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第53話 魔道推進機関
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ハンターバットの群れを殲滅したマリカ達は、一路機関室を目指していた。この巨大な魔道艦を動かしていた魔道推進機関とやらが眠っているらしく、それをアレクシアは欲しているのだ。
「周囲に魔物の気配は無いわね。これなら安全に進めそうよ」
「恐らくですが、あのハンターバットが根城として占拠していたために他種族は寄り付かなかったのでしょう。わたし達を襲ったように、侵入者は皆殺害されてしまうのですよ」
「多分そうでしょうね。基本的に生命体はテリトリー争いをして、その勝者だけが居住権を得る……いつの時代も変わらないわね」
アレクシアは達観したように呟き、階段を降りていく。どうやら彼女の進む先に目的地はあるようで足取りには迷いが無い。
魔結晶の光で浮かび上がる艦内の様子をマリカは社会科見学で訪れた学生のように観察して歩き、やがて厳重な隔壁によって閉ざされた区画を発見した。
「行き止まり?」
「いえ、ここが動力室よ。でもシャッターが降ろされているわね」
電力の生きていない現状では操作をして開くことはできない。となれば物理的に破壊するしかないだろう。
「仕方ないわね。格納庫に向かいましょう」
「格納庫、ですか?」
「大型の重機や乗り物があるはず。それを使って突破するのよ」
分厚い隔壁は魔導士の攻撃で破壊するのは難しく、アンドロイドであっても火力が足りない。タンクパックに付随する大型魔道キャノンならば数発の直撃で抉れるかもしれないが、今回の仕事では持ってきていなかった。
アレクシアの提案に乗ってマリカ達は格納庫へと移動する。ここには作業用の重機やらが保管されているようで、何かしら有用な機械があるかもと期待できる場所だ。
「案外、数は無いわね……でも使えそうな物があるわ」
格納庫の隅っこに置いてあった機械にアレクシアは目を付ける。
ソレは全高六メートル程の球体状であり、左右の両側に計四本の長いクローアームが取り付けられていた。いかにも作業機械という姿は無骨だが、マリカも興味を惹かれてアーム部分に触れてみる。
「これは船外活動用に作られた作業ポッドで、ワッドと呼ばれていたわ。魔道艦の修理など様々な用途で運用されていて、宇宙空間でも稼働できたのよ」
「宇宙でも?」
「しかも武装を装着することで軍事転用も可能だったの。汎用性の高さは評価されて量産されていたわね」
解説を訊きながらアームの付け根付近に視線を移すと、そこには日ノ本エレクトロニクス社のロゴが刻まれていた。マリカはやっぱりかと納得し、旧世界における日ノ本エレクトロニクスのシェアの高さに感心する。もはや機械類に関していえば世界を席巻していたと言えるレベルだったのだろう。
アレクシアはワッドの後方にあるハッチを開き、中を探ってため息をついた。
「残念だけど魔道エンジンが外されているわ。例え直しても動力が無ければ動かないわね……」
「魔道エンジン…それなら大丈夫ですよ、ホラ」
マリカは腰に巻いているウエストバッグから一つの球体を差し出す。以前倒したアンドロイド、トゥエルヴから回収した魔道エンジンで、カティアのための予備として持っていたのだ。
「あら、気が利くわね」
受け取ったアレクシアがワッドに組み込んでエンジンを起動させる。重低音と共に機体全体が振動して全身にエネルギーが回るが、経年劣化のためか機能不全に陥っており、すぐに停止してしまった。
「古くなっているから修理が必要ね。アナタのリペアスキルの出番よ」
「任せてください。でも大きい機械なので少し時間がかかります」
「待つわよ」
マリカはワッドに両手を当ててリペアスキルを発動し、長年の間放置されていた機械に癒しを与える。しかし全体的に劣化しているようなので瞬時にリペアというわけにはいかない。
カティアとアレクシアが見守る中、暫くしてマリカが手を離すとワッドは完全に稼働を始めた。上部にあるサーチライトが薄暗い格納庫内を照らして調子の良さをアピールしているように見える。
「さすがです、マリカ様!」
「えっへん! もっと褒めてくれていいよ」
