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成長する王女
魔武闘大会(1)
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マニカの義手は、装着から二週間経っても、異常を起こすことはなかった。マニカもきちんと、マリーに言われた通りのメンテナンスをしている。
そして、戦闘許可が出てからも、マニカの義手に異常はない。少し乱暴に扱わないといけないこともあったらしいが、それを経ても問題なく動く。マリーの検査でも、それによって起こった異常は無かった。
マリーが、マニカの義手を作ってから一ヶ月が経った。今日は、義手の定期点検の日だ。
「マリーちゃんの義手、調子良いよ」
「そう? 良かった。少し見せてくれる?」
マニカは、義手をマリーの方向に伸ばす。マリーは、袖を捲って、装甲の状態と中の魔法陣の確認を行う。
「うん。きちんと魔力が滞りなく流れてるね。メンテナンスは、欠かしてないみたい。ただ、また剣を腕で止めた?」
「ぎくっ!」
マリーのジト眼にマニカは目線を逸らす。
「ほんの少しだけ傷があるよ。このくらいなら大丈夫だけど、あまりやり過ぎると、装甲を直さないといけないんだからね」
「分かりました」
マリーに叱られ、マニカは反省する。二人は、少し世間話をすると、それぞれの教室に戻っていった。
そして、帰りのホームルームが始まる。
「さて、明日から、とうとう魔武闘大会です。今日は、ゆっくり休んで英気を養ってください。遅くまで、ここでたむろしていちゃだめですよ。明日は、万全の状態で来てくださいね」
カレナは、そう言うとすぐに教室を出て行った。明日の準備もあるので、忙しいのだろう。
「じゃあ、先生に言われたとおり、早めに帰ろうか」
マリーのその一言で、皆帰宅した。今日は、カーリーが帰ってこないので、マリーとコハクでご飯を食べる。
「明日は大丈夫そう?」
「どうだろう? 魔道具も有りだから、全力は出せるけど。お母さんもやるになら、優勝してこいって言ってたし」
「私にも言ってたけどね」
カーリーは、マリーとコハクどっちらにも優勝しろと言っていた。そのくらいの意気で頑張れということだろう。
「もしかしたら、私とコハクは、決勝で戦うかもしれないね」
「それって、アルさんとリンさんを倒していることが前提だね」
「ああ……そうだった。戦闘力化け物の二人がいたんだった……」
「マリーも人のこと言えないけどね」
コハクの言葉に眼を見張るマリー。
「私は、そんな事無いよ。全力出さなかったら……」
「ほら!」
「でも、コハクもでしょ! 実は強い人と戦えるかもって思っているくせに」
「まぁね。リンさんやアルさんにリベンジもしたいからね。全力を出せるなら、話は別だもの」
マリーとコハクは、わやわやと話しながらご飯を食べ、お風呂に入った後、それぞれの寝室で就寝した。
────────────────────────
魔武闘大会当日。
マリー達は、学院に向かう。大会の会場は、学院にある闘技場だ。模擬戦では、第二闘技場まで使ったが、今回は第八闘技場まで使用する。その内、学院の敷地内にあるのは、第五闘技場までだ。それ以降は、少し離れた所に造られている。
マリー達は、まず初めに学院に赴いてトーナメント表の確認をしなければならない。トーナメントは、学年ごとに四ブロックに分かれている。
「マリーは、何ブロック?」
「ええっと、Dブロックだね。コハクは?」
「私はAだったよ。これだと、決勝か準決勝で会うね」
「全部勝てればね」
「私は、第四だね。他の皆は……セレナとアイリがBで、リリーとリンくんがC、アルくんは?」
「ああ……Aだ……」
コハクの顔が引きつる。今のところ、アルに勝てたのは、マリーだけだ。それも剣舞を使ってようやくなので、使わないで戦っている模擬戦で勝てたことはない。
「頑張れ! コハクなら勝ち目はあると思うよ!」
「速さでの翻弄で、どうにか出来ればね。よし、今度こそじゃあね」
「うん、互いにがんばろう!」
マリーとコハクは、ハイタッチをしてから別れて、互いの闘技場まで向かった。マリーが向かった第四闘技場には、多くの人が集まっていた。
「知り合いは……」
