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捨てられた王女
いざ、学院へ
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五歳で魔道具の作り方や魔法の使い方を習い始めたマリーは、驚くべきスピードで成長していった。そして、ほぼ同時期に習い始めたコハクもマリーほどではないが、同年代とは比べものにならない成長を見せている。
二人とも、それぞれの持ち味を身に着けていく。マリーは魔法に特化していき、逆にコハクは剣術に特化していった。この剣術も、カーリーから教わっている。カーリーは、魔法だけでなく剣術も扱うことが出来たのだ。カーリーは、そのことについて「必要だから覚えた」と言っている。
マリーも剣術を習おうとしたが、剣を持ち上げる事すら出来なかったため、諦める事になった。そのため、マリーは、剣に関して少し工夫を凝らすことにした。
そして、二人が十歳になった時、カーリーからある話を受けた。
「マリー、コハク。二人とも、後四年もしたら十四歳だ。そうしたら、王都にある学院に通わないといけないさね。それまでに詰め込めるだけ詰め込むよ」
カーリーが言うには、十四歳になると王都の学院に通うことが義務づけられているらしい。先々代の国王の政策により、決められた事だった。その時から、マリーとコハクは、泣き言を言わずに修行に励んだ。
そして、カーリーは、マリーが十歳となった日にある真実を教えた。それは、マリーが実子でない事。そして、王族の血を引いているという事だ。
「マリー。マリーは、私の本当の娘ではないんさね」
「えっ……? どういうこと?」
「マリーは、産まれた直後に、森の中に捨てられていたのさね。その時に、私が拾って育てることにしたんだよ。マリーの本当の親は、この国の王さね」
「…………」
真実を知ったマリーは、驚愕のあまり固まった。
「なんで、その事を今話すの?」
声を絞り出すように、そう訊く。
「前々から決めてたのさね、マリーが十歳になる時に、きちんと教えておこうってね。こういうのは伝えておかないと、自分で気づいてしまった時に深く傷つくかもしれないからね」
カーリー本人から伝えることで、マリーに与える傷を小さくしようとしたのだった。しかし、それは杞憂と終わった。
「そんなの気にしなくてもいいのに。私がお母さんから産まれていなくても、私のお母さんはお母さんだけだから。私は、大賢者カーリー・ラプラスの娘、マリー・ラプラスだもの!」
マリーは、胸を張ってそう答える。そんな娘の姿にカーリーは、顔を背けた。娘に泣き顔を見せたくないのだ。そのことに気づいているマリーは、嬉しそうに笑っていた。
────────────────────────
次の日も、マリーとコハクは修行に励んでいた。その休憩時間に、カーリーと話をする。
「お母さん、なんで先々代の国王は学院へ通うことを義務にしたの?」
「あっ、私も気になります。何でなんですか? 師匠」
マリーとコハクは、前に話された事で気になったところを訊く。
「ん? ああ、先々代の国王は、国民をこよなく愛する人だったのさ。国民の知力が上がれば、皆がより良い暮らしを出来ると信じていた。だから、学院の義務化をしたのさね。それに伴って、学院で貴族と庶民が一緒に勉強できるようにもしたのさ。貴族と庶民は、ほとんど変わりがないという事を示そうとしたのさ。まぁ、結局何の効果もなかったがね。今も貴族達は、自分達が優れた人種だと勘違いして生きているよ」
カーリーは、最後の方になるとため息混じりで語った。貴族に対して、良い印象が無いようだ。
「さあ、休憩は終わりだ。修行の続きをするよ!」
『はい!』
マリーとコハクの修行は、学院に通いに行く十四歳まで続いた。
そして、学院に通うために王都に行く日がやってきた。王都までは馬車に乗っていく。待ちの入口で、馬車を待たせているので、そこに集まっていた。
