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マリーの進む道
七年後
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七年後。学院を卒業したマリーの姿は、まだ王都にあった。一つの家から出て来たマリーは、その家の前に看板を立てる。そこには、マリーの魔道具店という文字が書かれていた。
「ふぅ……徹夜しちゃったから、眠いなぁ」
そう言いながら、マリーは、扉の郵便受けに挟まっている手紙を引き抜いて、ポケットにしまう。当然ながら、あの頃よりも身体が成長していた。ただ一部は除いて。
「何度も同じ事してるんだから、いい加減学びなよ」
背後から声を掛けられて、マリーが振り向く。そこには、腰に刀を差した美人な女性と涼しげな好青年が立っていた。
「あっ、コハク、リンくん。これから仕事?」
コハクは、現在ギルドに所属してモンスター退治と素材採取を仕事にしている。マリーやカーリーと暮らしていたという事もあり、素材の扱いが良く、仕事の入りが良かった。そのため、かなり儲かっている。マリーと違い、コハクは全体的に成長していた。
リンは、コハクと違い、騎士団に入っている。その仕事の中で、モンスター退治を担っており、ギルドと協力する事になっていた。そのため、何度もコハクと同じ仕事を受けている。今日も同じ仕事を受けるために、一緒に行動していた。
「まぁね。必要な素材があるなら、ついでに採ってくるけど」
「じゃあ、ドラゴンの心臓」
「無理に決まってるでしょ」
「七年前のあれで、かなり数が減ったからね。人を襲ってでもいない限り、難しいかな」
「冗談だよ。鉱石系を適当にかな」
「了解。それじゃあ、いってきます」
「うん。いってらっしゃい。気を付けてね」
コハクとリンを見送ったマリーの背中に、誰かがぶつかる。
「やっほ~、マリー、おはよう!」
「セレナ。おはよう。朝から元気だね」
「元気がないと先生なんてやってられないよ」
セレナは、卒業後に学院で教師をやっている。カレナの担当するクラスの副担として、教師としての経験を積んでいる最中だった。セレナはマリーと同じような成長度合いだった。そういう部分では、マリーとは馬が合う。
「時間は大丈夫なの? 結構ギリギリじゃない?」
「あっ! そうだった! マリーを見つけたから、思わず絡んじゃった! じゃあ、また今度、ご飯!」
「うん。分かった」
遅刻ギリギリのセレナは、全力疾走で学院まで走っていった。あれから風魔法も熟達しているので、走る速度もかなり上昇していた。
「相変わらず忙しないなぁ」
そんなセレナを見送ったマリーは、店の中に入って、魔道具作りを始めた。店番は、基本的にソフィに任せている。魔道具を売る分には、ソフィ一人でもどうにかなるが、そうもいかない事がある。
『主様。マニカ様がご来店です』
「うん。分かった。通して」
ソフィの案内で作業場に来たのは、マリーが初めて義手を作ったマニカだった。
「マリーちゃん、久しぶり。義手の新調をしたいんだけど」
「えぇ~、去年も新調したのに?」
「まだ身体が成長してるからさ」
「羨ましい事で」
マリーはそう言いながら、マニカの義手を作るべく、生身の方の腕の測定を始める。ソフィでは出来ない仕事というのは、マリーがやっている義肢の製造だった。こればかりは、マリー自身が担当する事になっている。自分でやった方が、どうやって作るかを決めやすいからだ。
「うん。オッケー。今だと、このくらい掛かるけど大丈夫?」
「大丈夫。コハクちゃんには負けるけど、これでも良い仕事を貰えるくらいにはなってるから」
「それじゃあ、一週間後にまた来て」
「は~い。よろしくね」
マニカはそう言いながら、作業場を出て行った。それと入れ替わりに、女性が作業場に入ってくる。
「マリーちゃん、お疲れ様」
「サイラ先輩、お疲れ様です」
作業場に来たのは、マリーの義眼を作って貰ったサイラだった。
「さてと、私も作業しないと」
