捨てられた王女は魔道具職人を目指す

月輪林檎

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マリーの進む道

王族の血

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 四時間程でマリーが起きると、コハク、セレナ、アイリはまだ眠っていた。リリー、アル、リンの姿がないので、既に起きていると、マリーは考えた。

「マリーちゃん、起きた?」
「あ、はい。サイラ先輩は、ずっと起きていたんですか?」
「ううん。さっきまで寝てたよ。取り敢えず、マリーちゃんが寝ている間に、大きな音とかは無かったと思う」
「ありがとうございます。外に出てきますね」
「うん。行ってらっしゃい」

 サイラが手を振るので、マリーも手を振って部屋を出て行く。外は、まだ暗闇に包まれていた。

(特に変わった様子はないかな。戦闘音的なものも聞こえてこないし)

 そう思いながらマリーが歩いていると、急に後ろから抱きしめられた。

「マリーさん。こんな夜中にどうしたんですの?」
「リリーこそ、どうしたの? お姫様が、夜更かしして良いの?」
「良いんですの! それよりマリーさんは、何か用事ですの?」
「ううん。ただ出て来ただけ」
「じゃあ、少し時間を頂きたいですの」
「良いよ」

 マリーは、リリーに連れられて、人が少ない場所にやってきた。そして、リリーは、その場に座って、膝を叩く。それだけで、マリーは、リリーの言いたい事を理解した。

「そんなに膝枕したいの?」
「したいんですわ。妹の我が儘なんですのよ。ちゃんと聞いてくださいまし」
「全くもう仕方ないなぁ。甘えん坊の妹を持つ大変だよ」

 マリーはそう言いながらも、笑いながらリリーの太腿に頭を乗せる。リリーは、すぐにマリーの頭を撫でる。

「綺麗だった髪も、ゴワゴワになりましたわね」
「まともに身体を洗うような暇なかったもん」
「街に戻ったら、まずはお風呂ですわね」
「えぇ~、まともな布団で寝たいけど」
「駄目ですわ。こうなったら、街に戻って、すぐにお風呂に入れますわ」
「リリーは、女の子だねぇ」
「お姉様ももう少しお淑やかになれると良いと思いますわ」
「あははは……無理かな」

 何でもないような姉妹の会話をしていると、不意にリリーが静かになる。

「リリー?」
「……実は、王城の情報を集めたんですの」
「へぇ~、でも、どうやって? ここにいる人達も国王が亡くなったくらいしか知らなくない?」
「いえ、実は、お姉様が寝ている間に、援軍が到着しましたの」
「あ、そうなんだ」

 夜中の暗闇という事もあって、マリーには、援軍が来たという事を知らなかった。サイラは、基本的に部屋から出ないので、そう言った情報が入り辛いので、知らなくてもおかしくはなかった。

「それで? 態々私に話をするって事は、何かあるんでしょ?」
「そうですの。実は……亡くなったのは、お父様だけじゃなかったんですの。お兄様達も余波で大怪我をして、すぐに亡くなったそうですの」
「へぇ~」

 リリーの兄という事は、自分の兄でもあるが、マリーからすると、本当に誰だか分からないので、反応に困っていた。

「残る王族は、私とお母様、そしてお姉様しかいないんですの」
「ふぅん……ん? じゃあ、時期王様は、リリーって事?」
「その可能性が高いですけど、もしかしたら、お姉様になるかもしれませんわ」

 リリーの話を聞いて、マリーは、すぐに反応出来なかった。自分が王になるかもしれないと言われて、すぐに納得出来るものの方が少ないだろう。

「私に王位を継がせないように、画策していたのに、私が王位を引き継ぐ可能性が、本当に出て来るって、皮肉だね。あれ? でも、国王って、何か身体の乗っ取りみたいなの考えてなかったっけ?」
「上手くいっても、乗っ取る先も亡くなっていますの。だから、もうお父様が、お姉様を害する事はありませんわ。そこは安心していいと思いますの」
「そうなんだ……リリーが女王様かぁ……これまで通りには、会えなくなるって事だね」

 マリーがそう言うと、リリーは目をぱちくりとさせると、涙を零し始める。

「会ってくれなくなるって事ですの?」
「いや、女王様と簡単に会える一般人って、おかしすぎるでしょ? 会いたくても会えなくなるって事。こればかりは仕方のない事だから、泣かないの」

 マリーは、リリーの涙を拭う。

「こんな泣き虫で、女王様が務まるの? もっとしっかりしないと」
「うっ……なら、お姉様がすればいいですの」
「私は、捨てられてるから、廃嫡されたも同然だもん。いきなり王族です。女王になりますはねぇ……あり得ないとは言わないけど、難しいと思うよ」

 マリーも自分が王になる可能性をゼロとは考えなかった。それは、王族のほとんどがいなくなった現状から判断出来る事だからだ。

「お姉様には、私が女王になっても、一緒にいて欲しいですの……そうですわ! 私の専属魔道具職人になれば……」
「私、店を構えたいから、それはちょっと……」
「お店を構えながらでも、任命は出来ると思いますの。そうしたら、一緒にいてもおかしくないですわ!」
「本当によく考えるね。まぁ、それもこれも、リリーが女王になったらの話だけど」
「ならない可能性がありますの?」

