上 下
68 / 127
第二章 ダンジョン調査

思わぬ戦闘

しおりを挟む
 天燐を持った私に対して、ラグナル先生は素手のままだ。元々拳で戦う人なので、あまり武器を持つことは無い。それでも、ガルシアさんほどの強さを感じない。

「まさか、宝級武器を持っているとはな。本当の実力を隠していたわけか」
「いや、これ手に入れたの最近ですし、そもそも、学生の武器持ち込みは禁止でしょう? それに、スキルは学校に届け出を出しているので、隠すも何もないと思いますけど」

 私がそう言うと、ラグナル先生はまた青筋を増やした。ラグナル先生は、拳を硬く握ると、私目掛けて直線的な攻撃をしてくる。まっすぐ振り下ろされる拳を、石突きを使って弾き、そのままの勢いで天燐を回転させ、穂でラグナル先生の身体を薙ぎ払おうとする。そこは、腐っても教師なので、身体を仰け反らせることで避けていた。

 私は、そこで攻撃をやめず、天燐を振り回し穂と石突きを使って連続攻撃をする。防御を崩したところで、身体を中心にして、天燐を大きく回転させる。すると、ラグナル先生は大きく距離を取るように下がった。その距離を埋めるように、天燐を勢いよく突き出す。天燐の穂がラグナル先生の頬を浅く斬った。

「貴様ぁ~~!!!」

 ラグナル先生は、怒りに任せて拳を振り下ろしてくる。私は、後ろにバックステップを踏むことで避ける。私に当たらず、地面に打込まれた拳は、地面に大きな亀裂が入れていった。その威力が内包された一撃を何度も振ってくる。それらを、槍の柄と石突きで捌いていく。トレント・サハギンの槍に比べたら、遅すぎる攻撃だ。簡単に捌ける。

「ふん! ふん! ふん!」

 何度も何度も拳を振り下ろしてくる。駆け引きも何も無い。この先生は、私が学校に通っていた頃から何も変わっていない。自分がずっと攻撃をしていれば、向こうからの攻撃はないとでも考えているんだと思う。考えが甘すぎる。
 ラグナル先生の攻撃を捌きながら、後ろに下がっていって、ある場所まで引っ張り出す。ラグナル先生は、私が攻撃しないのを見て、口角を上げている。私が手も脚も出せないと思っているらしい。そのせいで、周りが見えていないみたい。
 私は、ラグナル先生の攻撃と攻撃の合間に、地面にあるものを蹴り上げる。それは、足元にある花壇を囲っていたレンガの一つだ。いきなり蹴り上げたので、ラグナル先生も反応しきれず、顎下から直撃する。

「……!!」

 仰け反った顎を、石突きで薙ぐ。顎の先端を強打したので、ラグナル先生は、一時的に行動不能になる。動けなくなったラグナル先生の鳩尾に拳を思いっきり打ち込む。

「うぐっ!」

 剛力も含んだ一撃は、ラグナル先生に大きなダメージを与えた。そして、打ち込まれた衝撃で後ろに下がり、身体を前傾させているラグナル先生の顔面を、石突きで強打する。なるべく穂は使わない。殺してしまう可能性が高くなるからだ。なんで戦っているのか、よく分からないけど、殺すのは違うと思う。というか、極力人殺しはしたくない。
 ラグナル先生は、鼻から血を流して仰け反った。その目はうつろになっている。最後の一撃として、天燐で顎を薙ぎ払おうとすると、間に割り込んできた人に止められた。最後の一撃を入れられなかったけど、ラグナル先生は、その場で倒れた。

「全く、何をしておる」

 割り込んできたのは、老年に差し掛かる白髪の男性だった。

「校長先生……」

 私の天燐の一撃を受け止めたのは、この学校の校長先生だった。

「はぁ……アイリス。苛ついたとしても、教師をボロボロになるまで叩きのめすのはどうかと思うぞ。こやつもこやつだがな。何があったかは、カーラから聞いておる。主を処罰するつもりはない。安心せい」
「あっ、はい」