成長したマリーの髪型はセミロングで、コハクの髪型はボブとなっている。二人とも髪を結んでおらず、そのままにしている。
「お父さん、お母さん、行ってきます」
コハクは、両親のフカイ・シュモク、ヒスイ・シュモクと別れの挨拶をしていた。別れるとはいっても、学院に通っている間の六年間だけだが。
「マリーちゃんに、迷惑かけちゃダメよ。お勉強も頑張るのよ」
「学べることはなんでも学んで来い。ただし、危険なことは、控えるんだぞ」
「わかってるよ。じゃあ、行ってきます!」
コハクは、マリーとカーリーが乗っている馬車に乗った。
「お待たせしました。師匠も一緒に行くんですね」
「ああ、ちょっと用事があってね」
「何の用事なの?」
「教えられないね」
カーリーが一緒に行く事は、少し前に知ったが何で行くのかは全く教えてくれなかった。その事を不満に思っているマリーは、コハクと何が正解か話し合う。
「どう思う? コハク」
「うーん、素材屋とかかな?」
「お母さんなら、自分で獲ってきそうだけど」
「確かに、じゃあ何だろう。心当たりは全くないの?」
「う~ん……ない!」
カーリーは、話し合っている二人を見てニヤニヤと笑っている。二人は、王都への道のりで何度も話し合ったが、結局答えは出なかった。港町から四時間程掛けて王都に辿り着いた。
「うわぁ、すごい賑やかな街だね」
「本当だね、グランハーバーも大きいけど、やっぱり王都ってだけはあるね」
マリーとコハクは、初めての王都に興奮を隠しきれていなかった。
「ほら、二人とも学院に行くよ。一応入学試験もあるんだ。気を引き締めておきな」
学院に入る際に入学試験がある。誰でも入学が許可されてはいるが、現時点での能力を測り、同じくらいの人で集めるために試験を設けているのだ。
「試験って何をするの?」
「さぁね。毎年変わっているっと聞くよ。前は、魔法の威力で、その前は、剣の実力だったかね」
「剣……」
マリーは、剣をまともに使う事が出来ないので少し不安になる。逆に、コハクはワクワクしていた。強い剣の使い手と闘えるかもと思っているのかもしれない。コハクは、見た目はお淑やかなのだが、少し戦闘狂の節がある。
そんな事を話していると、王城の次に大きな建物の前に着いた。
「ここが学院さね。さあ、中に入って受付を済ませるよ」
「うん!」
「はい!」
マリー達が受付に向かうと、受付にいた女性が驚きのあまり椅子から転げ落ちてから、カーリーに近づいた。
「あ、あの! 大賢者様でございますか!?」
「ああ、そうだよ」
カーリーは、辟易としながら答えた。カーリーは、既に大賢者と呼ばれることに慣れてはいる。しかし、こうして詰め寄られるのはとても嫌いだった。カーリーの態度から、そのことを察したのか、女性は慌てて頭を下げた。
「あっ、すみません!! えっと、ご入学の方ですか?」
「ああ、この二人だよ」
カーリーが、マリーとコハクの背を押して前に出す。
「お名前をお願いします」
「マリー・ラプラスです」
「コハク・シュモクです」
「はい、マリー・ラプラスさんとコハク・シュモクさんですね。ん? ラプラス?」
受付の女性は、名簿に名前を書いていると、少しずつ動きが止まり、ゆっくりとマリーを見た。カーリーが来た時の衝撃よりも、さらに上の衝撃を受けたのだ。
「も、もしかして、大賢者様のご息女ですか?」
「はい、カーリー・ラプラスの娘のマリー・ラプラスです」
受付のお姉さんは、驚きのあまり固まってしまった。口をパクパクさせて何かを言おうとしている。カーリーに、子供はいないという話は有名で、大賢者の後継者が誰になるのかという論争が繰り広げられる程だった。そこに、カーリーの娘であるマリーが出て来れば、驚いてしまうのも仕方ないだろう。
「受付は終わりかい? 会場に行きたいんだがね」
カーリーが、苛つきを隠さずに言うと、
「は、はい。これで、受付は完了です。今回の試験は、戦闘試験となります。剣と魔法を使い、一対一での模擬戦を行って頂きます。詳しい説明は待機室にて行いますので、そちらまでお進み下さい」