誇るマリカは胸を張るが、ハンターバットとの戦いでの消耗も相まって体内の魔力は枯渇してしまっていた。そのため魔力が回復するまで肉体強化も解除されてしまう。
「助かったわ。後は私がやるわね」
ワッドの前面装甲を開くと人間用のコックピットがせり出す。簡素なシートにアレクシアが座り、手前のコンソールに指を滑らせて指示を入力すると装甲が閉じて搭乗が完了する。
直後、ワッドはフワッと浮いてホバリングしはじめる。車輪や無限軌道のような走行ではなく、各部に内蔵されたホバーユニットで浮くシステムとなっているのだ。
「作動には問題なし。いけるわ」
そのままホバークラフトで隔壁に辿り着き、四本あるアームの先端を変形させて銃の形をした工具を選択する。
「どうやって壁を破るつもりなんだろう?」
「あの銃のような工具はレーザートーチですね。金属板の溶接に使用しますが、出力を変更することで分厚い物体でも溶断できるのです」
「はえ~…物を切断できるのかぁ」
金属の溶接には高温と精密さが求められ、レーザートーチは瞬時に最高温度に達する上にピンポイントでの照射が可能な優れた工具である。しかもパワーを調節することにより切断にも使用ができ、特に魔道艦のような金属の塊と言える対象には有効的だ。
レーザートーチの照射を受けている部分は次第に溶けていき、遂には人間が通行できる穴を開けることに成功した。
「さあ、機関室に入りましょう」
ワッドから降りたアレクシアに続いてマリカ達も穴から機関室へと入って行く。内部にはエネルギーや電力を伝えるための動力パイプなどがいくつも存在し、まさに心臓部といった印象である。
「あったわ。これが魔道推進機関よ」
機関室の奥、そこには三台の長方形型の装置が置かれていた。ダンプカー並みの大きさがあって迫力があるこの装置によって魔道艦は飛べるらしい。
「私の計画では一台あれば充分。なので、全てを頂戴する必要は無いわ」
アレクシアが状態を確認すると魔道推進機関はいずれも故障していた。どっちみちリペアスキルは必須であるようだ。
だがマリカは立て続けの魔力消耗によって回復しなければならず、すぐにはリペアスキルを使える状態ではない。
「休息がいるということね…では今日はもう作業は中断しましょう。宿舎として利用されていた区画があるから、そこで休むといいわ」
艦中央部には寝泊りをするための宿舎区画が存在しているらしい。既に時刻は夕方に差し掛かっており、魔物が活発に活動をしている夜中は身を潜める場所が必要なので、どのみち使用せざるを得ないだろう。
外に停めておいた車を艦の保管庫へと移動させ、マリカは宿舎の部屋の一つで床に就く。元々置いてあった古びた寝具はカビ臭かったので、キャンプ用として車のトランクに仕舞ってある寝袋を引っ張り出してではあるが。
疲れもあってすぐに寝息を立て始めたマリカの傍にカティアが控え、アレクシアは談話室で見つけた古い書籍を机で読んでいる。とても平穏な光景であるが、いつ魔物が艦内に侵入して襲いくるか分からないので二人のアンドロイドは警戒を解いてはいない。
「今のところは近くに魔物などはいないようですね」
「警戒は怠らないで。また妙な魔物が急に襲ってくるとも限らないわ」
「そうですね…イザという時のために、わたしは戦闘準備は万全です」
カティアは高機動パックを外すことなく装着したままだ。これならスグにでも戦闘態勢を取ることができる。
「カティア、アナタは本当にその人間の事を気に入っているのね」
寝顔を見つめるカティアの目が、まるで恋人を見るような雰囲気を醸し出しているのをアレクシアは見逃さない。
「マリカ様はわたしの全てです。このお方のために稼働しているのですから」
「ふん…まあアナタの気持ちは分からないでもないわ。私もね、ティーナ様には同じように心酔していたものよ」
「ティーナ博士と面識があったのですね? わたしはアンドロイドの生みの親という事しか知りませんが……」
「私はティーナ様と共に過ごしていたのよ。そうね…アナタのようにご奉仕していたというのが正しいわね」
懐かしむようにアレクシアは記憶を回想しているようだ。彼女にとってのティーナとは、カティアにとってのマリカのように絶対的な存在だったのだろう。
「ティーナ様…あなたの遺志は私の中に根付いて消えてはいませんよ……」
