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成長する王女

襲われた理由

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 朝ご飯はコハク、セレナ、アイリの担当だったため、コハクは、早めに目が覚めた。コハクが起きて、最初に思ったことは……

「動きにくい……」

 コハクの両サイドにいる赤い髪の双子が、抱きついてきているからだ。

「二人とも起きて!」

 コハクが掴まれている左右の手を動かしながら言う。セレナとアイリは、不自然な揺れで目を覚ましかけたが、

「あと……五分……」
「むにゃむにゃ……」

 セレナは、睡眠延長を申し立てる。アイリに至っては、何を言っているかも分からない。

「……起きろぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 コハクは、若干キレ気味に二人の耳元で叫ぶ。

「わぁ!!」
「ふぇ!!!」

 セレナとアイリも目が覚めたようだ。

「コハク? あれ?」
「そうだった。マリーちゃん達の家に泊まったんだった」

 二人は、コハクがいることと自分の部屋にいないことを確認して、自分達が何をしていたのかを思い出した。

「朝ご飯作るよ。早く着替えて」
「ふぁ~……そうだった。顔も洗わなくちゃ」
「そう……だ……ね……」
「起きろ!」

 セレナの方は若干寝ぼけているが、ベッドから降りる。しかし、アイリの方は返事をしながら、船をこぎ始めた。すかさず、コハクが起こしに掛かる。そこに、幼少期の引っ込み思案なコハクはいなかった。
 コハクは苦労をしながらも二人を起こすことに成功し、朝ご飯を作り始めた。

 ────────────────────────

 マリーの部屋では、未だに寝息が聞こえていた。そこに、安眠を妨げる悪魔がやってくる。

「起きて! マリー! リリー!」

 部屋全体に響くほどの声が、マリーとリリーを襲う。

「うぅ……もう朝?」

 マリーは、リリーの腕の中で身動ぎする。リリーは、腕の中で動くマリーを離さないように、力を込める。

「むご!」

 その結果、マリーはリリーの身体に顔を埋める結果になる。それを、ベッドの脇から見ているコハクは、呆れ顔である。

「仲が良いのは分かったから、早く起きて」
「リリー、苦しい……」

 マリーは、腕の中からなんとか脱出しようとする。

「……あら? すみませんですわ……」

 リリーは、若干寝ぼけているが、マリーの言った事は理解出来たらしく腕に込める力を弱める。
 その隙に、マリーが脱出する。

「リリー、起きて」

 マリーは、リリーの身体を揺り動かす。ようやくリリーも身体を起こして目を覚ました。

「……おはようございます、お姉様、コハクさん」
「おはよう、リリー」
「おはよう。ご飯が出来るから、顔洗って目を覚まして」
「わかりましたわ……」

 マリーとリリーは、部屋に隣接している洗面所で顔を洗い、制服に着替える。そして、食堂に向かう。

「おはよう」
「おはようございますわ」

 二人が入ると、テーブルには既に朝ご飯が並んでいた。あるのはサンドイッチとカボチャのスープだった。

「おはよう、二人とも。よく寝られた?」
「うん、セレナ達こそ、三人でもちゃんと寝られた?」
「大きなベッドだったから、平気だよ」

 セレナもアイリもマリーと同じく、ぐっすり寝ることが出来たらしい。

「マリーちゃん達の方も寝られたみたいだね」
「リリーに、無理矢理寝させられたよ」
「お姉様が、工房に行くと言うからですわ!」

 リリー胸を張って答える。

「リリーが正しいね。さぁ、ご飯食べよ」

 コハクが席に着きながらそう言う。マリー達も同じく席に座る。

『いただきます!』

 ご飯を食べながらも会話を続ける。

「そうだ、リリー。学院に行く前に、呼び方を元に戻してよ?」
「わかっていますわ。おね……マリーさん」

 リリーは、マリーの呼び方を間違えないように、ぶつぶつと呟いていく。

「傍から見たら、完全に怪しい人だね」
「頑張ってるんだから、そんな事言っちゃいけないよ」

 セレナとアイリがそんな事を言い出す。

「今日の時間割りって何だっけ?」
「えっと……」

 マリー達は会話をしながらご飯を食べ進め、後片付けも終えた後、学校へと向かった。学院に着くと、教室までの間で、人の姿がいつもより少ないことに気付く。

「結構少なくなったね。早く良くなるといいけど」

 その理由は、昨日怪我を負ったBクラスの生徒がいないせいだ。マリー達は、自分達の教室に向かった。教室には、すでにアルとリンの姿があった。

「おはよう、アルくん、リンくん」
「おはよう」
「おはよう」

 皆も挨拶をして、いつも通り集まって会話をする。

「よく寝られたみたいだな、マリー」
「うん、リリーのおかげかな」

 マリーがそう言うと、リリーが胸を張ってどや顔をする。

「そうか。そういえば、昨日のBクラスを襲った魔物が分かったぞ」
「そうなの?」

 皆の顔に緊張が走る。

「ああ、Aランクの魔物であるジェノサイド・サーペントだそうだ」
「殺戮蛇!?」
「そうだ。先生達がなんとか倒したらしいぞ。負傷はしてしまったがな」
「よかった……」

