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第39話 マッサージテクニック
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旧世界の魔道生物兵器モンストロ・ウェポン。永い時を超え、再び姿を現したソレは人類の脅威としてフリーデブルクを強襲した。
魔導士達の活躍によって辛くも撃退することには成功したものの、カティアは戦闘前に探知した電波も相まって安心はしていない。
「ふぅ……今日はマジで死にかけたから、家に生きて帰れることがこんなにも幸せなんだって実感できるよ」
「本当に、本当に良かったです。もしマリカ様がお亡くなりになってしまったら、どうしようかと……」
「カティアのおかげで命拾いしたよ。今回だけじゃなくて、カティアと出会ってから何回も危ないところを救われてる。感謝してもしきれないね」
「マリカ様のお役に立てているなら本望です。これからも、わたしの全てを懸けてマリカ様に尽くすことを誓います」
カティアは敬礼しつつ、笑顔でそう宣言する。
メイド型アンドロイドにとっては仕えるべき主が必要で、その相手に尽くすことが存在意義なのだ。しかしカティアはアンドロイドメイドとしての役目を超え、マリカに対して絶対的な忠誠心を持っている。これはカティアが人間的な思考回路を持つが故であり、自身の全てを捧げるべき主だと認識しているからだ。
「何かお食事をご用意いたしますか? それとも、もうお休みになられます?」
「そうだねぇ……緊張感が解けて疲れがきてるし、ご飯はいいや。ベッドで横になりたい」
「かしこまりました。お着換えを用意しますね。その服ではリラックスできないと思いますので……」
マリカは自分の体を見下ろし、身に纏っている衣服がボロボロになっていることに気が付いた。それもそのはずで、マザー級の触手に腹部を貫通された際、服も同時に破けていたのだ。血も飛び散って至る所に付着しており、この服を着て街をうろついていたら確実に不審者として見られてしまうだろう。
カティアから替えの服を受け取って着替え、血塗れた服はひとまず放置する。この汚れや破れはリペアスキルを使えば簡単に元に戻せるが、今はそんな気分ではなかった。
「マリカ様、マッサージはいかがでしょう? そういう知識と技能も持ち合わせております」
「なら頼もうかな。わざわざマッサージ店に行くのも億劫だし、カティアに任せられるならそれが一番だしね」
「これからは、わたしにお任せください……マリカ様のお体を他の誰にも触れさせたくはありませんし……」
「えっ、何か言った?」
「いえ、なんでもありません。ささっ、横になってください」
「あ、うん」
ベッドの上にうつ伏せとなり、カティアが柔らかな手つきで腰をほぐしていく。マリカは本格的なマッサージを受けたことは無いが、プロよりも上手いのではと思える腕前で、力加減が絶妙で極楽を感じる。
「この肌触り…あぁ、手が幸せです」
「そ、それは良かったね…?」
何故か嬉しそうにしているカティア。よほどマリカに触れられることが嬉しいらしく、その感触を味わうために手の感度を約三千倍まで引き上げているのはマリカには内緒だ。
「背筋が程良く鍛えられていて、脂肪の付き方も美しい・・・ですが汗の量が多く、ミネラル成分が通常時よりも含まれているので汗腺のろ過機能が上手く働いていないようです。恐らくは疲労が原因ですね」
「さすがアンドロイドの分析力。細かいことまで分かるんだ?」
「主様の体調を把握するのもメイドの役目ですので、こうした分析機能はメイド型に標準搭載されているのですよ。ですから、例えばマリカ様の生理周期も完全に把握してます」
「えぇ……」
そこまでは別に知らなくてもいいけれど、それがメイドとしての役目と言われればマリカも何も言えない。カティアはあくまで仕事の一環としてマリカの肉体の状況を把握している……のだろうが、カティア個人としての興味が含まれていないかと問われたら答えはNOだ。
「まあいいや……ところで話は変わるんだケド、モンストロ・ウェポンだっけ? アレと戦う前に妙な電波を感知して、その電波を送っていた相手に心当たりがあるって言ってたじゃん?」
「はい。わたしのデータベースに記録されている情報と照らし合わせての推測となりますが……」
「聞かせてほしいな。あのモンストロ・ウェポンの事についても」
度々フリーデブルクを襲撃してくるモンストロ・ウェポンについて知る事ができれば、何かしらの対策を練ることもできるだろう。少なくともマザー級の情報は魔導士の間で共有するべきだ。
