捨てられた王女は魔道具職人を目指す

月輪林檎

文字の大きさ
10 / 93
捨てられた王女

魔道具作り

しおりを挟む
 マリーは工房に入ると、まずネルロの店で買った触媒を保存庫に移した。魔法鞄《マジックバッグ》の中は、時間経過をしないが入る容量は決まっているので、常に入れておく事は出来ないのだ。
 だからこそ、工房に設置されている保存庫に移す必要があった。その保存庫は、棚の形をしている。その大きさは、マリーの背丈よりも高い。そのため保存庫の引き出しは、かなり多くなっている。その一つ一つに温度と湿度の調整をする魔法陣が刻まれているので、ネルロの店と同じように、保存する事が出来る。
 これは、カーリーが、マリーのために用意してくれたものだ。

「さてと、まずはアルくんとの模擬戦で使った剣の補修からだね」

 アルとの戦いで魔道具としては使わなかったものの、刃こぼれなどをしている可能性もあるので、一応メンテナンスをする必要がある。

「刃こぼれは……無いかな。取り敢えず、研ぐだけでいいか」

 マリーは、自分で剣を持ち上げられないので、ここでも魔法で浮かせて研いでいく。このときに使うのは、普通の研石だ。剣の研ぎを終えたら、腰のポーチに仕舞っていく。
 次に、カーリーがくれた髪留めの魔道具を調べ始める。これは、カーリーが作ったものの効果を疑っているのでは無く、その構造を知りたいのだ。マリーは、カーリーから貰ったものに関しては、基本的に確認をしている。カーリーもこれを知っているからか、基本的に、マリーの知っている技法で作った物しか贈っていない。
 マリーは、魔力を通して、魔法陣を浮かび上がらせる。

「うん? 例の多重構造魔法陣? これまで作った事ないのに、私が身分証を手に入れたから、解禁したのかな? 取り敢えず、身分証の魔法陣と比較して、接続部分の法則を見つけてみよう」

 マリーは、自分の身分証にも、魔力を通して魔法陣を浮かばせる。

「やっぱり、この強度強化は同じ部分が変わってる。これが多重化にするための処理なんだ。他の部分もこうやって変えれば出来る……?」

 マリーは、多重構造に挑戦してみようかと思ったが、今はまだ不確定な情報ばかりなので、いつも通りにやることにした。
 今日作るのは、閃光玉と呼ばれるものである。使用するのは、発光石と呼ばれる宝石だ。発光石は、仄かに光っている宝石なのだが、砕くと一際眩しく光る特性を持つ。
 しかし、少し眩しいと感じるだけで、そのままでは、あまり使い道が無い。そのため、この発光石に、光量強化の魔法陣を刻み、光の強さを増強するのだ。その光を直接見ると、一時的にだが視力が奪われる。これは、利用価値が大きいように思えるが、敵味方関係なく効果を発揮するので、チームワークがないと使えない。
 マリーは、国王からの刺客が来る可能性に備えて、閃光玉を作ろうと思っていた。刺客は、いつ襲ってくるか分からない状況下なので、対処出来る手段を増やしておく必要がある。

「閃光玉の量産は、これでいいとして……何か奥の手を用意したいな……」

 マリーは、何かないかと少し考え込んだ。ただ、有効な手立ては、全く思いつかなかった。

「私が作ったオリジナルの魔道具って、この剣達くらいだもんなぁ。う~ん、どうしよう」

 そんなマリーの様子をドアの隙間からカーリーが見ていた。

(今のマリーじゃ、あの剣達以上の魔道具は無理だろうね。ここで、壁を乗り越えられれば、魔道具職人としては、一段と成長できるはずさね。頑張るんだよ、マリー)

 カーリーが見ていることに気づかないまま、マリーは道具作りを続ける。

「う~ん……やっぱり、多重構造に挑戦しよう。これが出来たら、作れる物の範囲が広がるだろうし」

 マリーは、小さな金属の板を取り出した。

「多重構造の利点は……同じ場所に魔法陣を刻印出来る事。複数の魔法陣を刻む必要がないから、小さい物にも複数の付加が出来るし、普段よりも多くの付加が出来る。組み合わせとは違うんだよね」

