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第46話 マリカのセンチメンタル

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 カティア・キャノンによる高出力魔弾の一撃がトゥエルヴを撃ち貫いた。下半身は完全に粉砕され、残った上半身がグチャグチャになって地面に横たわっている。もはやモンストロ・ウェポンへの指揮さえ不可能なそのアンドロイドは脅威ではない。

「終わったのか……」

 敵の動きが止まっているとはいえ警戒しつつ、ゆっくりとトゥエルヴへと近寄る。千切れた体から飛び出しているコードや動力パイプがアンドロイドであることを主張していて、それがまるで出会った時のカティアに見えてセンチメンタルな気分にさせていた。

「まだ完全には停止していないようです。動力の魔道エンジンと思考回路の一部は稼働しています」

 キャノンパックを降ろしたカティアがトゥエルヴの額に手を当てて様子を確認する。これほどのダメージを受けても尚、まだ思考回路は生きていた。

「コロス…ニンゲン、コロス……」

「…自らの職務に忠実であろうとする姿は私と同じですね」

 トゥエルヴの役目とは人間を抹殺することにある。自らの負傷をものともせず、回路の大部分が焼き切れても目的だけは忘れていないらしい。

「ねぇ、カティア。トゥエルヴを修復したとしたら、無害なアンドロイドに戻るかな?」

「いえ、その可能性は無いと思われます……どうやらトゥエルヴはコンピュータウイルスなどによって汚染されていたというわけではなく、元からこのようにプログラムされていたのです。ですのでリペアスキルを使用しても殺人兵器から変わることはありません」

 トゥエルヴの突如とした人類への叛逆は最初から仕組まれていたもののようだ。もしこれが思考汚染によるものとしたらリペアスキルによって汚染を排除し、カティアのような人類に友好的なアンドロイドへと戻すこともできたであろう。
 しかし、その願いは叶いそうになかった。

「マリカ様、トゥエルヴの処理はわたしに任せて頂けませんでしょうか? 同じアンドロイドだからこそ構造を把握してますし、安全に停止させることが可能です」

 マリカの気持ちを慮ったカティアがそう申し出る。

「…任せるよ。頼んだ、カティア」

 人間の敵であるトゥエルヴに感傷的になっても仕方がないのだが、とはいえである。
 勝利はしたが何となく気分が晴れず、後処理をカティアに任せてマリカは野球フィールドから通路へと出た。

「トゥエルヴだって人が創り出して、ああいう風に設計されたのだから被害者だ……まったく、旧世界の人間は一体何をしているんだ!」

 どのような意図でトゥエルヴを殺戮マシーンとしたのかは知らないが、そのようにした者達への怒りが湧き上がる。アンドロイドをただの道具として、自らのエゴのために利用したからこそ今回のような事件へと発展したのだから。

「お疲れ、マリカ」

 いつの間にか付いてきていたカナエがマリカの肩に手を置いて労をねぎらう。

「私は何も…むしろリペアスキルの無力さを思い知ったよ」

「マリカが気にすることじゃない。スキルとて万能じゃないし、この世には直せないもの、直しちゃいけないものもあるってことだ。黙って見送って解放してあげるのも大切なんじゃないかな。それを見極めて機械や道具と関わっていくのも、リペアスキル持ちの役目だと思う」

「その通りだね。たまには真面目な事言うんだね?」

「おいおい”いつも”の間違いだろ?」

 ウインクするカナエに笑みを返し、マリカは深呼吸して気持ちを切り替える。今はただ、強敵を倒して危機から脱却できたことを喜ぶべきなのだろう。

「マリカ様、お待たせいたしました。トゥエルヴを停止して、魔道エンジンは回収しました」

 残って作業をしていたカティアが戻り、トゥエルヴから引き抜いた魔道エンジンをマリカに差し出した。この小型の球体こそがアンドロイドや魔道兵器の動力源で、そうした物を修復する際に利用できるので回収しておいて損は無い。
 
「皆さんお疲れ様です。無事に敵を倒すことができましたね。今回の戦闘については私からフリーデブルクの役所に伝えて特別手当の支給を致しますよ」

 エーデリアに連れられて避難したバタムも無傷で、二人とも上手くマザー級の魔弾から逃れることができていたようだ。

「わたしも王都に帰って一連のモンストロ・ウェポンの被害を報告し、物資支援などの要請を行います。トゥエルヴという司令塔を倒したとはいえ、街の被害は大きいですからね」

