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マリーの進む道

嬉しい知らせ

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「よいしょっと……」

 カイトがいなくなったところで、マリーは、リリーの太腿に戻る。

「さすが、お母さんだねぇ」
「えっ? あっ、そうですわね」

 マリーが、いきなり普段通りに戻るので、リリーは少し戸惑いながら返事をした。

「魔王を倒しちゃうって、偉業も偉業だよね。また、お母さんの伝説に一つ追加されちゃった。面倒くさくならないと良いなぁ」
「それを言いましたら、お姉様も一つ偉業を成し遂げていると思いますわ」
「何?」
「お姉様の脚ですの」
「脚?」

 リリーの言葉を受けて、マリーは自分の脚を持ち上げて見る。そこには、生身の自分の脚と金属で出来た脚があった。そこで、マリーは、リリーの言いたい事を理解する。

「ああ、義肢ね。でも、お母さんの偉業に隠れると思うよ」

 マリーにとっても、義肢の開発は、かなりの功績と考えているが、それでも魔王討伐をしたカーリーの偉業の影に隠れて目立たないだろう思っていた。

「別分野の話ですので、そうはならないと思いますわ」
「ああ、まぁ、その可能性もあるか……お客さんが出来るのは良いけど、面倒くさくならないと良いなぁ」

 マリーは、王都に来て、有名になる事の面倒くささというものを知ってしまった。カーリーの娘という事もあり、余計に人が集まってくる可能性も予見しているので、余計に悩ましい事となっていた。

「お姉様、そればかりですのね」
「だって、平穏が一番じゃん?」
「それは、そうですけど……」
「だから、面倒くさくならないのが一番なの。暗殺の心配もなくなったし、ようやくって感じ」

 こう言っているマリー自身は、時折、暗殺に関して忘れる事があったが、周囲の人間が事ある毎に言ってくるので、大分うんざりとしていた。それに煩わされる事もなくなるので、マリーとしては、本当にようやくのんびり暮らせるようになるという印象だった。

「そうですわね」

 マリーが少し嬉しそうにしているのを見て、リリーが笑いながら、マリーの頭を撫でているところに、アルとリンがやってくる。二人は、マリー達を見つけると、まっすぐ向かってきた。

「ここにいたのか」
「ん? あっ、アルくんだ。どうしたの?」

 マリーは、リリーの太腿から身体を起こす事なく、目だけでアル達を見ていた

「学生に帰還許可が出た。街に戻れるぞ」
「そうなんだ。だって、リリー。良かったね」
「……お姉様、帰らないおつもりですの?」

 リリーは、マリーの言葉から、マリーに帰る意志がないと見抜いた。アルも同じく、マリーに帰る意志がないと見抜いていた。そして、その理由に関してもだ。

「義肢のメンテナンス係として、残るつもりか?」
「うん。簡易的に作ったものばかりだから、結構故障も多いし。実際、今日の戦いでも故障したから」

 マリーの作った義肢は、マリーしかメンテナンス出来ない。この場にいる魔道具職人がマリーだけという事もあるが、そもそもその機構自体が、知られている物とは違うので、そこを理解していない職人にはメンテナンスは不可能だった。
 そのため、もしもの為に常駐しておかないといけない。マリーは、そう考えていた。

「安心しろ。負傷者も一緒に帰る事になる。後方に控えていた部隊が、後を担うからな」

 この部分もアルは想定していたので、指揮官と話した際に、負傷者も一緒に後方へと移送する方針を進言していたのだ。

「まぁ、残すは中央の戦場だけみたいだしね。王命もなくなって、こっちに回せる戦力も増えたって事かな」

 マリーの発言に、アルとリンが反応する。特に、アルは眉を寄せていた。

「よく他の戦場の情報を知っているね。僕達も、さっき聞いたところなのに」
「マリー……ソフィはどうした?」
「へ? 見張りに立って貰ってるけど。あっ! で、でも、リリーも一緒にいたから、セーフじゃない?」

 マリーは、すぐにアルの言いたい事を理解した。
 一瞬、アルとの約束を破ったかと思ったマリーだったが、すぐにリリーも一緒だったため、一人で会ってはいない事に気付いた。そのため、自分は悪い事をしていないと、堂々とした態度になっていた。

