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成長する王女
調べ物
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授業が終わった後、アルは、一人帰路についた。そして、リリーから聞いた、不老不死の法について考えていた。
(国王が、不老不死の法を探しているか……確か、黄騎士の連中が探していると噂で聞いたな。あの時は、根も葉もないものだと思っていたが、リリーの話を聞くに本当のようだな)
黄騎士の家系は、研究機関を運営している騎士団だ。研究内容は、薬や魔法、鍛造、戦法など多岐にわたる。その中で、禁忌の魔法や薬を研究する機関が存在するという噂がある。
(何故、国王は、王位に執着しているんだ? 今まで、同じような国王はいなかった。いや、記録にないだけで、全ての王が執着していたのかもしれないな)
考え事をしている内に、アルは自宅の屋敷へと着いた。
「ただいま」
『お帰りなさいませ! アルゲート様!』
「ああ、父上はいらっしゃるか?」
「はい。執務室でお仕事なさっています」
出迎えたメイド、執事の中で一番若いメイドが返事をする。そのメイドは、アルの専属メイドで、名前をマーガレットと言う。
「わかった。ありがとう、マーガレット」
「いえ、このまま行かれますか?」
「ああ、少し話があってな。その後も書庫に行くから、しばらくは自由にしてくれ」
「かしこまりました」
マーガレットは恭しくお辞儀をする。アルはそれを見てから、父のいる執務室に向かう。そして、執務室の扉をノックする。
「父上! アルゲートです!」
「入れ」
アルは、扉を開けて執務室に入る。そこには、アルの父であるグラスフリート・ディラ・カストルの姿があった。黒髪黒眼で深いしわが刻まれた、その顔はとても厳格な人物であろう事が窺える。
「父上にお願いがあり来ました」
「どうした?」
「クリンウッドの研究資料の閲覧を許可して頂きたいです」
「何の資料だ?」
クリンウッドの研究資料のほとんどは、各騎士団に渡されている。先代の国王が決めたもので、各騎士団の差を減らそうとしていたのだ。実際には、あまり効果は無かったのだが。
「不老不死の法について」
「ん? あの研究は、かなり前に終わっているものだぞ?」
「ええ、確認しておきたいことがございまして」
「ふむ」
グラスフリートは、顎に手を当てて考え込む。アルの真意を見抜こうとしているのだ。だが、少しすると、顔の力を抜き優しそうな顔になる。
「お前の真意は、私でも見抜けないな。誰か大切な人でも出来たか?」
これがグラスフリートの父としての本当の顔だ。さっきの厳格そうな顔は、仕事モードの時だった。そのため、グラスフリートは、周りの人から親馬鹿と言われることも、しばしばある。ただ、親馬鹿だからといって、全ての息子に同じように接するわけではなかった。
「大切な人ですか……確かに、そうなのかもしれませんね。あいつは、放っておく事は出来ませんから」
「……」
グラスフリートは、面食らった顔をする。アルが、こんなことを言うとは思っていなかったからだ。
「どうしましたか、父上?」
「いや、何でも無い。お前がこんなに成長しているとはな。よし、閲覧を許可しよう。ただし、悪事を行うことは許さんぞ」
「はい、分かっています。では、失礼します」
アルは、執務室を離れる。
「アルに、大切な人が出来たか。あの様子では、好意という意味で言ったんでは無いんだろうな。無自覚か……余計なお世話はしないように気を付けねば」
グラスフリートは、執務室で一つの誓いを立てたのだった。
────────────────────────
アルは、グラスフリートからの許可を得たため、書庫へと赴いていた。その道のりの途中、アルは一人の男と会った。
「アルゲート、勉強か?」
「いえ、兄上。少し調べ事です」
「そうか、精進しろよ」
本当に短い会話だったが、これが二人の基本的な会話だ。その男の名は、クリスハート・ディラ・カストル、カストル家の長男だ。黒髪黒眼で、メガネを掛けた知的な男だ。現在は、グラスフリートの補佐をやっている。
クリスハートとすれ違い、書庫に着いた。かなり広い書庫だったが、迷い無く歩いていく。
「これか……」
アルは、本棚から一つのファイルを取り出して読む。そのファイルには、『不老不死について』と書かれている。
「やはり、不老不死の法は存在しないと締めくくられているな。だが、この方法についての研究も行われているな」
アルが探していた記述、それは……