「はい、分かりました。ありがとうございます」
「ありがとうございます」
マリーとコハクは、受付のお姉さんにお礼を言ってから目的地へと向かう。
「私は、ここで別れるよ。試験頑張っておいで」
「うん、わかった」
「はい!」
カーリーは、会場の前で別れた。
マリー達は、案内に従って、十分程歩き、待機室に着いた。そこは、広い教室のような場所で、多くの子供が座っていた。マリー達も、その内の一席に座る。二人が、周りの人達の様子を見てみると、全員緊張しているようだった。
「模擬戦……大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。コハクは、剣が上手いもの」
「そうかな。そういえば、マリーは、あれを使うの?」
「うーん、必要があればかな。基本的には、魔法でどうにかするよ」
マリー達が話し合っていると、試験官のような人が入って来た。恐らく、学院の教師だろう。
「今回の入学試験の説明をする。今回の試験では、模擬戦を行ってもらう。どのような結果でも入学は可能だ。この試験の結果は、クラス分けにのみ影響する。手は抜かずに真剣に取り組むように。今回の試験では、魔法、剣どちらも使ってくれて構わない。魔道具の使用も可能だ。この試験では、真剣などで戦って貰うが、怪我をする事はないはずだ。会場内には、ダメージ変換結界が張られており、攻撃を受けると精神にダメージが入るようになっている。ダメージを受け過ぎれば、意識を保てずに気絶することになる。勝敗条件は、この気絶か、片方の降参によって決まる。結果のクラス分けは、三日後に貼り出される。以上が試験の説明だ。何か質問がある人はいるか?」
試験官の確認に、誰も手を挙げなかった。それを確認した試験官は、全員が理解したと判断して頷く。
「では、試験を開始する。名前を呼ばれた者から会場に向かえ。尚、試験の様子は、遠隔投影魔法によって、この幕にも映る。後に試験をする者は、参考にすると良い」
そう言うと、試験官の人は名前を呼び始めた。マリーとコハクは、最初の試験では呼ばれなかった。そのため待機室で映像を見ていた。
「なんか、動きがぎこちない」
「そうだね。私達が、師匠に色々と習っていたからじゃないの?」
映像に映る人達の動きは、どれも直線的で、大振りばかりだった。そして、魔法を使う人は、ごく少数。その威力も小さいものばかりだ。カーリーの修行を経たマリー達には、全く参考にならない映像だった。
「お母さんって、やっぱりすごいんだね」
「うん。あっ、あの人。今までの人とは違うよ。小さな連撃で、防戦一方にしてる。それに、少しずつタイミングをずらして翻弄してる」
今、戦っている人は、戦い方が今までの人と段違いだった。少しずつダメージを溜めていって、相手を気絶させた。戦い方だけ見れば地味に思えるが、マリー達からすると、しっかりと確実に倒そうという意志を感じた。
「うん。やっぱり、違う人はいるね。油断しちゃダメだ」
「ねぇ、マリー。今のところ剣を使う人ばかりだけど大丈夫そう?」
「う~ん……多分……」
マリーが少し不安になっていると、試験官が入ってきて、コハクの名前が呼ばれた。
「じゃあ、行ってくるね」
「うん、頑張ってコハク」
コハクが、試験官に連れられて、対戦相手と共に会場に向かっていった。
「あっ……コハクだ」
コハクが幕に映る。相手は、コハクよりも背が高い男の子だった。何故かニヤニヤ笑っている。相手が小さい女の子だと分かって、楽そうな相手だと思われているのだ。
コハクの本性も知らずに……
結果から言うと瞬殺だった。
相手は、これまでの人達と同じく剣を振り上げて突撃する。それに対して、コハクは、一瞬でトップスピードになると、相手の背後に周り背中を斬りつけた。その一撃で、相手は気絶したのだった。
因みに、コハクは、不満足そうな顔になりながら剣を鞘に収めていた。それを見たマリーは、少し呆れた視線を送っていた。