「旧世界では様々な魔道兵器が開発されて、モンストロ・ウェポンはその一種なのです。コンセプトは魔物を模した魔道生物兵器……蛇の道は蛇、毒を以て毒を制すとでもいうものですね。人的損失を防ぐという点では機械式の魔道兵器と同じ発想ですが、機械よりも魔素や魔力への適応力が高いことが評価されていました」
「モンストロ・ウェポンも日ノ本エレクトロニクス社が?」
「いえ、魔道研究所という別の組織が開発したのです。モンストロ・ウェポンは新たな兵器として期待されていたのですが、大きく想定を超える事態が起こってしまいました」
その想定を超える事態とやらが、今回のように人類に対する脅威としてモンストロ・ウェポンが解き放たれる原因なのだろう。
「モンストロ・ウェポンは独自の思考力を持っておらず、指揮権を持った者からの指示を受けて行動します。そして、この指揮管制ユニットとして選ばれたのはアンドロイドでした」
「アンドロイドが?」
「人間よりも高度且つ、多面的に情報を捉えて分析することを可能とする高性能量子バイオコンピュータを搭載することにより、個々のモンストロ・ウェポンから送られてくる状況情報を処理して適切な指示を同時に行える特製のアンドロイドが開発されました。その個体はわたしのような量産品とは異なる設計を取り入れたワンオフ機体であり、わたしの知る限りは一体のみ存在します」
「へ、へ~」
はっきり言ってマリカはカティアの話の半分も理解していないが、要約するとモンストロ・ウェポンを制御するための凄いアンドロイドが作られたということらしい。
「問題は、このアンドロイドにありました。人類に反旗を翻し、モンストロ・ウェポンで人々を攻撃し始めたのです」
「なんでだろ? アンドロイドを強制停止とかできなかったの?」
「停止コードは書き換えられ、無効化されてしまったようです。そしてアンドロイドが暴走した理由は不明…思考制御に問題があったのか、そもそも設計ミスだったのか……」
「ふむ……ねえ、もしかして、そのアンドロイドはまだ稼働しているのかな?」
「防衛戦開始前にわたしが受信した電波…恐らくはモンストロ・ウェポンに命令を下す際に発せられたものでしょう。ということは、そのアンドロイドは何処かで生きていて、役目としてモンストロ・ウェポンの指揮を執っていると推測できます」
カティアの言う通りなら驚くべき事である。旧世界が滅亡してからどれほどの時間が経ったのかは分からないが、気も長くなるような時の中で稼働し続けているのだ。メンテナンスも無しに機械がそれほど動けるのだろうか。
「アンドロイドには自己修復機能があります。これによってある程度のメンテナンスや修理を単独で可能としていますが、そのアンドロイドは並みのアンドロイドよりも機能レベルが高かったのでしょう。元々壊れにくいのもそうですが、内部パーツなども自力でスペアと取り換えることができるのかもしれません。とはいっても完全な状態で稼働しているとは思えません……」
「リペアスキルを使える魔導士が味方になっているとか?」
「可能性はあります。ですが、そのアンドロイドが現存して人間を襲うよう指示しているというのは仮定にしか過ぎません…もっと判断材料があればいいのですが」
「けど最も有り得る話だと思うな。なんにしてもモンストロ・ウェポンを野放しにはできないし…明日、カティアの話をお姉ちゃんやエーデリアにも聞いてもらって、皆で考えてみようよ」
仮にカティアに言う事が真ならばフリーデブルク全体に関わる話になる。人類に敵対的なアンドロイドが魔道生物兵器を駆使して攻撃を仕掛けてきているのだから。
会話をしながらもカティアはマリカへのマッサージを器用に続けていて、うつ伏せのマリカに仰向けになるよう促した。
「背中は終わりました。次は前ですね」
「ま、前!? 前は恥ずかしいよ!」
「うふふ、今更恥ずかしがらなくても。入浴の際などに存分に見せてくださっているじゃありませんか」
「見るのと触るのとじゃあ違うじゃんさ!」
「…そんなにもお嫌ですか?」
首をブンブンと振るマリカに対し、カティアはしゅんと眉を下げる。もしカティアが犬なら耳と尻尾も垂れていたことだろう。
「す、すみません…調子に乗っておりました……」
「あ、いや…そうもショックを受けるとは思わなくて」
マリカも別に嫌というわけではなく、ただ恥ずかしさがあったために拒否してしまったのだ。
一呼吸置いて恥ずかしいという気持ちを鎮め、カティアの言う通りにベッドの上で仰向けとなる。
「よし…いつでもいいよ!」
「よ、宜しいので!?」
「魔導士に二言は無い! さあ、ホラ!」