サイラは、ここでマリーに雇って貰っている。マリーから魔道具作りを習って、カーリーにも一時期師事をし、魔道具職人になっていた。そして、他の店で働いていた時に、マリーが店を出すと聞き、マリーと一緒に働く事にしたのだ。
マリーとしても、職人が一人増えるだけで、自分も自由に出来る時間が出来るので、とても助かっていた。
二人が黙々と作業をしていると、また作業場に女性が入ってくる。
「マリーちゃん、今、大丈夫?」
「あ、アイリ。大丈夫だよ」
入って来たのは、セレナの双子の妹アイリだった。アイリは、学院にある図書館と書店で働いている。マリーにはないものを持っているために、マリーから羨ましがれている。
「これ新しく入った魔道具についての本」
「わぁ!! 良いの!? ありがとう!!」
マリーは、本を受け取ってから、アイリに抱きつく。魔道具に関する事なので、感極まってしまったのだ。
アイリは、時折こうして新入荷の本をマリーに持ってきてくれていた。アイリからのプレゼントだ。
「うん。喜んでくれて良かった」
「喜ばないわけないじゃん! 本当にありがとうね! また今度ご飯食べに行こう。セレナも誘ってさ」
「うん。じゃあ、休憩時間も終わっちゃうから、もう行くね」
「うん。またね」
アイリは、マリーに手を振って作業場を出て行った。
「今日は、結構人が来る日?」
先程マニカとすれ違ったのもあって、サイラは、マリーへの来客が多い日なのかと気になっていた。
「そうですね。でも、予定しているのは、この後来るリリーくらいですよ」
「そろそろ女王になるかもしれないのに、よく来るよね。勉強が大変だから、お姉ちゃんに甘えたいのかな」
「そうかもしれないです。私が王城に行っても良いんですけど、メイドがいると甘えられないって文句言ってました」
「可愛い妹を持つと幸せだね」
「ふふん!」
リリーを褒められたからかマリーは胸を張って笑っていた。そんな二人の耳にドタドタと音が聞こえてくる。
「お姉様~!!」
作業場に入ってきたリリーは、真っ先にマリーに抱きついた。アイリと同じようにマリーにはないものを持って成長したリリーは、マリーよりも少し背が高い。それらから、どちらかと言うとマリーの方が妹の様にも見えていた。
サイラは、その事を胸の奥に秘めながら、作業をする手を止める。
「今日は、義肢の相談もないみたいだし、先に上に上がったら? 後の作業は、私にも出来るから」
「良いんですか? ありがとうございます。ほら、リリー胸を押し付けてないで、上に行こう」
「はいですわ! サイラ先輩もありがとうございますわ!」
「ううん。ごゆっくり」
リリーと一緒にマリーは店の二階に上がる。この店は、マリーの自宅も兼ねており、上はマリーの部屋となっていた。その中で、マリーは、リリーに抱きしめられていた。
「うぅ……帝王学が面倒くさいですわ!」
「はいはい。でも、王様になるんだから、必要な事でしょ。頑張らなきゃ」
「うぅ……お姉様成分を補給しますわ……」
「全くもう。こんなに甘えん坊で、女王になった時はどうするの?」
マリーは、リリーの頭を撫でながらそう言う。
「いつになっても、お姉様には甘えますわ。他の何よりもお姉様が大好きですもの」
「ありがとう。でも、女王になったら、国民も見ないと駄目だよ?」
「分かってますわ。お姉様の次に見ますの!」
「いけない女王様だなぁ。そういえば、あの人はどうしてる?」
「お母様は、お変わりありませんわ。今度、マリーさんを夕食に誘おうかと言ってましたの」
「そう。前向きに考えとくよ」
「本当ですの!? お母様も喜びになりますわ!」
「考えるだけだって。まだ決めたわけじゃないよ」
マリーと王妃の関係も少しだけ変化していた。リリーの部屋に遊びに行く時に、時折遭遇する事があり、少しずつ会話するようになっていた。そこから、何度かお茶をする事もあった。さすがに、リリー同伴でのお茶会だが、そこでも少しずつ話をしていた。
