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第57話 魔道戦艦ザンドロワ
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アレクシアからの招待を受けたマリカは、王都三番街へと足を踏み入れる。ここには日ノ本エレクトロニクス社の地下施設が埋没していて、エーデリアの母親が経営するディザストロ社が工事を請け負って発掘を進めていた。
そして、その作業がようやく完了し、ついに最下層まで辿り着くことができたのだ。
「ようこそ、マリカ・コノエ。待っていたわ」
「どうも、アレクシアさん。目的の魔道艦の場所まで掘り進んだんですね?」
「ええ。ターミナートルから回収した推進機関の設置も完了し、後は細かな修復を行えば航行可能となるわ」
地下への入口で出迎えたのはアレクシア本人で、マリカ達一行に付いてくるよう促す。
以前に訪れた時はディザストロ社の作業員達が忙しそうに動き回っていたが、今は厳重な警備体制が敷かれ、軍や騎士までもが配置されて物々しい雰囲気に包まれていた。
「この場所は、今や王都で最も重要なエリアとなっていますから、我ら王都騎士団からも人員を派遣するよう女王陛下からの勅命が下りました。国家の未来を揺るがす古代兵器が眠っているとなれば、出来得る限りの戦力を投じて守りたいのでしょう」
「女王陛下の肝いりのプロジェクトだとアレクシアさんに聞きました。確かに現代においては魔道艦という戦力は絶対的なものになって、ザンドロク王国の守護神にも成り得ますね」
「しかし、どのように運用するかという具体的な指針は明言されていません。ですから、わたしは少し不安もあるのです。騎士たる人間が仕えるべき女王陛下に疑心するのはご法度ですが、強すぎる力は正しく使わなければ毒にもなりますからね……」
「旧世界の人間は自分達の力を過信して滅亡しました。その歴史の繰り返しにならないことを祈りましょう」
技術が衰退した世界において魔道艦に対抗可能な戦力や装備は、ほとんど無いと言ってもいいだろう。その扱い方を誤れば国だけでなく、世界そのものを破壊し尽くしてしまう可能性だってあるわけで、全ては使用者のモラルや人徳に懸かっているのである。
グロット・スパイダーと戦ったフロアから更に下へと進み、暫くして最下層へと到着した。
「これが魔道艦…! マリカに話を聞いていたけど、予想してたよりデカいな!」
カナエは初めて見る魔道艦に目を輝かせ、値段を付けたらいくら程になるのかと考えながら全容を観察している。しかし旧世界ならともかく、現代では金を積んでも買える代物ではない。
「でもターミナートルよりは小さく感じますね」
造船ドックに置かれた魔道艦は漆黒の金属製ボディで形成されているが、その大きさは全長約七百メートルといったところだ。普通に考えれば充分に巨大ではあるも、荒野に放置されていたターミナートルに比べると少々小さく見えるなとマリカが呟く。
「あれは魔道艦でも最大級のものだもの。ここにあるのは最初から軍用として設計された艦で、空中における軍事拠点としての機能も付与されている。なので内部には兵器工場も備えているのよ。まあターミナートルの縮小版と考えれば早いわね」
魔道艦の各所には多数の砲塔が剥き出しで装備されて、小動物のハリネズミに似ている容姿だ。ターミナートルとは異なり明確に戦争向きの艦ということに納得でき、しかも兵器工場まで有るのだから友軍のサポートもできたのだろう。
「我らが女王陛下は国家名にあやかって”ザンドロワ”と命名されたわ」
「ザンドロクのザンドロワ……」
「では内部を案内するわよ」
国家の名前を流用するほど女王はザンドロワに期待を寄せているらしい。つまりはマリカの仕事に失敗は許されないという証でもあり、一層緊張した面持ちでザンドロワ内部の見学を行うのだった。
「マリカ・コノエには、まずブリッジ内の機器のリペアをお願いするわ」
艦上部に突き出ているブリッジは全体のコントロールを司る頭脳とも言える場所であり、ここを修復しなければマトモに運用することはできない。
ブリッジには艦長用のデスクの他、マリカが見たこともないような計器が並んでいる。
