシルエットは応えてくれない。
それから間もなくリリィの体内に完全に吸収され、フェアラトの眷属とされてしまった。
「どんな気分だ?」
「サイアクよ・・・・・・」
「だろうな。まぁそのうち慣れるさ」
リリィを拘束していた魔法陣が解かれたものの、これで自由になったわけではない。リリィの思考能力はまだ完全には失われおらず、フェアラトへの敵意も残っていたのだが魔具を抜くこともできない状態なのだ。
「例えわたしを支配しても、シオリ達が必ずアンタ達の野望を打ち砕くわ。それまでの短い余生を楽しむことね」
「そんな生意気な口をきけるのも今のうちだ。お前の目の前で・・・いや、お前の手であの勇者を殺させてやる。大切な仲間を殺すお前の姿を見るのが楽しみだな」
「アンタってヤツは!犬畜生以下よ!!」
「なんとでも言えばいい。どうせお前はもう詰んでいる。どう足掻いても未来はないのだから」
立ち去るフェアラトを睨んでいたリリィだが、その後ろ姿が見えなくなった瞬間にへたり込んだ。溢れる涙を抑えることができず、頬を伝って地面へ落ちる。
「シオリ・・・・・・」
もう一度だけでもいいから詩織に会いたい。そして彼女の手でこの穢れた身を切り裂いてほしいと願い、ただ俯くことしかできなかった。
「この先にまでシオリリウムロッドの光は続いているのね?」
「はい」
城からかなりの距離を移動した詩織達の前に広がるは荒野だ。人間が立ち入ることを拒むような荒れ具合で、こんな所を住処にしているのは魔物くらいか。
「この先はデゼルトエリアと呼ばれていて、タイタニアで最も危険な地帯と言われている場所よ。サバイバルに特化した人間でなければ生還するのは難しいし、どんな魔物がいるかも把握しきれていないの。だからこそ魔女の隠れ家には丁度いいのかもしれないけれど」
険しい顔でアイラが解説する。第1王女のクリスと並んで勇猛な戦士である彼女がそう言うのだからよほど危険なエリアなのだろう。
「あまり広い場所でもないからここにキャンプを設営して拠点とし、探索を行いましょう」
アイラの指示を受け、クリスの部隊から派遣された適合者が素早い手際でキャンプを設営し医療セットの準備を行う。さすがに鍛えられた兵士は違うなと詩織は感心するが、それよりもリリィのことで頭が一杯だ。
「ここに医療班と護衛を残して我々は前進するわよ。ここから先は馬は使えないから徒歩でね」
アイラ以下約二十名の適合者が荒野を進んで行く。周囲を警戒しながらで神経をすり減らす仕事だが、慎重に行かなければ命取りになってしまう。
「アイラさん、敵が来そうです」
「分かるの?」
「殺気が凄く伝わってくるんです。魔物だとは思うんですけど、並みの魔物じゃなさそうです」
「シオリがそう言うなら敵が来ているのね。各員防御を固めなさい。大きな岩場の影には特に注意よ」
アイラも詩織の感覚は信用している。というより、現状では詩織の鋭敏な感覚に頼らざるを得ない。
「近くにいるような感じだけど・・・」
周りには魔物の姿はなく、空からも近づく影はない。そこで一つの可能性に辿りついた。
「地下から、地面から来るかもしれません!オーネスコルピオとかハクジャみたいに!」
「なるほど。そういう厄介な敵が居てもおかしくないわね」
そんな会話をしている瞬間であった。地面が少し揺れ、ゴゴゴという地響きも聞こえる。
「来るっ!」
ドバッと地面を割るように飛び出してきたのは巨大なサソリ型のオーネスコルピオだ。かつてペスカーラ地方で戦った敵であり、大きな被害を出した魔物である。
「随分歓迎されているようね」
オーネスコルピオは一体ではない。アイラの目に映るだけでも五体は存在している。
「手強い敵だ・・・・・・」
詩織の隣に寄って来たアイリアは額に流れる汗を拭ってオーネスコルピオを睨みつける。彼女の戦闘スタイルでは大型の魔物には不利で、的確に急所を狙う以外に有効打を叩きこむことは難しい。
「シオリ、私が敵の注意を引き付けるから、トドメを頼んだぞ」
「任せて!」
オーネスコルピオの一体に向かってアイリアが突撃し、そのアイリアに対して巨大な尻尾が振るわれた。先端の針に刺されれば即死は免れられないし、鎧すら溶かす猛毒付きなので当たるわけにはいかない。
「この程度でっ!」
素早い身のこなしで尻尾の一撃を回避し、関節部にナイフを直撃させる。ダメージは小さいが、尻尾の動きを阻害することはできた。
「今っ!」
その隙に詩織が接近し、聖剣で尻尾を斬りおとした。こうすればオーネスコルピオといえども脅威は半減する。あとは一対のハサミに捕まらないよう気を付けながら肉薄すれば勝てるだろう。
