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一周年の吸血少女

炉の神

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 急に現れた女性のニコニコとした笑顔は、人懐っこい印象を受ける。取り敢えず、敵という感じはしない。

「えっと……どなたですか?」
「初めまして。私はヘスティア。よろしくね」
「あ、ハクです。よろしくお願いします」

 ヘスティアという名前に覚えがある。確か、ポセイドンさんと知り合いになった後、現実の方で軽く調べておこうと思って関係がありそうな神様の名前を調べた時にあった気がする。まぁ、詳しくは覚えていないのだけど。

「えっと、神様……ですか?」
「ピンポ~ン! 大正解! よく分かったね! 昔は、この近くに村があってね。ここの家に祀られてたんだ。火山の噴火で溶岩が流れてきて、村は焼かれちゃったんだけどね。あっ、その時の住人達は、ちゃんと避難したから無事だよ。ただ、何度も溶岩が流れてきてどんどんと積み重なった結果、こんな地下になっちゃったんだよね」

 ヘスティアさんは、物凄く明るく話していた。内容自体は自然の脅威って感じで、ある意味で怖い話だった。

「それにしても、ただの火で私を顕現させる事は出来ないはずだけど……あっ、【神炎】を持ってるの? 凄い! それに、【熾天使】でもあるんだね。悪魔の気配もあるけど、そこまで成長するのは凄いよ。それに神霊やフェニックスも一緒にいるんだね。びっくりだよ。それにしても、こんなところまで来てどうしたの? もう誰も寄り付かないと思ってたんだけど」
「あっ、フラムが地下に空間がある事を見つけてくれたので、何かあるかなと思ってきたんです」
「それで溶岩の中を来たの? 面白い子だね。そうだ! 面白いついでに、私を連れ出してくれないかな?」
「連れ出すですか?」

 どういう意味で言っているのか分からなかったため聞き返した。

「村があった頃は、色々な人が来てくれたんだけど、もう何千年も誰も来てくれなくてね。まぁ、村がないから当たり前なんだけどね。【神炎】を持っているなら、私を連れ出せるかなって。ハクさんの家に炉はあるかな?」
「炉ですか? 幼馴染みの鍛冶場にあるくらいですかね。後は、屋敷に暖炉があるくらいです」
「じゃあ、暖炉に住まわせて貰おうかな。お願い出来るかな? 見返りに、家内安全を約束するよ」

 ゲーム内での家内安全にどれだけの意味があるのだろうか。そもそも家内とは、どういう存在を指すのだろうか。ギルド全体かな。でも、ここで断るよりも了承した方が楽しそうではある。

「分かりました」
「わぁ! ありがとう!」

 ヘスティアさんは、私を抱きしめるとジャンプして喜んだ。細い女性だと思ったけど、意外と強かった。

「それじゃあ、これを暖炉で燃やしてくれる? 【神炎】でね」

 そう言って、ヘスティアさんが渡したのは、炭だった。よく燃えそうではある。

「それじゃあ、楽しみに待ってるね」

 そう言って、ヘスティアさんは消えていった。同時に、私が点けた火も消えていた。ヘスティアさんが持って帰ったのかな。

『一旦戻るか?』
「そうだね。早めに用意した方が良いだろうし、一旦戻ろうか。欲を言えば、ここら辺に街があったらなって思ったけど、多分ないよね?」
『溶岩以外の炎は、この場所くらいしか感じなかったな』
「あれ? そういえば、ここから炎を感じてたんだよね?」
『ああ、恐らく灰だな。普段は、灰に火を感じる事はないが、神を祀っていた場所なら火の感覚が残っていてもおかしくはない。長年、神を祀っていれば、力も残りやすいんだろうな』

 ヘスティアさんが長年祀られていた炉だから、火の力が灰にも残っていたらしい。試しに灰を回収してみると、神樹の灰というアイテムだった。世界樹も燃やしているはずだけど、世界樹の灰はない。取り敢えず、全て回収しておこう。

「それじゃあ、帰りもよろしくね」
『ああ』
『キュイ!』

 また水着に着替えて、フラムに溶岩の中を先導して貰う。その際に、周囲のモンスター達はニクスが近づけさせない。溶岩湖の外に出たところで、竜霊血姫の装具に着替えて、一旦フラム達をギルドエリアに帰す。空を高速で飛んで移動するので、私一人で移動する方が速いからだ。特に【雷化】を手に入れたのが大きい。前は、【電光石火】と【浮遊】を組み合わせて、空中で足場を作りながら高速移動をするという感じだったけど、足場なしに雷となって移動出来るので、空を飛んで連続で【雷化】をする事で移動時間を大幅に短縮出来る。
 そうして、火山エリアに移動してからギルドエリアに転移する。

「あっ、ハクちゃ~ん!」

 転移直後にアク姉に見つかり、抱え上げられた。

「アク姉、どうしたの?」
「ハクちゃん成分の補給だよ。というか、この時間にギルドエリアにいうのって珍しいね。ハクちゃんの方こそ、アカリちゃんに用事?」
「ううん。別の用事。神様を屋敷に招待するんだ」
「へぇ~……えっ? 何て?」
「だから、神様を招待するの。溶岩エリアの溶岩湖の下で会ったんだ」
「へ、へぇ~……」
「一緒に来る? 場合によっては、ギルドメンバー全員に恩恵があるかもしれないみたいだし」
「そうなの? う~ん。一緒に行きたいところではあるんだけど、これから皆と攻略だから遠慮しておくね。誘ってくれてありがとう。今度神様も紹介してね」
「うん」

 アク姉は最後に私をぎゅっと抱きしめると、ギルドエリアから転移していった。ここでアク姉にヘスティアさんのことを伝えられたのは良かったかな。いきなりヘスティアさんに会って困惑されるよりも、事前に伝えておいた方が良いから。アク姉なら、皆と共有するだろうし。
 そのまま屋敷の中に入って、大きめの部屋にある暖炉の前に来た。基本的に自分の部屋以外にゆっくりするための場所だ。まぁ、基本的に自分の部屋でアカリと過ごす事の方が多いから、あまり使ってないけど。

「えっと、この炭を入れて……その前に灰を敷いておこうかな」

 なるべくあの場所と同じ環境になるように神樹の灰を敷いておく。普通は灰を掻き出す方が良いのだろうけどね。炭だけだと心配だから、世界樹の枝も入れてから、【神炎】で燃やす。すぐにヘスティアさんが来るとは限らないので、暖炉の前でしゃがんで火を見ていた。
 すると、いつの間にか隣でヘスティアさんが一緒にしゃがんで火を見ていた。

「えっ、ヘスティアさん、来ていたなら言って下さいよ」
「ジッと火を見てるから、話し掛けちゃ悪いかなってね。まぁ、冗談はさておき、お願いを聞いてくれてありがとう」

 ヘスティアさんはそう言って頭を撫でてきた。

「そういえば、ヘスティアさんは、ずっとここにいるんですか?」
「ある程度は動けるから、ずっと暖炉の傍ってわけじゃないかな。あまりうろうろしない方が良いかな?」
「いえ、全然自由にして頂いて大丈夫ですよ。後は、この暖炉には薪をくべた方が良いですか?」
「ううん。私が渡した炭があるから大丈夫。近くに人が来なくなって百年くらい経たない限りは、ずっと消える事はないかな」

 つまり、私達がログインしなくなった百年くらい経たない限りは、ヘスティアさんが神界に帰る事はないみたい。つまりは、ずっと居てくれると考えて良いって事かな。なにはともあれ、これでギルドエリアの新しい住人が増えた。
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