「人の身体を乗っ取って生き続ける。だが、そもそも、その方法が見付からずに研究の打ち切りか。他の方法は、薬系だが……これも有効的な効能を見つけられずに打ち切り。だが、これらが今も続いている可能性か……」
アルは、この中の人の身体を乗っ取る方法について、黄騎士達が研究している可能性を疑っている。
「他の研究はどうなんだ?」
アルは不老不死以外の研究も調べ始める。その他の研究は、実用段階までこぎ着けたものがほとんどだった。
「だめか。そもそも、身体を乗っ取るとはどういうことなんだ? 精神の入れ替え、いや、魂の入れ替えと考える方が正しいか?」
アルは、そこからものすごい勢いで、調べ物を進めていく。自分の知りたい情報に関する本を片っ端から読んでいった。そして、アル結論を得る。
「不老不死の法は……あるのか。だが方法が確立していない。だから、クリンウッドに命令して探っている最中ということか。特に、この乗っ取りだな。霊魂系の魔物が持っているこの能力を利用か……国王が、マリーを敵視する理由は、その見た目か? マリーの姿で王になったところで、何かしらの批判が来る可能性が高いからな。王族の特徴である金髪碧眼は、必須という所か……マリーを捨てた時から、王位に執着していたと考えれば、納得はいくな」
アルが、読んでいた本などを仕舞っていると、マーガレットが書庫に入ってきた。
「アルゲート様。そろそろ夕食の時間です」
「ああ、分かった。片付けたら、向かおう」
「お手伝い致します」
アルは、マーガレットと二人で読んでいた本を片付けていく。マーガレットに手伝ってもらっても、三十分程掛かる量だった。
「沢山お読みになりましたね……幽霊にご興味が?」
マーガレットが片付けていた本の題名を見てそう質問する。
「まぁ、そうだな。霊の特徴を調べていたんだが、最終的に霊の種類なども調べることになった」
「アルゲート様は、本当によく分からないですね」
「……どういう意味だ?」
アルは、マーガレットに言われたことを理解出来ずに聞き返した。
「アルゲート様のお考えが分からないという意味です」
「父上にも言われたな。そんなか?」
「そんなです」
アルは、少し不服そうな顔をするが、それ以上何も言わない。一見無礼にも思えるマーガレットの言動だが、他ならぬアルが、そうしろと命令したので誰も咎めることはない。
アルは、変に畏まれるよりも普通に接してくれた方が、アル自身も楽だからそう命令した。
「さて、じゃあ、食堂に向かうか」
「そうですね」
アルは、マーガレットを連れて、食堂に向かった。アルの顔には、学院にいた頃よりも表情は和らいでいた。
────────────────────────
マリーは、自宅に帰ると、すぐに工房に向かった。そこで、義手の設計を見直している。
「この構造は、強度に問題がありそう」
義手の強度は、かなり重要になってくる。特にマニカは、学院に在籍するので、戦闘を行うことも多くなる。なので、簡単に壊れてしまうのは、問題となる。
「全部の部品に、強度強化は掛けるけど、そもそもの構造から頑丈な方が絶対いいよね。配線も考え直そう」
マリーは、設計図を全て書き直していく。時折、カーリーの書斎に向かって、設計の仕方や構造的に欠陥がないように、いろんな設計図を見ていく。
「ここ、使えそう。ここも、使えるかな。うん、この材料なら、軽くも出来るかも」
そして、色々な本を読んでいる内に、ある紙の束を見つける。
「『多重構造魔法陣の形成の仕方』って、これ、お母さんの論文!?」
マリーは、その中身を必死に読む。
「これは……暗号化されてるじゃん!!」
最初の文章から支離滅裂なことが書かれており、マリーは頭を抱える。
「解読からやらなきゃ、時間は掛かるけど、それが一番だよね。これが出来ると出来ないじゃ、義手の完成度に関わってくるし……」
マリーは、カーリーの論文の解読に挑む。カーリーの書斎には、暗号についての本も存在した。それを、読んで解読しようとするが、そのどれもカーリーの暗号に当てはまらない。
「必要なのは暗号解読の本じゃなくて、お母さんの他の論文か!」
カーリーの暗号は、独自に作ったものだというのが、マリーの考えだった。マリーは、書斎にあるカーリーの論文を探し出して、暗号の解読を進める。
「こことここの符号は同じ、こっちも同じ。でも、こっちは似ているだけで、全く別の符号。こっちは、こっちで違う。う~ん、複雑すぎる。解読には、かなりの時間が必要かな」
マリーは、虫食いに暗号を解読したが、概要すら分からない。
「……リー、……マリー、……マリー!」
