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第61話 立ちはだかる機械軍

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 ザンドロワの内部にて、ヴィムスという人型の機械と交戦するカティアとシェリー。
 ここで倒れるわけにはいかないと懸命に反撃の糸口を見つけようとするも、殺戮特化の機械達は恐れ知らずの狂戦士のように猛攻を仕掛けてきて、防戦するので手一杯であった。

「ここは私にお任せを!」

 戦闘のペースは完全にヴィムス側が優勢となっていて、このままでは押し切られてしまうだろう。
 その前に決着を付けたいカティアは、背負った高機動パックのスラスターを吹かして戦場となっている通路の天井まで上昇し、敵の頭上から杖を用いた魔弾攻撃を敢行する。
 
「敵に隙ができた!」

 魔弾は直撃しなかったが、代わりに三体のヴィムスは一時的にカティアに注意を逸らしたのだ。これによってシェリーはノーマーク状態となり、攻め込むチャンスが生まれたのである。
 この好機を逃すシェリーではなく、捨て身の突進と共に剣を振りかざし、ヴィムスの一体を破壊した。更に近くの一体も胴体を両断して無力化に成功する。

「トドメです!」

 二人に挟まれた最後の一体はシェリーとカティアのどちらを優先して倒すべきかを思案して動きが鈍り、そこを突かれて魔弾によって粉砕された。

「勝てましたね。ありがとうございます、カティアさん」

「いえいえ。それより、一体何が起きているのですか?」

「分かりません…突如として先程のヴィムスとやらに襲われたのです」

 シェリーも現在起きている事象を理解しているわけではないようだ。
 となれば、やはりブリッジに急ぐしかなく、二人は通路を走って先に進む。

「シェリー様、向こうにまたヴィムスが! 誰かを襲っているようです」

「ならば助けなければ!」

 居住区画を通過している最中、物音が聞こえた先にヴィムスの姿を捉えた。どうやら何者かを襲っているらしく、その人物はヴィムスに蹴り飛ばされて床に倒れる。

「あれはアンヌお母様!?」

 ヴィムスに襲われているのはアンヌだ。実の娘のシェリーが見間違うわけもなく、すぐさま駆け付けてヴィムスの懐に斬り込んで胴体に刃を突き立てた。

「お母さま、ご無事ですか!?」

「シェリー…お前こそ無事だったんだな。私は平気だが、この状況はどうなって……」

 ディザストロ社の長であるアンヌすら把握していないらしく、困惑してよろけながら立ち上がる。

「それよりエーデリアが何処にいるか分かるか?」

「一緒ではなかったのですね?」

「私はあの娘を怒らせてしまってな…その後にカナエというエーデリアの友人に連れられて行ってしまったんだ」

「なんとなく察しました。お母様、自らを省みる時期が来ているのでしょうね? それも生き残れたらですが……」

 シェリーはアンヌとエーデリアのやり取りを聞いていたわけではないが、きっとアンヌが上から目線且つ自分の考えを押し付けようとしたと想像できる。そして、あまりな言い方にしびれを切らしたカナエが怒ってエーデリアを連れ出してしまったのだろうと。

「エーデリア様ならご無事です。マリカ様達と合流してコチラに向かっています」

「ですってお母様。なので安心して今はわたし達に任せてください」

 近くの部屋にアンヌを誘導して隠れているよう指示し、再びシェリーとカティアは移動を開始する。
 道中にはパーティ会場となっていたレクリエーションルームがあって誰かがいるかと覗くも、残っているのは惨殺された人間達の死体だけだった。

「女王陛下まで……」

「こうなれば、もう犯人はアレクシアさんしか考えられません。アンドロイドの彼女ならばヴィムスや魔道艦も的確にコントロールできるでしょうから……」

「あの方は王家補佐として長年仕えてきたのに何故……」

 シェリーの知るアレクシアは勤勉で王家からの信頼も厚く、初代ザンドロク女王らと共に国造りに携わった偉大なる人物である。そんな者がいかなる理由で反旗を翻したのか理解できなかった。
 女王の亡骸に軽く黙祷を捧げ、艦上部にあるブリッジへと足を踏み入れた。