マリカの誘いに乗り、意気揚々とマッサージを再開するカティア。
その後、情熱的なカティアのテクニカルな手つきによって骨抜きにされたマリカは、気絶するように意識が遠のいて眠りの中に堕ちていくのであった……
魔導士達の活躍によって辛くも撃退することには成功したものの、カティアは戦闘前に探知した電波も相まって安心はしていない。
「ふぅ……今日はマジで死にかけたから、家に生きて帰れることがこんなにも幸せなんだって実感できるよ」
「本当に、本当に良かったです。もしマリカ様がお亡くなりになってしまったら、どうしようかと……」
「カティアのおかげで命拾いしたよ。今回だけじゃなくて、カティアと出会ってから何回も危ないところを救われてる。感謝してもしきれないね」
「マリカ様のお役に立てているなら本望です。これからも、わたしの全てを懸けてマリカ様に尽くすことを誓います」
カティアは敬礼しつつ、笑顔でそう宣言する。
メイド型アンドロイドにとっては仕えるべき主が必要で、その相手に尽くすことが存在意義なのだ。しかしカティアはアンドロイドメイドとしての役目を超え、マリカに対して絶対的な忠誠心を持っている。これはカティアが人間的な思考回路を持つが故であり、自身の全てを捧げるべき主だと認識しているからだ。
「何かお食事をご用意いたしますか? それとも、もうお休みになられます?」
「そうだねぇ……緊張感が解けて疲れがきてるし、ご飯はいいや。ベッドで横になりたい」
「かしこまりました。お着換えを用意しますね。その服ではリラックスできないと思いますので……」
マリカは自分の体を見下ろし、身に纏っている衣服がボロボロになっていることに気が付いた。それもそのはずで、マザー級の触手に腹部を貫通された際、服も同時に破けていたのだ。血も飛び散って至る所に付着しており、この服を着て街をうろついていたら確実に不審者として見られてしまうだろう。
カティアから替えの服を受け取って着替え、血塗れた服はひとまず放置する。この汚れや破れはリペアスキルを使えば簡単に元に戻せるが、今はそんな気分ではなかった。
「マリカ様、マッサージはいかがでしょう? そういう知識と技能も持ち合わせております」
「なら頼もうかな。わざわざマッサージ店に行くのも億劫だし、カティアに任せられるならそれが一番だしね」
「これからは、わたしにお任せください……マリカ様のお体を他の誰にも触れさせたくはありませんし……」
「えっ、何か言った?」
「いえ、なんでもありません。ささっ、横になってください」
「あ、うん」
ベッドの上にうつ伏せとなり、カティアが柔らかな手つきで腰をほぐしていく。マリカは本格的なマッサージを受けたことは無いが、プロよりも上手いのではと思える腕前で、力加減が絶妙で極楽を感じる。
「この肌触り…あぁ、手が幸せです」
「そ、それは良かったね…?」
何故か嬉しそうにしているカティア。よほどマリカに触れられることが嬉しいらしく、その感触を味わうために手の感度を約三千倍まで引き上げているのはマリカには内緒だ。
「背筋が程良く鍛えられていて、脂肪の付き方も美しい・・・ですが汗の量が多く、ミネラル成分が通常時よりも含まれているので汗腺のろ過機能が上手く働いていないようです。恐らくは疲労が原因ですね」
「さすがアンドロイドの分析力。細かいことまで分かるんだ?」
「主様の体調を把握するのもメイドの役目ですので、こうした分析機能はメイド型に標準搭載されているのですよ。ですから、例えばマリカ様の生理周期も完全に把握してます」
「えぇ……」
そこまでは別に知らなくてもいいけれど、それがメイドとしての役目と言われればマリカも何も言えない。カティアはあくまで仕事の一環としてマリカの肉体の状況を把握している……のだろうが、カティア個人としての興味が含まれていないかと問われたら答えはNOだ。
「まあいいや……ところで話は変わるんだケド、モンストロ・ウェポンだっけ? アレと戦う前に妙な電波を感知して、その電波を送っていた相手に心当たりがあるって言ってたじゃん?」
「はい。わたしのデータベースに記録されている情報と照らし合わせての推測となりますが……」
「聞かせてほしいな。あのモンストロ・ウェポンの事についても」
度々フリーデブルクを襲撃してくるモンストロ・ウェポンについて知る事ができれば、何かしらの対策を練ることもできるだろう。少なくともマザー級の情報は魔導士の間で共有するべきだ。
「旧世界では様々な魔道兵器が開発されて、モンストロ・ウェポンはその一種なのです。コンセプトは魔物を模した魔道生物兵器……蛇の道は蛇、毒を以て毒を制すとでもいうものですね。人的損失を防ぐという点では機械式の魔道兵器と同じ発想ですが、機械よりも魔素や魔力への適応力が高いことが評価されていました」