遠くで呼ぶ声が聞こえたかと思えば、段々と近づいてきた。マリーは、読んでいた論文などを仕舞って書斎から出る。
「マリー! いた! もう、何回も呼んでるのにいないから、焦ったよ」
「ごめん、ごめん。それで何?」
「ご・は・ん!」
「ああ、ごめん」
マリーは、コハクと食堂に向かう。今日は、カーリーが学院に泊まりなので、二人きりの食事だ。
「それで、義手の製作はどうなの?」
「まだかな。試作品で動かせることは分かったけど、強度とかそういった問題がね」
「解決しそう?」
「解決できるかもしれないんだけど、お母さんの論文が暗号化されていてね」
今日の話題は、マリーの魔道具作りだった。
────────────────────────
それから、二週間後……
「ようやく解けた!!」
マリーは、書庫で立ち上がって興奮した。ようやく、カーリーの論文の暗号が解けたのだ。
「それにしても、こんな法則なんて……お母さんの頭はどうなってるんだろう?」
「私の頭がなんだって?」
「うきゃぁ!」
マリーは、いきなり後ろから声がして驚いた。
「お母さん、脅かさないでよ……」
「脅かしたつもりはないんだけどね。それで、何を読んでいたんだい?」
カーリーは、マリーの後ろからマリーが読んでいたものを覗く。
「ん? これは、私の論文だね。それも、多重構造のものかい。読めるのかい?」
「うん! 今、読めるようになった!」
「それで、大声を上げてたのさね。使えそうかい?」
「多分ね。色々試してみてからだけど」
「そうするといいさね。それと、マニカの退院日が決まったさね」
カーリーの口から出た言葉に、マリーが驚いてカーリーに詰め寄る。
「いつ!?」
「再来週の初めさね。それまでは、いくつかの検査を何日にも分けて行うからね。面会もあまり出来ないさね」
「うん、わかった!」
あれから、マリーは、何回かマニカの病室に行って、魔力置換の練習を何回か行っていた。
その結果、置換を成功させることは出来た。本番でも問題はないだろう。
「後は、私が義手を完成させるだけだね……」
マリーは、もう一度気合いを入れるために、頬を張る。
「お母さん、ごめん! 私、工房に行くね!」
「ご飯の時は、ちゃんと来るんだよ」
「分かった!」
「本当に分かったのかね……?」
マリーは、書斎を片付けて、工房へと向かった。義手を完成させるために。
(国王が、不老不死の法を探しているか……確か、黄騎士の連中が探していると噂で聞いたな。あの時は、根も葉もないものだと思っていたが、リリーの話を聞くに本当のようだな)
黄騎士の家系は、研究機関を運営している騎士団だ。研究内容は、薬や魔法、鍛造、戦法など多岐にわたる。その中で、禁忌の魔法や薬を研究する機関が存在するという噂がある。
(何故、国王は、王位に執着しているんだ? 今まで、同じような国王はいなかった。いや、記録にないだけで、全ての王が執着していたのかもしれないな)
考え事をしている内に、アルは自宅の屋敷へと着いた。
「ただいま」
『お帰りなさいませ! アルゲート様!』
「ああ、父上はいらっしゃるか?」
「はい。執務室でお仕事なさっています」
出迎えたメイド、執事の中で一番若いメイドが返事をする。そのメイドは、アルの専属メイドで、名前をマーガレットと言う。
「わかった。ありがとう、マーガレット」
「いえ、このまま行かれますか?」
「ああ、少し話があってな。その後も書庫に行くから、しばらくは自由にしてくれ」
「かしこまりました」
マーガレットは恭しくお辞儀をする。アルはそれを見てから、父のいる執務室に向かう。そして、執務室の扉をノックする。
「父上! アルゲートです!」
「入れ」
アルは、扉を開けて執務室に入る。そこには、アルの父であるグラスフリート・ディラ・カストルの姿があった。黒髪黒眼で深いしわが刻まれた、その顔はとても厳格な人物であろう事が窺える。
「父上にお願いがあり来ました」
「どうした?」
「クリンウッドの研究資料の閲覧を許可して頂きたいです」
「何の資料だ?」
クリンウッドの研究資料のほとんどは、各騎士団に渡されている。先代の国王が決めたもので、各騎士団の差を減らそうとしていたのだ。実際には、あまり効果は無かったのだが。
「不老不死の法について」
「ん? あの研究は、かなり前に終わっているものだぞ?」
「ええ、確認しておきたいことがございまして」
「ふむ」
グラスフリートは、顎に手を当てて考え込む。アルの真意を見抜こうとしているのだ。だが、少しすると、顔の力を抜き優しそうな顔になる。
「お前の真意は、私でも見抜けないな。誰か大切な人でも出来たか?」