それらの事もあり、王妃は、マリーを夕食に誘っても良いかと迷っていた。マリーも、少しだけ歩み寄っても良いかと考えるには十分だった。
二人の歩み寄りに嬉しくなったリリーは、マリーの頭に頬擦りする。そんな上機嫌のリリーにこれ以上何か言うわけにもいかず、マリーはされるがままになっていた。
一時間程二人で過ごした後、リリーが帰る時間になったので、店の外まで見送る。
「それじゃあ、また来ますわ」
「うん。いつでもおいで」
リリーは、馬車に乗って王城に帰っていった。
「相変わらず、仲が良いな」
「!!」
後ろから声が聞こえて、マリーの口角が上がる。
「アルくん! おかえり!」
「ああ、ただいま」
黒い鎧を着たアルに、マリーは駆け寄る。
「遠征って、明日までじゃなかった?」
「ああ、思ったよりも好調に進んで、一日繰り上がったんだ」
「そうなんだ。せっかく、明日、門で待ってようと思ったのになぁ」
「手間が省けたな」
「全然手間じゃないよ。そうだ! 今日の夜は暇? ご飯食べに行こうよ」
「ああ。なら、また夜にな。迎えに来る」
「うん!」
家に帰っていくアルを見送ってから、マリーは作業場に戻る。
「アルくんと会ったの?」
作業場に戻った途端、サリアがそう言った。
「はい。よく分かりましたね?」
「だって、マリーちゃんが上機嫌だから」
そう言われて、マリーの顔が赤く染まる。
「そ、そんなに分かりやすかったですか……?」
「まぁ、すぐに分かるくらいにはね。夕食の約束でもした?」
「何で、そんなに全部見抜けるんですか!?」
「マリーちゃんの事なら、何でもお見通し。マリーちゃんがいい目を作ってくれたからかな」
「絶対目だけじゃないと思います」
「全くもう……可愛い子だなぁ」
サリアは、マリーをぎゅっと抱きしめる。
「私もミリスとローナを誘ってご飯に行こうかな」
「先輩達も仲が良いですよね?」
「あの戦場があったからかな。二人とは親友になれたし、マリーちゃんを愛でる事も出来るしね」
「私、もう二十超えてるんですけど……」
「何歳になっても、マリーちゃんを愛でるのは止められないと思うかな」
サイラとわいわい話ながら作業を進め、夜がやってくる。
『主様。アル様がお越しです』
「うん。ありがとう」
「それじゃあ、閉店作業は、私達に任せて、いってらっしゃい」
「ありがとうございます! いってきます!」
サリア達閉店作業を任せて、一度上で着替えをしてからアルの元に向かう。
「お待たせ!」
「態々着替えてきたのか」
「だって、作業で汚れてたんだもん。私だって、そのくらい気にするよ」
「成長したな」
「ふふん!」
あまり褒められてはいないのだが、マリーは自慢げに胸を張っていた。
「取り敢えず、店に行くか。いつものところを予約しておいた」
「やった! あの店好き!」
「だろうな。いつも言っているから知ってる」
「そうだっけ?」
そんな事を話ながら歩いていると、目の前から見知った二人が歩いてきた。
「マリーさん、アルゲートくん。こんばんは」
「先生! ネルロさん! こんばんは!」
マリーは、犬のように二人に駆け寄る。そうして駆け寄ってきたマリーの頭をカレナが撫でる。
「あら、デートかしら?」
「夕食を食べに行くところです」
ネルロのからかいを、アルはさらっと受け流した。ネルロは、面白くなさそうに肩を下げる。
「先生達は、これからどこかに行くんですか?」
「ネルロの家でご飯を食べるの」
「そうなんですね。私も、また先生達とご飯食べに行きたいです!」
「良いよ。また今度ね。ネルロも良いでしょ?」
「ええ、マリーちゃんとなら拒む理由なんて無いわ」
「やった! それじゃあ、また連絡しますね!」
「うん。それじゃあね」
「楽しんで」
マリーは大きく手を振って、二人と別れた。
「本当に先生達と仲が良いな」
「先生達の事好きだもん」
「そうか。そういえば、カーリー殿は健在か?」
「そりゃあね。グランハーバーで、腕を振ってるよ。この前なんて、採りすぎたからって、色々な素材を置いていったんだ。もう若くないのにね」
「相変わらずなようだな」