「終わりだよ!」
痛みで狂うオーネスコルピオの頭部を破壊し、沈黙させる。経験を積んで戦闘力の上がった詩織達ならば、オーネスコルピオ相手でも充分に対応できるようになっていた。
「アイラさん達は!?」
振り向くと、アイラと部下の猛攻で一体のオーネスコルピオが撃破されていた。残るは三体だ。
「いきますわよ!」
詩織達の活躍を傍目に捉えながらミリシャが魔弾を発射し、オーネスコルピオの腕を粉砕する。そしてその個体に接近したターシャと友軍の適合者の連携で胴が真っ二つになって絶命した。
「やはり鈍っていますね・・・こんなことではダメなのに・・・・・・」
上手く敵を倒せたが、ターシャの体は負傷による後遺症で万全ではない。継戦能力は低く、このまま前線に立ち続けることは難しい。
「こうなれば!」
魔法陣から杖を取り出して装備する。現役時代のターシャは近接戦をメインとしていたので射撃は上手くないのだが、こうなったら遠距離から支援するのが得策だろう。もっとも、魔力の精製力が落ちているのでミリシャのように何発も撃てるわけではないが。
「このまま押し込むわよ!」
敵の残存戦力は少なく、アイラも部下も負傷者はいない。それならばこのまま流れに乗ってオーネスコルピオを撃破し、勝機を掴むだけだ。
「時間はかけたくないものね・・・リリィのためにも!」
この場にいる適合者達はリリィの救出という目的のために士気が上がっている。そこから湧き出す勇気で強敵にすら恐れを抱かず挑みかかり、残った二体のオーネスコルピオも倒すことに成功した。
「やはり危険な場所ね、ここは。でもシオリリウムロッドの光に向かって進んで行くわよ」
彼女達は止まらない。リリィを見つけ、助け出すまで進み続ける。
「んっ?」
アイラに付いて行こうとした詩織は妙なプレッシャーを感じ、上空へ視線を移した。するとそこには黒い飛翔体が滞空しており、間違いなくそれが魔女フェアラトであると直感した。
「アイラさん、アレを!」
「フェアラトか!?」
詩織の指さす先を凝視し、その黒い飛翔体をアイラも発見する。
「やはり魔女の隠れ家はこのエリアの中にあるのね!ヤツを追うわよ!」
「ほう・・・もうここを嗅ぎつけたのか、勇者共は」
なにやら魔物の動きが騒々しいなと思ったフェアラトが偵察のために飛んだ先でオーネスコルピオを倒した詩織達を発見した。相手もどうやらフェアラトを見つけたようで、追いかけるように走ってくる。
「予定よりも早かったが・・・やることに変わりはない。戦力を集結させて叩き潰してやる」
配下の魔物をアジトへ集めて迎撃の準備を行うべくフェアラトは急いで帰還した。ルーアルから引き継いだ戦力があれば適合者などに負けるはずはない。それに、対勇者用として切り札のリリィも用意してある。
「ドラゴ・プライマス様の邪魔はさせん」
この攻防がのちの趨勢を決することは確かで、主たるドラゴ・プライマスの勝利のためにも失敗することは許されないのだ。
-続く-
気を失っていたリリィがようやく目を覚まし、周囲の状況を確認する。彼女が横たえられているのは薄暗い洞窟の中のような場所で、まさに不気味としかいいようのない空間であった。
「気がついたか」
「フェアラト・・・!」
近づいてくる気配を察知して上体を起こそうとしたのだが、縛り付けられているように体が動かない。かろうじて動く目でフェアラトの姿を捉え、睨みつける。
「どうしてこんなことを?」
「全てはドラゴ・プライマス様のためだ」
「魔龍の長のため?」
「ソレイユクリスタルとヴォーロクリスタルのパワーで間もなくドラゴ・プライマス様は復活し、世界は作り替えられる。私はそのお手伝いがしたかったのだ」
無の表情から一切変化のないフェアラトの言葉を聞きながらリリィは反撃の機会をうかがっていたのだが、未だに体は動かなかった。どうも魔術によって自由を奪われているようだと直感して焦る。
「抵抗しようとしても無駄だ。私の魔法陣でお前の魔力を吸収しているから逃げることもできない」
以前戦ったクイーン・イービルゴーストが詩織を捕らえた時に使った手段だ。こうなれば他者の救助を受けなければ自力での脱出は不可能である。
「わたしをどうするつもり?」
「こちらの戦力として活用させてもらう。お前が敵となれば、あの勇者とて力を発揮できまい」
「アンタに屈して仲間になったりしない。さっさと殺しなさい」
「無理に言うことをきかせるまでだ」