これがグラスフリートの父としての本当の顔だ。さっきの厳格そうな顔は、仕事モードの時だった。そのため、グラスフリートは、周りの人から親馬鹿と言われることも、しばしばある。ただ、親馬鹿だからといって、全ての息子に同じように接するわけではなかった。
「大切な人ですか……確かに、そうなのかもしれませんね。あいつは、放っておく事は出来ませんから」
「……」
グラスフリートは、面食らった顔をする。アルが、こんなことを言うとは思っていなかったからだ。
「どうしましたか、父上?」
「いや、何でも無い。お前がこんなに成長しているとはな。よし、閲覧を許可しよう。ただし、悪事を行うことは許さんぞ」
「はい、分かっています。では、失礼します」
アルは、執務室を離れる。
「アルに、大切な人が出来たか。あの様子では、好意という意味で言ったんでは無いんだろうな。無自覚か……余計なお世話はしないように気を付けねば」
グラスフリートは、執務室で一つの誓いを立てたのだった。
────────────────────────
アルは、グラスフリートからの許可を得たため、書庫へと赴いていた。その道のりの途中、アルは一人の男と会った。
「アルゲート、勉強か?」
「いえ、兄上。少し調べ事です」
「そうか、精進しろよ」
本当に短い会話だったが、これが二人の基本的な会話だ。その男の名は、クリスハート・ディラ・カストル、カストル家の長男だ。黒髪黒眼で、メガネを掛けた知的な男だ。現在は、グラスフリートの補佐をやっている。
クリスハートとすれ違い、書庫に着いた。かなり広い書庫だったが、迷い無く歩いていく。
「これか……」
アルは、本棚から一つのファイルを取り出して読む。そのファイルには、『不老不死について』と書かれている。
「やはり、不老不死の法は存在しないと締めくくられているな。だが、この方法についての研究も行われているな」
アルが探していた記述、それは……
「人の身体を乗っ取って生き続ける。だが、そもそも、その方法が見付からずに研究の打ち切りか。他の方法は、薬系だが……これも有効的な効能を見つけられずに打ち切り。だが、これらが今も続いている可能性か……」
アルは、この中の人の身体を乗っ取る方法について、黄騎士達が研究している可能性を疑っている。
「他の研究はどうなんだ?」
アルは不老不死以外の研究も調べ始める。その他の研究は、実用段階までこぎ着けたものがほとんどだった。
「だめか。そもそも、身体を乗っ取るとはどういうことなんだ? 精神の入れ替え、いや、魂の入れ替えと考える方が正しいか?」
アルは、そこからものすごい勢いで、調べ物を進めていく。自分の知りたい情報に関する本を片っ端から読んでいった。そして、アル結論を得る。
「不老不死の法は……あるのか。だが方法が確立していない。だから、クリンウッドに命令して探っている最中ということか。特に、この乗っ取りだな。霊魂系の魔物が持っているこの能力を利用か……国王が、マリーを敵視する理由は、その見た目か? マリーの姿で王になったところで、何かしらの批判が来る可能性が高いからな。王族の特徴である金髪碧眼は、必須という所か……マリーを捨てた時から、王位に執着していたと考えれば、納得はいくな」
アルが、読んでいた本などを仕舞っていると、マーガレットが書庫に入ってきた。
「アルゲート様。そろそろ夕食の時間です」
「ああ、分かった。片付けたら、向かおう」
「お手伝い致します」
アルは、マーガレットと二人で読んでいた本を片付けていく。マーガレットに手伝ってもらっても、三十分程掛かる量だった。
「沢山お読みになりましたね……幽霊にご興味が?」
マーガレットが片付けていた本の題名を見てそう質問する。
「まぁ、そうだな。霊の特徴を調べていたんだが、最終的に霊の種類なども調べることになった」
「アルゲート様は、本当によく分からないですね」
「……どういう意味だ?」
アルは、マーガレットに言われたことを理解出来ずに聞き返した。
「アルゲート様のお考えが分からないという意味です」
「父上にも言われたな。そんなか?」
「そんなです」
アルは、少し不服そうな顔をするが、それ以上何も言わない。一見無礼にも思えるマーガレットの言動だが、他ならぬアルが、そうしろと命令したので誰も咎めることはない。
アルは、変に畏まれるよりも普通に接してくれた方が、アル自身も楽だからそう命令した。
「さて、じゃあ、食堂に向かうか」
「そうですね」
アルは、マーガレットを連れて、食堂に向かった。アルの顔には、学院にいた頃よりも表情は和らいでいた。