コハクの試合から二試合挟んだ後に、ようやくマリーの番がやってきた。
「よし、頑張ろう」
気合いを入れたマリーは、会場へと向かう。
二人とも、それぞれの持ち味を身に着けていく。マリーは魔法に特化していき、逆にコハクは剣術に特化していった。この剣術も、カーリーから教わっている。カーリーは、魔法だけでなく剣術も扱うことが出来たのだ。カーリーは、そのことについて「必要だから覚えた」と言っている。
マリーも剣術を習おうとしたが、剣を持ち上げる事すら出来なかったため、諦める事になった。そのため、マリーは、剣に関して少し工夫を凝らすことにした。
そして、二人が十歳になった時、カーリーからある話を受けた。
「マリー、コハク。二人とも、後四年もしたら十四歳だ。そうしたら、王都にある学院に通わないといけないさね。それまでに詰め込めるだけ詰め込むよ」
カーリーが言うには、十四歳になると王都の学院に通うことが義務づけられているらしい。先々代の国王の政策により、決められた事だった。その時から、マリーとコハクは、泣き言を言わずに修行に励んだ。
そして、カーリーは、マリーが十歳となった日にある真実を教えた。それは、マリーが実子でない事。そして、王族の血を引いているという事だ。
「マリー。マリーは、私の本当の娘ではないんさね」
「えっ……? どういうこと?」
「マリーは、産まれた直後に、森の中に捨てられていたのさね。その時に、私が拾って育てることにしたんだよ。マリーの本当の親は、この国の王さね」
「…………」
真実を知ったマリーは、驚愕のあまり固まった。
「なんで、その事を今話すの?」
声を絞り出すように、そう訊く。
「前々から決めてたのさね、マリーが十歳になる時に、きちんと教えておこうってね。こういうのは伝えておかないと、自分で気づいてしまった時に深く傷つくかもしれないからね」
カーリー本人から伝えることで、マリーに与える傷を小さくしようとしたのだった。しかし、それは杞憂と終わった。
「そんなの気にしなくてもいいのに。私がお母さんから産まれていなくても、私のお母さんはお母さんだけだから。私は、大賢者カーリー・ラプラスの娘、マリー・ラプラスだもの!」
マリーは、胸を張ってそう答える。そんな娘の姿にカーリーは、顔を背けた。娘に泣き顔を見せたくないのだ。そのことに気づいているマリーは、嬉しそうに笑っていた。
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次の日も、マリーとコハクは修行に励んでいた。その休憩時間に、カーリーと話をする。
「お母さん、なんで先々代の国王は学院へ通うことを義務にしたの?」
「あっ、私も気になります。何でなんですか? 師匠」
マリーとコハクは、前に話された事で気になったところを訊く。
「ん? ああ、先々代の国王は、国民をこよなく愛する人だったのさ。国民の知力が上がれば、皆がより良い暮らしを出来ると信じていた。だから、学院の義務化をしたのさね。それに伴って、学院で貴族と庶民が一緒に勉強できるようにもしたのさ。貴族と庶民は、ほとんど変わりがないという事を示そうとしたのさ。まぁ、結局何の効果もなかったがね。今も貴族達は、自分達が優れた人種だと勘違いして生きているよ」
カーリーは、最後の方になるとため息混じりで語った。貴族に対して、良い印象が無いようだ。
「さあ、休憩は終わりだ。修行の続きをするよ!」
『はい!』
マリーとコハクの修行は、学院に通いに行く十四歳まで続いた。
そして、学院に通うために王都に行く日がやってきた。王都までは馬車に乗っていく。待ちの入口で、馬車を待たせているので、そこに集まっていた。
成長したマリーの髪型はセミロングで、コハクの髪型はボブとなっている。二人とも髪を結んでおらず、そのままにしている。
「お父さん、お母さん、行ってきます」
コハクは、両親のフカイ・シュモク、ヒスイ・シュモクと別れの挨拶をしていた。別れるとはいっても、学院に通っている間の六年間だけだが。
