捨てられた王女は魔道具職人を目指す

月輪林檎

文字の大きさ
上 下
44 / 93
成長する王女

魔武闘大会(2)

しおりを挟む
 マリーと別れたコハクが、第一闘技場に到着すると、観客席の中で、一箇所だけ広く空けた場所を見つけた。そこには、アルの姿があった。

「アルさ~ん」
「コハクか」

 アルを見つけたコハクは、小走りで近寄っていく。

「私達、避けられてるね。何かしたのかな?」
「俺達が、Sクラスだからだろうな。敬遠しているのだろう」
「ああ……そういうこと」

 これは、アルの言うとおりだった。マリーの所でもそうだったが、Sクラスに所属しているというだけで、他のクラスからは敬遠されてしまう。Sクラスは、それだけ周りと隔絶した強さを持っているということだ。

「コハクは、第何試合だ?」
「二試合目だよ。アルさんは?」
「俺は、十五試合だな。この分だとブロックの決勝で戦うことになるか……」
「勝ち抜けばね」

 コハク達が話していると、カレナの説明が始まった。それを聞き終わると、審判役の先生が仕切り始める。そして、第一回戦が始まった。コハクとアルは、並んで試合を観ていた。

「長いね」
「互いの手札が拮抗しているからな。持久戦になってしまっている」
「普通は、手札を隠して、どこで切り出すかが重要になってくるもんね。それを最初にほとんど出しちゃうんだもん。こうなるよね」

 結局その試合は、制限時間いっぱいまで戦い、ダメージ量の多さで判定を下された。

『第二試合。Sクラス、コハク・シュモク。Bクラス、ジュン・カナゴン。所定の位置についてください』

 最初の試合が終わったので、コハクの番が来た。

「じゃあ、行ってくるね」
「ああ」

 コハクは、観客席を立って闘技場まで降りていく。そして、所定の位置に立つと、正面にいるのは剣を持った男だった。

「何だよ。Sクラスだからって警戒したら、女じゃねぇか」
「文句でもありますか?」

 苛ついたコハクが、丁寧に訊いた。Bクラスのジュンは、ニヤニヤしながら答える。

「お前みたいな奴が、Sクラスとは笑わせてくれるって言ってんだよ!」

 コハクは、何も返事をしなかった。ただただ、所定の位置で待っているだけだった。ジュンは、面白くなさそうに鼻を鳴らす。

『では、第二試合。始め!』

 合図とともにジュンが走り出した。剣を振り上げ、コハクに叩きつけようとする。何故か勝利を確信しているジュンの顔に笑みが浮かぶ。しかし、コハクがその餌食になる事は無かった。

「ぐふっ!」

 剣を振り上げたタイミングで縮地をしたコハクが、その腹に膝蹴りをぶち込んでいた。ジュンは、息が詰まり膝を突く。
 コハクは、さらに追い打ちを掛ける。膝を突き、前のめりになったことで丁度いい高さになったジュンの頭を思いっきり蹴った。

「うぐっ……」

 側頭部を蹴られたジュンは、横に一回転して、地面に倒れる。何とか起きようとしていたが、叶わず気絶してしまった。

『そこまで! 勝者コハク・シュモク!』

 試合が終わったのでコハクは、アルがいる観客席まで戻る。気絶したジュンには、一切見向きもしない

「エグいことをするな」
「あっちから挑発してきたんだから、因果応報でしょ」
「そのせいで、コハクを警戒する人が増えたぞ」
「勝手にすれば良いんだよ。女の子だからって、弱いと決めつけるんだから」

 それから少しの間コハクの機嫌は、直ることはなかった。アルも無理に話しかけることなく、試合を観ていた。
 試合は進んで行き、ようやくアルの出番がやって来た。アルの相手は、Aクラスの人だった。模擬戦でも何回か戦っている。

「今日こそは倒させて貰うぞ!」
「俺も負けられないからな。遠慮させてもらう」

 二人は、所定の位置につく。

『では、始め!』

 Aクラスの方が先に仕掛けてくる。

「はあああああ!!」

 剣による薙ぎ払いで、アルを攻撃する。しかし、その一撃は、簡単に防がれる。それどころか、そのまま受け流されてバランスを崩すこととなった。

「しまった!」

 アルがそんな隙を見逃すはずもなく、的確に急所へ攻撃され、対戦相手は気絶した。

「いつも張り切っているが、行動がワンパターンすぎる」

 聞こえてないと知りながら、アルはそう言い残して観客席に向かう。

 ────────────────────────

 Sクラスは、全員三回戦を突破することが出来た。うまく離れていたようで、それぞれのブロックの決勝か本戦でぶつかることになる。

『これにて、魔武闘大会初日を終えます。準決勝に進出した生徒は、明日に備えてゆっくり休んでください。負けてしまった生徒は、観戦しても休んでいても大丈夫です。大会が終わるまで自由にしていてください。あ、勉強はしておいてくださいね。学業も大事ですから』

 カレナの声が響き渡る。今日の試合を全て消化したからだ。

「う~ん、明日も試合かぁ」

 マリーは、身体をほぐしながら歩いていた。コハクと合流するために、教室の方向に向かっているのだった。学院の入り口付近は、他の生徒でごった返しているので、そっちの方が集まりやすい。
 マリーが教室に着くと、いつもの席に全員が揃っていた。

「あれ? 皆どうしたの?」
「人がいなくなるのを待っているんだ。あの状態じゃ、帰りにくいからな」
「ああ……そういうこと」

 マリーも自分の席に座る。

「皆は、勝ったの?」
「ええ! 私達全員全勝していますわ!」

 リリーが胸を張って答える。他の面々も頷いて答える。

「じゃあ、明日のブロック決勝で戦う感じなんだ?」
「そうだね。マリーさん以外は、戦う可能性があるね」
「まだ、分からないがな。準決勝まで残った相手が強い可能性も捨てきれない」

 アルは、真面目にそう言った。実際に、そう考えているので嫌みで言っているのではない。

「セレナとアイリは、同じブロックだったよね?」
「そうだよ。アイリとの真面目な戦いは、久しぶりだからね。ちょっと楽しみ!」
「私は、今から胃が痛くなってくるよ。相性が悪いんだもん……」

 セレナは張り切っているが、アイリは沈んだ表情になっている。

「アイリは、まだマシだよ。私なんてアルさんだからね。勝つつもりだけど、絶望感は強いよ」
「それを言ったら、私はリンさんですのよ……」

 アイリ、コハク、リリーは、互いの対戦相手を思い出しながら絶望に打ちひしがれている。

「クラスメイトに絶望を与えるなんて……三人ともヤバいね!」
「マリーに言われたくないぞ」

 マリーが、若干引き気味に言うと、アルがすかさずに言い返す。そして、アルの意見にセレナとリンが同意した。

「……まぁ、明日は皆それぞれがんばろ!」

 皆の視線に耐えきれずに、マリーがぎこちない笑顔でそう言う。皆の胸中は、

(話を逸らしたな)

 で一致していた。そして次の日、Sクラス同士での激しい戦闘が巻き起こることになった。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

処理中です...