フェアラトは禍禍しいオーラを放つダークオーブを取り出し、ゆっくりとリリィに近づく。
「な、なにを?」
「これをお前の体内に入れる」
「冗談でしょう!?」
「そう思うか?」
冗談なわけがない。国王を殺すことすら厭わない者が、その程度のことで躊躇うはずがない。
「このダークオーブを取り込んだらお前は私の命令通りにしか動けなくなる。だが安心しろ。ルーアルのこれまでの失敗作とは違い、人の姿は保てるだろう。そうでなければ勇者へのカウンターに使えないからな」
思い出されるのはラドロの風の首領であったイゴールだ。彼はルーアルによってダークオーブを埋め込まれてパワーアップしたのだが、異形の怪物へと変異してしまった。フェアラトの説明ではそうはならないらしいが、とはいえ恐怖しかない。
「卑怯者め!」
「卑怯者で結構。勝てばいいのだ、勝てばな」
フェアラトはしゃがんでリリィの腹部に手を伸ばし、衣服を引き裂いた。そして露わになった素肌にダークオーブを押し当てる。
「い、いやっ!!」
「黙っていろ」
「うっ・・・!」
口を手で塞がれ声を上げることすらできなくなったリリィは絶望で涙を流す。
「これでお前も魔族の仲間入りだ」
ダークオーブが半透明になり、少しずつリリィのお腹の中へ入っていく。その嫌悪感と苦痛でリリィの瞳から光が失われる。心の中で詩織の名前を呼ぶが、霞みゆく詩織のシルエットは応えてくれない。
それから間もなくリリィの体内に完全に吸収され、フェアラトの眷属とされてしまった。
「どんな気分だ?」
「サイアクよ・・・・・・」
「だろうな。まぁそのうち慣れるさ」
リリィを拘束していた魔法陣が解かれたものの、これで自由になったわけではない。リリィの思考能力はまだ完全には失われおらず、フェアラトへの敵意も残っていたのだが魔具を抜くこともできない状態なのだ。
「例えわたしを支配しても、シオリ達が必ずアンタ達の野望を打ち砕くわ。それまでの短い余生を楽しむことね」
「そんな生意気な口をきけるのも今のうちだ。お前の目の前で・・・いや、お前の手であの勇者を殺させてやる。大切な仲間を殺すお前の姿を見るのが楽しみだな」
「アンタってヤツは!犬畜生以下よ!!」
「なんとでも言えばいい。どうせお前はもう詰んでいる。どう足掻いても未来はないのだから」
立ち去るフェアラトを睨んでいたリリィだが、その後ろ姿が見えなくなった瞬間にへたり込んだ。溢れる涙を抑えることができず、頬を伝って地面へ落ちる。
「シオリ・・・・・・」
もう一度だけでもいいから詩織に会いたい。そして彼女の手でこの穢れた身を切り裂いてほしいと願い、ただ俯くことしかできなかった。
「この先にまでシオリリウムロッドの光は続いているのね?」
「はい」
城からかなりの距離を移動した詩織達の前に広がるは荒野だ。人間が立ち入ることを拒むような荒れ具合で、こんな所を住処にしているのは魔物くらいか。
「この先はデゼルトエリアと呼ばれていて、タイタニアで最も危険な地帯と言われている場所よ。サバイバルに特化した人間でなければ生還するのは難しいし、どんな魔物がいるかも把握しきれていないの。だからこそ魔女の隠れ家には丁度いいのかもしれないけれど」
険しい顔でアイラが解説する。第1王女のクリスと並んで勇猛な戦士である彼女がそう言うのだからよほど危険なエリアなのだろう。
「あまり広い場所でもないからここにキャンプを設営して拠点とし、探索を行いましょう」
アイラの指示を受け、クリスの部隊から派遣された適合者が素早い手際でキャンプを設営し医療セットの準備を行う。さすがに鍛えられた兵士は違うなと詩織は感心するが、それよりもリリィのことで頭が一杯だ。
「ここに医療班と護衛を残して我々は前進するわよ。ここから先は馬は使えないから徒歩でね」
アイラ以下約二十名の適合者が荒野を進んで行く。周囲を警戒しながらで神経をすり減らす仕事だが、慎重に行かなければ命取りになってしまう。
「アイラさん、敵が来そうです」
「分かるの?」
「殺気が凄く伝わってくるんです。魔物だとは思うんですけど、並みの魔物じゃなさそうです」
「シオリがそう言うなら敵が来ているのね。各員防御を固めなさい。大きな岩場の影には特に注意よ」
アイラも詩織の感覚は信用している。というより、現状では詩織の鋭敏な感覚に頼らざるを得ない。
「近くにいるような感じだけど・・・」
周りには魔物の姿はなく、空からも近づく影はない。そこで一つの可能性に辿りついた。
「地下から、地面から来るかもしれません!オーネスコルピオとかハクジャみたいに!」