「はえ~……何に使うか全く分からない機械だらけだ」
「現代にコレらを理解する人間はいないわよ。だから私が扱うことになっているの」
機械という存在が稀薄になった今の世界では魔道艦を運用できる人材はおらず、アンドロイドのアレクシアくらいしか適任はいないだろう。カティアも一応は機器類について知ってはいるようだが、ちんぷんかんぷんな様子で見つめている。
「アレクシアさんは自分がアンドロイドであることを周知してないんですよね?」
「ええ。だから魔女だとか呼ばれているの。話したトコロで皆が理解できるとは思えないし、別にいいかなと考えている。マリカ・コノエのように受け入れてくれるとは限らないしね」
「自分と違う種族を嫌厭する人もいますからね」
「そういうこと。無駄に面倒事を背負い込むのは趣味ではないわ。というわけで、ここらの機械にリペアスキルを使ってちょうだい」
マリカは頷き、配線のちぎれた箇所にリペアスキルを行使する。そして見事に破損を直していき、アレクシアは満足そうに艦長席に座って眺めていた。
そんな中、ブリッジにキッチリとしたスーツに身を固めた集団が現れる。
「順調なようね、アレクシアさん。彼女がマリカ・コノエ?」
「そうよ。もうディザストロ社の出番は無いかもね」
「ご冗談を。我らディザストロ社は女王陛下から魔道艦運行の補佐を依頼されている。つまり、アナタの助けをするのが我々なのよ」
「ふん…業績の伸びが見込めて良かったわね、アンヌ・シュバルク・カイネハイン」
カイネハインという名に、マリカは思わず手を止めてソチラに目を向けた。それも当然で、ディザストロ社に所属するカイネハインと言えばエーデリアと関係が深い相手に違いないからだ。
「アンヌお母様……」
やはりマリカの直感通り、アンヌはエーデリアの母親であった。ディザストロ社の社長であり、幹部達を率いるアンヌは、中年でありながらも歳を感じさせない威圧感とスマートな立ち振る舞いで、いかにも敏腕であると感じさせる雰囲気がある。
この二人は仲が悪いようで、嫌気が差したエーデリアは家出をして王都からフリーデブルクに渡ったのだ。
「シェリーから話は聞いている。しかし、お前のワガママは青臭い若年層にありがちなものだ。少し大人になれば、自らの行いのバカさ加減を悔いる時がくる」
「そうやって一方的だから、わたくしは!」
「職務を放棄して自分勝手な行動をしたのは事実だろう? それだけでも愚かしいが、まあいい。後でお前から直接に話を聞いてやる。だが建国祭が近いことと、魔道艦のことで仕事が立て込んでいるのでな。今は頭を冷やし、理性的になったら場を設ける」
アンヌはそれだけを言うと、幹部達と共にブリッジを去って行った。まるで嵐が通過したかのような荒れ具合で、気まずい沈黙が流れる。
「やれやれ……人間関係とは厄介なものね。あれで血が繋がっているのでしょう?」
暇つぶしにマリカの作業を見学していたアレクシアは呆れたように呟く。アンドロイドの彼女には少し理解しがたい状況のようだ。
「血が繋がっているから難しいこともあるんですよ。人間ってのは、そういうものです」
「ふーん……色々と、しがらみがあるのね。生身の体を持つが故かしら……」
アレクシアは顎に手を当てて考え込み、落ち込むエーデリアを慰めるカナエとシェリーを観察している。彼女もまたカティアのように人間について学ぼうとしているのだろうか。
「相変わらずのお母様ですね…エーデリア、大丈夫ですか?」
「はい。今のわたくしには理解者がいますので」
エーデリアはカナエの手を握り、肩を寄せる。
自らを絶対正義と信じて疑わないアンヌと分かり合える気はしないが、カイネハイン家の中で生きるだけがエーデリアの人生ではない。既にエーデリアの気持ちとしては独り立ちを望んだから母親のもとを離れたわけで、話し合い次第では完全な決別をすることになるだろう。
「エーデリアにはカナエがいる。彼女にとって、それで充分だというのは誰の目に見ても分かるね」
「わたしもマリカ様さえいれば他に何もいりません!」
「ふふ、カティアならそう言ってくれると思った」
魔力が少なくなったマリカは腰を上げて立ち上がり、休憩がてらにカティアをよしよしと撫でてあげた。子犬のように喜びながら頭を差し出すカティアの愛らしさだけでもマリカは気力が回復していくのを感じる。