瞼を閉じたアレクシアは、ティーナの女神のような顔を思い浮かべていた。もう二度と感じることの出来ない肌の熱を恋しく想い、もしアレクシアが人間ならば涙の一滴も出ていたことだろう。
「周囲に魔物の気配は無いわね。これなら安全に進めそうよ」
「恐らくですが、あのハンターバットが根城として占拠していたために他種族は寄り付かなかったのでしょう。わたし達を襲ったように、侵入者は皆殺害されてしまうのですよ」
「多分そうでしょうね。基本的に生命体はテリトリー争いをして、その勝者だけが居住権を得る……いつの時代も変わらないわね」
アレクシアは達観したように呟き、階段を降りていく。どうやら彼女の進む先に目的地はあるようで足取りには迷いが無い。
魔結晶の光で浮かび上がる艦内の様子をマリカは社会科見学で訪れた学生のように観察して歩き、やがて厳重な隔壁によって閉ざされた区画を発見した。
「行き止まり?」
「いえ、ここが動力室よ。でもシャッターが降ろされているわね」
電力の生きていない現状では操作をして開くことはできない。となれば物理的に破壊するしかないだろう。
「仕方ないわね。格納庫に向かいましょう」
「格納庫、ですか?」
「大型の重機や乗り物があるはず。それを使って突破するのよ」
分厚い隔壁は魔導士の攻撃で破壊するのは難しく、アンドロイドであっても火力が足りない。タンクパックに付随する大型魔道キャノンならば数発の直撃で抉れるかもしれないが、今回の仕事では持ってきていなかった。
アレクシアの提案に乗ってマリカ達は格納庫へと移動する。ここには作業用の重機やらが保管されているようで、何かしら有用な機械があるかもと期待できる場所だ。
「案外、数は無いわね……でも使えそうな物があるわ」
格納庫の隅っこに置いてあった機械にアレクシアは目を付ける。
ソレは全高六メートル程の球体状であり、左右の両側に計四本の長いクローアームが取り付けられていた。いかにも作業機械という姿は無骨だが、マリカも興味を惹かれてアーム部分に触れてみる。
「これは船外活動用に作られた作業ポッドで、ワッドと呼ばれていたわ。魔道艦の修理など様々な用途で運用されていて、宇宙空間でも稼働できたのよ」
「宇宙でも?」
「しかも武装を装着することで軍事転用も可能だったの。汎用性の高さは評価されて量産されていたわね」
解説を訊きながらアームの付け根付近に視線を移すと、そこには日ノ本エレクトロニクス社のロゴが刻まれていた。マリカはやっぱりかと納得し、旧世界における日ノ本エレクトロニクスのシェアの高さに感心する。もはや機械類に関していえば世界を席巻していたと言えるレベルだったのだろう。
アレクシアはワッドの後方にあるハッチを開き、中を探ってため息をついた。
「残念だけど魔道エンジンが外されているわ。例え直しても動力が無ければ動かないわね……」
「魔道エンジン…それなら大丈夫ですよ、ホラ」
マリカは腰に巻いているウエストバッグから一つの球体を差し出す。以前倒したアンドロイド、トゥエルヴから回収した魔道エンジンで、カティアのための予備として持っていたのだ。
「あら、気が利くわね」
受け取ったアレクシアがワッドに組み込んでエンジンを起動させる。重低音と共に機体全体が振動して全身にエネルギーが回るが、経年劣化のためか機能不全に陥っており、すぐに停止してしまった。
「古くなっているから修理が必要ね。アナタのリペアスキルの出番よ」
「任せてください。でも大きい機械なので少し時間がかかります」
「待つわよ」
マリカはワッドに両手を当ててリペアスキルを発動し、長年の間放置されていた機械に癒しを与える。しかし全体的に劣化しているようなので瞬時にリペアというわけにはいかない。
カティアとアレクシアが見守る中、暫くしてマリカが手を離すとワッドは完全に稼働を始めた。上部にあるサーチライトが薄暗い格納庫内を照らして調子の良さをアピールしているように見える。
「さすがです、マリカ様!」
「えっへん! もっと褒めてくれていいよ」
誇るマリカは胸を張るが、ハンターバットとの戦いでの消耗も相まって体内の魔力は枯渇してしまっていた。そのため魔力が回復するまで肉体強化も解除されてしまう。
「助かったわ。後は私がやるわね」
ワッドの前面装甲を開くと人間用のコックピットがせり出す。簡素なシートにアレクシアが座り、手前のコンソールに指を滑らせて指示を入力すると装甲が閉じて搭乗が完了する。
