14 / 93
捨てられた王女
幕間
しおりを挟む
王の執務室にて。
サリドニア王国現国王アルバナム・トル・サリドニアは、大いに焦っていた。自分達が捨てた子供が、再びこの王都に戻ってきたからだ。
「マリーナリアの様子はどうだ?」
「はっ、今のところ何もしておりません。授業を受け、買い物に行き、友人達と語らっているだけでございます」
王の影であり腹心。隠密部隊の隊長カイト・ナイトウォーカーが、国王にそう報告した。マリーの今までの動向を監視していたのである。
しかし、マリーの家、つまり、カーリーの屋敷に入る事は叶わなかった。敷地に張ってある結界に邪魔されるのだ。カーリー自ら張った結界は、容易に突破できず、強引な手段に出るしかない。だが、それをしてしまえば、確実にカーリーに侵入を察知されてしまうため、外から確認するしかなかった。
「本当にそれだけか!? 何か情報を買っていることなどはなかったのか!?」
「はい。そのような事は全く。ただ、自宅の内部が見られないので、そちらでやられていると我々にもわかりません」
そのことを聞くと、国王は苦々しげに顔を歪める。
「ちっ、大賢者め。余計なことをしおって」
「マリー様には、何も野心は無いようですが、引き続き監視をするのですか?」
「当たり前だ! あれも王族の血を引いておるのだぞ! 私の王位を狙っているに決まっておる!」
国王は、マリーが王都に来た理由を、王位を狙って来たと思い込んでいた。国王からすると、王族の血を引いているものが、抱く野心は王位しかなかった。
「そもそも、貴様が遺体を確認しなかったのが、原因だぞ! 分かっておるのか!?」
「申し開きの言葉もございません」
この隠密部隊は、国王の護衛と諜報を両方担っている。マリーを森に置き去りにしたのもこのカイトだった。
「かしこまりました。引き続きマリー様の監視を続けます」
「ああ、なんとかして、マリーナリアを処分しなければ……」
国王は、少しの間考え込む。カイトが、マリーの監視任務に戻るため、執務室を後にしようとすると、王が引き留めた。
「待て! 思い付いたぞ! あの学院は、再来週に、野外演習をやるはずだ。そこで始末する。お前の手でやれば、私の仕業だとバレる可能性があるからな。引き寄せ餌を使え。森中の魔物を集めるのだ。そして、あれを呼び寄せろ」
「あれとは?」
「決まっているだろ!」
国王の怒声に、カイトは、嫌な予感がした。
「キマイラだ!」
キマイラとは、複数の動物が合体した姿をしている魔物だ。世界の各地に生息している。もちろん、サリドニアにも。
このキマイラを呼び寄せる方法は簡単だった。沢山の魔物の死体を用意すれば良い。キマイラは、魔物の死体を好んで食べる。その理由は、自身の強化だ。複数の動物が合わさっているキマイラは、他の生物を食べれば食べるほど強くなるという性質を持っている。特に魔物を食べるとより強化されるため、魔物の死体を食べるのだ。キマイラ、別名死体漁り。
「しかし、その場には、リリー様もいらっしゃいます! 危険過ぎかと!」
「カイト。多少の犠牲は仕方なかろう。ましてやリリーは、妾の子。最初から継承権も存在せん。死んでも何も困らん。リアの事は心配するな。私がなんとかする」
王妃であるリアディーニア・トル・サリドニアは、自らの子でなくとも、リリーを愛していた。確かにリリーは、側室の子だった。しかし、リリーの母は病によって、リリーを産んだ後、この世を去った。
そのため、リアが、リリーを育てていたのだ。この国では、側室の子が、王位を継ぐ事はほとんどない。正室との間に子が産まれなかった。あるいは、子供が全て亡くなった時にのみ王位を継ぐ権利が与えられる。
このことがあるため、国王は、リリーのことをさほど重要だと思っていない。必要であれば捨て駒にすらする。
「…………かしこまりました」
カイトは、少し迷いが生じていたが、了承の返事をして、今度こそ執務室を出た。
(王は、ご乱心なのか。マリー様だけでなく、リリー様まで殺すと)
カイトは、最初からマリーの処分に反対だった。国王に捨てるように命令されたとき何回も反論した。しかし、ことごとく却下されたのだ。国王に逆らい続ければ、自分の身も危険になるので、それ以上は反論できなかった。
(マリー様、リリー様、申し訳ありません)
カイトには、二人を犠牲にする選択肢しかなかった。カイトにも家族がいる。命令に従わなければ、家族にも危険が迫ってしまう。そのため、従うほかない。
カイトは、歯を食いしばり、手を握りしめる。そして、命令を遂行するために動き出した。