「なるほど。そういう厄介な敵が居てもおかしくないわね」
そんな会話をしている瞬間であった。地面が少し揺れ、ゴゴゴという地響きも聞こえる。
「来るっ!」
ドバッと地面を割るように飛び出してきたのは巨大なサソリ型のオーネスコルピオだ。かつてペスカーラ地方で戦った敵であり、大きな被害を出した魔物である。
「随分歓迎されているようね」
オーネスコルピオは一体ではない。アイラの目に映るだけでも五体は存在している。
「手強い敵だ・・・・・・」
詩織の隣に寄って来たアイリアは額に流れる汗を拭ってオーネスコルピオを睨みつける。彼女の戦闘スタイルでは大型の魔物には不利で、的確に急所を狙う以外に有効打を叩きこむことは難しい。
「シオリ、私が敵の注意を引き付けるから、トドメを頼んだぞ」
「任せて!」
オーネスコルピオの一体に向かってアイリアが突撃し、そのアイリアに対して巨大な尻尾が振るわれた。先端の針に刺されれば即死は免れられないし、鎧すら溶かす猛毒付きなので当たるわけにはいかない。
「この程度でっ!」
素早い身のこなしで尻尾の一撃を回避し、関節部にナイフを直撃させる。ダメージは小さいが、尻尾の動きを阻害することはできた。
「今っ!」
その隙に詩織が接近し、聖剣で尻尾を斬りおとした。こうすればオーネスコルピオといえども脅威は半減する。あとは一対のハサミに捕まらないよう気を付けながら肉薄すれば勝てるだろう。
「終わりだよ!」
痛みで狂うオーネスコルピオの頭部を破壊し、沈黙させる。経験を積んで戦闘力の上がった詩織達ならば、オーネスコルピオ相手でも充分に対応できるようになっていた。
「アイラさん達は!?」
振り向くと、アイラと部下の猛攻で一体のオーネスコルピオが撃破されていた。残るは三体だ。
「いきますわよ!」
詩織達の活躍を傍目に捉えながらミリシャが魔弾を発射し、オーネスコルピオの腕を粉砕する。そしてその個体に接近したターシャと友軍の適合者の連携で胴が真っ二つになって絶命した。
「やはり鈍っていますね・・・こんなことではダメなのに・・・・・・」
上手く敵を倒せたが、ターシャの体は負傷による後遺症で万全ではない。継戦能力は低く、このまま前線に立ち続けることは難しい。
「こうなれば!」
魔法陣から杖を取り出して装備する。現役時代のターシャは近接戦をメインとしていたので射撃は上手くないのだが、こうなったら遠距離から支援するのが得策だろう。もっとも、魔力の精製力が落ちているのでミリシャのように何発も撃てるわけではないが。
「このまま押し込むわよ!」
敵の残存戦力は少なく、アイラも部下も負傷者はいない。それならばこのまま流れに乗ってオーネスコルピオを撃破し、勝機を掴むだけだ。
「時間はかけたくないものね・・・リリィのためにも!」
この場にいる適合者達はリリィの救出という目的のために士気が上がっている。そこから湧き出す勇気で強敵にすら恐れを抱かず挑みかかり、残った二体のオーネスコルピオも倒すことに成功した。
「やはり危険な場所ね、ここは。でもシオリリウムロッドの光に向かって進んで行くわよ」
彼女達は止まらない。リリィを見つけ、助け出すまで進み続ける。
「んっ?」
アイラに付いて行こうとした詩織は妙なプレッシャーを感じ、上空へ視線を移した。するとそこには黒い飛翔体が滞空しており、間違いなくそれが魔女フェアラトであると直感した。
「アイラさん、アレを!」
「フェアラトか!?」
詩織の指さす先を凝視し、その黒い飛翔体をアイラも発見する。
「やはり魔女の隠れ家はこのエリアの中にあるのね!ヤツを追うわよ!」
「ほう・・・もうここを嗅ぎつけたのか、勇者共は」
なにやら魔物の動きが騒々しいなと思ったフェアラトが偵察のために飛んだ先でオーネスコルピオを倒した詩織達を発見した。相手もどうやらフェアラトを見つけたようで、追いかけるように走ってくる。
「予定よりも早かったが・・・やることに変わりはない。戦力を集結させて叩き潰してやる」
配下の魔物をアジトへ集めて迎撃の準備を行うべくフェアラトは急いで帰還した。ルーアルから引き継いだ戦力があれば適合者などに負けるはずはない。それに、対勇者用として切り札のリリィも用意してある。
「ドラゴ・プライマス様の邪魔はさせん」
この攻防がのちの趨勢を決することは確かで、主たるドラゴ・プライマスの勝利のためにも失敗することは許されないのだ。
-続く-
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