そんな彼女達を見るアレクシアはどこか複雑そうで、ふぅと一息をついてブリッジの外に広がる地下設備に視線を移す。
そして、その作業がようやく完了し、ついに最下層まで辿り着くことができたのだ。
「ようこそ、マリカ・コノエ。待っていたわ」
「どうも、アレクシアさん。目的の魔道艦の場所まで掘り進んだんですね?」
「ええ。ターミナートルから回収した推進機関の設置も完了し、後は細かな修復を行えば航行可能となるわ」
地下への入口で出迎えたのはアレクシア本人で、マリカ達一行に付いてくるよう促す。
以前に訪れた時はディザストロ社の作業員達が忙しそうに動き回っていたが、今は厳重な警備体制が敷かれ、軍や騎士までもが配置されて物々しい雰囲気に包まれていた。
「この場所は、今や王都で最も重要なエリアとなっていますから、我ら王都騎士団からも人員を派遣するよう女王陛下からの勅命が下りました。国家の未来を揺るがす古代兵器が眠っているとなれば、出来得る限りの戦力を投じて守りたいのでしょう」
「女王陛下の肝いりのプロジェクトだとアレクシアさんに聞きました。確かに現代においては魔道艦という戦力は絶対的なものになって、ザンドロク王国の守護神にも成り得ますね」
「しかし、どのように運用するかという具体的な指針は明言されていません。ですから、わたしは少し不安もあるのです。騎士たる人間が仕えるべき女王陛下に疑心するのはご法度ですが、強すぎる力は正しく使わなければ毒にもなりますからね……」
「旧世界の人間は自分達の力を過信して滅亡しました。その歴史の繰り返しにならないことを祈りましょう」
技術が衰退した世界において魔道艦に対抗可能な戦力や装備は、ほとんど無いと言ってもいいだろう。その扱い方を誤れば国だけでなく、世界そのものを破壊し尽くしてしまう可能性だってあるわけで、全ては使用者のモラルや人徳に懸かっているのである。
グロット・スパイダーと戦ったフロアから更に下へと進み、暫くして最下層へと到着した。
「これが魔道艦…! マリカに話を聞いていたけど、予想してたよりデカいな!」
カナエは初めて見る魔道艦に目を輝かせ、値段を付けたらいくら程になるのかと考えながら全容を観察している。しかし旧世界ならともかく、現代では金を積んでも買える代物ではない。
「でもターミナートルよりは小さく感じますね」
造船ドックに置かれた魔道艦は漆黒の金属製ボディで形成されているが、その大きさは全長約七百メートルといったところだ。普通に考えれば充分に巨大ではあるも、荒野に放置されていたターミナートルに比べると少々小さく見えるなとマリカが呟く。
「あれは魔道艦でも最大級のものだもの。ここにあるのは最初から軍用として設計された艦で、空中における軍事拠点としての機能も付与されている。なので内部には兵器工場も備えているのよ。まあターミナートルの縮小版と考えれば早いわね」
魔道艦の各所には多数の砲塔が剥き出しで装備されて、小動物のハリネズミに似ている容姿だ。ターミナートルとは異なり明確に戦争向きの艦ということに納得でき、しかも兵器工場まで有るのだから友軍のサポートもできたのだろう。
「我らが女王陛下は国家名にあやかって”ザンドロワ”と命名されたわ」
「ザンドロクのザンドロワ……」
「では内部を案内するわよ」
国家の名前を流用するほど女王はザンドロワに期待を寄せているらしい。つまりはマリカの仕事に失敗は許されないという証でもあり、一層緊張した面持ちでザンドロワ内部の見学を行うのだった。
「マリカ・コノエには、まずブリッジ内の機器のリペアをお願いするわ」
艦上部に突き出ているブリッジは全体のコントロールを司る頭脳とも言える場所であり、ここを修復しなければマトモに運用することはできない。
ブリッジには艦長用のデスクの他、マリカが見たこともないような計器が並んでいる。
「はえ~……何に使うか全く分からない機械だらけだ」
「現代にコレらを理解する人間はいないわよ。だから私が扱うことになっているの」
機械という存在が稀薄になった今の世界では魔道艦を運用できる人材はおらず、アンドロイドのアレクシアくらいしか適任はいないだろう。カティアも一応は機器類について知ってはいるようだが、ちんぷんかんぷんな様子で見つめている。