「えー帰っちゃうのぉ…寂しくなっちゃうな~」

「また会えますよ、アオナ。わたし達の心はいつだって一緒ですし」

「うっへっへ。恥ずかしいこと言っちゃって~!」

 イチャイチャとしている二人を微笑ましく眺めつつ、マリカはカティアを抱き寄せて自然とリペアスキルを発動させていた。無意識の行動であったが、それが愛情表現だとカティアには分かる。
 トゥエルヴ討伐隊は一応の索敵をしてからフリーデブルクへと帰っていくのであった。





 遠征は一日内の出来事であったが体感的には数日程経過しているように思え、マリカは自宅の扉を開いて一息つく。やはり見慣れた景色というものは人を安心させるもので、暫くは荒れ果てた荒野だの廃墟都市は見たくない。

「これでモンストロ・ウェポンが街を襲うことはなくなったね。魔物だとかは来るだろうけど、少しは平和になったわけだ」

「人類に貢献する素晴らしいお仕事を成し遂げましたね。さすがはマリカ様です」

「いや…私は何も。カティアや皆がいなかったら有り得ない勝利だったよ」
 
 むしろカティアこそが英雄だと言える活躍をしていた。魔導士だけの力では勝てたとしても更なる苦戦は必至だったし、多彩なオプションユニットを駆使したカティアがいたからこそトゥエルヴの存在を探知して打ち勝ったのである。

「ですが偵察ユニットを失ってしまいました…大部分を魔弾で消し飛ばされてしまったので修復も不可能です……」

 カティアは偵察ユニットの残骸を一応回収していた。しかし残っているのは僅かな部分のみであり、これではリペアスキルを使っても元には戻らない。

「カティアが無事ならそれでいい。オプションユニットには替えが効くけど、カティアの替えなんて絶対に存在しないのだから」

「ありがとうございます…ですが、今回の一件でアンドロイドが怖くなりませんでしたか? 違う個体とはいえ、トゥエルヴもわたしもアンドロイドという同じ括りの存在ですし……」

「それを言うなら同じ人間でも千差万別で、善人もいれば悪人もいる。種族が同じだから皆が同じというわけじゃなく、それぞれ個性があるんだ。つまりだね、トゥエルヴのようなアンドロイドがいたからといって、それでカティアを同一の危険な相手とは全く思わないってね」

 カティアのこれまでを見ていればトゥエルヴとは違うと分かる。彼女はマリカに尽くしてくれて、決して危害を加えようとしたことはないのだから。

「やはりマリカ様はお優しいですし、尊敬できるお方です」

「そう?」

「はい。トゥエルヴをも直そうとしていらっしゃいましたし……」

「私のセンチメンタルがそう考えさせたんだよ。あの時、トゥエルヴの姿がカティアに重なって見えて……だから直して正常な状態になればと思ったのだけど、そう簡単にはいかないな」

 脳裏にチラつくトゥエルヴに哀悼し、カナエの言葉を思い出していた。リペアスキルを行使する相手を間違えた場合、取返しのつかない事になってしまうのは充分に理解できたし、スキルの使用には重大な責任が伴うと改めて認識する。

「直してはいけないモノを見極める、か……私一人では難しいけど、カティアが一緒なら安心だ。今日のように事前に教えてもらうというズルができるもんね」

「わたしはマリカ様の所有物ですし、わたしを使うのはズルではありませんよ。メイドとして、お役に立てる事柄が増えるのは嬉しいですしね」

 メイドアンドロイドとしての能力をフル活用できたとカティアは胸を張る。

「もう私には欠かすことのできないパートナーだよ、カティアは」

 これからもアンドロイドや様々な機械と遭遇することがあるだろう。その時に本当にリペアしてよいのかを自分だけでなく旧世界に詳しいカティアのアドバイスを聞くことで判断すれば間違いはない。
 マリカは生まれついて与えられたリペアスキルに感謝し、ひとまず得ることのできた平和を実感してカティアに笑みを送るのであった。
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