34 / 93
成長する王女
治療
しおりを挟む
朝の授業を終え、昼食の時間になった。マリー達はクラス内で、食事をとっている。
「とんだ目に遭ったよ」
「自業自得だったがな」
やれやれという風に首を振っていたマリーに、ジト眼になったアルがツッコんだ。実際、授業中に何かを考えふけって、ぼーっとしていたマリーが悪いのだ。
「お母さんも、あんなに怒らなくてもいいじゃんね。死ぬかと思ったよ」
カーリーの怒鳴り声は、学院を揺らすほどに凄かった。昔から、カーリーの怒鳴り声は変わらない。周りにいる事情を知らない人が、その声を聞いて反射的に「ごめんなさい!」と言った程だ。
「何か考えていたようだが、思いついたのか?」
「ううん。むしろ、難しくなっていたところ。先生の話で、一つの手段が完全に消えたからね」
「そうなのか。義肢作りは難航しそうだな」
アルの言うとおり、マリーの義肢作りは装着の部分で難航中だった。考えていた方法の一つも朝の授業で、絶対に使えないことが確定してしまった。
「はぁ、マリーの徹夜は続きそうだね」
コハクがため息をつきながらそう言った。一緒にご飯を食べているSクラスの皆も同時に頷く。
「皆で同じ意見だなんて、私だって学習するんだから、頻度は減るかもしれないじゃん!」
「結局なくならないってことなんじゃ……」
アイリが痛いところを突く。マリーは、胸を張って宣言していたところでそう言われて、頬に汗が流れる。
「まぁ、どうせ、その度にカーリー殿に怒られるんだ。その内、やめるだろう」
「それでも懲りずにやって、今の状態になったとも言えるけどね」
「リンくんまで、そんな事言う。でも、あと何回かは徹夜になるだろうから、その通りだけど」
「マリーさん、頑張るのはいいですけど、もっと自分の身体を大事にしないとですわよ。それと、口にソースがついてますわ」
そう言われて、マリーは、リリーに口を拭かれる。
「むぐっ。ありがとう、リリー」
「はぁ……これではどっちが姉なのか分からないな」
ここで、大声を出すわけにもいかないので、マリーは頬を膨らませることで不満を伝える。
そんなこんなで、いつも通りの光景が続いていた。ここまでは……
「ん? なんか、外が騒がしくない?」
セレナが、窓の外を見に行きながら言う。マリー達もつられて窓の方に向かう。そこには、学院にいるほとんどの先生が集まっていた。さらに、生徒の姿も見える。その生徒達は皆、大なり小なり怪我をしていた。
「Bクラスか。確か、昨日から野外演習だったな。あの分だと、相当やばい魔物に出会ったのか。だが、Bクラスの演習地は……」
「確か、東の森、ラファイアンスの森だったけ? あまり、深くない森だよね。魔物も弱いし、少ないって聞いた気がするけど」
アルとマリーは、何故Bクラスが怪我をしたのかを考え始めた。
「私達と同じなのかな?」
アイリが少し心配そうに言う。アイリが言っているのは、また王族が関わっているのではということだ。
「それは無いと思うよ。そうするメリットは無いからね。だから、恐らく本当のイレギュラーだ」
「私もそう思いますわ。お父様も何の関係もない生徒を巻き込みはしないでしょうし」
リンとリリーが、アイリの言葉を否定する。
「あれから、手紙であの事を知らせましたけど、私を心配したくらいで、何も言ってきませんでしたわ」
「だろうね。マリーの事は、リリーにもっていうか、全王国民に知られちゃいけないからね」
コハクの言うとおり、マリーの出生だけは国民の誰にもバレてはいけないほどの重大な秘密なのだ。事は、王族の信用に関わる。
「でも、何が出たんだろう? 付き添いに行っていた先生も怪我をしているし」
セレナが、怪我をしている先生を見つけてそう言う。皆もそちらを見る。
「かすり傷だけではないな。一部に大きな傷も見える」
「先生でも苦戦する魔物、あるいは苦戦する状況になったっていうことだよね」
「だろうな」
マリーとアルがそう話していると、教室のドアが勢いよく開く。
「君達! 手伝ってくれ! 人手が足りないんだ!」
入ってきたのは学院の教師の一人だった。マリー達は、本当にただ事では無いことを感じ、一斉に外に出る。窓から……
「え、いや、そこまで急がなくても……! いや、急いでは欲しいけど……」