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マリーは、自宅に帰ると、すぐに工房に向かった。そこで、義手の設計を見直している。
「この構造は、強度に問題がありそう」
義手の強度は、かなり重要になってくる。特にマニカは、学院に在籍するので、戦闘を行うことも多くなる。なので、簡単に壊れてしまうのは、問題となる。
「全部の部品に、強度強化は掛けるけど、そもそもの構造から頑丈な方が絶対いいよね。配線も考え直そう」
マリーは、設計図を全て書き直していく。時折、カーリーの書斎に向かって、設計の仕方や構造的に欠陥がないように、いろんな設計図を見ていく。
「ここ、使えそう。ここも、使えるかな。うん、この材料なら、軽くも出来るかも」
そして、色々な本を読んでいる内に、ある紙の束を見つける。
「『多重構造魔法陣の形成の仕方』って、これ、お母さんの論文!?」
マリーは、その中身を必死に読む。
「これは……暗号化されてるじゃん!!」
最初の文章から支離滅裂なことが書かれており、マリーは頭を抱える。
「解読からやらなきゃ、時間は掛かるけど、それが一番だよね。これが出来ると出来ないじゃ、義手の完成度に関わってくるし……」
マリーは、カーリーの論文の解読に挑む。カーリーの書斎には、暗号についての本も存在した。それを、読んで解読しようとするが、そのどれもカーリーの暗号に当てはまらない。
「必要なのは暗号解読の本じゃなくて、お母さんの他の論文か!」
カーリーの暗号は、独自に作ったものだというのが、マリーの考えだった。マリーは、書斎にあるカーリーの論文を探し出して、暗号の解読を進める。
「こことここの符号は同じ、こっちも同じ。でも、こっちは似ているだけで、全く別の符号。こっちは、こっちで違う。う~ん、複雑すぎる。解読には、かなりの時間が必要かな」
マリーは、虫食いに暗号を解読したが、概要すら分からない。
「……リー、……マリー、……マリー!」
遠くで呼ぶ声が聞こえたかと思えば、段々と近づいてきた。マリーは、読んでいた論文などを仕舞って書斎から出る。
「マリー! いた! もう、何回も呼んでるのにいないから、焦ったよ」
「ごめん、ごめん。それで何?」
「ご・は・ん!」
「ああ、ごめん」
マリーは、コハクと食堂に向かう。今日は、カーリーが学院に泊まりなので、二人きりの食事だ。
「それで、義手の製作はどうなの?」
「まだかな。試作品で動かせることは分かったけど、強度とかそういった問題がね」
「解決しそう?」
「解決できるかもしれないんだけど、お母さんの論文が暗号化されていてね」
今日の話題は、マリーの魔道具作りだった。
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それから、二週間後……
「ようやく解けた!!」
マリーは、書庫で立ち上がって興奮した。ようやく、カーリーの論文の暗号が解けたのだ。
「それにしても、こんな法則なんて……お母さんの頭はどうなってるんだろう?」
「私の頭がなんだって?」
「うきゃぁ!」
マリーは、いきなり後ろから声がして驚いた。
「お母さん、脅かさないでよ……」
「脅かしたつもりはないんだけどね。それで、何を読んでいたんだい?」
カーリーは、マリーの後ろからマリーが読んでいたものを覗く。
「ん? これは、私の論文だね。それも、多重構造のものかい。読めるのかい?」
「うん! 今、読めるようになった!」
「それで、大声を上げてたのさね。使えそうかい?」
「多分ね。色々試してみてからだけど」
「そうするといいさね。それと、マニカの退院日が決まったさね」
カーリーの口から出た言葉に、マリーが驚いてカーリーに詰め寄る。
「いつ!?」
「再来週の初めさね。それまでは、いくつかの検査を何日にも分けて行うからね。面会もあまり出来ないさね」
「うん、わかった!」
あれから、マリーは、何回かマニカの病室に行って、魔力置換の練習を何回か行っていた。
その結果、置換を成功させることは出来た。本番でも問題はないだろう。
「後は、私が義手を完成させるだけだね……」
マリーは、もう一度気合いを入れるために、頬を張る。
「お母さん、ごめん! 私、工房に行くね!」
「ご飯の時は、ちゃんと来るんだよ」
「分かった!」
「本当に分かったのかね……?」
マリーは、書斎を片付けて、工房へと向かった。義手を完成させるために。
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