「マリーちゃんに、迷惑かけちゃダメよ。お勉強も頑張るのよ」
「学べることはなんでも学んで来い。ただし、危険なことは、控えるんだぞ」
「わかってるよ。じゃあ、行ってきます!」
コハクは、マリーとカーリーが乗っている馬車に乗った。
「お待たせしました。師匠も一緒に行くんですね」
「ああ、ちょっと用事があってね」
「何の用事なの?」
「教えられないね」
カーリーが一緒に行く事は、少し前に知ったが何で行くのかは全く教えてくれなかった。その事を不満に思っているマリーは、コハクと何が正解か話し合う。
「どう思う? コハク」
「うーん、素材屋とかかな?」
「お母さんなら、自分で獲ってきそうだけど」
「確かに、じゃあ何だろう。心当たりは全くないの?」
「う~ん……ない!」
カーリーは、話し合っている二人を見てニヤニヤと笑っている。二人は、王都への道のりで何度も話し合ったが、結局答えは出なかった。港町から四時間程掛けて王都に辿り着いた。
「うわぁ、すごい賑やかな街だね」
「本当だね、グランハーバーも大きいけど、やっぱり王都ってだけはあるね」
マリーとコハクは、初めての王都に興奮を隠しきれていなかった。
「ほら、二人とも学院に行くよ。一応入学試験もあるんだ。気を引き締めておきな」
学院に入る際に入学試験がある。誰でも入学が許可されてはいるが、現時点での能力を測り、同じくらいの人で集めるために試験を設けているのだ。
「試験って何をするの?」
「さぁね。毎年変わっているっと聞くよ。前は、魔法の威力で、その前は、剣の実力だったかね」
「剣……」
マリーは、剣をまともに使う事が出来ないので少し不安になる。逆に、コハクはワクワクしていた。強い剣の使い手と闘えるかもと思っているのかもしれない。コハクは、見た目はお淑やかなのだが、少し戦闘狂の節がある。
そんな事を話していると、王城の次に大きな建物の前に着いた。
「ここが学院さね。さあ、中に入って受付を済ませるよ」
「うん!」
「はい!」
マリー達が受付に向かうと、受付にいた女性が驚きのあまり椅子から転げ落ちてから、カーリーに近づいた。
「あ、あの! 大賢者様でございますか!?」
「ああ、そうだよ」
カーリーは、辟易としながら答えた。カーリーは、既に大賢者と呼ばれることに慣れてはいる。しかし、こうして詰め寄られるのはとても嫌いだった。カーリーの態度から、そのことを察したのか、女性は慌てて頭を下げた。
「あっ、すみません!! えっと、ご入学の方ですか?」
「ああ、この二人だよ」
カーリーが、マリーとコハクの背を押して前に出す。
「お名前をお願いします」
「マリー・ラプラスです」
「コハク・シュモクです」
「はい、マリー・ラプラスさんとコハク・シュモクさんですね。ん? ラプラス?」
受付の女性は、名簿に名前を書いていると、少しずつ動きが止まり、ゆっくりとマリーを見た。カーリーが来た時の衝撃よりも、さらに上の衝撃を受けたのだ。
「も、もしかして、大賢者様のご息女ですか?」
「はい、カーリー・ラプラスの娘のマリー・ラプラスです」
受付のお姉さんは、驚きのあまり固まってしまった。口をパクパクさせて何かを言おうとしている。カーリーに、子供はいないという話は有名で、大賢者の後継者が誰になるのかという論争が繰り広げられる程だった。そこに、カーリーの娘であるマリーが出て来れば、驚いてしまうのも仕方ないだろう。
「受付は終わりかい? 会場に行きたいんだがね」
カーリーが、苛つきを隠さずに言うと、
「は、はい。これで、受付は完了です。今回の試験は、戦闘試験となります。剣と魔法を使い、一対一での模擬戦を行って頂きます。詳しい説明は待機室にて行いますので、そちらまでお進み下さい」
「はい、分かりました。ありがとうございます」
「ありがとうございます」
マリーとコハクは、受付のお姉さんにお礼を言ってから目的地へと向かう。
「私は、ここで別れるよ。試験頑張っておいで」
「うん、わかった」
「はい!」
カーリーは、会場の前で別れた。