「アレクシアさんは自分がアンドロイドであることを周知してないんですよね?」
「ええ。だから魔女だとか呼ばれているの。話したトコロで皆が理解できるとは思えないし、別にいいかなと考えている。マリカ・コノエのように受け入れてくれるとは限らないしね」
「自分と違う種族を嫌厭する人もいますからね」
「そういうこと。無駄に面倒事を背負い込むのは趣味ではないわ。というわけで、ここらの機械にリペアスキルを使ってちょうだい」
マリカは頷き、配線のちぎれた箇所にリペアスキルを行使する。そして見事に破損を直していき、アレクシアは満足そうに艦長席に座って眺めていた。
そんな中、ブリッジにキッチリとしたスーツに身を固めた集団が現れる。
「順調なようね、アレクシアさん。彼女がマリカ・コノエ?」
「そうよ。もうディザストロ社の出番は無いかもね」
「ご冗談を。我らディザストロ社は女王陛下から魔道艦運行の補佐を依頼されている。つまり、アナタの助けをするのが我々なのよ」
「ふん…業績の伸びが見込めて良かったわね、アンヌ・シュバルク・カイネハイン」
カイネハインという名に、マリカは思わず手を止めてソチラに目を向けた。それも当然で、ディザストロ社に所属するカイネハインと言えばエーデリアと関係が深い相手に違いないからだ。
「アンヌお母様……」
やはりマリカの直感通り、アンヌはエーデリアの母親であった。ディザストロ社の社長であり、幹部達を率いるアンヌは、中年でありながらも歳を感じさせない威圧感とスマートな立ち振る舞いで、いかにも敏腕であると感じさせる雰囲気がある。
この二人は仲が悪いようで、嫌気が差したエーデリアは家出をして王都からフリーデブルクに渡ったのだ。
「シェリーから話は聞いている。しかし、お前のワガママは青臭い若年層にありがちなものだ。少し大人になれば、自らの行いのバカさ加減を悔いる時がくる」
「そうやって一方的だから、わたくしは!」
「職務を放棄して自分勝手な行動をしたのは事実だろう? それだけでも愚かしいが、まあいい。後でお前から直接に話を聞いてやる。だが建国祭が近いことと、魔道艦のことで仕事が立て込んでいるのでな。今は頭を冷やし、理性的になったら場を設ける」
アンヌはそれだけを言うと、幹部達と共にブリッジを去って行った。まるで嵐が通過したかのような荒れ具合で、気まずい沈黙が流れる。
「やれやれ……人間関係とは厄介なものね。あれで血が繋がっているのでしょう?」
暇つぶしにマリカの作業を見学していたアレクシアは呆れたように呟く。アンドロイドの彼女には少し理解しがたい状況のようだ。
「血が繋がっているから難しいこともあるんですよ。人間ってのは、そういうものです」
「ふーん……色々と、しがらみがあるのね。生身の体を持つが故かしら……」
アレクシアは顎に手を当てて考え込み、落ち込むエーデリアを慰めるカナエとシェリーを観察している。彼女もまたカティアのように人間について学ぼうとしているのだろうか。
「相変わらずのお母様ですね…エーデリア、大丈夫ですか?」
「はい。今のわたくしには理解者がいますので」
エーデリアはカナエの手を握り、肩を寄せる。
自らを絶対正義と信じて疑わないアンヌと分かり合える気はしないが、カイネハイン家の中で生きるだけがエーデリアの人生ではない。既にエーデリアの気持ちとしては独り立ちを望んだから母親のもとを離れたわけで、話し合い次第では完全な決別をすることになるだろう。
「エーデリアにはカナエがいる。彼女にとって、それで充分だというのは誰の目に見ても分かるね」
「わたしもマリカ様さえいれば他に何もいりません!」
「ふふ、カティアならそう言ってくれると思った」
魔力が少なくなったマリカは腰を上げて立ち上がり、休憩がてらにカティアをよしよしと撫でてあげた。子犬のように喜びながら頭を差し出すカティアの愛らしさだけでもマリカは気力が回復していくのを感じる。
そんな彼女達を見るアレクシアはどこか複雑そうで、ふぅと一息をついてブリッジの外に広がる地下設備に視線を移す。
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