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第62話 激闘激突

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 魔道艦に潜入したマリカ達をアレクシアとワッドが迎え撃つ。まだ魔道艦による空爆は続いているので、ともかく早急にアレクシアを撃破しなければ被害は拡大し続けてしまう。

「マリカ・コノエ、アナタは私と共に来なさい」

「お断りします! こんな事をするヤツに協力なんてできない!」

「ふん…まあいいわ。他の人間とアンドロイドを殺してから話し合いましょう」

 アレクシアの号令を受けたワッドがアーム先端を動かし、レーザートーチを照射してくる。これは元々溶接用の熱線であるのだが、直撃すれば人だって当然に焼き切ることが可能だ。
 魔導士達は辛うじて回避し、散開してワッドに迫った。

「アレクシアさんはわたしにお任せを!」

 マリカ達がワッドと戦っているうちに、カティアは高機動ユニットを駆使してアレクシアに肉薄する。そのハイスピードに追従するのは並みの魔導士やアンドロイドには不可能で、素早い一撃をもってしてケリを付けようとしたのだが、

「メイドアンドロイド如きが私に勝てると思わないことね」

「ですが、わたしにはマリカ様に直してもらったオプションユニットがあります!」

「オプションユニットなら私にもあるのよ!」

 アレクシアの背中にもバックパックが取り付けられていて、起動させることで左右にスラスターが展開する。どうやらカティアの高機動ユニットに似ている物のようで、カティアの攻撃を飛翔して躱した。

「アンドロイドの祖である私を超えられるわけないわ!」

 そして左腕をカティアに向ける。
 よく見るとアレクシアの腕を重厚なアーマーが包み込んでおり、そのアーマーの袖口には四連装のガトリングガンが内蔵されていた。

「くっ…こんなオプションが!?」

 ガトリングは実弾ではなく魔弾を発射してきて、一発ごとの威力は低そうだが連射力が高い。そのため回避するのが精一杯で、カティアはスラスターを全開にしてスピードを用いて避けていく。

「けど逃げているだけでは…!」

 反撃のためカティアは杖を装備し、魔弾を撃ち放つ。精密な射撃などできないので牽制とした一撃だが、アレクシアを掠めて姿勢を崩した。

「直撃をかけます!」

 カティアは追撃の魔弾でトドメを刺そうとするも、

「ナメてもらっては困る!」

 邪魔をするカティアへの怒りを覚えたアレクシアはリミッターを解除し、大量の魔力をバックパックのスラスターに流して強引に退避した。
 外れた魔弾は格納庫の壁を破壊して大穴を開け、その穴の先にある通路は動力室へ繋がっているようだ。

「マリカ様、格納庫後方の壁に穴が開きました。あそこからなら動力室に直接向かうことができるはずです!」

「よし、強行突破してやるか!」

 ワッドは意外と手強く、複数人の魔導士を相手にして互角に渡り合っている。このままでは埒が明かないので、せっかく道が開けたのなら無理矢理に突破するのも手だ。

「そうはさせないわ!」

 しかしアレクシアとて敵を通すつもりはない。腕のガトリングで迎撃しつつ、ワッドを穴の付近に移動させてバリケードとした。
 更にはヴィムス数体が格納庫へ突入していきて、戦力差でもアレクシア側が優勢となってしまった。

「そうくるのなら…わたしがアレクシアさんを引きつけます!」

 カティアはワッドの攻撃をすり抜けて大穴をくぐり、一路動力室へと直進していく。当然ながらアレクシアは追いかけ、狙い通りにカティアは最も脅威的な相手をマリカ達から引き剥がすことに成功したのだ。

「カティアは無茶をして…!」

「マリカ! カティアちゃんを援護してやるんだ!」

「でもカナエ、ここの敵の数も多いのに……」

「へっ、このくらい大したことはねぇぜ! しかもカティアちゃんの行った先に動力室があるってんだから、ソイツをブッ壊してくれると助かるのさ」

 ヴィムスを蹴り飛ばしたカナエのウインクに後押しされ、マリカは頷くもワッドのアームが迫って邪魔されてしまう。
 そんな行く手を阻むワッドにエーデリアが接近し、サーベルでアームの一本を斬り落とした。

「行ってください、マリカさん!」

 マリカを見送ったエーデリアはワッドの反撃を防御するが、背後からヴィムスに迫られてしまった。

「くっ…!」

「させるかよ!」

 しかしエーデリアが傷付けられることはない。間に割って入ったカナエがナタでヴィムスの剣を弾き、殴り飛ばして距離を取ったからだ。

「ありがとうございます、カナエさん」

「ふっ、エーデリアには指一本も触れさせないさ!」

「本当にステキな方です、あなたは……さあ、マリカさんとカティアさんのためにも、ここの敵は一掃しなければ!」

「そうだなエーデリア。さっさと倒して二人の援護をしてやろうぜ!」

 狂気に憑りつかれたように襲い掛かってくるヴィムス達を撃破しなければ移動もままならない。マリカとカティアを助けるためにも、まずは目の前の機械軍へと立ち向かうのだった。




 
 カティアは通路を抜けて動力室へと侵入する。ここも格納庫並みの広さがあって、部屋の中には魔道推進機関などのザンドロワの運行に必要な大型装置がいくつも置かれている。これらを壊してしまえば王都への攻撃も阻止することができるはずで、カティアは杖を向けた。