サリドニア王国現国王アルバナム・トル・サリドニアは、大いに焦っていた。自分達が捨てた子供が、再びこの王都に戻ってきたからだ。
「マリーナリアの様子はどうだ?」
「はっ、今のところ何もしておりません。授業を受け、買い物に行き、友人達と語らっているだけでございます」
王の影であり腹心。隠密部隊の隊長カイト・ナイトウォーカーが、国王にそう報告した。マリーの今までの動向を監視していたのである。
しかし、マリーの家、つまり、カーリーの屋敷に入る事は叶わなかった。敷地に張ってある結界に邪魔されるのだ。カーリー自ら張った結界は、容易に突破できず、強引な手段に出るしかない。だが、それをしてしまえば、確実にカーリーに侵入を察知されてしまうため、外から確認するしかなかった。
「本当にそれだけか!? 何か情報を買っていることなどはなかったのか!?」
「はい。そのような事は全く。ただ、自宅の内部が見られないので、そちらでやられていると我々にもわかりません」
そのことを聞くと、国王は苦々しげに顔を歪める。
「ちっ、大賢者め。余計なことをしおって」
「マリー様には、何も野心は無いようですが、引き続き監視をするのですか?」
「当たり前だ! あれも王族の血を引いておるのだぞ! 私の王位を狙っているに決まっておる!」
国王は、マリーが王都に来た理由を、王位を狙って来たと思い込んでいた。国王からすると、王族の血を引いているものが、抱く野心は王位しかなかった。
「そもそも、貴様が遺体を確認しなかったのが、原因だぞ! 分かっておるのか!?」
「申し開きの言葉もございません」
この隠密部隊は、国王の護衛と諜報を両方担っている。マリーを森に置き去りにしたのもこのカイトだった。
「かしこまりました。引き続きマリー様の監視を続けます」
「ああ、なんとかして、マリーナリアを処分しなければ……」
国王は、少しの間考え込む。カイトが、マリーの監視任務に戻るため、執務室を後にしようとすると、王が引き留めた。
「待て! 思い付いたぞ! あの学院は、再来週に、野外演習をやるはずだ。そこで始末する。お前の手でやれば、私の仕業だとバレる可能性があるからな。引き寄せ餌を使え。森中の魔物を集めるのだ。そして、あれを呼び寄せろ」
「あれとは?」
「決まっているだろ!」
国王の怒声に、カイトは、嫌な予感がした。
「キマイラだ!」
キマイラとは、複数の動物が合体した姿をしている魔物だ。世界の各地に生息している。もちろん、サリドニアにも。
このキマイラを呼び寄せる方法は簡単だった。沢山の魔物の死体を用意すれば良い。キマイラは、魔物の死体を好んで食べる。その理由は、自身の強化だ。複数の動物が合わさっているキマイラは、他の生物を食べれば食べるほど強くなるという性質を持っている。特に魔物を食べるとより強化されるため、魔物の死体を食べるのだ。キマイラ、別名死体漁り。
「しかし、その場には、リリー様もいらっしゃいます! 危険過ぎかと!」
「カイト。多少の犠牲は仕方なかろう。ましてやリリーは、妾の子。最初から継承権も存在せん。死んでも何も困らん。リアの事は心配するな。私がなんとかする」
王妃であるリアディーニア・トル・サリドニアは、自らの子でなくとも、リリーを愛していた。確かにリリーは、側室の子だった。しかし、リリーの母は病によって、リリーを産んだ後、この世を去った。
そのため、リアが、リリーを育てていたのだ。この国では、側室の子が、王位を継ぐ事はほとんどない。正室との間に子が産まれなかった。あるいは、子供が全て亡くなった時にのみ王位を継ぐ権利が与えられる。
このことがあるため、国王は、リリーのことをさほど重要だと思っていない。必要であれば捨て駒にすらする。
「…………かしこまりました」
カイトは、少し迷いが生じていたが、了承の返事をして、今度こそ執務室を出た。
(王は、ご乱心なのか。マリー様だけでなく、リリー様まで殺すと)
カイトは、最初からマリーの処分に反対だった。国王に捨てるように命令されたとき何回も反論した。しかし、ことごとく却下されたのだ。国王に逆らい続ければ、自分の身も危険になるので、それ以上は反論できなかった。
(マリー様、リリー様、申し訳ありません)
カイトには、二人を犠牲にする選択肢しかなかった。カイトにも家族がいる。命令に従わなければ、家族にも危険が迫ってしまう。そのため、従うほかない。
カイトは、歯を食いしばり、手を握りしめる。そして、命令を遂行するために動き出した。
10
お気に入りに追加
950
あなたにおすすめの小説

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる