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成長する王女
マリーの秘密
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トラブル続きの野外演習を終えたマリー達は、その後、平穏な学院生活を送っていた。そう。幸いな事に、あれから一週間経っても、襲撃などを受ける事は全く無かった。
マリーとリリーの関係も良好だ。腹違いの姉妹と言われて、混乱したのは最初だけだった。今では、元々の関係よりも仲良くなっている。さらに言えば、Sクラス全体の仲も良くなっていた。あの地獄を共に生き延びた事や全員共通の秘密を得た事が、要因するのだろう。
だが、全員マリーに気遣っている節は全く無かった。素のままで、仲良くなっているのである。
マリーが国王の娘という事は、Sクラスの全員と担任であるカレナ、触媒屋を営んでいるネルロしか知らない。カレナは、学院にその事を報告するという事はしていなかった。そもそも、信じてもらえるはずが無いからである。
何も知らない学院側は、Sクラスの野外演習を不幸な事故として処理し、別の課題で埋め合わせするようにと、カレナに通達した。
そしてその課題は……
「何で、レポートなの!?」
セレナが、頭を抱えて嘆く。
「セレナ、頭を抱えてる暇があったら、早く書かないと、一向に進まなくなるよ。後、ここ図書室なんだから静かにしないと、周りに迷惑が掛かるでしょ」
マリーが、本を片手にそう言う。マリーとセレナは、レポートを進めるために、二人で図書室に来ていた。
今回出されたレポートは、魔物の生態と特徴だ。この魔物は、それぞれで選んでいい。
「うぅ……マリーは、題材何にしたの?」
「キマイラ」
「キマイラ!? なんで!?」
あんな目に遭って、なんでキマイラなのかと、セレナは目を剥いている。
「キマイラには、苦い思いをさせられたからね。次は無いようにしないと。後、静かにして」
「うぅ……結構すんなり決めるね。私は、どうしよう」
セレナが、魔物の図鑑を見ながら、唸っている。
「そんなに焦る必要はないんじゃない? コハクやリリーだって、まだ決めてないって言ってたし」
「でも、早く決めておきたいじゃん」
「でも、いい魔物が見付からないんでしょ?」
「うん。スライムだとありきたりだし、ドラゴンだと文献が架空のものが多いし」
「良い感じの魔物ねぇ……私も全く思いつかないや。妖精とかにすれば?」
「妖精かぁ。いいかも!」
「セレナ……いい加減追い出されちゃうよ」
「うぅ、ごめん」
そんな感じで、文献を片手に、必要な情報をメモしていく。
「ねぇ、マリー」
「何? セレナ」
黙々とメモをしていたセレナが、いきなり話しかけてきた。マリーは、飽きたのかと心配になったが、どうやら違うようだった。
「このレポートって、何文字以上だっけ?」
「一万」
「今思うと、やっぱりエグいよね」
「まぁ、三日間の野外演習の代わりだから、仕方ないんじゃない? それに、魔物の生態とかって、意外と書いてある事が多いし、深いから、一万文字でも足りない事もあるかもよ」
「マリーは、意外とレポートが好きって感じ?」
「意外とはなにさ。家柄、レポートを書く事が多いだけだよ」
「ああ、なるほど」
マリーの言葉に、セレナは納得する。
マリーは、魔道具職人であるカーリーの娘なので、使い心地や作り方など、色々な情報をまとめる事が多かった。カーリーは、それをレポート形式で提出するように言う事が多いので、必然的にレポートをよく書く事になる。
その後も、黙々とメモを続けていると、
「ここにいたのか」
マリーを探していたアルが、やって来た。
「アルくん、どうしたの?」
「ああ、頼みがあってきたんだ」
「頼み?」
アルは、普段マリーに頼み事をすることがあまりないので、マリーは、意外そうな顔をする。
「ああ、剣を作って欲しいんだ」
「剣?」
マリーは、不思議そうな顔をする。この前の戦いでもアルの剣は、折れていないので、特に作り直す必要はないと思われるからだ。
「魔力の通りがいいものが欲しいのだが、どこの鍛冶屋に行っても無くてな。マリーが、使っていた剣が似たようなものだと思い出したんだ」