マリーは、周りを見回して知り合いを探す。しかし、この場に知り合いは一人もいなかった。Sクラスの皆は、それぞれ別の闘技場にいる。模擬戦で一緒のAクラスの人はいるが、話したことがない人ばかりだった。
「……うん、大人しくしておこう。何故か、じろじろ見られてるけど」
マリーが、ここに来たときから、周りの人達は、マリーをちらっと見たり、遠巻きにじっと見たりとしているのだが、マリーに近づこうとはしない。
「そんなに敵視されるようなことしたっけ?」
マリーは、全く気付いていなかったが、皆は、マリーを敵視しているわけではなく。このブロック唯一のSクラスなので、近寄りがたくなっているだけだった。
マリーが、ぼーっとしていると、急に声が響き渡った。
『あー、あー、聞こえてるかい? まぁ、魔力は通ってるから大丈夫そうだね。んじゃ、後は、あんたの役目さね』
『え!? わ、わかりました』
マリーは、声が出ている場所を見る。そこには、拡声器が取り付けられていた。そこから、この場にはいないカーリーとカレナの声が聞こえているのだ。
(あれって、お母さんが新しく作ってたスピーカーかな? 最新式にするって言ってたけど、何を変えたんだろう? マイクと繋がる範囲の拡張かな? 私が作った盗聴器みたいにしてるのかも……って事は、私が作ったものって、そこまで新しいものじゃなかった!? うぅ……お母さんの頭の中が見てみたい……)
マリーは、前にカーリーが家で作っていたと思い出しながら、自分との格差を認識して、勝手に落ち込んでいた。そんな間もカレナの話は続く。
『ええ~と、これより、第八十九回魔武闘大会を行います。今日は、一年と二年のA~Dブロックの三回戦まで行います。試合の進行によっては、次の日に持ち越しになる試合もありますので、覚えておいて下さい。試合時間は最大十分です。相手を気絶、あるいは降参させることで勝利となります。制限時間を越える場合、審判がダメージ量を考え、判定を下します。ただ、今年度よりダメージ変換結界を使用することになりました。それに伴って、急所攻撃も解禁されました。以上が今回の大会の説明を終えます。各会場の審判を務める先生に従ってください』
カレナによる大会の説明が終わった。変更点として、前大会まで使用されなかったダメージ変換結界が使用される事になった。
「何かあったのかな? まぁ、安全性を考えれば当然だと思うけど」
マリーが疑問に思っていると、闘技場の中央に先生が現れた。
『早速、第一試合を始めます。Cクラス、カスミ・ハルナ。Sクラス、マリー・ラプラス。闘技場に入場してください』
マリーは、名前を呼ばれたので、観客席から降りて行った。闘技場に降りたマリーの前には、青い顔で震えている女の子がいた。
「よ、よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」
どう見ても緊張しているカスミが、勢いよく頭を下げる。マリーも頭を下げる。
『所定の位置についてください』
マリーとカスミが、間に二十メートル開けて向かい合う。審判の先生が、二人が所定の位置に着いたことを確認する。
『では、はじめ!』
合図ともに、二人が動き出す。
「炎よ・彼の者を穿て『炎弾《ファイアバレット》』!!」
まだ、短縮詠唱が出来ないカスミは、しっかりと詠唱をしながら炎の弾を放つ。しかし、炎弾が通った場所に、マリーの姿はなかった。
「あれ?」
カスミが呆けている内に、マリーは、懐に潜り込んでいた。靴の魔道具を使って、炎弾の下を潜り抜けて来た事で、カスミの視界からは一瞬で消えたように見えていたのだ。
「嘘!?」
カスミは、マリーが自分の懐にいることに驚き、動きが止まる。そんな隙をマリーが見逃すわけもなく、カスミの腹に掌底をぶち込む。
「うっ!」
カスミは、白目を剥きながら十メートルほど飛んでいった。
「うわ……すごい威力……」
これには、マリー自身も驚きを禁じ得なかった。
「お母さんには、あまり効果が無いのに……魔闘術って、こんなに威力があるんだ」
カスミは、地面に伏したまま動かなかった。審判役の先生も観客の生徒達も目を剥いて、固まってしまった。観客席よりも早く我に返った先生が慌てて判定を下す。
『そこまで! 勝者マリー・ラプラス!』
『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