カーリーは、王都からグランハーバーに戻って、自分の店を営業していた。素材取りなども、まだ自分でやっており、その時採れた素材をマリーにも分けていた。余ったからと言っているが、その実、ただ単にマリーに会いたいから来ているだけだったりする。
「うん。それにしても、何も大きな事件がないと、すっごく平和で良いねぇ」
「あの一年が、濃厚すぎただけだ。このくらいが当たり前だ」
「まぁ、王都に来るまでは、確かに当たり前だったかも。でも、あの頃よりも、今が楽しいかな」
「そうなのか?」
「うん! 沢山の親友が出来たし、可愛い妹とも会えたし、こうしてアルくんとも会えたしね」
「そうか。俺も、マリーに会えた事は良いことだったな」
「本当!? それなら、私も嬉しいな!」
マリーの満面の笑みに、アルも頬を綻ばせる。マリーとアルは、二人並んで街を歩く。その二人の距離は、学生時代よりも格段に近付いていた。
「ふぅ……徹夜しちゃったから、眠いなぁ」
そう言いながら、マリーは、扉の郵便受けに挟まっている手紙を引き抜いて、ポケットにしまう。当然ながら、あの頃よりも身体が成長していた。ただ一部は除いて。
「何度も同じ事してるんだから、いい加減学びなよ」
背後から声を掛けられて、マリーが振り向く。そこには、腰に刀を差した美人な女性と涼しげな好青年が立っていた。
「あっ、コハク、リンくん。これから仕事?」
コハクは、現在ギルドに所属してモンスター退治と素材採取を仕事にしている。マリーやカーリーと暮らしていたという事もあり、素材の扱いが良く、仕事の入りが良かった。そのため、かなり儲かっている。マリーと違い、コハクは全体的に成長していた。
リンは、コハクと違い、騎士団に入っている。その仕事の中で、モンスター退治を担っており、ギルドと協力する事になっていた。そのため、何度もコハクと同じ仕事を受けている。今日も同じ仕事を受けるために、一緒に行動していた。
「まぁね。必要な素材があるなら、ついでに採ってくるけど」
「じゃあ、ドラゴンの心臓」
「無理に決まってるでしょ」
「七年前のあれで、かなり数が減ったからね。人を襲ってでもいない限り、難しいかな」
「冗談だよ。鉱石系を適当にかな」
「了解。それじゃあ、いってきます」
「うん。いってらっしゃい。気を付けてね」
コハクとリンを見送ったマリーの背中に、誰かがぶつかる。
「やっほ~、マリー、おはよう!」
「セレナ。おはよう。朝から元気だね」
「元気がないと先生なんてやってられないよ」
セレナは、卒業後に学院で教師をやっている。カレナの担当するクラスの副担として、教師としての経験を積んでいる最中だった。セレナはマリーと同じような成長度合いだった。そういう部分では、マリーとは馬が合う。
「時間は大丈夫なの? 結構ギリギリじゃない?」
「あっ! そうだった! マリーを見つけたから、思わず絡んじゃった! じゃあ、また今度、ご飯!」
「うん。分かった」
遅刻ギリギリのセレナは、全力疾走で学院まで走っていった。あれから風魔法も熟達しているので、走る速度もかなり上昇していた。
「相変わらず忙しないなぁ」
そんなセレナを見送ったマリーは、店の中に入って、魔道具作りを始めた。店番は、基本的にソフィに任せている。魔道具を売る分には、ソフィ一人でもどうにかなるが、そうもいかない事がある。
『主様。マニカ様がご来店です』
「うん。分かった。通して」
ソフィの案内で作業場に来たのは、マリーが初めて義手を作ったマニカだった。
「マリーちゃん、久しぶり。義手の新調をしたいんだけど」
「えぇ~、去年も新調したのに?」
「まだ身体が成長してるからさ」
「羨ましい事で」
マリーはそう言いながら、マニカの義手を作るべく、生身の方の腕の測定を始める。ソフィでは出来ない仕事というのは、マリーがやっている義肢の製造だった。こればかりは、マリー自身が担当する事になっている。自分でやった方が、どうやって作るかを決めやすいからだ。
「うん。オッケー。今だと、このくらい掛かるけど大丈夫?」