マリー達がいなくなった後で、教師が目を丸くしながらそう言った。
マリー達は、地面近くまで来ると、セレナが起こした風により軟着陸し、すぐに近くにいるカレナの元に向かった。
「先生! 手伝いに来ました!」
「マリーさん、皆さんも。助かります。怪我人が多いので、トリアージを。授業で一通り説明したので、分かりますね」
『はい!』
マリー達は、カレナから赤、黄、緑、黒のタグを貰い、生徒の元に走る。
トリアージとは、患者の重症度に応じて、治療の優先順位を付けることを言う。赤なら命に関わってくるほどの重傷を負っている者。黄なら赤ほどの怪我では無く、意識もある状態だが、赤になる可能性がある者。緑なら歩行可能で、すぐの処置が必要ない者、あるいは無傷の者。黒は、死亡または絶対に助かることが無い者を指す……
このトリアージも、カレナが教科書に無い内容から、マリー達にも必要になると考えて教えておいたものだ。
マリー達は患者が寝かされている場所を走り回り、その怪我の具合を確認して。タグを巻いていく。赤を付けられた生徒から、先生達が治療を開始していく。幸いなことに、黒のタグを付ける事は無かった。
マリー達が手分けして行うことで、かなり早く患者の選別が終わった。
「マリー! こっちに来て手伝っておくれ!」
「うん!」
カーリーに呼ばれて、マリーが走る。他の全員も他の患者の治療を手伝っている。
「魔法での止血は、限界があるさね。手術で血を止めていくよ」
「分かった。その間、麻酔を掛けるって事だね。それなら、全員同時が良さそうだね」
「無理しない程度にしな。マリーが倒れたら意味が無いからね」
「うん!」
マリーは、腰のポーチを開ける。
「『剣唄・鎮魂歌』!」
ポーチから剣が五本飛び出した。そして、頭上で回転し、音が鳴り始める。その音は、寝かされている患者の全てに聞こえている。それこそ、意識の無い患者にも。
「苦しそうな顔が、和らいでいく……」
「治ったわけではありません! 感覚が遠くなっているだけです! 今のうちに止血を!」
「わ、わかった!」
マリーは、剣唄を持続させながら、カーリーの手術を手伝っていく。
「!! マリー、緊急止血!!」
「わかった!」
出血量が多くなったため、急遽、魔法による止血をする。それでも出血が全部止まる訳では無い。その間に、カーリーが外科処置を続け、止血と傷口の縫合を済ませる。
「終わった。次に行くよ!」
「うん!」
カーリーとマリーの二人は、次々に患者を治療していく。
「早い。これが大賢者様……」
「あらゆる知識に精通し、それを使いこなすことが出来る天才。故に、大賢者……」
他の治療をしていた先生達までその早さに唖然としている。
「ぼけっとしてないで働きな!!」
『は、はい!』
その先生達にカーリーの雷が落ちる。
「カーリー先生! こちらに!」
他の先生が呼び掛け、カーリーとマリーはそちらに走っていく。
「!!」
そこにいたのは、片腕のない少女だった。その少女は、マリーも見た事がある少女だった。
「あの時の店員さん……」
そう、マリー達が観光していたときに入った詐欺武具店の元店員だったのだ。名前をマニカと言う。
「知り合いかい?」
「観光したときに、ちょっと会っただけだよ」
「そうかい。この子の腕は?」
「魔物に食べられてしまい……」
「はぁ、なら、この状態で縫合だね」
カーリーは、手術を開始する。
「マリー! 麻酔を強めな!」
「分かった!」
マリーは、『鎮魂歌《レクイエム》』の威力はそのままに、別で麻酔となる魔法を掛けていく。
「血が足りなさそうだね」
「血液を調べるね」
マリーは、マニカの血液に分析魔法分析《アナライズ》を掛ける。鑑定の下位互換の魔法で、簡単な分析が出来る。
「後は、この血の情報に合う血を探すだけだね」
マリーは、学院に置いてある輸血袋から、マニカに合う血を探し出しマニカに輸血していく。
「手術は終わったさね」
マニカの腕は、完全に縫合出来た。容態も安定しているので、カーリーとマリーは、次の患者の元へ向かう。
「あの子以上の重傷患者はいないね」
「流石に腕を元に戻すなんて出来ないよね?」
「そうさね。腕を生やすことは、どんな魔法でも無理さね。出来る事と言えば、千切れた腕をつなぎ合わせることだけだよ」
「やっぱり、義手が必要になるかな……」