アルの言うとおり、マリーの剣は、通常の剣よりも魔力の通りが良くなるようにしている。剣舞と剣唄を使うのに、そうするが一番だからだ。
「なるほどね。いいけど、時間掛かるかもよ?」
「ああ、構わない。最高の一振りを頼む」
「うん」
そんな様子を見ていたセレナからマリーに、質問が飛んできた。
「そういえば、マリーって自分で剣を振らないよね? 何で?」
「振れないからだけど。持ち上げるのも難しいし」
マリーは、剣を振う事が出来ない。そもそも、持ち上げる事すら出来ない。一度、極度に軽くした剣を持ち上げようとしたが、それでも無理だった。ちょうど一緒にいたコハクは、本当に軽々持ち上げていた。この際、コハクが思いっきり振った剣は、ぽっきりと折れてしまった。軽くし過ぎて、耐久度が低かったのだ。
「そうなの? 確かに、マリーは細いもんね」
「これでも、腕立てはしてるんだよ。昨日ようやく、五回出来るようになったんだから」
「…………」
「…………」
マリーはふんぞり返っているが、アルとセレナは苦笑いだ。
「閉館時間です。本を仕舞って、速やかに退室してください」
図書室の司書が、図書室全体に声を響かせる。
「もう時間なんだ」
「でも、大体調べ終わったから、ちゃんと書けるね」
セレナも題材を決めて、しっかりとレポートに必要な情報をメモしていた。
「なら、手早く仕舞おう。俺も手伝う」
三人は、本を仕舞って図書室を出た。
「そうだ! マリー、私の剣を持ってみてよ」
「ええ、多分無理だよ?」
「試すなら、中庭の演習場に行こう。廊下で、刃物を振り回すのは危険だからな」
中庭に出ると、そこには、コハクとリンの姿があった。
「あ、コハク!」
「マリー、どうしたの?」
コハクは、タオルで汗を拭いながら訊く。
「セレナの剣を持てるかどうか、実験するんだ」
「へぇ~、大丈夫なの?」
「分からないから、やってみるの。これで持てたら、筋トレの成果が出たって事になるだろうし」
意気込んでいるマリーに対して、コハクは、少し心配そうにしていた。いつも、剣を持てない姿を見ているからだろう。
「マリーさんは、どうして剣を持てないんだい?」
リンが、コハクに訊く。
「う~ん、それが全然分からないの。色々試したけど、短剣を持つのが限界なんだ。それも振れないけど」
「ふむ、不思議だね。マリーさんの筋力でも、使える剣はあるはずだけど」
「どうやっても無理だったよ?」
「う~ん……やっぱり不思議だね」
リンの感想は、不思議という事だけだった。
「じゃあ、はい」
そんな事を話している内に、セレナがマリーに自分の細剣を渡す。
「うん」
マリーが受け取って、セレナが細剣を手放す。そして、皆の視線は下に向く。
「……」
セレナが手を離した瞬間、細剣の先端が地面に刺さったのだ。
「ぐぬぬぬ、重い……」
「えっ?」
マリーは、その状態で支えるのがやっとだった。コハク以外の皆が、その姿を見て驚く。
「……セレナ。マリーと一緒に持ってみてくれ」
「うん……」
セレナがマリーと一緒に持つと、普通に持ち上げる事が出来た。
「あれ? 軽い?」
マリーは首を傾げる。アルは、顎に手を添えて考え込み始める。
「セレナって、筋肉ムキムキだったっけ?」
「そんなんじゃないよ! きちんと細くて柔らかいよ!」
マリーとセレナがじゃれ合っていると、アルが口を開く。
「カーリー殿は、何か知らないのか?」
「お母さん? どうだろう? これに関しては、聞いた事無いけど。筋力不足だと思ってたから」
「私も、師匠から聞いた事は無いよ」
マリーもコハクも、カーリーから、このことについて聞いた事は無かった。マリーが剣を持てない姿を見ても、特に理由を述べなかったのだ。
「まぁ、剣舞でどうにかなってるから、特に気にした事無かったしね」
マリーの剣舞は、自分で剣を扱う事が出来なかったために、開発した魔法だ。開発した後は、このことについて、考えなくなるのも無理は無い。
「マリーさん、これ持ってみてくれる?」
リンが、自分の弓をマリーに渡す。マリーは、細剣をセレナに返してから、リンの弓を受け取る。
「? 持ったよ?」
マリーは首を傾げる。マリーが、弓をしっかりと持つ事が出来たのを見て、アルとリンが驚く。