「大丈夫。コハクちゃんには負けるけど、これでも良い仕事を貰えるくらいにはなってるから」
「それじゃあ、一週間後にまた来て」
「は~い。よろしくね」
マニカはそう言いながら、作業場を出て行った。それと入れ替わりに、女性が作業場に入ってくる。
「マリーちゃん、お疲れ様」
「サイラ先輩、お疲れ様です」
作業場に来たのは、マリーの義眼を作って貰ったサイラだった。
「さてと、私も作業しないと」
サイラは、ここでマリーに雇って貰っている。マリーから魔道具作りを習って、カーリーにも一時期師事をし、魔道具職人になっていた。そして、他の店で働いていた時に、マリーが店を出すと聞き、マリーと一緒に働く事にしたのだ。
マリーとしても、職人が一人増えるだけで、自分も自由に出来る時間が出来るので、とても助かっていた。
二人が黙々と作業をしていると、また作業場に女性が入ってくる。
「マリーちゃん、今、大丈夫?」
「あ、アイリ。大丈夫だよ」
入って来たのは、セレナの双子の妹アイリだった。アイリは、学院にある図書館と書店で働いている。マリーにはないものを持っているために、マリーから羨ましがれている。
「これ新しく入った魔道具についての本」
「わぁ!! 良いの!? ありがとう!!」
マリーは、本を受け取ってから、アイリに抱きつく。魔道具に関する事なので、感極まってしまったのだ。
アイリは、時折こうして新入荷の本をマリーに持ってきてくれていた。アイリからのプレゼントだ。
「うん。喜んでくれて良かった」
「喜ばないわけないじゃん! 本当にありがとうね! また今度ご飯食べに行こう。セレナも誘ってさ」
「うん。じゃあ、休憩時間も終わっちゃうから、もう行くね」
「うん。またね」
アイリは、マリーに手を振って作業場を出て行った。
「今日は、結構人が来る日?」
先程マニカとすれ違ったのもあって、サイラは、マリーへの来客が多い日なのかと気になっていた。
「そうですね。でも、予定しているのは、この後来るリリーくらいですよ」
「そろそろ女王になるかもしれないのに、よく来るよね。勉強が大変だから、お姉ちゃんに甘えたいのかな」
「そうかもしれないです。私が王城に行っても良いんですけど、メイドがいると甘えられないって文句言ってました」
「可愛い妹を持つと幸せだね」
「ふふん!」
リリーを褒められたからかマリーは胸を張って笑っていた。そんな二人の耳にドタドタと音が聞こえてくる。
「お姉様~!!」
作業場に入ってきたリリーは、真っ先にマリーに抱きついた。アイリと同じようにマリーにはないものを持って成長したリリーは、マリーよりも少し背が高い。それらから、どちらかと言うとマリーの方が妹の様にも見えていた。
サイラは、その事を胸の奥に秘めながら、作業をする手を止める。
「今日は、義肢の相談もないみたいだし、先に上に上がったら? 後の作業は、私にも出来るから」
「良いんですか? ありがとうございます。ほら、リリー胸を押し付けてないで、上に行こう」
「はいですわ! サイラ先輩もありがとうございますわ!」
「ううん。ごゆっくり」
リリーと一緒にマリーは店の二階に上がる。この店は、マリーの自宅も兼ねており、上はマリーの部屋となっていた。その中で、マリーは、リリーに抱きしめられていた。
「うぅ……帝王学が面倒くさいですわ!」
「はいはい。でも、王様になるんだから、必要な事でしょ。頑張らなきゃ」
「うぅ……お姉様成分を補給しますわ……」
「全くもう。こんなに甘えん坊で、女王になった時はどうするの?」
マリーは、リリーの頭を撫でながらそう言う。
「いつになっても、お姉様には甘えますわ。他の何よりもお姉様が大好きですもの」
「ありがとう。でも、女王になったら、国民も見ないと駄目だよ?」
「分かってますわ。お姉様の次に見ますの!」
「いけない女王様だなぁ。そういえば、あの人はどうしてる?」
「お母様は、お変わりありませんわ。今度、マリーさんを夕食に誘おうかと言ってましたの」
「そう。前向きに考えとくよ」