 こっちが質問する前に、全部答えられてしまった。心でも読めるんだろうか。

「だが、主には、やって貰わなければならないことがある」
「えっと、なんでしょうか?」

 さすがに、こんなことをやらかしてしまったので、余程の事じゃなければやらないといけない気がする。悪い事じゃないと良いんだけど。

「こやつの受け持っていた授業の教師を臨時でしておくれ」
「あっ、なるほど……分かりました」

 こればかりは、断ることは出来ない。授業を受け持つはずのラグナル先生は、私の攻撃で気絶してしまっている。これから行う授業に間に合うはずがなかった。

「授業の場所は、いつもの運動場ですよね?」
「うむ。午後の授業も頼むぞ」
「分かりました」

 とても面倒くさいことになってしまった。まぁ、こっちも悪いから文句は言えない。授業をするために私は、運動場へと移動する。ただ、少しだけ気になる事があった。

「あの……何故付いてくるんですか?」

 そう、何故か一緒に校長先生が付いてきたのだ。

「主は、こういう授業で手を抜いて追ったからのう。サボらないかを見張る必要があるだろう?」
「さすがに、そんな事しませんよ。多分……」

 戦闘訓練をしたくなかったので、軽く流していた事は事実だ。でも、教師側に立って、授業をする以上真面目にやるしかない。だから、手を抜くなんて事はしないと思う。

「ほらのう」
「そんなに有名でしたか?」
「まぁ、教師の間ではのう。まぁ。今は、ちゃんとしているようだがのう」
「ギルドの戦闘職員になっていますからね」

 そんな事を話している内に、学校の運動場に着いた。まだ、授業の開始時刻ではないので、集まっている生徒はまばらだ。だけど、私と校長先生が来た事で、ざわざわとしていた。知らない人と校長先生が一緒に来ればそうなるのも当然かな。

 生徒達が全員集まると、校長先生が話し始める。

「今日の授業だが、ラグナルが倒れたため、急遽卒業生のアイリスがやってくれることになった。アイリス、自己紹介を」
「はい。初めまして。去年、卒業したアイリス・ミリアーゼです。今は、冒険者ギルドの職員をしています」

 私がそう言うと、生徒の女の子が手を上げた。

「何でしょうか?」
「アイリスさんは、強いんですか?」

 答えづらい質問が来た。強いかどうかで言えば、多分強いに入ると思うけど。

「強い。恐らく、ここの教師も太刀打ち出来るのは、ごく僅かだろう。実際、ラグナルが倒れたと言ったが、倒したのはアイリスだ」

 校長先生がとんでもないことを口走った。普通は、内緒の方向なんじゃ。校長先生のこの言葉は、生徒達には効果覿面だった。一瞬で、皆が直立不動になる。

「いや、そこまで畏まらないで良いですよ。えっと、今日は戦闘の授業をするんですけど、今まで、何をしていたか教えて貰っても良いですか?」
「え、えっと、ひたすら戦闘訓練をしていました」
「それもそうか……じゃあ、同じように戦闘訓練をしましょうか」
「ふむ。スキルの運用法とかではないのか?」

 校長先生がそう言う。

「はい。私のスキルと他の方のスキルは違いますから」

 ラグナル先生が教えてくれないことを教えるべきかもしれないけど、私はそこまでスキルに詳しいわけじゃ無い。先生を目指していたら、そこら辺も詳しくなっていたかもしれないけどね。

「確かに、最上位スキルと通常のスキルでは、恩恵が変わってくるからのう。そのまま戦闘訓練の方が都合が良いのか。それに圧倒的強者との戦闘は、戦闘能力が飛躍的に上がるのう」
「はい。というわけで、早速やっていきましょうか」

 私は、立て掛けられていた木刀を手に取り、感触を確かめる。思いっきりじゃなければ、壊れる事はないかな。

「結構人数がいますし、パーティー戦の練習でもしてみますか。四人一組になってください」
「えっ、でも、アイリスさんは、一人なんじゃ……」

 生徒の女の子が、怖ず怖ずとそう言った。

「大丈夫だと思います。予め言っておきますが、私は体術も使いますし、剣のスキルは【剣姫】です。あまり、嘗めてかかると痛い目に遭いますよ」

 私がそう言うと、生徒達は少したじろいだ。こういう風に言わないと、遠慮しそうだったし。手加減抜きでやって貰わないと意味が無いからね。
 そして、いくつかの組に別れて、戦闘訓練を行った。結局、私に攻撃を当てる事が出来た組は、一組もいなかった。私の目の前で、生徒達は横になって息も絶え絶えになっている。攻撃を与える事が出来ず、ずっと私の攻撃を受けていたから仕方ないね。