マリー達は、案内に従って、十分程歩き、待機室に着いた。そこは、広い教室のような場所で、多くの子供が座っていた。マリー達も、その内の一席に座る。二人が、周りの人達の様子を見てみると、全員緊張しているようだった。
「模擬戦……大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。コハクは、剣が上手いもの」
「そうかな。そういえば、マリーは、あれを使うの?」
「うーん、必要があればかな。基本的には、魔法でどうにかするよ」
マリー達が話し合っていると、試験官のような人が入って来た。恐らく、学院の教師だろう。
「今回の入学試験の説明をする。今回の試験では、模擬戦を行ってもらう。どのような結果でも入学は可能だ。この試験の結果は、クラス分けにのみ影響する。手は抜かずに真剣に取り組むように。今回の試験では、魔法、剣どちらも使ってくれて構わない。魔道具の使用も可能だ。この試験では、真剣などで戦って貰うが、怪我をする事はないはずだ。会場内には、ダメージ変換結界が張られており、攻撃を受けると精神にダメージが入るようになっている。ダメージを受け過ぎれば、意識を保てずに気絶することになる。勝敗条件は、この気絶か、片方の降参によって決まる。結果のクラス分けは、三日後に貼り出される。以上が試験の説明だ。何か質問がある人はいるか?」
試験官の確認に、誰も手を挙げなかった。それを確認した試験官は、全員が理解したと判断して頷く。
「では、試験を開始する。名前を呼ばれた者から会場に向かえ。尚、試験の様子は、遠隔投影魔法によって、この幕にも映る。後に試験をする者は、参考にすると良い」
そう言うと、試験官の人は名前を呼び始めた。マリーとコハクは、最初の試験では呼ばれなかった。そのため待機室で映像を見ていた。
「なんか、動きがぎこちない」
「そうだね。私達が、師匠に色々と習っていたからじゃないの?」
映像に映る人達の動きは、どれも直線的で、大振りばかりだった。そして、魔法を使う人は、ごく少数。その威力も小さいものばかりだ。カーリーの修行を経たマリー達には、全く参考にならない映像だった。
「お母さんって、やっぱりすごいんだね」
「うん。あっ、あの人。今までの人とは違うよ。小さな連撃で、防戦一方にしてる。それに、少しずつタイミングをずらして翻弄してる」
今、戦っている人は、戦い方が今までの人と段違いだった。少しずつダメージを溜めていって、相手を気絶させた。戦い方だけ見れば地味に思えるが、マリー達からすると、しっかりと確実に倒そうという意志を感じた。
「うん。やっぱり、違う人はいるね。油断しちゃダメだ」
「ねぇ、マリー。今のところ剣を使う人ばかりだけど大丈夫そう?」
「う~ん……多分……」
マリーが少し不安になっていると、試験官が入ってきて、コハクの名前が呼ばれた。
「じゃあ、行ってくるね」
「うん、頑張ってコハク」
コハクが、試験官に連れられて、対戦相手と共に会場に向かっていった。
「あっ……コハクだ」
コハクが幕に映る。相手は、コハクよりも背が高い男の子だった。何故かニヤニヤ笑っている。相手が小さい女の子だと分かって、楽そうな相手だと思われているのだ。
コハクの本性も知らずに……
結果から言うと瞬殺だった。
相手は、これまでの人達と同じく剣を振り上げて突撃する。それに対して、コハクは、一瞬でトップスピードになると、相手の背後に周り背中を斬りつけた。その一撃で、相手は気絶したのだった。
因みに、コハクは、不満足そうな顔になりながら剣を鞘に収めていた。それを見たマリーは、少し呆れた視線を送っていた。
コハクの試合から二試合挟んだ後に、ようやくマリーの番がやってきた。
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気合いを入れたマリーは、会場へと向かう。
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