「本当ですの!? お母様も喜びになりますわ!」
「考えるだけだって。まだ決めたわけじゃないよ」
マリーと王妃の関係も少しだけ変化していた。リリーの部屋に遊びに行く時に、時折遭遇する事があり、少しずつ会話するようになっていた。そこから、何度かお茶をする事もあった。さすがに、リリー同伴でのお茶会だが、そこでも少しずつ話をしていた。
それらの事もあり、王妃は、マリーを夕食に誘っても良いかと迷っていた。マリーも、少しだけ歩み寄っても良いかと考えるには十分だった。
二人の歩み寄りに嬉しくなったリリーは、マリーの頭に頬擦りする。そんな上機嫌のリリーにこれ以上何か言うわけにもいかず、マリーはされるがままになっていた。
一時間程二人で過ごした後、リリーが帰る時間になったので、店の外まで見送る。
「それじゃあ、また来ますわ」
「うん。いつでもおいで」
リリーは、馬車に乗って王城に帰っていった。
「相変わらず、仲が良いな」
「!!」
後ろから声が聞こえて、マリーの口角が上がる。
「アルくん! おかえり!」
「ああ、ただいま」
黒い鎧を着たアルに、マリーは駆け寄る。
「遠征って、明日までじゃなかった?」
「ああ、思ったよりも好調に進んで、一日繰り上がったんだ」
「そうなんだ。せっかく、明日、門で待ってようと思ったのになぁ」
「手間が省けたな」
「全然手間じゃないよ。そうだ! 今日の夜は暇? ご飯食べに行こうよ」
「ああ。なら、また夜にな。迎えに来る」
「うん!」
家に帰っていくアルを見送ってから、マリーは作業場に戻る。
「アルくんと会ったの?」
作業場に戻った途端、サリアがそう言った。
「はい。よく分かりましたね?」
「だって、マリーちゃんが上機嫌だから」
そう言われて、マリーの顔が赤く染まる。
「そ、そんなに分かりやすかったですか……?」
「まぁ、すぐに分かるくらいにはね。夕食の約束でもした?」
「何で、そんなに全部見抜けるんですか!?」
「マリーちゃんの事なら、何でもお見通し。マリーちゃんがいい目を作ってくれたからかな」
「絶対目だけじゃないと思います」
「全くもう……可愛い子だなぁ」
サリアは、マリーをぎゅっと抱きしめる。
「私もミリスとローナを誘ってご飯に行こうかな」
「先輩達も仲が良いですよね?」
「あの戦場があったからかな。二人とは親友になれたし、マリーちゃんを愛でる事も出来るしね」
「私、もう二十超えてるんですけど……」
「何歳になっても、マリーちゃんを愛でるのは止められないと思うかな」
サイラとわいわい話ながら作業を進め、夜がやってくる。
『主様。アル様がお越しです』
「うん。ありがとう」
「それじゃあ、閉店作業は、私達に任せて、いってらっしゃい」
「ありがとうございます! いってきます!」
サリア達閉店作業を任せて、一度上で着替えをしてからアルの元に向かう。
「お待たせ!」
「態々着替えてきたのか」
「だって、作業で汚れてたんだもん。私だって、そのくらい気にするよ」
「成長したな」
「ふふん!」
あまり褒められてはいないのだが、マリーは自慢げに胸を張っていた。
「取り敢えず、店に行くか。いつものところを予約しておいた」
「やった! あの店好き!」
「だろうな。いつも言っているから知ってる」
「そうだっけ?」
そんな事を話ながら歩いていると、目の前から見知った二人が歩いてきた。
「マリーさん、アルゲートくん。こんばんは」
「先生! ネルロさん! こんばんは!」
マリーは、犬のように二人に駆け寄る。そうして駆け寄ってきたマリーの頭をカレナが撫でる。
「あら、デートかしら?」
「夕食を食べに行くところです」
ネルロのからかいを、アルはさらっと受け流した。ネルロは、面白くなさそうに肩を下げる。
「先生達は、これからどこかに行くんですか?」
「ネルロの家でご飯を食べるの」
「そうなんですね。私も、また先生達とご飯食べに行きたいです!」
「良いよ。また今度ね。ネルロも良いでしょ?」
「ええ、マリーちゃんとなら拒む理由なんて無いわ」