「ったく、気を付けろと言っただろう」

 呆れたような目をしながらそう言うアルに、マリーは少し申し訳なさそうな表情になる。

「気を付けたよ。でも、向こうからいつの間にか来るだから仕方ないじゃん。それに、本当に私達を害するつもりはないみたいだし。国王の命令にも嫌々従ってたみたいだよ。家族を守るために、仕方なかったって。本人もそれが言い訳に過ぎないって言ってた。だから、これが終わったら、処分しても良いって。する必要がないからしないけど」
「……はぁ、まぁ、良い。取り敢えず、帰る準備をしておけ」
「は~い」

 マリー達が、そんな話をしていると、マリーの傍に紙が括り付けられたナイフが刺さった。マリーは、すぐに投げたのがカイトだと察する。

(アルくん達がいるから、気を利かせて姿を見せないようにしてるのかな?)

 そんな事を思いながら、マリーは、手紙部分だけを取って、中身を読む。

「あっ、先生が帰ってきたって!」
「ご無事で何よりですわ!」

 マリーは、すぐに立ち上がって、入口の方に走っていく。その後をリリーが追い、苦笑いをしつつ、アル達も追っていった。マリーが入口に着くと、血だらけのカレナが、ソフィと話していた。

「先生!」
「マリーさん。皆さんも、ご無事なようで何よりです」
「それは、こちらの台詞ですわ。先生の方こそ、ご無事……無事ですの?」
「ああ、これは、返り血ですので、安心して下さい。しっかりと、後方にあった魔法陣も、それを使用していた魔族も全滅させました。少しだけ勢い余ってしまいましたが、こちらに被害はありませんので、ご心配なく」

 カレナはそう言いながら、マリーの頭を撫でる。この塹壕を出て行くときに、最後までマリーが心配していた事を思い出したため、少しでも安心させようと考えたからだ。

「あっ、そうだ。私達、帰還の許可が出ました。先生は、一緒に帰られるんですか?」

 マリーは、自分達が帰られるのであれば、カレナも帰る事が出来るのではと思っていた。そうなれば、もしかしたらカーリーも一緒に帰られるかもしれないとも考えている。

「そうですねぇ……恐らく、無理でしょう。このまま中央の戦場に移動する事になると思います。私は、そのくらいの戦力だと思いますから」

 ここまでの戦いで、カレナは、自分がこの戦争に欠かせない戦力である事を自覚していた。一人で魔族の拠点に突っ込み全滅させる事が出来る者など、そうそういないからだ。

「そうなんですか……お気を付けて」
「はい。私も、また皆さんの教壇に立ちたいですから。あっ、街に戻ったら、しっかりと休んで下さいね。特にマリーさんは、ちゃんとした治療を受ける事。これを絶対に忘れないように。ソフィさんも、マリーさんが無理をしないように、覚えておいてください」

 カレナは、この中で、確実にマリーの近くにいるであろうソフィにも、釘を刺していた。そうしないと、またマリーが無茶をするかもしれないと思ったからだ。

『かしこまりました』
「では、指揮官の方と話してきます。また、街で会いましょう」

 カレナはそう言って、手を振って離れていった。その小さく大きな背中を、マリー達は見送る

「先生も疲れているはずなのに、凄いなぁ」
「そうですわね」
「感心していないで、帰る準備をしろ。朝には、移動だぞ」
「分かってるよ。でも、何か持って帰るものなんてあったっけ?」
「マリーが作ったものとかだな。持って帰った方が良い危険なものとかはないか?」

 アルの確認に、マリーは少し考える。

「う~ん……特にないはず。持って貰っているのは、音響玉とかだし、危険なものは、ポーチに入れてるし、道具も一回一回、鞄に戻してるから」
「そうか。なら、寝とくのが良いだろうな」
「りょうか~い。リリー、行こ」
「はいですわ」

 マリー達は、サイラがいる部屋に戻っていった。それを見送るアルは、深々とため息をつく。

「そんなに心配かい?」
「当たり前だろ。ついさっきまで、暗殺されそうになっていたんだからな。あいつの能天気振りには、頭を悩ませられるが、あれが一つの魅力なんだろうな。さて、俺達も、休憩するか」
「そうだね」

 アルとリンもマリー達とは別の場所で眠りについた。マリーは相変わらず、サイラの膝枕で眠っていた。リリーは不満だったが、部屋に着くなりすぐに眠ってしまったので、文句を言う暇も無かった。
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