「マリー、リンの弓は、セレナの細剣とほぼ同じ重さをしているぞ」
「え? 嘘!? でも、私、持てるよ?」
マリーは、アルの言葉に頭が混乱している。
「つまり……」
「ああ、マリーが持てないのは、剣だけということになるな」
驚愕の事実が判明した。いや、正確には前から分かっていたことだったが、思考停止していたという方が正しい。なぜなら、同じ重さの鉄はもちあげられても、剣になった途端に持ち上げられないということが多かったからだ。
「でも、包丁は振れるよ?」
マリーは、一応の反論を言ってみる。
「つまり、剣に分類されるものが扱えないというのが正しいらしいな」
「でも、何でだろうね」
アルとリンは、真剣に考え込む。マリーは、あまり気にしていないので、のほほんとしていた。
「何をしているんですの?」
中庭で集まっているところに、リリーとアイリがやって来た。Sクラス全員集合だ。
「マリーについての考察といったところか」
「マリーさんの?」
リリーは、そう言いながらマリーを後ろから抱きしめる。マリーが姉ということが判明して以降、マリーに対するリリーのスキンシップが多くなっている。リリーの方が、背が高いため、マリーの方が妹に見えてしまうのが、マリーにとっては癪だったが。
「ああ、マリーは、剣を持ち上げられないんだが、同じくらいの重さの弓は持ち上げられたんだ。つまり、剣に関する何らかの制限を受けているのだが、その原因がわからない」
アルが、これまでの話をまとめて伝える。
「マリーさんは、短剣も持てないんですの?」
「ううん。短剣なら何とか持てるよ」
「なら、必ずしも剣を扱えないというわけではないのではありませんの?」
「でも、持てるだけだよ。まともに振ることは出来ない。重い剣を何とか振うみたいな感じになるんだ」
マリーがそう言うと、皆がう~んと悩み始める。
「マリーちゃんは、いつ頃から持てなくなったとか分かるの?」
「え~と、五歳か六歳の時に修行を始めたから、そのくらいかな?」
「じゃあ、生まれつきのものなのかもね」
アイリが、マリーの答えからそう言うと、全員合点がいったような顔をする。
「確かにそうだな。筋力の問題では無いとなると、先天性なものだろう。それこそ、呪いだとか」
「呪い……ある意味じゃ、国王達の判断は合っていたって事なのかな」
「そんなわけ無いですわ。これとそれは別問題ですもの」
少し落ち込んだマリーを、リリーが少し強めに抱きしめる。
「ありがと、リリー。それはさておき、いつまで抱きしめているのさ」
「それはもう、いつまでもですわ!」
リリーは、そう言って幸せそうに笑う。それを見てしまうと、マリーも何も言えなくなってしまう。
「マリーって、文句言うくせに甘いよね」
コハクが、ジト目でマリーを見る。
「そんな事無いよ。譲れない部分は、きちんとしたもの」
マリーが言っているのは、リリーのお姉様呼びのことだ。学院や外でそんな呼び方をされては、マリーが王族の子供だとばれる可能性があるからだった。
そのため、お姉様呼びはマリーの家の中のみとなっている。マリーとしては、かなり譲歩した方と思っている。
「あんた達、こんな時間に、ここで何をやっているんだい?」
声のした方を皆で見る。そこには、教師用のローブを肩に掛けたカーリーの姿があった。
「あ、お母さん。今、私が何で剣を持てないのか話し合ってたの」
「そうなのかい」
カーリーは、少し考えてから、驚くべき事を口にした。
「マリーが剣を使えないのは、祝福のせいさね。拾ったときには無かったから、いつ頃からかは、分からないけどね」
皆の目が点になってしまう。
「……お母さん、私、それ聞いたこと無いよ?」
「おや、言ってなかったかい?」
カーリーも自分が言っていなかったことを忘れていたようだ。
「何の祝福かは分かっているのですか?」
アルが、カーリーに訊いてみた。実際、皆気になっていたことだったので、全員がカーリーに注目する。
「確か、魔法神の祝福だったかね。魔法の威力の上昇や消費魔力の削減なんかの効果がある代わりに、剣が持てなくなるんさね。祝福自体珍しいものだけど、魔法神のものは、特に珍しいものさね」
再びマリー達の目が点になる。
「魔法使いからしたら、喉から手が出るほど欲しい祝福ですね」