「モンストロ・ウェポンも日ノ本エレクトロニクス社が?」
「いえ、魔道研究所という別の組織が開発したのです。モンストロ・ウェポンは新たな兵器として期待されていたのですが、大きく想定を超える事態が起こってしまいました」
その想定を超える事態とやらが、今回のように人類に対する脅威としてモンストロ・ウェポンが解き放たれる原因なのだろう。
「モンストロ・ウェポンは独自の思考力を持っておらず、指揮権を持った者からの指示を受けて行動します。そして、この指揮管制ユニットとして選ばれたのはアンドロイドでした」
「アンドロイドが?」
「人間よりも高度且つ、多面的に情報を捉えて分析することを可能とする高性能量子バイオコンピュータを搭載することにより、個々のモンストロ・ウェポンから送られてくる状況情報を処理して適切な指示を同時に行える特製のアンドロイドが開発されました。その個体はわたしのような量産品とは異なる設計を取り入れたワンオフ機体であり、わたしの知る限りは一体のみ存在します」
「へ、へ~」
はっきり言ってマリカはカティアの話の半分も理解していないが、要約するとモンストロ・ウェポンを制御するための凄いアンドロイドが作られたということらしい。
「問題は、このアンドロイドにありました。人類に反旗を翻し、モンストロ・ウェポンで人々を攻撃し始めたのです」
「なんでだろ? アンドロイドを強制停止とかできなかったの?」
「停止コードは書き換えられ、無効化されてしまったようです。そしてアンドロイドが暴走した理由は不明…思考制御に問題があったのか、そもそも設計ミスだったのか……」
「ふむ……ねえ、もしかして、そのアンドロイドはまだ稼働しているのかな?」
「防衛戦開始前にわたしが受信した電波…恐らくはモンストロ・ウェポンに命令を下す際に発せられたものでしょう。ということは、そのアンドロイドは何処かで生きていて、役目としてモンストロ・ウェポンの指揮を執っていると推測できます」
カティアの言う通りなら驚くべき事である。旧世界が滅亡してからどれほどの時間が経ったのかは分からないが、気も長くなるような時の中で稼働し続けているのだ。メンテナンスも無しに機械がそれほど動けるのだろうか。
「アンドロイドには自己修復機能があります。これによってある程度のメンテナンスや修理を単独で可能としていますが、そのアンドロイドは並みのアンドロイドよりも機能レベルが高かったのでしょう。元々壊れにくいのもそうですが、内部パーツなども自力でスペアと取り換えることができるのかもしれません。とはいっても完全な状態で稼働しているとは思えません……」
「リペアスキルを使える魔導士が味方になっているとか?」
「可能性はあります。ですが、そのアンドロイドが現存して人間を襲うよう指示しているというのは仮定にしか過ぎません…もっと判断材料があればいいのですが」
「けど最も有り得る話だと思うな。なんにしてもモンストロ・ウェポンを野放しにはできないし…明日、カティアの話をお姉ちゃんやエーデリアにも聞いてもらって、皆で考えてみようよ」
仮にカティアに言う事が真ならばフリーデブルク全体に関わる話になる。人類に敵対的なアンドロイドが魔道生物兵器を駆使して攻撃を仕掛けてきているのだから。
会話をしながらもカティアはマリカへのマッサージを器用に続けていて、うつ伏せのマリカに仰向けになるよう促した。
「背中は終わりました。次は前ですね」
「ま、前!? 前は恥ずかしいよ!」
「うふふ、今更恥ずかしがらなくても。入浴の際などに存分に見せてくださっているじゃありませんか」
「見るのと触るのとじゃあ違うじゃんさ!」
「…そんなにもお嫌ですか?」
首をブンブンと振るマリカに対し、カティアはしゅんと眉を下げる。もしカティアが犬なら耳と尻尾も垂れていたことだろう。
「す、すみません…調子に乗っておりました……」
「あ、いや…そうもショックを受けるとは思わなくて」
マリカも別に嫌というわけではなく、ただ恥ずかしさがあったために拒否してしまったのだ。
一呼吸置いて恥ずかしいという気持ちを鎮め、カティアの言う通りにベッドの上で仰向けとなる。
「よし…いつでもいいよ!」
「よ、宜しいので!?」
「魔導士に二言は無い! さあ、ホラ!」
マリカの誘いに乗り、意気揚々とマッサージを再開するカティア。
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