観客がマリーの勝利に沸く。しかし、観客達は気付いていなかった。勝ち上がってしまえば、このマリーの相手をしなくてはいけないことに……
そして、戦闘許可が出てからも、マニカの義手に異常はない。少し乱暴に扱わないといけないこともあったらしいが、それを経ても問題なく動く。マリーの検査でも、それによって起こった異常は無かった。
マリーが、マニカの義手を作ってから一ヶ月が経った。今日は、義手の定期点検の日だ。
「マリーちゃんの義手、調子良いよ」
「そう? 良かった。少し見せてくれる?」
マニカは、義手をマリーの方向に伸ばす。マリーは、袖を捲って、装甲の状態と中の魔法陣の確認を行う。
「うん。きちんと魔力が滞りなく流れてるね。メンテナンスは、欠かしてないみたい。ただ、また剣を腕で止めた?」
「ぎくっ!」
マリーのジト眼にマニカは目線を逸らす。
「ほんの少しだけ傷があるよ。このくらいなら大丈夫だけど、あまりやり過ぎると、装甲を直さないといけないんだからね」
「分かりました」
マリーに叱られ、マニカは反省する。二人は、少し世間話をすると、それぞれの教室に戻っていった。
そして、帰りのホームルームが始まる。
「さて、明日から、とうとう魔武闘大会です。今日は、ゆっくり休んで英気を養ってください。遅くまで、ここでたむろしていちゃだめですよ。明日は、万全の状態で来てくださいね」
カレナは、そう言うとすぐに教室を出て行った。明日の準備もあるので、忙しいのだろう。
「じゃあ、先生に言われたとおり、早めに帰ろうか」
マリーのその一言で、皆帰宅した。今日は、カーリーが帰ってこないので、マリーとコハクでご飯を食べる。
「明日は大丈夫そう?」
「どうだろう? 魔道具も有りだから、全力は出せるけど。お母さんもやるになら、優勝してこいって言ってたし」
「私にも言ってたけどね」
カーリーは、マリーとコハクどっちらにも優勝しろと言っていた。そのくらいの意気で頑張れということだろう。
「もしかしたら、私とコハクは、決勝で戦うかもしれないね」
「それって、アルさんとリンさんを倒していることが前提だね」
「ああ……そうだった。戦闘力化け物の二人がいたんだった……」
「マリーも人のこと言えないけどね」
コハクの言葉に眼を見張るマリー。
「私は、そんな事無いよ。全力出さなかったら……」
「ほら!」
「でも、コハクもでしょ! 実は強い人と戦えるかもって思っているくせに」
「まぁね。リンさんやアルさんにリベンジもしたいからね。全力を出せるなら、話は別だもの」
マリーとコハクは、わやわやと話しながらご飯を食べ、お風呂に入った後、それぞれの寝室で就寝した。
────────────────────────
魔武闘大会当日。
マリー達は、学院に向かう。大会の会場は、学院にある闘技場だ。模擬戦では、第二闘技場まで使ったが、今回は第八闘技場まで使用する。その内、学院の敷地内にあるのは、第五闘技場までだ。それ以降は、少し離れた所に造られている。
マリー達は、まず初めに学院に赴いてトーナメント表の確認をしなければならない。トーナメントは、学年ごとに四ブロックに分かれている。
「マリーは、何ブロック?」
「ええっと、Dブロックだね。コハクは?」
「私はAだったよ。これだと、決勝か準決勝で会うね」
「全部勝てればね」
「私は、第四だね。他の皆は……セレナとアイリがBで、リリーとリンくんがC、アルくんは?」
「ああ……Aだ……」
コハクの顔が引きつる。今のところ、アルに勝てたのは、マリーだけだ。それも剣舞を使ってようやくなので、使わないで戦っている模擬戦で勝てたことはない。
「頑張れ! コハクなら勝ち目はあると思うよ!」
「速さでの翻弄で、どうにか出来ればね。よし、今度こそじゃあね」
「うん、互いにがんばろう!」
マリーとコハクは、ハイタッチをしてから別れて、互いの闘技場まで向かった。マリーが向かった第四闘技場には、多くの人が集まっていた。
「知り合いは……」
マリーは、周りを見回して知り合いを探す。しかし、この場に知り合いは一人もいなかった。Sクラスの皆は、それぞれ別の闘技場にいる。模擬戦で一緒のAクラスの人はいるが、話したことがない人ばかりだった。
「……うん、大人しくしておこう。何故か、じろじろ見られてるけど」