 現状王位継承権を有するのは、リリーだけだ。嫡子となりうる国王の子は、全員亡くなっているので、側室との子供であるリリーにも継承権が与えられる事になる。なので、マリーという例外を除けば、リリーが女王になる以外にない。

「ほら、もう王政をやめるとかさ。まぁ、可能性はゼロに限りなく近いけど」
「そうですわね。お母様も、それは認めないと思いますの」
「そうなんだ。何だか、面倒くさいね」
「……私が女王になりましたら、お姉様の事を公表しましょう」
「絶対やめて。てか、今、意地悪で言ったでしょ。そんな子に育てた覚えはないけど」
「お姉様は、いつも意地悪をしていますわ。それを見たら、こう育つのもおかしくないと思いますわ」

 そう言い合って、互いに互いの目をジッと見合い、同時に吹き出す。

「まぁ、どうなっても、リリーが妹って事に変わりはないから。お忍びで、甘えに来ても良いよ」
「お姉様……大好きですわ!」
「うん。私も大好きだよ」

 そんな姉妹の時間は、突然やってきたカイトによって止まる。カイトは、二人から一メートル離れて、頭を垂れている。マリーは、一応身体を起こしておいた。

「御歓談のところ、失礼します」
「どっちも調べ終えたって事で良いの?」
「はっ! 中央の戦線は、優勢で進んでいます。黒騎士と青騎士がいるというのが、大きな点かと。左翼に関しましては、既に魔族は全滅しております。こちらは、防衛だけでなく、進軍もしており、奥にいた魔族も皆、倒されておりました。こちらは、お二人もご存知の方が、一人で全滅させておりました」
「そう。お母さんは?」

 マリーは、一人で魔族を全滅させたのは、ネルロだと気付いた。カーリーがやれば、カーリーがやったと報告するだろうと考えたからだ。そのため、カーリーの安否が心配になっていた。

「ご無事です。多少の怪我はしているようでしたが、魔王を倒したそうです。戦いの余波で、一部の森が無くなりましたが」
「そう。良かった。ところで、王位継承権を持つ王子が、全員亡くなったみたいだけど」
「私も話には聞いております。この場合、リリー様に継承権が与えられますので、リリー様が継承する事になります。ですが、もしかすると、マリー様にも継承権が与えられる事になるかもしれません。その場合、正室のご息女であるマリー様が第一候補となります。そして、他に継承権が与えられた正室の子がいない限り、継承権の放棄は認められません」

 先程話していた内容を、カイトなら知っているだろうと思い訊いたが、ここまで詳しく説明されるとは、マリーも思っていなかった。
 そして、これはリリーも同じだったが、カイトの説明の最後の部分に関しては、唖然としていた。

「それじゃあ、私が、王族の血を引いている事がバレたら、確実に女王になるって事!?」
「そうなります」

 マリーは、本当に嫌そうな顔をする。

「まぁ、分かった。情報もありがとう。後、もう一つだけ訊きたいんだけど」
「何でございましょうか」
「私を殺そうとしていたのに、どうして守ってくれるだけじゃなくて、こうして従ってくれるの?」

 マリーの疑問は、至極当然のものだった。

「私は、国王陛下直属の隠密部隊を率いております。陛下の命令に背くことは、私の命、そして家族の命を危うくするものになります。私だけであれば、背きましたが、家族の命も掛かるとなれば、話は変わります。例え、自分の信念に背くことになってもです。私は、マリー様を森へ置き去りにした時も陛下のご命令で暗殺を企てた時も、マリー様とリリー様のご無事を祈り続けておりました。今更、このような言葉を伝えたところで、御身を危険に晒し、害そうとした事は事実。この戦争が終わり次第、私の命を如何様にしても構いません。ですが、ご無事に王都へと帰還するまでは、御身方の護衛をさせて頂きたい」

 カイトの懇願に、マリーはリリーと顔を見合わせる。

「う~ん……まぁ、良いよ。正直、この身体だと自分の身を守るのに苦労するし。本当に、私達を殺すっていう意図はないんだよね?」
「はっ。微塵もございません」

 カイトの言葉に頷くマリーの耳に、リリーは顔を近づける。

「良いんですの?」
「うん。言っている事は嘘じゃない気がするし。あっ、後、処罰とかは別に考えてないから。そういう権利はありそうだけど、正直裁きたいとかはないし。暗殺の心配とかがなくなるなら、それで良いよ」
「お姉様が良いのなら、良いんですが」
「取り敢えず、私が王族の血を引いているって事は、誰にも言わないで。それを守ってくれたら、後は自由にして良いから」
「寛大な処置痛み入ります」

 カイトは深々と頭を下げると、その場から消えた。護衛すると言っても、マリーとリリーの傍に常に控える訳では無く、そっと見守るという形式だった。
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