「やった! それじゃあ、また連絡しますね!」
「うん。それじゃあね」
「楽しんで」
マリーは大きく手を振って、二人と別れた。
「本当に先生達と仲が良いな」
「先生達の事好きだもん」
「そうか。そういえば、カーリー殿は健在か?」
「そりゃあね。グランハーバーで、腕を振ってるよ。この前なんて、採りすぎたからって、色々な素材を置いていったんだ。もう若くないのにね」
「相変わらずなようだな」
カーリーは、王都からグランハーバーに戻って、自分の店を営業していた。素材取りなども、まだ自分でやっており、その時採れた素材をマリーにも分けていた。余ったからと言っているが、その実、ただ単にマリーに会いたいから来ているだけだったりする。
「うん。それにしても、何も大きな事件がないと、すっごく平和で良いねぇ」
「あの一年が、濃厚すぎただけだ。このくらいが当たり前だ」
「まぁ、王都に来るまでは、確かに当たり前だったかも。でも、あの頃よりも、今が楽しいかな」
「そうなのか?」
「うん! 沢山の親友が出来たし、可愛い妹とも会えたし、こうしてアルくんとも会えたしね」
「そうか。俺も、マリーに会えた事は良いことだったな」
「本当!? それなら、私も嬉しいな!」
マリーの満面の笑みに、アルも頬を綻ばせる。マリーとアルは、二人並んで街を歩く。その二人の距離は、学生時代よりも格段に近付いていた。
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【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
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祝 完結。
カーリーさんなら時間があれば生やしそうだけど、お高かったり、完治にあと数年はかかる、だったりするかも知れないなぁ。
……あと、コンタクトレンズと眼鏡っぽい感じなので、最終回頃には眼鏡かゴーグル位の簡易接続型とかも作られてそう。
ありがとうございます。
再生の魔法は、カーリーでもまだ開発出来ていません。なので、これから先でマリーと一緒に開発するなんてこともあるかもしれませんね。
義眼に関しては、マリーも改良を続けるでしょう。それが、友人や他の人達のためになる事ですから
ん〜面白かった。
戦争でやった大量の短剣用意しとけば個人相手に負けることはほぼないですね。
それに、結界機能持たせた盾とか義手とか飛ばせば戦術の幅も広がりそうだし、自律義手で魔道具作りも支援出来そうですね。
短剣を出す前に倒せれば、なんとかという感じでですね。基本的に短剣と剣を出されたら、マリーの勝利の可能性は高いでしょう。
これから義手などを応用したものを作ると考えれば、マリーの戦術の幅は大きく広がると思われます
完結お疲れさまでした!
最初、此方で拝読していたのですが、余りの面白さに別サイトで完結まで読ませて頂き、再読させて頂いておりました。
王様、余りに呆気なかった……
突然激しく疑心暗鬼になったということから、魔族の精神干渉(汚染)があったのかと思いましたが、そこが解明されていないのが気になります!
最後まで読んで頂きありがとうございます!
国王の最後は派手なものにしようかとも思いましたが、魔族が侵攻してくる理由として王城を狙撃出来る魔法が出来上がったという事があり、ちょっと呆気ない幕切れになりました。
国王が疑心暗鬼になった理由は、魔族などの干渉ではなく、単純に王位に就いてから権力の旨みを知ってしまったため、この権力を他者に渡したくないという考えが膨れ上がった結果そうなりました。
マリーが産まれた後から、その気が強くなったという形です。
なので、マリーが帰ってきた時には、自分の権力を奪いに戻って来たと思い込みました。権力の旨みを知ってしまったが故に、その考えにしか行き着かなくなったという形です。
そのまま国王が喚いていた通りの事が理由となります。分かりにくくてすみません!