直後、ワッドはフワッと浮いてホバリングしはじめる。車輪や無限軌道のような走行ではなく、各部に内蔵されたホバーユニットで浮くシステムとなっているのだ。
「作動には問題なし。いけるわ」
そのままホバークラフトで隔壁に辿り着き、四本あるアームの先端を変形させて銃の形をした工具を選択する。
「どうやって壁を破るつもりなんだろう?」
「あの銃のような工具はレーザートーチですね。金属板の溶接に使用しますが、出力を変更することで分厚い物体でも溶断できるのです」
「はえ~…物を切断できるのかぁ」
金属の溶接には高温と精密さが求められ、レーザートーチは瞬時に最高温度に達する上にピンポイントでの照射が可能な優れた工具である。しかもパワーを調節することにより切断にも使用ができ、特に魔道艦のような金属の塊と言える対象には有効的だ。
レーザートーチの照射を受けている部分は次第に溶けていき、遂には人間が通行できる穴を開けることに成功した。
「さあ、機関室に入りましょう」
ワッドから降りたアレクシアに続いてマリカ達も穴から機関室へと入って行く。内部にはエネルギーや電力を伝えるための動力パイプなどがいくつも存在し、まさに心臓部といった印象である。
「あったわ。これが魔道推進機関よ」
機関室の奥、そこには三台の長方形型の装置が置かれていた。ダンプカー並みの大きさがあって迫力があるこの装置によって魔道艦は飛べるらしい。
「私の計画では一台あれば充分。なので、全てを頂戴する必要は無いわ」
アレクシアが状態を確認すると魔道推進機関はいずれも故障していた。どっちみちリペアスキルは必須であるようだ。
だがマリカは立て続けの魔力消耗によって回復しなければならず、すぐにはリペアスキルを使える状態ではない。
「休息がいるということね…では今日はもう作業は中断しましょう。宿舎として利用されていた区画があるから、そこで休むといいわ」
艦中央部には寝泊りをするための宿舎区画が存在しているらしい。既に時刻は夕方に差し掛かっており、魔物が活発に活動をしている夜中は身を潜める場所が必要なので、どのみち使用せざるを得ないだろう。
外に停めておいた車を艦の保管庫へと移動させ、マリカは宿舎の部屋の一つで床に就く。元々置いてあった古びた寝具はカビ臭かったので、キャンプ用として車のトランクに仕舞ってある寝袋を引っ張り出してではあるが。
疲れもあってすぐに寝息を立て始めたマリカの傍にカティアが控え、アレクシアは談話室で見つけた古い書籍を机で読んでいる。とても平穏な光景であるが、いつ魔物が艦内に侵入して襲いくるか分からないので二人のアンドロイドは警戒を解いてはいない。
「今のところは近くに魔物などはいないようですね」
「警戒は怠らないで。また妙な魔物が急に襲ってくるとも限らないわ」
「そうですね…イザという時のために、わたしは戦闘準備は万全です」
カティアは高機動パックを外すことなく装着したままだ。これならスグにでも戦闘態勢を取ることができる。
「カティア、アナタは本当にその人間の事を気に入っているのね」
寝顔を見つめるカティアの目が、まるで恋人を見るような雰囲気を醸し出しているのをアレクシアは見逃さない。
「マリカ様はわたしの全てです。このお方のために稼働しているのですから」
「ふん…まあアナタの気持ちは分からないでもないわ。私もね、ティーナ様には同じように心酔していたものよ」
「ティーナ博士と面識があったのですね? わたしはアンドロイドの生みの親という事しか知りませんが……」
「私はティーナ様と共に過ごしていたのよ。そうね…アナタのようにご奉仕していたというのが正しいわね」
懐かしむようにアレクシアは記憶を回想しているようだ。彼女にとってのティーナとは、カティアにとってのマリカのように絶対的な存在だったのだろう。
「ティーナ様…あなたの遺志は私の中に根付いて消えてはいませんよ……」
瞼を閉じたアレクシアは、ティーナの女神のような顔を思い浮かべていた。もう二度と感じることの出来ない肌の熱を恋しく想い、もしアレクシアが人間ならば涙の一滴も出ていたことだろう。
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