「そうでもないさね。近接戦闘が出来ないってのは、魔法使いからしても痛手だよ。これで喜ぶ魔法使いは、所詮は二流止まりさね」
カーリーは、アルの考えを否定する。カーリーにとっての魔法使いとは、接近戦でも対応出来ないといけないのだ。
「魔法使いを守るために、俺達騎士がいるのですが」
「ああ、そうだとも。だが、その騎士がいなくなった場合はどうさね?」
「……なるほど」
アルは苦い顔をした。騎士がいなくなれば、魔法使いは敵の攻撃に晒される。それどころか、敵の接近も許すことになる。そうなれば、近接戦闘が出来ない魔法使いは途端に役立たずとなるだろう。カーリーの言葉は、全くもってその通りなので、言い返すことが出来ないのだ。
「そういうことさね。魔法使いもある程度の接近戦が出来なければ、特定の戦闘下では、ただの木偶の坊さね」
「では、マリーさんには、何を教えているのですか?」
カーリーの言葉を受けて、リンが気になったことを訊いた。それを聞いて、マリーの顔がげっそりとなる。
「ああ、マリーには、格闘術を教えているよ。あの事もあるからね。徒手空拳で、ある程度戦えるようになってもらわないといけないさね」
マリーは、剣が使えないので、その分素手で出来る格闘術を教えられている。
「マリーは、どのくらい強くなったんだ?」
「どうだろう? お母さんには一撃も当てられてないけど……」
「それなら、模擬戦をしてみれば良いんじゃないかい?」
カーリーが提案した。
「なるほど。なら、やるか、マリー」
「ええ……でも、私もどのくらい出来るかやってみたいし、いいよ」
こうして、二人の素手による模擬戦が始まる。
マリーとリリーの関係も良好だ。腹違いの姉妹と言われて、混乱したのは最初だけだった。今では、元々の関係よりも仲良くなっている。さらに言えば、Sクラス全体の仲も良くなっていた。あの地獄を共に生き延びた事や全員共通の秘密を得た事が、要因するのだろう。
だが、全員マリーに気遣っている節は全く無かった。素のままで、仲良くなっているのである。
マリーが国王の娘という事は、Sクラスの全員と担任であるカレナ、触媒屋を営んでいるネルロしか知らない。カレナは、学院にその事を報告するという事はしていなかった。そもそも、信じてもらえるはずが無いからである。
何も知らない学院側は、Sクラスの野外演習を不幸な事故として処理し、別の課題で埋め合わせするようにと、カレナに通達した。
そしてその課題は……
「何で、レポートなの!?」
セレナが、頭を抱えて嘆く。
「セレナ、頭を抱えてる暇があったら、早く書かないと、一向に進まなくなるよ。後、ここ図書室なんだから静かにしないと、周りに迷惑が掛かるでしょ」
マリーが、本を片手にそう言う。マリーとセレナは、レポートを進めるために、二人で図書室に来ていた。
今回出されたレポートは、魔物の生態と特徴だ。この魔物は、それぞれで選んでいい。
「うぅ……マリーは、題材何にしたの?」
「キマイラ」
「キマイラ!? なんで!?」
あんな目に遭って、なんでキマイラなのかと、セレナは目を剥いている。
「キマイラには、苦い思いをさせられたからね。次は無いようにしないと。後、静かにして」
「うぅ……結構すんなり決めるね。私は、どうしよう」
セレナが、魔物の図鑑を見ながら、唸っている。
「そんなに焦る必要はないんじゃない? コハクやリリーだって、まだ決めてないって言ってたし」
「でも、早く決めておきたいじゃん」
「でも、いい魔物が見付からないんでしょ?」
「うん。スライムだとありきたりだし、ドラゴンだと文献が架空のものが多いし」
「良い感じの魔物ねぇ……私も全く思いつかないや。妖精とかにすれば?」
「妖精かぁ。いいかも!」
「セレナ……いい加減追い出されちゃうよ」
「うぅ、ごめん」
そんな感じで、文献を片手に、必要な情報をメモしていく。
「ねぇ、マリー」
「何? セレナ」
黙々とメモをしていたセレナが、いきなり話しかけてきた。マリーは、飽きたのかと心配になったが、どうやら違うようだった。
「このレポートって、何文字以上だっけ?」
「一万」
「今思うと、やっぱりエグいよね」