 アイリが、胸に手を当てて安堵する。ジェノサイド・サーペント。別名殺戮蛇は、Aランクに相当する魔物だ。あのキマイラと同じランクだ。強さで言えばキマイラの方が上だが、厄介さで言えばジェノサイド・サーペントの方が上と言える。

「どうやって倒したんだろうね?  ジェノサイド・サーペントって、毒もそうだけど、速さと知能が凄く高かったよね?」

 マリーは、首を傾げながらそう訊く。
 ジェノサイド・サーペントは、強力な毒を持っている。さらに、その巨体に似合わず、速さが飛び抜けて高い。その速さで翻弄しつつ、全てを呑み込んでいき、殺戮の限りを尽くすことから、ジェノサイド・サーペントと呼ばれている。
 だが、一番の厄介な所は、知能の高さだ。罠、待ち伏せ、誘い込みが一切通用しない。それどころか、それらを逆に利用したと言われているほどだ。

「唯一の弱点である温度を利用したらしい。ジェノサイド・サーペントでは無く周りの温度を対象にしたから油断を誘えたそうだ」

 ジェノサイド・サーペントは、普通の蛇と同じく変温動物だ。そのため、周りの気温が下がればどうしても動きが鈍ってしまう。

「そこだけは、生徒の力も借りたらしいがな」
「へぇ~、でも、なんでこんな近くにジェノサイド・サーペントが来たんだろう?」
「そうだね。確か南の方にしか生息していないはずだよね」

 マリーとコハクが疑問に思い、考え出す。

「そこら辺は、調査中だ」
「アルくんが?」
カストルがだな」

 アルの家であるカストル家は、魔物討伐を生業としている。だが、ギルドに属しているわけでは無い。王国軍の部隊を率いているのだ。だからこそ、こういった魔物の異常行動の調査も担当している。
 ちなみに、バルバロットもカストルと同じく魔物討伐を担当している。

「色々考えられるけどな」
「どんなこと?」

 セレナが興味津々で訊く。

「例えば、生息地を追い立てられただな。住んでいた土地に天敵が現れる。あるいは実力に差があるものが近くに住み始めたときだな」
「へぇ~、でも、ジェノサイド・サーペントって天敵は少ないよね?」
「ああ、アイリの言うとおり、ジェノサイド・サーペントに天敵は、ほとんど存在しない。だからこそ、考えられるのは、誰かに追い立てられたということだな」
「人ですの?」

 アルの言葉に、リリーがそう訊いた。

「可能性としてな。魔物は考えにくい。そうすると、人という線が一番怪しい」
「討伐に来た人を警戒して逃げたとかかい?」
「その可能性もあるが、近くに相当高いレベルの実力者が住み始めたとかだな」
「南……サリドニア大森林の方だよね?」
「ああ、だが、あまり関係ないと思うぞ。生息地は、サリドニア大森林よりも遙か南だからな」

 マリーが言いたいことを察して、アルがそう言う。マリーは、今回の騒動の原因が、キマイラ達にあるのではないかと考えたのだ。だが、ジェノサイド・サーペントの生息地は、サリドニア大森林よりも南なので、キマイラが関係してはいないだろうと、アルは考えていたのだ。そんな風に、マリー達が話をしていると、教室の扉が開いた。

「マリーは来てるかい?」
「お母さん?」

 入ってきたのは、カーリーだった。

「おはよう、皆」
『おはようございます』
「おはよう、お母さん。どうしたの?」

 マリーは、カーリーの方に小走りで向かう。

「良い情報さね。昨日の患者が目を覚ましたよ。早速、声を掛けてきたらいいさね」
「そうなの!? もう、目覚めたの!?」

 カーリーが言ったのは、マニカのことだった。そして、マリーが驚いたのは、無事に目を覚ますことが出来たということと目が覚めるのが早いということだ。

「ああ、強い子さね。自分の腕が無くなったと知っても、取り乱しもしなかった。ただ、冷静に受け入れていたさね。まぁ、ああいう子は、人前で泣かないだけだろうけどね」
「今も話せるの?」
「ああ、まだ起きていたよ」
「今から行ってもいい?」
「ああ、どうにかしておいてあげるから行っておいで。部屋はここさね」

 カーリーは、マリーにメモを渡す。受け取ったマリーは、教室から駆け出す。コハク達も後を追おうとしたが、カーリーに止められた。いきなり、大人数で行っても患者を消耗させるだけだからだ。
 マリーは、マニカのいる病院まで走る。彼女に元の生活を取り戻してあげるために……
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