マリーが、ここに来たときから、周りの人達は、マリーをちらっと見たり、遠巻きにじっと見たりとしているのだが、マリーに近づこうとはしない。
「そんなに敵視されるようなことしたっけ?」
マリーは、全く気付いていなかったが、皆は、マリーを敵視しているわけではなく。このブロック唯一のSクラスなので、近寄りがたくなっているだけだった。
マリーが、ぼーっとしていると、急に声が響き渡った。
『あー、あー、聞こえてるかい? まぁ、魔力は通ってるから大丈夫そうだね。んじゃ、後は、あんたの役目さね』
『え!? わ、わかりました』
マリーは、声が出ている場所を見る。そこには、拡声器が取り付けられていた。そこから、この場にはいないカーリーとカレナの声が聞こえているのだ。
(あれって、お母さんが新しく作ってたスピーカーかな? 最新式にするって言ってたけど、何を変えたんだろう? マイクと繋がる範囲の拡張かな? 私が作った盗聴器みたいにしてるのかも……って事は、私が作ったものって、そこまで新しいものじゃなかった!? うぅ……お母さんの頭の中が見てみたい……)
マリーは、前にカーリーが家で作っていたと思い出しながら、自分との格差を認識して、勝手に落ち込んでいた。そんな間もカレナの話は続く。
『ええ~と、これより、第八十九回魔武闘大会を行います。今日は、一年と二年のA~Dブロックの三回戦まで行います。試合の進行によっては、次の日に持ち越しになる試合もありますので、覚えておいて下さい。試合時間は最大十分です。相手を気絶、あるいは降参させることで勝利となります。制限時間を越える場合、審判がダメージ量を考え、判定を下します。ただ、今年度よりダメージ変換結界を使用することになりました。それに伴って、急所攻撃も解禁されました。以上が今回の大会の説明を終えます。各会場の審判を務める先生に従ってください』
カレナによる大会の説明が終わった。変更点として、前大会まで使用されなかったダメージ変換結界が使用される事になった。
「何かあったのかな? まぁ、安全性を考えれば当然だと思うけど」
マリーが疑問に思っていると、闘技場の中央に先生が現れた。
『早速、第一試合を始めます。Cクラス、カスミ・ハルナ。Sクラス、マリー・ラプラス。闘技場に入場してください』
マリーは、名前を呼ばれたので、観客席から降りて行った。闘技場に降りたマリーの前には、青い顔で震えている女の子がいた。
「よ、よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」
どう見ても緊張しているカスミが、勢いよく頭を下げる。マリーも頭を下げる。
『所定の位置についてください』
マリーとカスミが、間に二十メートル開けて向かい合う。審判の先生が、二人が所定の位置に着いたことを確認する。
『では、はじめ!』
合図ともに、二人が動き出す。
「炎よ・彼の者を穿て『炎弾《ファイアバレット》』!!」
まだ、短縮詠唱が出来ないカスミは、しっかりと詠唱をしながら炎の弾を放つ。しかし、炎弾が通った場所に、マリーの姿はなかった。
「あれ?」
カスミが呆けている内に、マリーは、懐に潜り込んでいた。靴の魔道具を使って、炎弾の下を潜り抜けて来た事で、カスミの視界からは一瞬で消えたように見えていたのだ。
「嘘!?」
カスミは、マリーが自分の懐にいることに驚き、動きが止まる。そんな隙をマリーが見逃すわけもなく、カスミの腹に掌底をぶち込む。
「うっ!」
カスミは、白目を剥きながら十メートルほど飛んでいった。
「うわ……すごい威力……」
これには、マリー自身も驚きを禁じ得なかった。
「お母さんには、あまり効果が無いのに……魔闘術って、こんなに威力があるんだ」
カスミは、地面に伏したまま動かなかった。審判役の先生も観客の生徒達も目を剥いて、固まってしまった。観客席よりも早く我に返った先生が慌てて判定を下す。
『そこまで! 勝者マリー・ラプラス!』
『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
観客がマリーの勝利に沸く。しかし、観客達は気付いていなかった。勝ち上がってしまえば、このマリーの相手をしなくてはいけないことに……
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