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第38話 決着、フリーデブルク防衛戦

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 アオナ達の救援に駆け付けたカティアはバックパックから両肩に伸びる大型魔道キャノンを放ち、マザー級に直接攻撃を試みる。魔力障壁に大穴を開けるだけの火力の魔弾が飛ぶが、しかしマザー級の分厚い外皮を多少抉るだけで致命傷を与えることはできなかった。

「このデカブツは化け物だな…カティアちゃんのあれだけの砲撃でも……」

 その様子を見ていたアオナは下唇を噛む。
 騎士であるシェリーの力を借りることができれば優位に戦闘を進めることもできたろうが、長時間戦闘を行っていたことで魔力を消耗して、言うならばガス欠状態に陥っていた。少し時間を稼げればある程度の魔力を精製することが可能であるも、その余裕すら作ることができそうにない。

「アオナ、わたしを背負ったままでは戦うのは困難では?」

「かといってシェリーを一人残してきたら、あのヒトモドキにタコ殴りにされちゃうよ。シェリーがドMなのは知っているけど、さすがに命取りになると思うな」

「し、失礼ですね! わたしは決してドMなどでは…!」

「尻を叩かれて悦ぶような人間が?」

「それはいいですから、目の前の敵に集中して!」

「へーい」

 軽口を叩きつつもアオナは冷静である。シェリーを背負っている分、アオナ自身の機動力は落ちているのだが、それでも的確にマザー級の胴体から生えた鋭利な触手攻撃を回避していく。

「この触手には特に注意です。マリカさんはこれに……」

「…なら、叩き潰す対象ってことだ」

 迫る触手をジャイアント・ホークで真っ向から切り裂き、無力化する。マリカは死角からの一撃で仕留められてしまったが、動体視力もカンもマリカの上をいくアオナの隙を突くなど容易ではない。王都騎士団に勧誘される実力はダテではないのだ。

「カティアちゃん、魔力はまだある?」

「はい。マリカ様をお運びしていた間に回復できたので問題ありません。ですが、この大型魔道キャノンは魔力消費量が多いので継戦可能時間は長くはないのです」

「強烈な一撃をもってして短期決戦に持ち込むしかない。なら一発も無駄にせず有効弾を叩きこんでいかないとな」

 ここでカティアが魔力切れを起こしてしまったら、それこそ決め手がなくなってしまう。アオナの攻撃も威力が高く、並みの魔導士では防御することすら不可能なレベルだが、規格外のマザー級を相手にするのは無理がある。
 
「まずはコイツを止めるために脚を狙おう。移動自体を阻止すれば街への侵入を防げる」

 マザー級はニワトリの卵を横倒しにしたようなカタチをしており、その胴体の左右には五本づつ脚が生えている。その脚は太く巨体を支えるに充分なものであり、これを破壊するにはカティアの力が必要だろう。

「敵の気はウチが引く。カティアちゃんは脚に魔弾を撃ってちょ」

「お任せ下さい!」

 アオナはマザー級の前方に身を晒し、その注意を引き付ける。

「アオナ、無茶ですよ!」

「心配ご無用。シェリーを背負ってんだもの、絶対にやられないよ」

 狙い通りにマザー級はアオナに向けて攻撃を集中させた。魔弾や触手の素早い攻撃が迫るも掠ることもなく対応していく。

「今なら!」

 アオナのおかげでフリーとなったカティアは脚部に近づいて魔弾を発射する。ドッと撃ち出された閃光が直撃し、脚の一本を砕くことに成功してマザー級の巨体が傾ぐ。

「もう一発! どーんと!」

 大型魔道キャノンの砲口が唸りを上げて発光、連続して放たれた魔弾も的確に脚を撃ち砕き、右半身から伸びる脚も残り二本となった。
 その不安定な状態でも踏ん張って耐えるマザー級の根性は大したものと言えるが、さすがに超重量を支えることが不可能となって地響きと共に地面に倒れ込む。残っていた右脚二本も折れ、もう立ち上がることはできないだろう。

「このままトドメを!」

 こうなれば後は本体を叩くだけだ。
 しかし、倒れたからといってマザー級が抵抗を止めたわけではなく、胴体から伸びる数本の触手を用いて決死の反撃に出た。

「当たるわけには!」

 回避に徹するカティアに触手だけでなくマザー級の魔弾が向かってくる。その熱量を肌で感じながらも直撃は免れることができたが、大型魔道キャノンの左砲塔を掠めて折れ曲がってしまった。