「させないと言った!」

 だが猛スピードで追尾してきたアレクシアが剣を片手に突進し、その対処のためにカティアも剣を抜いて振り向く。
 二人は何度も鍔迫り合いになりながら近接戦を続けるが、カティアの斬撃を回避したアレクシアが距離を取って左腕のガトリングで魔弾を連射する。

「被弾した…!」

 その内の一発がカティアの右ふくらはぎに装着されたサブスラスターに着弾して真っ黒な煙が吹き上がり、機能を停止してしまった。
 背負ったバックパックだけでも充分な推力があるが、姿勢制御などにサブスラスターを使用するため旋回性能が落ちてしまい、カティアは少しふらつきながら物陰に隠れる。

「その程度で私を倒せると思わないことね!」

 勝気になったアレクシアは直接トドメを刺すべく、剣のグリップを強く握ってカティアの隠れた場所へとジャンプするが、

「なんとっ!?」

 捨て身で突っ込んできたカティアが剣を突き出し、アレクシアの左わき腹を刺したまま上昇していく。
 二人はもつれ合いながら天井へと激突した後、動力室の上部に設けられたメンテナンス用の橋へと落下した。この長く幅広な橋は、動力室の中央を横断するように架けられて、部屋全体を見渡せる仕組みとなっている。

「小賢しいマネをするわね……でもアナタが優勢になったわけではないわ」

 不愉快さで眉を歪めるアレクシアは剣を振りかざし、カティアを頭部から両断しようと力を籠めた。

「負けるわけには、いきません!」

 その攻撃を冷静に見極めたカティアはギリギリで刃を弾きつつ、強烈なタックルを繰り出す。
 衝撃でアレクシアは後ろに倒れ、バックパックのスラスターが潰れて使い物にならなくなってしまった。

「カティア! 大丈夫!?」

 そんな中、やっと追いついたマリカが二人の激闘を目の当たりにする。自分も参加するべく橋に飛び乗ろうとするが、

「ここはわたしが! マリカ様は魔道推進機関を破壊してください!」

「了解!」

 カティアの案を承諾し、以前に自分が直した魔道推進機関を探すマリカ。それさえ無力化すれば戦略的に勝利することができる。
 
「ティーナ様の考えを理解できないヤツらなどに!!」

 立ち上がったアレクシアは、激怒によって鬼のような形相でマリカを撃とうと狙いをつけた。魔道艦ザンドロワを失えばアレクシアの人類抹殺計画は頓挫してしまうわけで、それだけは阻止しなければならない。

「マリカ様はわたしはお守りします!」

「チィ…!」

 しかしカティアの動きの方が速かった。剣でアレクシアの左腕に装備されたガトリングガンを粉砕して射撃を食い止める。
 さすがに二人を同時に相手にするのは厳しく、メイド型よりも戦闘力が高いと自負しているアレクシアも焦りを隠せていない。

「これで終わりにします!」

 そのままの勢いでカティアは斬りかかるが、

「量産型のクセに調子に乗らないで!」

 アレクシアは破損してデッドウェイトになっていたバックパックをパージして身軽になり、カティアの懐に潜り込む。
 そして剣でカティアの胸元を刺し貫いた。鋭い刃は体だけでなく背後のバックパックをも貫通し、火花が散ってバックパックは機能不全に陥る。

「しまった…けど、まだっ…!」

 だがカティア自身は死んでいない。幸いにも彼女の心臓とも言える魔道エンジンは破損しておらず、アレクシアを蹴って距離を取った。

「カティア!」

 背後でカティアが負傷したのを直感で感じ取ったマリカは、魔道推進機関への攻撃の手を止めて思わず振り向きカティアの名を叫ぶ。

「終わりなのはアナタよ」

 ダメージを受けてふらついたカティアに対し勝利を確信したアレクシアは、予備として腰に装着しておいた杖を手に持って魔弾を発射した。魔力を充分に装填した一撃ではないので威力は高くないが、これでもアンドロイドを行動不能にするだけの威力はある。
 万全なカティアなら対応できたろうが、怪我によってバランサーに異常が発生したカティアに機動力は無い。そのため魔弾を視認して弾道予測をしながらも、回避行動が間に合わなかった。

「あうっ……」

 身をよじって無理矢理避けようとしたものの失敗し、左腕に直撃して肘から先が千切れ飛んでいく。腕を形成していたフレームとコード類が断絶面から飛び出し、まるでマリカと出会った時のような姿となってしまった。

「さようなら、メイドさん」

 そこに追撃の魔弾が迫る。カティアは右腕に握った剣で防御しようとするが力及ばず刀身は砕け、更には右目付近に被弾してしまい、人口皮膚が焼けてアンドロイド本来の機械的な目のセンサーと骨格が露出していた。しかも髪を結っていたシュシュのゴムが切れてしまい、魔弾の風圧に煽られヒラリと舞って橋の上に落ちる。
 二発の魔弾を受けたカティアは転ぶように倒れてしまった。
 
「マリカ、様……」

 ボロボロになったカティアは、ノイズの混じる視覚の中にシュシュの残骸を見つける。これはマリカに買ってもらった宝物であり、残った右腕を震えながら伸ばす。
 
「しぶといわね……」

 カティアの近くに来ていたアレクシアはヤレヤレとため息をつき、かろうじて稼働しているメイドアンドロイドの頭部を足で踏みつけた。
 バキッと金属のひしゃげる音がして首が折れ、右目のセンサーが砕ける。

 
 マリカは、時が止まったと思った。
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