 マリーの言う組み合わせとは、複数の魔法陣を一つの物にすることである。そのやり方は、複数の魔法陣を魔法式まで分解して、一つの魔法陣に組み替えるという方法だ。この方法でも、多重構造と同じように複数の付加を同じ箇所に付けられるが、魔法陣自体が大きくなってしまう欠点がある。
 この欠点があっても多重構造と似たようなものだろうと思う者が多いのだが、結局二つ分の魔法陣の大きさになるので、二つの魔法陣を刻むのと大して変わらない。
 では、何故これが技法として存在しているのかというと、刻む魔法陣がすっきりとするからだ。
 マリーは、カーリーが作ってくれた髪飾りと身分証の魔法陣を見本にしながら、多重構造での刻印に挑戦する。

「強度強化の最後の部分を変換して、ここに魔力伝導率上昇の最初の部分を変換させたのを付ける」

 マリーが変換した魔法陣を重ねようとすると、バチッという音がして弾かれた。

「わっ!? 何で!?」

 マリーは、弾かれた手を振りながら、何故失敗したのかを考える。

「う~ん……多分、魔力伝導率上昇の方が間違ってたのかな。でも、身分証と髪留めの共通点は、強度強化だけだもんなぁ。その他に関しては、それぞれに変換の法則がありそう。まずは、この法則を見つけるところからかな……」

 その後もマリーは試行錯誤を続けていたが、結局法則を見つけることは叶わなかった。他の魔法陣を見ても、同一の変化は見られなかったからだ。
 マリーは、椅子の背もたれに大きく寄りかかって、大きく息を吐く。

「はぁ……無理だ。これは地道に見つけていこう。お母さんの魔道具を探れば分かると思うし。バレないように探らないとだけど。他に出来るのは……あっ、毒物対策かな。毒物感知の魔道具を作ろう」

 毒物感知の魔道具は、基本的に銀のアクセサリーを使って作る。これに関しては、銀製のものを使うと効果が上がるからだ。
 マリーは、素材置き場から、小さな銀のインゴットを取り出す。
 そして、そのインゴットを、魔力を用いて成形させ始めた。自身の魔力を金属に通して、自分の思うように金属を成形していくのが、魔道具職人の主な金属加工の仕方だ。
 しかし、このやり方は、基本的に小さなインゴットに対してしか使えない。大きなインゴットになればなるほど、使用する魔力の量が大きくなるという事と繊細な調整が難しくなるからだ。また、一度に成形が出来る範囲は、魔道具職人の技量に依存する。操れる魔力の量と集中力が、この技量に関係してくる。
 カーリーが作ってくれた髪留めも、このやり方で細かな装飾となっていた。因みに、カーリーは、どんな大きさのインゴットでも、この技術で加工出来る上、その全体を一気に成形する事が出来る。
 マリーは、この加工法を使い、小さな髑髏を作っていく。ただの髑髏だと味気がないので、周りに細かい装飾を施していく。

(毒だから、禍々しくって思って作ったけど……ちょっと厳ついかな……?)

 そんな風に考えていたマリーだが、形に関しては納得しているので、このまま進めていくらしい。出来上がった髑髏を机に置いて、触媒の保存庫に視線を向ける。

「う~ん……液体金を使うかな」

 マリーは、ネルロの店で買った液体金を取り出す。この液体金は、固体の金よりも魔力を通しやすい加工がされた金属触媒だ。そのため魔力による操作で細かく動かすことが出来る。だが、その反面、少し動かそうとしただけでも、動きすぎてしまう可能性があるので、注意が必要となる。

「やっぱり、操作が難しいなぁ。お母さんは、テキパキとやっていたし、慣れればあんなものなのかな?」

 マリーは、まだ触媒の操作には慣れていないので、液体金をゆっくり動かして、集中して丁寧に魔法陣を描いていく。この液体金で魔法陣を描くことで、その刻印する魔法陣の効果が跳ね上がる。これが、触媒効果の一つだ。