マリーがぼそっと言った事を、カーリーは聞き逃さなかった。
「マリーが今作っているものの、試着を頼んでみるといいさね」
「……気付いてたの?」
マリーは、カーリーが自分の作っているものに気付いていることに驚いた。
「今、気付いただけさね。何かあれば、すぐに言いな。事が事だから、アドバイスくらいはするさね」
「うん! 頑張る!」
「そうするといいさね。さぁ、この子の手術も終わりだ。次の子に行くよ」
「うん!」
マリー達は話している最中も、生徒達の治療を進めていた。Bクラスは、Aクラス以上に生徒がいるため、治療が必要になる生徒も多くなる。だが、マリー達の助力もあり、重傷者の治療が、かなり早く終わった。
「後は、軽傷者の治療だけさね」
「良かったぁ。死人はゼロだね」
「よく頑張ったさね。もう、解いても平気だよ」
カーリーがマリーの頭を撫でながら、労う。マリーは、カーリーに褒められたのが嬉しく、笑顔になる。そして、剣唄を解除し、ポーチにしまう。
「マリーは、魔力量は大丈夫かい?」
「まだ、少し余裕があるよ」
「なら、魔法は使わないで、薬での治療だけ担当するさね」
「え? まだ、大丈夫だよ?」
「そう言って、無理をするのが、マリーの悪いところさね。薬での治療を担当。わかったかい?」
「……うん。わかった」
マリーは、治療箱を持って軽傷者の元まで走る。魔法による治療が必要ない人に、薬を塗って包帯を巻いていく。
「これで大丈夫です。ですが、無理に動かさないようにしてくださいね」
「ああ、ありがとう」
「いえ、では」
マリーは、次々に患者の元に向かう。アル達も同様に軽傷者の治療をしていた。そして、何時間も掛かって、ようやく全怪我人の治療が終わった。
「とんだ目に遭ったよ」
「自業自得だったがな」
やれやれという風に首を振っていたマリーに、ジト眼になったアルがツッコんだ。実際、授業中に何かを考えふけって、ぼーっとしていたマリーが悪いのだ。
「お母さんも、あんなに怒らなくてもいいじゃんね。死ぬかと思ったよ」
カーリーの怒鳴り声は、学院を揺らすほどに凄かった。昔から、カーリーの怒鳴り声は変わらない。周りにいる事情を知らない人が、その声を聞いて反射的に「ごめんなさい!」と言った程だ。
「何か考えていたようだが、思いついたのか?」
「ううん。むしろ、難しくなっていたところ。先生の話で、一つの手段が完全に消えたからね」
「そうなのか。義肢作りは難航しそうだな」
アルの言うとおり、マリーの義肢作りは装着の部分で難航中だった。考えていた方法の一つも朝の授業で、絶対に使えないことが確定してしまった。
「はぁ、マリーの徹夜は続きそうだね」
コハクがため息をつきながらそう言った。一緒にご飯を食べているSクラスの皆も同時に頷く。
「皆で同じ意見だなんて、私だって学習するんだから、頻度は減るかもしれないじゃん!」
「結局なくならないってことなんじゃ……」
アイリが痛いところを突く。マリーは、胸を張って宣言していたところでそう言われて、頬に汗が流れる。
「まぁ、どうせ、その度にカーリー殿に怒られるんだ。その内、やめるだろう」
「それでも懲りずにやって、今の状態になったとも言えるけどね」
「リンくんまで、そんな事言う。でも、あと何回かは徹夜になるだろうから、その通りだけど」
「マリーさん、頑張るのはいいですけど、もっと自分の身体を大事にしないとですわよ。それと、口にソースがついてますわ」
そう言われて、マリーは、リリーに口を拭かれる。
「むぐっ。ありがとう、リリー」
「はぁ……これではどっちが姉なのか分からないな」
ここで、大声を出すわけにもいかないので、マリーは頬を膨らませることで不満を伝える。
そんなこんなで、いつも通りの光景が続いていた。ここまでは……
「ん? なんか、外が騒がしくない?」
セレナが、窓の外を見に行きながら言う。マリー達もつられて窓の方に向かう。そこには、学院にいるほとんどの先生が集まっていた。さらに、生徒の姿も見える。その生徒達は皆、大なり小なり怪我をしていた。
「Bクラスか。確か、昨日から野外演習だったな。あの分だと、相当やばい魔物に出会ったのか。だが、Bクラスの演習地は……」
「確か、東の森、ラファイアンスの森だったけ? あまり、深くない森だよね。魔物も弱いし、少ないって聞いた気がするけど」
アルとマリーは、何故Bクラスが怪我をしたのかを考え始めた。
「私達と同じなのかな?」
アイリが少し心配そうに言う。アイリが言っているのは、また王族が関わっているのではということだ。
「それは無いと思うよ。そうするメリットは無いからね。だから、恐らく本当のイレギュラーだ」
「私もそう思いますわ。お父様も何の関係もない生徒を巻き込みはしないでしょうし」
リンとリリーが、アイリの言葉を否定する。
「あれから、手紙であの事を知らせましたけど、私を心配したくらいで、何も言ってきませんでしたわ」
「だろうね。マリーの事は、リリーにもっていうか、全王国民に知られちゃいけないからね」
コハクの言うとおり、マリーの出生だけは国民の誰にもバレてはいけないほどの重大な秘密なのだ。事は、王族の信用に関わる。
「でも、何が出たんだろう? 付き添いに行っていた先生も怪我をしているし」
セレナが、怪我をしている先生を見つけてそう言う。皆もそちらを見る。
「かすり傷だけではないな。一部に大きな傷も見える」
「先生でも苦戦する魔物、あるいは苦戦する状況になったっていうことだよね」
「だろうな」
マリーとアルがそう話していると、教室のドアが勢いよく開く。
「君達! 手伝ってくれ! 人手が足りないんだ!」
入ってきたのは学院の教師の一人だった。マリー達は、本当にただ事では無いことを感じ、一斉に外に出る。窓から……
「え、いや、そこまで急がなくても……! いや、急いでは欲しいけど……」
マリー達がいなくなった後で、教師が目を丸くしながらそう言った。
マリー達は、地面近くまで来ると、セレナが起こした風により軟着陸し、すぐに近くにいるカレナの元に向かった。
「先生! 手伝いに来ました!」
「マリーさん、皆さんも。助かります。怪我人が多いので、トリアージを。授業で一通り説明したので、分かりますね」
『はい!』
マリー達は、カレナから赤、黄、緑、黒のタグを貰い、生徒の元に走る。
トリアージとは、患者の重症度に応じて、治療の優先順位を付けることを言う。赤なら命に関わってくるほどの重傷を負っている者。黄なら赤ほどの怪我では無く、意識もある状態だが、赤になる可能性がある者。緑なら歩行可能で、すぐの処置が必要ない者、あるいは無傷の者。黒は、死亡または絶対に助かることが無い者を指す……
このトリアージも、カレナが教科書に無い内容から、マリー達にも必要になると考えて教えておいたものだ。
マリー達は患者が寝かされている場所を走り回り、その怪我の具合を確認して。タグを巻いていく。赤を付けられた生徒から、先生達が治療を開始していく。幸いなことに、黒のタグを付ける事は無かった。
マリー達が手分けして行うことで、かなり早く患者の選別が終わった。
「マリー! こっちに来て手伝っておくれ!」
「うん!」
カーリーに呼ばれて、マリーが走る。他の全員も他の患者の治療を手伝っている。
「魔法での止血は、限界があるさね。手術で血を止めていくよ」
「分かった。その間、麻酔を掛けるって事だね。それなら、全員同時が良さそうだね」
「無理しない程度にしな。マリーが倒れたら意味が無いからね」
「うん!」
マリーは、腰のポーチを開ける。
「『剣唄・鎮魂歌』!」
ポーチから剣が五本飛び出した。そして、頭上で回転し、音が鳴り始める。その音は、寝かされている患者の全てに聞こえている。それこそ、意識の無い患者にも。
「苦しそうな顔が、和らいでいく……」
「治ったわけではありません! 感覚が遠くなっているだけです! 今のうちに止血を!」
「わ、わかった!」
マリーは、剣唄を持続させながら、カーリーの手術を手伝っていく。
「!! マリー、緊急止血!!」
「わかった!」
出血量が多くなったため、急遽、魔法による止血をする。それでも出血が全部止まる訳では無い。その間に、カーリーが外科処置を続け、止血と傷口の縫合を済ませる。
「終わった。次に行くよ!」
「うん!」
カーリーとマリーの二人は、次々に患者を治療していく。
「早い。これが大賢者様……」
「あらゆる知識に精通し、それを使いこなすことが出来る天才。故に、大賢者……」
他の治療をしていた先生達までその早さに唖然としている。
「ぼけっとしてないで働きな!!」
『は、はい!』
その先生達にカーリーの雷が落ちる。
「カーリー先生! こちらに!」
他の先生が呼び掛け、カーリーとマリーはそちらに走っていく。
「!!」
そこにいたのは、片腕のない少女だった。その少女は、マリーも見た事がある少女だった。
「あの時の店員さん……」
そう、マリー達が観光していたときに入った詐欺武具店の元店員だったのだ。名前をマニカと言う。
「知り合いかい?」
「観光したときに、ちょっと会っただけだよ」
「そうかい。この子の腕は?」
「魔物に食べられてしまい……」
「はぁ、なら、この状態で縫合だね」
カーリーは、手術を開始する。
「マリー! 麻酔を強めな!」
「分かった!」
マリーは、『鎮魂歌《レクイエム》』の威力はそのままに、別で麻酔となる魔法を掛けていく。
「血が足りなさそうだね」
「血液を調べるね」
マリーは、マニカの血液に分析魔法分析《アナライズ》を掛ける。鑑定の下位互換の魔法で、簡単な分析が出来る。
「後は、この血の情報に合う血を探すだけだね」
マリーは、学院に置いてある輸血袋から、マニカに合う血を探し出しマニカに輸血していく。
「手術は終わったさね」
マニカの腕は、完全に縫合出来た。容態も安定しているので、カーリーとマリーは、次の患者の元へ向かう。
「あの子以上の重傷患者はいないね」
「流石に腕を元に戻すなんて出来ないよね?」
「そうさね。腕を生やすことは、どんな魔法でも無理さね。出来る事と言えば、千切れた腕をつなぎ合わせることだけだよ」
「やっぱり、義手が必要になるかな……」
マリーがぼそっと言った事を、カーリーは聞き逃さなかった。
「マリーが今作っているものの、試着を頼んでみるといいさね」
「……気付いてたの?」
マリーは、カーリーが自分の作っているものに気付いていることに驚いた。
「今、気付いただけさね。何かあれば、すぐに言いな。事が事だから、アドバイスくらいはするさね」
「うん! 頑張る!」
「そうするといいさね。さぁ、この子の手術も終わりだ。次の子に行くよ」
「うん!」
マリー達は話している最中も、生徒達の治療を進めていた。Bクラスは、Aクラス以上に生徒がいるため、治療が必要になる生徒も多くなる。だが、マリー達の助力もあり、重傷者の治療が、かなり早く終わった。
「後は、軽傷者の治療だけさね」
「良かったぁ。死人はゼロだね」
「よく頑張ったさね。もう、解いても平気だよ」
カーリーがマリーの頭を撫でながら、労う。マリーは、カーリーに褒められたのが嬉しく、笑顔になる。そして、剣唄を解除し、ポーチにしまう。
「マリーは、魔力量は大丈夫かい?」
「まだ、少し余裕があるよ」
「なら、魔法は使わないで、薬での治療だけ担当するさね」
「え? まだ、大丈夫だよ?」
「そう言って、無理をするのが、マリーの悪いところさね。薬での治療を担当。わかったかい?」
「……うん。わかった」
マリーは、治療箱を持って軽傷者の元まで走る。魔法による治療が必要ない人に、薬を塗って包帯を巻いていく。
「これで大丈夫です。ですが、無理に動かさないようにしてくださいね」
「ああ、ありがとう」
「いえ、では」
マリーは、次々に患者の元に向かう。アル達も同様に軽傷者の治療をしていた。そして、何時間も掛かって、ようやく全怪我人の治療が終わった。
11
お気に入りに追加
949
あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜
青空ばらみ
ファンタジー
一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。
小説家になろう様でも投稿をしております。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます
里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。
だが実は、誰にも言えない理由があり…。
※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。
全28話で完結。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる