Legend Girl!

広瀬あかり

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第四十二闘:無謀な挑戦

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強風が吹き荒れる中、椿は一人立っていた。
そこは一家のアジト正面。

「美咲にあんな説教をした僕がこんな所にいるなんてね・・・。
 今一番紫炎を潰しかけてるのはこの僕だね・・・。」

ポケットの中にしまった美咲のナイフをぎゅっと握りしめ、覚悟を決めた。

ガチャリ・・・とゆっくり一家の扉を潜る椿。
計算ではこの瞬間大勢の構成員が襲い掛かってくるはずだ。
椿はすぐ戦闘態勢に入る。

ところが・・・

「あれ?誰もいないや・・・。」

中は大勢の人間どころか閑散としていて見張りすらいない。

「おかしい・・・。」

目の前のテーブルの上にある飲み物からはまだ湯気が出ている。
直前まで最低一人はここに確実に誰かがいたということが窺える。

「(罠・・・・?)」

慎重に進む椿、内部の構造が分からないために
自分が今どこを歩いているのかすらよく分からなかった。
しかし、どれだけ歩いても敵がいる様子はない。

一階の探索を終えると、椿は階段を上って二階へと上がった。
「足音一つしないのか・・・。本当に誰もいないのかな?」

「ん・・・・!」

一瞬、椿の耳は人が苦しんでいるような声が聞こえた。
同じフロアのどこかの部屋からだった。

「誰かしらはいるようだけど・・・。」

一気に緊張感が張り詰める。
一歩一歩周囲に警戒しながら足を進める椿。

「この部屋・・・かな・・・・?」

人の声が聞こえたような気がする扉の前までやってきた。
椿はそっと扉に耳を押し付ける。

「ん・・・!くぅっ・・・!」

僅かではあるが確かに人の声が聞こえるが様子がおかしい、
椿にはどうにも苦しんでいるように聞こえた。

キィィ・・・とゆっくり扉を開いた椿はとんでもないものを目の当たりにする!

「な、なに・・・・!?美咲!!お前こんなところで何して・・・・!」

そこには、縄で縛り上げられ口にテープを張られ涙を流す美咲の姿があった。
ベリッと急いで口のテープをはがす椿。

「椿・・・!!」
「・・・・・。」
「私、一家に入ったんだけど。もう紫炎には戻らないよ。
 ナイフだって返したでしょう?お母さんから受け取った?」

椿はそれをポケットから取り出し、見せる。

「あるじゃない、それが私の意思!そもそも私をクビにしたのは椿でしょ!?
 こんなところまで何しに来たわけ!?」
「色々考えたけどお前をクビにしたのは間違いだった、だから取り返しに来た。」

椿の言葉に激昂する美咲。
「何言ってんの!?そんなポンポングループを
 抜けたり入ったりしていいもんじゃないでしょ!?
 あんたボスなんだから言葉に責任持ちなさいよ!
 そんなんでみんなが納得すると思ってんの!?」
「メンバーには何度でも頭を下げる。」
「それにここから無事に出られるわけ・・・!あなた罠にハマったのよ!?」
「だろうな、この部屋に入った瞬間大勢の気配を外から感じるよ。
 まぁ、とりあえずよ美咲、お前どうしたいんだ?
 このまま一家に残ってもいいし、うちに帰ってきてもいい。」

その問いに美咲は首を横に振った。
「戻れない、戻れないよ。一家は私を手に入れることでこの前の一件をチャラにしたの。
 従わなければ全軍で紫炎を落とすと脅された。だから今私はここにいるの・・・。」

「その通りだよ佐川椿君、こんなところまで
 入り込んでくる君の勇気と愚かさを讃えよう。
 まぁ・・・じきに死ぬわけだが・・・・?」

後ろに現れたのは一家のボス、巽雄吾であった。

「・・・ボスが一人でこんなところまで来るなんて・・・・。
 ここで一騎打ちして僕が勝てば極闘一家は
 歴代でも未だ例がない敗北の二文字を飾りますよ?」

巽は笑う。
「はははっ!ランキング1位の俺にお前がどうやって勝つというんだ?
 過去には何度も圧倒的な差を見せてやっただろうが、忘れたのか!?」
「覚えていない、過去は過去だ。」
「そうか、じゃあもう一度教えてやる・・・!!」

椿の方に向かってくる巽、この瞬間椿は所持していたナイフで美咲の縄を切ると、
美咲に小さく耳打ちをした。
《こいつは俺が引き止める、お前はダッシュで逃げろ!!》

「でも・・・・!!」

美咲が躊躇った瞬間、椿は巽に投げ飛ばされる。
「早く・・・行け!!」

美咲は立ち上がり、急いで部屋を出る。

「バカが・・・外に何人包囲させてると思ってる?
 お前は倒れて紫炎はもうここで終わるんだよ・・・・!!」

ー紫炎、アジトー
「ボスどこ行ったんですかねえ・・・・!」
「さぁな・・・他にも宮澤陽菜の隊も行方が分かりませんね・・・。」
「あぁ・・・さっき隊の全員引き連れて急いで出て行ったな・・・・。」
「東條さんも突然抜けたし紫炎大丈夫なんですかねえ・・・?」
「俺らにできることはとりあえずここを守るだけだ。
 仮に何かあったとしてもここさえ守ってれば一応は大丈夫だ。
 ボスたちが安心して帰ってこられる場所を作ろうぜ。」
「そうですね・・・さすがに一家のアジトに突撃なんて
 馬鹿な真似したりはしませんもんね!うちのボスは!!」
「勝てないと分かっていてそんなとこに突っ込んでいくのは大馬鹿だろうが!」

こうして、何も知らない紫炎のアジトは平和に時間が過ぎていく・・・。

陽菜の行方は!?そして巽と椿はどうなる!?美咲は無事に脱出できるのか!?
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