「これだけの人数がいて、アイリス一人も倒せんのか。情けないのう」
「もう少し手加減した方が良かったですかね」
「それは、そうかもしれんのう。というよりも、学生時代よりもアイリスが成長したのが、一番の要因だろう」

 確かに、ギルド職員になってから色々と経験しすぎた気がする。ジェノサイドベアから始まって、ゴブリンキング、ボスサハギン、トレント・サハギンと強敵と戦ってきた。その経験が、私を凄い速度で成長させたんだ。

「この調子で、午後も頼むぞ」
「はい、分かりました」

 私は、午後の授業も問題なくこなしていった。結果、私に攻撃を当てる事ができた生徒は、一人もいなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生女神は自分が創造した世界で平穏に暮らしたい

りゅうじんまんさま
ファンタジー
 かつて、『神界』と呼ばれる世界では『女神ハーティルティア』率いる『神族』と『邪神デスティウルス』が率いる『邪神』との間で、永きに渡る戦いが繰り広げられていた。  その永い時の中で『神気』を取り込んで力を増大させた『邪神デスティウルス』は『神界』全てを呑み込もうとした。  それを阻止する為に、『女神ハーティルティア』は配下の『神族』と共に自らの『存在』を犠牲にすることによって、全ての『邪神』を滅ぼして『神界』を新たな世界へと生まれ変わらせた。  それから数千年後、『女神』は新たな世界で『ハーティ』という名の侯爵令嬢として偶然転生を果たした。  生まれた時から『魔導』の才能が全く無かった『ハーティ』は、とある事件をきっかけに『女神』の記憶を取り戻し、人智を超えた力を手に入れることになる。  そして、自分と同じく『邪神』が復活している事を知った『ハーティ』は、諸悪の根源である『邪神デスティウルス』復活の阻止と『邪神』討伐の為に、冒険者として世界を巡る旅へと出発する。  世界中で新しい世界を創造した『女神ハーティルティア』が崇拝される中、普通の人間として平穏に暮らしたい『ハーティ』は、その力を隠しながら旅を続けていたが、行く先々で仲間を得ながら『邪神』を討伐していく『ハーティ』は、やがて世界中の人々に愛されながら『女神』として崇められていく。  果たして、『ハーティ』は自分の創造した世界を救って『普通の女の子』として平穏に暮らしていくことが出来るのか。  これは、一人の少女が『女神』の力を隠しながら世界を救う冒険の物語。  

攫われた聖女~魔族って、本当に悪なの?~

月輪林檎
ファンタジー
 人々を恐怖に陥れる存在や魔族を束ねる王と呼ばれる魔王。そんな魔王に対抗できる力を持つ者を勇者と言う。  そんな勇者を支える存在の一人として、聖女と呼ばれる者がいた。聖女は、邪な存在を浄化するという特性を持ち、勇者と共に魔王を打ち破ったとさえ言われている。  だが、代が変わっていく毎に、段々と聖女の技が魔族に効きにくくなっていた…… 今代の聖女となったクララは、勇者パーティーとして旅をしていたが、ある日、勇者にパーティーから出て行けと言われてしまう。 勇者達と別れて、街を歩いていると、突然話しかけられ眠らされてしまう。眼を覚ました時には、目の前に敵である魔族の姿が…… 人々の敵である魔族。その魔族は本当に悪なのか。クララは、魔族と暮らしていく中でその事について考えていく。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

ゴーレム使いの成り上がり

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移してしまった白久(しろく) 大成(たいせい)。 ゴーレムを作るスキルと操るスキルがある事が判明した。 元の世界の知識を使いながら、成り上がりに挑戦する。 ハーレム展開にはしません。 前半は成り上がり。 後半はものづくりの色が濃いです。 カクヨム、アルファポリスに掲載しています。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

ネカマ姫のチート転生譚

八虚空
ファンタジー
朝、起きたら女になってた。チートも貰ったけど、大器晩成すぎて先に寿命が来るわ! 何より、ちゃんと異世界に送ってくれよ。現代社会でチート転生者とか浮くだろ! くそ、仕方ない。せめて道連れを増やして護身を完成させねば(使命感 ※Vtuber活動が作中に結構な割合で出ます

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

処理中です...