「しまった! マリカ様に修復して頂いた装備を壊してしまうなんて…!」

 攻撃力が半減してしまったことより、マリカに対する申し訳なさでカティアは胸を痛め、それと同時に敵に対する怒りが更に増していた。

「わたしのマリカ様を瀕死に追い込み、あまつさえは……絶対に、絶対に許しません!」

 もう我慢ならないとカティアはマザー級に突撃をかける。アオナも敵の近くにいることから、同時に強攻撃を行い一気にケリを付ける算段のようだ。

「アオナ様、敵を仕留めます!」

「よし、敵の装甲のような皮膚をウチが砕くから、そこに魔弾を撃って!」

「かしこまりです!」

 シェリーを背負ったまま跳躍したアオナは、力任せに魔力を籠めたジャイアント・ホークを振り下ろした。衝撃波すら発する強烈な一撃はマザー級の胴体に大きな傷をつけ、分厚い皮膚を裂いた。

「これで終わりです!」

 右肩の上に伸びる残った一門の大型魔道キャノンでトドメの魔弾を放つ。アオナからのダメージで負傷した箇所に着弾して爆光を吹き上げ、胴体を真っ二つに分断されて遂に絶命した。

「やりましたね、アオナ様!」

「これで一安心…って、アレは!?」
 
 マザー級は撃破できたのだが、一息つくには早かったらしい。何故なら分断された下腹部から十数体のヒトモドキとも呼称されるモンストロ・ウェポンが湧き出てきたからだ。

「体内で精製したモンストロ・ウェポン達…これがマザー級たる由縁…!」

 それらヒトモドキとマリカ達が呼ぶモンストロ・ウェポンは、親の仇を言わんばかりにカティアとアオナに向かって突撃してくる。二人はマザー級との戦闘で消耗していたこともあり、この状態で十数体を相手にするのは困難だ。

「ここはわたしが!」

「シェリー!? でも魔力が……」

「背負われている間に回復できました。大技の一発くらいならいけます!」

 アオナの背中から飛び出したシェリーは煌びやかな装飾の施された剣を握りしめ、ヒトモドキ達の前に一人立ち塞がる。

「燃え盛れ、オーバーフレイム!」

 シェリーの叫びと共に剣が火炎を纏う。そして腰だめに構え、横薙ぎに素早く振り抜いた。 
 灼熱の炎が旋風のように吹き荒れ、ヒトモドキ達を包み込む。この業火に耐えるには、それこそ魔力障壁による防御が必要であろうが、モンストロ・ウェポンと言ってもマザー級と異なりヒトモドキでは魔力障壁は展開できない。空気をも焼き尽くすオーバーフレイムの前に次々とヒトモドキは灰と化して、体が崩壊して塵と消えていった。

「この周囲の敵戦力は壊滅したようですね」

 街の北側エリアに出現した最大の敵が排除されたことにより、周りには静けさが戻った。後は西側と東側に襲来したモンストロ・ウェポンを撃退できれば戦いは終わる。

「わたしはマリカ様のもとに一度戻りますね」

「分かった。ウチはこのエリアでの怪我人を治療してから戻るよ」

 アオナの特殊スキルであるハイレンヒールは、魔導士限定ではあるが重症であっても治療することができるのだ。一連の戦いによって負傷者は出ているだろうし、今こそアオナの出番である。

「マリカ様、今戻りますね」

 索敵をして敵影が無いことを確認しつつ、カティアはマリカの待つ西門へと加速していくのだった。





「カティア、お帰り!」

 西門をくぐりキョロキョロと周りをカティアが見渡すと、先にこちらに気が付いたマリカが手を振りながら近づいてきた。その足取りにフラつきなどはなく、もう体は完全に復活したようだ。

「ただいま戻りました! アオナ様達と共にマザー級モンストロ・ウェポンを撃破して、街の北側エリアから敵を掃討することに成功しました」

「マジか、スゴいじゃん。街の平和に貢献したね」

「えへへへ。あっ、でも……大型魔道キャノンを損傷してしまいました」

 カティアは申し訳なさそうにバックパックの左砲塔を指さす。ひしゃげた砲身は激闘を物語っていて、マリカはそれを見ながらカティアが負傷しなかったことに安堵している。リペアスキルならカティアを治すこともできるが、彼女がダメージを負ってボロボロになっている姿は見たくないのだ。

「カティアが無事ならいいんだよ。これくらい簡単に修復できるからね」

 背中から外されて地面に置かれた大型魔道キャノンに手を当て、マリカお得意のリペアスキルを発動する。青白い燐光が全体を包み込んで、砲身も元通りになって新品のように光沢を放つ。

「西側エリアと東側エリアの戦闘も勝ったようだよ。被害も出ているけど、カティアの言うモンストロ・ウェポンを撃退できたって」

「ひとまずは良かったですね。しかし……」

 カティアやアオナがマザー級を撃破した裏で、他のエリアで戦っていた魔導士達も敵に勝利しフリーデブルクは危機を脱することができた。
 だがカティアは何か引っかかるものがあるらしく素直には喜べていない。フリーデブルク襲撃に端を発したモンストロ・ウェポンの脅威は、まだ完全には去ってはいないようだ。
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