「ふぅ……出来た」

 毒物感知の魔法陣を液体金で描ききったマリーは、その魔法陣の上に、髑髏を置く。そして、魔法陣を髑髏に刻印させるため、魔法陣と髑髏に魔力を流していく。すると、液体金の魔法陣が光り、髑髏に吸い込まれていった。魔法陣の全てが、髑髏に吸い込まれると、色を失った液体金と金色の装飾がされた髑髏だけが残った。
 触媒は、金属系であれば、金属としての輝きを失い、魔法陣の効力の全てが魔道具に吸い込まれる。植物系では、触媒ごと吸い込まれる。
 金属触媒は金属の魔道具に用い、植物触媒は紙などの植物などが使われている魔道具に用いる。実際には、植物触媒を金属の魔道具に使う事も出来なくはないが、魔法陣の効力が落ちる可能性もあるため、使われる事は少ない。

「これで、毒物対策は出来たね。ふぁ~~……」

 この毒物感知に、かなりの時間をかけたので、マリーは眠くなってしまった。取り敢えず、このくらいにして眠ることを決めたマリーは、片付けをして自室に向かった。
 誰もいなくなった工房に人影が入り込んだ。人影は、保存庫や作業台などを確認する。

「ふむ、いい触媒を手に入れているね。触媒の保存の仕方も、ちゃんとしている。作業の仕方も丁寧だ。それに、片付けもしっかりしているね。こっちに来ても、基礎は完璧だ。そろそろ私流の応用を教えた方がいいかね?」

 工房に入ってきたのは、カーリーだった。マリーが作業を終えた段階で、影に息を潜め、いなくなったのを見て中に入ったのだ。

「それにしても、この触媒はどこで仕入れたんだろうね。加工の仕方が一流だ。ここ最近では、ここまでの品質はあまり見ないさね。ふふ、いい店を知ったね。私も紹介してほしいくらいだ」

 カーリーは、こうして不定期にマリーの工房をチェックしている。工房を見るだけで基礎をしっかり出来ているかどうかが大体分かるからだ。因みに、マリーは、このチェックのことを知らない。
 カーリーは、マリーにバレないように、マリーが、寝た後に行っているためだ。カーリーは、チェックが終ると自室に戻り就寝した。
 翌日の朝。マリーは、早めに起きて厨房で朝ご飯を作っていた。今日は、マリーの当番の日だからだ。

「ふぁ~、昨日夜更かししすぎたかも」

 ご飯を作り終え配膳していると、カーリーとコハクが食堂に降りてきた。

「おはよう、お母さん、コハク」
「「おはよう」」

 三人で食卓について朝食をとる。朝食を食べ終わると、カーリーからマリーに話があると言われる。

「何? お母さん」
「多重構造のやり方を教えて欲しいかい?」
「!?」

 マリーは、目を見開いた。多重構造は、昨日の夜、自分では出来なかった技術だ。
 実は、この多重構造は、カーリー自身が編み出した技術なので、教わるならカーリーからが一番だった。
 その事は知らないマリーは、少しの間考え、

「ううん。自分で会得する。もう少しで法則が掴めそうなんだ」

 と、カーリーの提案を断った。カーリーは、ニヤリと笑うと、

「そうかい。頑張りな」

 とマリーの背中を押した。

「うん。頑張る。じゃあ、先に学院行ってくるね」
「ああ。いってらっしゃい」

 カーリーに見送られて、マリーとコハクは、学院へと向かった。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

〈完結〉前世と今世、合わせて2度目の白い結婚ですもの。場馴れしておりますわ。

ごろごろみかん。
ファンタジー
「これは白い結婚だ」 夫となったばかりの彼がそう言った瞬間、私は前世の記憶を取り戻した──。 元華族の令嬢、高階花恋は前世で白い結婚を言い渡され、失意のうちに死んでしまった。それを、思い出したのだ。前世の記憶を持つ今のカレンは、強かだ。 "カーター家の出戻り娘カレンは、貴族でありながら離婚歴がある。よっぽど性格に難がある、厄介な女に違いない" 「……なーんて言われているのは知っているけど、もういいわ!だって、私のこれからの人生には関係ないもの」 白魔術師カレンとして、お仕事頑張って、愛猫とハッピーライフを楽しみます! ☆恋愛→ファンタジーに変更しました

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...