「まぁ、三日間の野外演習の代わりだから、仕方ないんじゃない? それに、魔物の生態とかって、意外と書いてある事が多いし、深いから、一万文字でも足りない事もあるかもよ」
「マリーは、意外とレポートが好きって感じ?」
「意外とはなにさ。家柄、レポートを書く事が多いだけだよ」
「ああ、なるほど」
マリーの言葉に、セレナは納得する。
マリーは、魔道具職人であるカーリーの娘なので、使い心地や作り方など、色々な情報をまとめる事が多かった。カーリーは、それをレポート形式で提出するように言う事が多いので、必然的にレポートをよく書く事になる。
その後も、黙々とメモを続けていると、
「ここにいたのか」
マリーを探していたアルが、やって来た。
「アルくん、どうしたの?」
「ああ、頼みがあってきたんだ」
「頼み?」
アルは、普段マリーに頼み事をすることがあまりないので、マリーは、意外そうな顔をする。
「ああ、剣を作って欲しいんだ」
「剣?」
マリーは、不思議そうな顔をする。この前の戦いでもアルの剣は、折れていないので、特に作り直す必要はないと思われるからだ。
「魔力の通りがいいものが欲しいのだが、どこの鍛冶屋に行っても無くてな。マリーが、使っていた剣が似たようなものだと思い出したんだ」
アルの言うとおり、マリーの剣は、通常の剣よりも魔力の通りが良くなるようにしている。剣舞と剣唄を使うのに、そうするが一番だからだ。
「なるほどね。いいけど、時間掛かるかもよ?」
「ああ、構わない。最高の一振りを頼む」
「うん」
そんな様子を見ていたセレナからマリーに、質問が飛んできた。
「そういえば、マリーって自分で剣を振らないよね? 何で?」
「振れないからだけど。持ち上げるのも難しいし」
マリーは、剣を振う事が出来ない。そもそも、持ち上げる事すら出来ない。一度、極度に軽くした剣を持ち上げようとしたが、それでも無理だった。ちょうど一緒にいたコハクは、本当に軽々持ち上げていた。この際、コハクが思いっきり振った剣は、ぽっきりと折れてしまった。軽くし過ぎて、耐久度が低かったのだ。
「そうなの? 確かに、マリーは細いもんね」
「これでも、腕立てはしてるんだよ。昨日ようやく、五回出来るようになったんだから」
「…………」
「…………」
マリーはふんぞり返っているが、アルとセレナは苦笑いだ。
「閉館時間です。本を仕舞って、速やかに退室してください」
図書室の司書が、図書室全体に声を響かせる。
「もう時間なんだ」
「でも、大体調べ終わったから、ちゃんと書けるね」
セレナも題材を決めて、しっかりとレポートに必要な情報をメモしていた。
「なら、手早く仕舞おう。俺も手伝う」
三人は、本を仕舞って図書室を出た。
「そうだ! マリー、私の剣を持ってみてよ」
「ええ、多分無理だよ?」
「試すなら、中庭の演習場に行こう。廊下で、刃物を振り回すのは危険だからな」
中庭に出ると、そこには、コハクとリンの姿があった。
「あ、コハク!」
「マリー、どうしたの?」
コハクは、タオルで汗を拭いながら訊く。
「セレナの剣を持てるかどうか、実験するんだ」
「へぇ~、大丈夫なの?」
「分からないから、やってみるの。これで持てたら、筋トレの成果が出たって事になるだろうし」
意気込んでいるマリーに対して、コハクは、少し心配そうにしていた。いつも、剣を持てない姿を見ているからだろう。
「マリーさんは、どうして剣を持てないんだい?」
リンが、コハクに訊く。
「う~ん、それが全然分からないの。色々試したけど、短剣を持つのが限界なんだ。それも振れないけど」
「ふむ、不思議だね。マリーさんの筋力でも、使える剣はあるはずだけど」
「どうやっても無理だったよ?」
「う~ん……やっぱり不思議だね」
リンの感想は、不思議という事だけだった。
「じゃあ、はい」
そんな事を話している内に、セレナがマリーに自分の細剣を渡す。
「うん」
マリーが受け取って、セレナが細剣を手放す。そして、皆の視線は下に向く。
「……」
セレナが手を離した瞬間、細剣の先端が地面に刺さったのだ。
「ぐぬぬぬ、重い……」
「えっ?」
マリーは、その状態で支えるのがやっとだった。コハク以外の皆が、その姿を見て驚く。
「……セレナ。マリーと一緒に持ってみてくれ」
「うん……」
セレナがマリーと一緒に持つと、普通に持ち上げる事が出来た。
「あれ? 軽い?」
マリーは首を傾げる。アルは、顎に手を添えて考え込み始める。
「セレナって、筋肉ムキムキだったっけ?」
「そんなんじゃないよ! きちんと細くて柔らかいよ!」
マリーとセレナがじゃれ合っていると、アルが口を開く。
「カーリー殿は、何か知らないのか?」
「お母さん? どうだろう? これに関しては、聞いた事無いけど。筋力不足だと思ってたから」
「私も、師匠から聞いた事は無いよ」
マリーもコハクも、カーリーから、このことについて聞いた事は無かった。マリーが剣を持てない姿を見ても、特に理由を述べなかったのだ。
「まぁ、剣舞でどうにかなってるから、特に気にした事無かったしね」
マリーの剣舞は、自分で剣を扱う事が出来なかったために、開発した魔法だ。開発した後は、このことについて、考えなくなるのも無理は無い。
「マリーさん、これ持ってみてくれる?」
リンが、自分の弓をマリーに渡す。マリーは、細剣をセレナに返してから、リンの弓を受け取る。
「? 持ったよ?」
マリーは首を傾げる。マリーが、弓をしっかりと持つ事が出来たのを見て、アルとリンが驚く。
「マリー、リンの弓は、セレナの細剣とほぼ同じ重さをしているぞ」
「え? 嘘!? でも、私、持てるよ?」
マリーは、アルの言葉に頭が混乱している。
「つまり……」
「ああ、マリーが持てないのは、剣だけということになるな」
驚愕の事実が判明した。いや、正確には前から分かっていたことだったが、思考停止していたという方が正しい。なぜなら、同じ重さの鉄はもちあげられても、剣になった途端に持ち上げられないということが多かったからだ。
「でも、包丁は振れるよ?」
マリーは、一応の反論を言ってみる。
「つまり、剣に分類されるものが扱えないというのが正しいらしいな」
「でも、何でだろうね」
アルとリンは、真剣に考え込む。マリーは、あまり気にしていないので、のほほんとしていた。
「何をしているんですの?」
中庭で集まっているところに、リリーとアイリがやって来た。Sクラス全員集合だ。
「マリーについての考察といったところか」
「マリーさんの?」
リリーは、そう言いながらマリーを後ろから抱きしめる。マリーが姉ということが判明して以降、マリーに対するリリーのスキンシップが多くなっている。リリーの方が、背が高いため、マリーの方が妹に見えてしまうのが、マリーにとっては癪だったが。
「ああ、マリーは、剣を持ち上げられないんだが、同じくらいの重さの弓は持ち上げられたんだ。つまり、剣に関する何らかの制限を受けているのだが、その原因がわからない」
アルが、これまでの話をまとめて伝える。
「マリーさんは、短剣も持てないんですの?」
「ううん。短剣なら何とか持てるよ」
「なら、必ずしも剣を扱えないというわけではないのではありませんの?」
「でも、持てるだけだよ。まともに振ることは出来ない。重い剣を何とか振うみたいな感じになるんだ」
マリーがそう言うと、皆がう~んと悩み始める。
「マリーちゃんは、いつ頃から持てなくなったとか分かるの?」
「え~と、五歳か六歳の時に修行を始めたから、そのくらいかな?」
「じゃあ、生まれつきのものなのかもね」
アイリが、マリーの答えからそう言うと、全員合点がいったような顔をする。
「確かにそうだな。筋力の問題では無いとなると、先天性なものだろう。それこそ、呪いだとか」
「呪い……ある意味じゃ、国王達の判断は合っていたって事なのかな」
「そんなわけ無いですわ。これとそれは別問題ですもの」
少し落ち込んだマリーを、リリーが少し強めに抱きしめる。
「ありがと、リリー。それはさておき、いつまで抱きしめているのさ」
「それはもう、いつまでもですわ!」
リリーは、そう言って幸せそうに笑う。それを見てしまうと、マリーも何も言えなくなってしまう。
「マリーって、文句言うくせに甘いよね」
コハクが、ジト目でマリーを見る。
「そんな事無いよ。譲れない部分は、きちんとしたもの」
マリーが言っているのは、リリーのお姉様呼びのことだ。学院や外でそんな呼び方をされては、マリーが王族の子供だとばれる可能性があるからだった。
そのため、お姉様呼びはマリーの家の中のみとなっている。マリーとしては、かなり譲歩した方と思っている。
