上 下
425 / 456
一周年の吸血少女

郵便配達

しおりを挟む
 サクヤさんの返信は、イザナミさんよりも早く書き終わった。イザナミさんは、何と書いたらいいのか迷いながらだったけど、サクヤさんはイザナミさんの手紙という返信する上での重要な要素を持っているので、前提条件が違う。
 多分、イザナミさんのサクヤさんへの返信も前より早く書けると思う。

「あっ、それとこれも持っていってください」

 そう言ってサクヤさんから渡されたのは、桜の枝だった。サクヤさんを象徴するようなものだから、イザナミさんに届けたいのかな。

「それにしても、イザナミ様は、お話に聞いていたよりも硬い方ではないようですね」
「そうですか?」

 結構堅苦しい喋り方をしている話し方をしていたような気がする。いや、時々口調が変わっていた事があったかも。サクヤさんの手紙に書いている言葉が、少し砕けているものなら、時々見せていた部分が素って事なのかな。

「はい。久しぶりの客人でしっかりと威厳を保てているか心配になっているそうです」
「威厳自体はあったと思いますよ。怖いとかは思いませんでしたけど」
「その方が良いかもしれませんね。必要以上に恐れられるよりも接しやすいでしょうから。イザナミ様も同様に考えられていると思います。威厳は保ちたいですが、恐れられたいとは思っていないでしょうから」
「う~ん……どうにかして、素を引き出せたら嬉しいんですけど……」
「それなら時間の問題だと思いますよ」

 ニコニコとしながらサクヤさんがそう言うので、本当に時間の問題な気がしてくる。何も根拠はないけど。

「それじゃあ、私はここで失礼しますね。この返信も届けたいので」
「はい。本当にありがとうございました。これからもよろしくお願いします」
「お任せ下さい」

 サクヤさんは輝かんばかりの笑顔に見送られて、黄泉比良坂に戻る。普通に帰ってきたからか、シコメさんがあわあわと大慌てだった。私が帰されてきたと思ったのかな。

「ちゃんとサクヤさんからの返信を受け取ってますよ」

 そう言うと、シコメさんはホッと安堵していた。シコメさんに案内されて、イザナミさんの元に戻る。

「もう戻ったのか」
「はい。サクヤさんも嬉しそうにしていましたよ。これが返信です。それと、サクヤさんからの贈り物です」

 イザナミさんに手紙と桜の枝を渡す。桜の枝を受け取ったイザナミさんは、慈しむように桜の枝を見た後、シコメさんに渡した。シコメさんは、丁寧に受け取って、花瓶に挿して部屋に飾った。その間に、イザナミさんはサクヤさんからの手紙を読んでいた。サクヤさんと同じように二回くらい読み直してから、私の方を見る。そして、手紙と私を交互に三回程見ていた。サクヤさんが、私について何か書いたのかな。もしかしたら、時間の問題と言っていたのは、手紙にしたためたからって事なのかな。
 少し難しそうな表情をした後、小さく息を吐いた。

「贈り物も含めて、サクヤとの仲介をしてくれてありがとう。おかげで、つまらない黄泉の暮らしに楽しみが出来た。サクヤの文にも書いてあったけれど、こっちに寄ったついでに届けるで構わないから」
「あ、はい」

 さっきまでの硬い口調じゃなくて、少し柔らかくなっているので、思わず笑ってしまう。それを見て、イザナミさんが眉を寄せた。

「何が面白い?」
「いえ、サクヤさんの言うとおりだったなと思っただけです」
「全く……取り敢えず、この返信はよく考えてから書くから今日はもう帰って良い」
「あ、はい。失礼します。あ、そうだ。今度、食べたい料理とかってありますか? 持ってくるときの参考にしたいんですが」
「外の料理なら何でも良い」
「分かりました」

 イザナミさんと別れて、私はギルドエリアへと戻った。そして、フレ姉にテイムモンスターの卵についてのメッセージを送る。すると、通話の形で返ってきた。

『テイムモンスターの卵を見つけたのか?』
「ううん。ニクスの卵はあるけど、食料素材扱いだから違うでしょ?」
『ああ、それとは違うものだ。ただ、見つかったという情報は一つのみだな。それもまだ孵っていねぇらしいがな』
「どこで見つかったの?」
『エリアに落ちていたらしいが、他のプレイヤーがそこを調べても見つかってねぇみてぇだな。私も見に行ったが、それらしきものは見つかなかった』
「そうなんだ。じゃあ、情報そのものが嘘の可能性も?」
『あるだろうな。ハクは、何からその情報を得たんだ?』
「スキル」

 私の答えを聞いて、フレ姉が黙り込む。何か考えているみたい。

『スキルに明記されていた。それで間違いねぇな?』
「うん」
『なら、実在していたと考えた方が良いだろうな。そもそもテイムモンスターの卵という名称が気になる。普通だったら、特定のモンスターの名前が出るだろう?』
「確かに……」

