Legend Girl!

広瀬あかり

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第六十三闘:頂点の景色

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ステージに倒れたままピクリとも動かない荒木。
各陣営、大勢の観客たちもまたあまりの惨状に誰一人として言葉を発せずにいた。
まるで時が止まったかのように静寂に包まれる・・・。

「ま・・・待ってくださいよ雅也さん冗談でしょう?」
「荒木さんがワンパンされた・・・・?それも・・・女に・・・?」
「立ってくださいよ!あんたはこんなところで倒れるような人じゃないだろ!?」

先に静寂を破ったのは状況を理解することが出来ない二代目陣営の方であった。
しかし、当然誰の呼びかけにも荒木は応じることが出来ない。

それをしり目にまるで何事もなかったようにステージを下りる陽菜。
その右手からは荒木の血がポタポタと滴り落ちている。

ステージ周辺は観客と各陣営で多くの人でごった返す中、
陽菜が進む道は何故か自然と人々が避け、一本の道が出来ていた。
納得は出来ずとも、誰もが陽菜の力を認めた瞬間であった・・・。

その後、時間が経つにつれ二代目陣営ははっきりと敗北を理解し投降。
荒木は倒れたまま千紘に担がれ、その場を後にした・・・。

「大丈夫ですか!?」

陽菜の向かった先は柊のところであった。
辺りには血の付いたティッシュやタオルが散乱している。

「陽菜ちゃん・・・荒木はどうした・・・?」

少し疲れ切った表情の柊が座っている。
どうやら何とか血は止まったようだ。

「あの人は私が倒しました!もう大丈夫ですよ!!」

「まさかあの荒木さえも倒してしまうとは・・・恐ろしく強いな君は・・・。
 でもよかった、陽菜ちゃんも怪我はなさそうだ・・・。
 でも何はともあれこれでしっかり君の、宮澤陽菜の力は証明できた・・・。
 あの荒木をを倒すほどの力を証明したとなればもう誰も文句は言うまい。
 君はもう、立派なうちの四代目だ・・・。おめでとう・・・。
 さぁ、行きなさい・・・。あっちで三代目が君を探していた・・・!」

「で、でも・・・柊さん大丈夫なんですか!?お怪我が・・・!」

「なに、大したことはないよ、顔の傷は浅くても血がかなり出てしまうものだ。
 ここにはほら、うちの医療班もいるわけだから・・・さぁ、早く行きなさい。」

陽菜はその言葉で駆け出した。
「じゃ、じゃあすみません巽さんのところに行ってきます!」

陽菜を見送り笑顔で手を振る柊。
そしてそれに呆れる初代陣営の仲間達・・・。

「まったく・・・本当は頬の傷もがっつりいってるじゃないですか。」
「分かっているさ、でも初代が四代目の世話になる訳にもなぁ・・・。」
「プライドが許さなかったと・・・?全くこの人は・・・。」
「ははは・・・いや面目ない、貧血で全然動けないなこれ・・・。」
三人の仲間達が頭部、胴体、足に分かれ雑に柊を持ち上げる。
「ほら、さっさと病院に行きますよ・・・。」
「あ、出来れば陽菜ちゃんには見つからんようにね・・・。」
「はいはい・・・。」
「ところで俺達三代目なんて一度も見かけてないんですけどいるんですか?」
「あぁ・・・それも嘘だ。」
「・・・はいはい・・・でしょうね・・・。」

こうして、初代もまた黒銅から姿を消した。

「あれ?そういえば椿さんってもう帰ったのかな・・・?」

陽菜は巽を探しながらふと思い出した。
嫌な予感がした・・・ここは敵陣、何が起きてもおかしくはない。
全力で走った、荒木が陣営としていた体育館まで・・・。

再び重い扉をバンッと開いた。
当然そこにもう二代目陣営の姿はない。

「誰もいない・・・?」

キョロキョロと辺りを見渡すと、所々に倒れた人の姿が・・・。
床には点々と血痕が至るところに残っているのが見て取れる。

「椿さんも・・・まさかここに・・・?」

よく見ると、陽菜は遠くに壁にもたれかかった椿の姿を発見した。
「うそ・・・椿さん!!!」

急いで陽菜は駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
身体は血だらけ、ボロボロの姿がそこにあった。

「陽菜ちゃん・・・いやー・・・参った・・・疲れた・・・。」
「こんな血だらけで大丈夫ですか!?」
「ああ、大丈夫これ僕の血じゃないよ、みんなこいつらの血・・・。」

どうやら怪我はないらしい。
安心のあまり陽菜はぎゅっと椿を抱きしめる。

「よかった・・・・。」
「と、ところで・・・あの二人の喧嘩は・・・?」
「あ、それなら私が荒木さんを、二代目をぶっ飛ばしちゃいました・・・。」
初代と二代目の喧嘩だったはずでは?椿の頭にクエスチョンマークが踊る。
「えっと、二代目の荒木さんが武器で柊さんが大怪我をしてしまって・・・!」

下手ながらもジェスチャーを加えながら必死に説明する陽菜。
結局椿にはよく分からなかったが、そっと陽菜の頭を撫でた。

「ま、何にせよそれが陽菜ちゃんの正義だったわけだ・・・よくやったね。」

陽菜はボッと顔が赤くなる。

「ありがとう・・・ございます・・・。」

「四代目、就任か・・・おめでとう。さっきまで複雑な気持ちだった・・・。
 でも・・・陽菜ちゃんのこれからの極闘をどうしていきたいかっていう
 さっきの所信表明を聞いたら、もう応援せざるを得なかった。
 紫炎ではお世話になったね・・・これまで本当にありがとう・・・。
 もう会えなくなるんだなって思うと寂しくもなるものだね・・・。
 陽菜ちゃんがいると、すごく安心できたんだけどな・・・。」

「あっ・・・それなんですが・・・少し考えたことがあって・・・。」
「え?何かな・・・?」

椿にそっと耳打ちをする陽菜。

「いいのかな?就任したてでそんな真似しちゃって・・・。」
「大丈夫ですよきっと・・・私には最重要事項ですから・・・・。」

結局、この日どういう訳か巽さんと会えることはなかった。

この後、何とか無事に黒銅高校を出て帰路についた私達・・・。
家に着くと、何だか安心して・・・ちょっとだけ涙が出た・・・。
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