「あんた達、こんな時間に、ここで何をやっているんだい?」
声のした方を皆で見る。そこには、教師用のローブを肩に掛けたカーリーの姿があった。
「あ、お母さん。今、私が何で剣を持てないのか話し合ってたの」
「そうなのかい」
カーリーは、少し考えてから、驚くべき事を口にした。
「マリーが剣を使えないのは、祝福のせいさね。拾ったときには無かったから、いつ頃からかは、分からないけどね」
皆の目が点になってしまう。
「……お母さん、私、それ聞いたこと無いよ?」
「おや、言ってなかったかい?」
カーリーも自分が言っていなかったことを忘れていたようだ。
「何の祝福かは分かっているのですか?」
アルが、カーリーに訊いてみた。実際、皆気になっていたことだったので、全員がカーリーに注目する。
「確か、魔法神の祝福だったかね。魔法の威力の上昇や消費魔力の削減なんかの効果がある代わりに、剣が持てなくなるんさね。祝福自体珍しいものだけど、魔法神のものは、特に珍しいものさね」
再びマリー達の目が点になる。
「魔法使いからしたら、喉から手が出るほど欲しい祝福ですね」
「そうでもないさね。近接戦闘が出来ないってのは、魔法使いからしても痛手だよ。これで喜ぶ魔法使いは、所詮は二流止まりさね」
カーリーは、アルの考えを否定する。カーリーにとっての魔法使いとは、接近戦でも対応出来ないといけないのだ。
「魔法使いを守るために、俺達騎士がいるのですが」
「ああ、そうだとも。だが、その騎士がいなくなった場合はどうさね?」
「……なるほど」
アルは苦い顔をした。騎士がいなくなれば、魔法使いは敵の攻撃に晒される。それどころか、敵の接近も許すことになる。そうなれば、近接戦闘が出来ない魔法使いは途端に役立たずとなるだろう。カーリーの言葉は、全くもってその通りなので、言い返すことが出来ないのだ。
「そういうことさね。魔法使いもある程度の接近戦が出来なければ、特定の戦闘下では、ただの木偶の坊さね」
「では、マリーさんには、何を教えているのですか?」
カーリーの言葉を受けて、リンが気になったことを訊いた。それを聞いて、マリーの顔がげっそりとなる。
「ああ、マリーには、格闘術を教えているよ。あの事もあるからね。徒手空拳で、ある程度戦えるようになってもらわないといけないさね」
マリーは、剣が使えないので、その分素手で出来る格闘術を教えられている。
「マリーは、どのくらい強くなったんだ?」
「どうだろう? お母さんには一撃も当てられてないけど……」
「それなら、模擬戦をしてみれば良いんじゃないかい?」
カーリーが提案した。
「なるほど。なら、やるか、マリー」
「ええ……でも、私もどのくらい出来るかやってみたいし、いいよ」
こうして、二人の素手による模擬戦が始まる。
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ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
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我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
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突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
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王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
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そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
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