 フレ姉の話を聞く限りでは、掲示板に書かれていたのもテイムモンスターの卵となっていたはず。スキルだけなら、全部総じてという風に考える事も出来たけど、その二つが一致してしまえば、最初からそういうアイテムなのだと考えられる。

『つまり、ランダム要素のあるものなんだろう。だから、テイムモンスターが多いハクのところでも見つかってねぇ。親が決まってんなら、出て来るモンスターも自ずと決まるもんだからな。手に入る場所は、エリア内の特別な場所……あるいは、何かしらのクエスト報酬ってのも考えられる。まぁ、私よりもハクの方が見つけられんだろ。このゲームだったら、ハクの方が嗅ぎつけるのが上手ぇんだからな』

 今のところ、それらしいアイテムを見つけていないけど、私だって全ての場所を隈無く探せているわけじゃない。どこかしらの隠れ里を見逃している可能性はあるし、本当に細かい部分に隠されているとしたら、見逃している事も十分あり得る。残りの可能性のクエストだけど、特殊なクエスト以外を、あまり受けていないから全く分からない。アイテム探しに集中しすぎているからかな。そういうのは見逃しがちだ。
 まぁ、それはさておき、一つ不本意な言葉があった。

「人を犬みたいに……あっ、そういえば、フェンリルって見つかった?」

 私よりも戦いに明け暮れるフレ姉なら、遭遇している事もあるだろうと思い訊いてみた。

『あ? フェンリル? 見てねぇな。てか、ハクの方が攻略してあるエリアの数は上だろ。どこまで終わらせたんだ?』
「マッピングとか面で言ったら、北以外は終わってるよ。次から北に行くつもり」
『ほれ見ろ。環境無視して動ける分、私達よりも探索スピードは早ぇんだ。フェンリルを見つけるとしたら、自分の可能性が高ぇと思っとけ。それと、いつでもテイム出来るように素材は持っておけよ』
「素材って?」
『……そういや、普通にテイムした経験は?』
「アカリがシルクとミルクをテイムした時に見ただけだから、自分ではないよ」
『全く……取り敢えず、狼系のモンスターになる可能性は高ぇから、肉でも用意しておけ。だが、フェンリルだからな……特殊なテイム方法の可能性も高ぇか。まぁ、備えあれば憂い無しだ。準備だけは欠かさずにな』

 確かに、普段のアイテム欄だと生肉系の素材はないし、そういうのを入れておいた方がいいのかな。フレ姉の言う通り、狼なら肉だろうし、竜の肉でも入れておこう。後は、適当な骨もあって良いかな。

「うん。じゃあ、教えてくれてありがとう」
『おう。そろそろログアウトしろよ。夕飯だろ』
「そうだね。またね」
『ああ、またな』

 今日はバイトがお昼過ぎまであった関係で、そこまで長くログイン出来なかったけど、実りのある時間だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

吸血少女 設定資料集(おまけ付き)

月輪林檎
SF
 『吸血少女ののんびり気ままなゲームライフ』のスキルやその技、武具の追加効果などを章ごとに分けて簡潔に説明します。その章で新しく出て来たものを書いていくので、過去の章に出て来ているものは、過去の章から確認してください。  さらに、ハク以外の視点で、ちょっとした話も書くかもしれません。所謂番外編です。  基本的に不定期更新です。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

最強のギルド職員は平和に暮らしたい

月輪林檎
ファンタジー
【第一章 完】 【第二章 完】  魔物が蔓延り、ダンジョンが乱立する世界。そこでは、冒険者という職業が出来ていた。そして、その冒険者をサポートし、魔物の情報やダンジョンの情報を統括する組織が出来上がった。  その名前は、冒険者ギルド。全ての冒険者はギルドに登録しないといけない。ギルドに所属することで、様々なサポートを受けられ、冒険を円滑なものにする事が出来る。  私、アイリス・ミリアーゼは、十六歳を迎え、長年通った学校を卒業した。そして、目標であったギルド職員に最年少で採用される事になった。騎士団からのスカウトもあったけど、全力で断った。  何故かと言うと…………ギルド職員の給料が、騎士団よりも良いから!  それに、騎士団は自由に出来る時間が少なすぎる。それに比べて、ギルド職員は、ちゃんと休みがあるから、自分の時間を作る事が出来る。これが、選んだ決め手だ。  学校の先生からは、 「戦闘系スキルを、それだけ持っているのにも関わらず、冒険者にならず、騎士団にも入らないのか? 勿体ない」  と言われた。確かに、私は、戦闘系のスキルを多く持っている。でも、だからって、戦うのが好きなわけじゃない。私はもっと平和に暮らしたい!!

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...