「誰もいない…?」

 だがアレクシアは不在で、カティアはザンドロワの停止を試みるが操作することが出来ない。

「システムはアレクシアさんに掌握されてアクセスできません……」

「動かせないということですか? なら、ココの機械類を破壊しては?」

「いえ、アレクシアさんは艦の各部を遠隔操作しているので、これらを壊しても効果はありません」

「となればアレクシアさんを倒すしかないですね」

「もう一つ方法があります。動力室にある魔道推進機関を破壊するのですよ。そうすればザンドロワの推力は失われて墜落させることができます」

 落下させてしまえば魔道艦とはいえ損壊は免れられない。アレクシアの戦闘力は不明なままであり、ならば魔道推進機関を沈黙させる方が手っ取り早いと判断したのだ。
 
「そうと決まれば行動するのみですね!」

 次の目的が決まったが、しかしアレクシアやヴィムスの抵抗が予想される。間違いなく戦闘は避けられないが、これ以上の被害を食い止めるためにもシェリーとカティアに退避するという選択肢は無い。





 その頃、マリカ達もまた王都へ引き返して魔道艦への接近を試みていた。
 しかし激しい砲撃は続いていて、直接乗り込むのは容易ではなさそうだ。

「あたし達にもカティアちゃんのような空飛ぶ機械があればな…背の高い建物からでも飛び移るのは無理だな」

「こうなれば、わたくしのスキルで行くしかないでしょうね」

 エーデリアの特殊スキルであるエスパスシフトは空間転移を可能としている。これならば空に浮いている魔道艦へと転移することも問題なく、しかも手を繋げば複数人まとめて術の対象にできるのだ。

「先に行ったカティアのことも心配だし、お願いするよエーデリア」

「はい! では準備はよろしいですね?」

 マリカとカナエは頷き、エーデリアの手を握る。その直後、エスパスシフトが発動して三人の姿は魔道艦の上まで一瞬にして移動していた。

「よっしゃ、中に入ろうぜ」

 艦の側部に備え付けられた非常用の脱出扉を開き、カナエ達も魔道艦へと突入する。遮音性が高いのか砲撃音は聞こえず中は案外静かで、不気味なホラーハウスのような様相を呈していた。

「まずはカティアとの合流を急ごう。とはいっても居場所は分からないけど……」

「探していれば見つかるさ。それに、この異常事態を引き起こしたヤツも見つけないといけないし」

「だね。とりあえず進もう」

 マリカ達が扉から続く通路を走っていくと、その内に広い空間に出る。ここは兵器工場に隣接する格納庫のようで、野球ドームやサッカーフィールドにも匹敵するほどの広大さだ。
 しかし今はいくつかの用途不明な機械やらが置かれているだけで、ただ寂しい無機質な場所となっている。

「あ、あっちの扉が開いたぞ」

 カナエが指さす先、格納庫の扉の一つが開いた。そこから現れたのは二人組で、カティアとシェリーで間違いなく、マリカはひとまずホッとして手を振る。

「マリカ様!!」

 マリカ達に気がついたカティアも手を振って猪のように一直線に駆け寄り、勢いよく抱き着いた。この現状においてもカティアの感触は心地よく、多少はマリカの気も紛れる。

「良かった、無事で。ザンドロワの中で何か分かったことはある?」

「詳しい事はまだ…ですが、ザンドロワを停止させるために魔道推進機関を破壊するため、動力室へと向かっている最中だったのです」

「そっか…あの魔道推進機関を私が直してしまったから、こんなことに……」

「マリカ様が悪いのではありません。全ては悪用する者が悪いのです」

 兵器も道具も使い手次第で性質を変える。魔道艦とて善良な指導者が使っていれば民を守る盾と成り得たわけで、それを願ってマリカはアレクシアに協力したのだ。

「確かにマリカ・コノエは立派な役割を果たしたわ。アナタは何も悪くない」

 突如としてアレクシアの声が聞こえる。その声が発せられる方向を見ると、格納庫の奥からアレクシアがゆっくりとした足取りで近づいてきていた。表情は自信満々といった感じで、カティアのように何らかのオプションユニットを装備しているようだ。

「アレクシアさん! アナタがこんな事を…?」

「ええ、そうよ。女王共も私が殺したの。そして、マリカ・コノエ以外にも死んでもらうことにするわ」

 不敵な笑みを浮かべ、アレクシアは指をパチンと鳴らす。すると天井を突き破ってワッドがズシンと落下してきた。

「あの時の作業機械…!」

「使い方次第では人をも殺せるわ。カティアの言うようにね」

 咆哮のように唸りを上げたワッドは四本のアームを動かして威嚇し、アレクシアの前に出る。

 アレクシア率いる叛逆の機械軍との戦いが、今、始まろうとしていた。
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