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世界を楽しむ吸血少女

地底の遺跡

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 下の方に通路の出口が見えてきた。そこを抜けた瞬間に、【浮遊】を使って浮く。そのまま待っていると、ソイルが落ちてくるので受け止める。次にエアリーも受け止めようとしたけど、エアリーはその前に自分で浮いて止まった。

『入口が塞がりました。重さか何かがトリガーになっているものかと』
「人の重さが必要か何かしらのスキルが必要かって感じかな?」
『その通りかと』

 さすがに重さはないと思うから、スキルが関係していそうかな。そこは考えても仕方ないので、周囲を見回してどこに出たのか確認する。場所は広い空間で一瞬外だと勘違いする程だ。

「ソイル。ここは、どのくらいの深さになるのかな?」
『坑道の下……だと思う……でも……坑道からは……発見出来なかったよ……ここから……坑道も……感じ取れない……』
「ここら辺全体が何か特別なもので覆われているとか?」
『多分……』
『私は特に感じませんので、土に何かがされているものかと』

 ソイルが感じてエアリーが感じないとなると、確かに土に何かがされている可能性がある。そのせいでソイルも坑道から感じ取る事が出来なかったと考えられる。

「森っぽい場所と……遺跡かな?」

 下には森が広がり、その中央に遺跡っぽいものが建っている。それを見ている間に、エアリーが風で色々と確認をしてくれていた。

『人はいません。建造物もあの遺跡とそれに付随するものだけです』
「隠れ里じゃないのかな?」
『お墓のようなものもありますので、元々は人が住んでいたものかと』
「じゃあ、既に滅んだ隠れ里の可能性もあるって事ね。他に怪しい場所はないよね?」
『はい』

 念のためにもう一回確認すると、エアリーは頷いた。エアリーが感じ取れるものは、風が触れられるものだけなので、土の中に何かある可能性はある。ソイルがどこまで調べられるかは分からないけど、ソイルが感じ取れるものがあれば、それも調べないといけない。
 取り敢えず、【白翼】を広げて、一番怪しい遺跡へと降りていく。遺跡は、マヤ文明の遺跡のような形で、中央に行くに従って高くなっている。一周ぐるりと飛んで確認したけど、下から中に入れる場所はなかった。なので、その一番上に何かがあると考えられる。そこに降り立ってみると、中央に何かの石碑が立っていた。
 言語系のスキルに入れ替えて、石碑を読んでみる。

「えっと……【慣性制御】? 『我々は、ここで潰える。そのため、我らの秘技を石碑として伝える。この秘技が悪用されない事を祈る』か。本当に滅びた隠れ里だったんだ。見ようによっては、刀刃の隠れ里も滅びたって言えなくはないけど、完全に誰もいない場所もあるんだね」

 この石碑を読んだことで、【慣性制御】のスキルを収得可能になった。隠れ里のスキルなので、そのまま収得する。

────────────────────

【慣性制御】:MPを消費して慣性を制御する事が出来る。控えでも効果を発揮する。

────────────────────

 かなり良いスキルを手に入れた。これで急停止が可能になる。高速で移動する私にとって、かなり重要になってくるスキルだ。偏差撃ちとかされた時の対処や余所見していて目の前に障害物が出て来たりした時にも使えると思う。後は、直角に曲がる時とかにも使える。

「さてと、ソイル。この遺跡には何かある?」
『ううん……中に……空洞はないよ……土の中も……一緒……』
「避難壕とかになってるわけじゃないんだ。じゃあ、本当に石碑を置くためだけに作ったのか。自分達がいなくなる事を予期していたとか?」
『文から考えるにそうなるかと。お墓の方を調べてみますか?』
「そうだね。案内してくれる?」
『はい』

 三人で一緒に遺跡を降りて、森の中を少し歩いていると、小さな霊園があった。墓の数は十五基ある。名前は刻まれていないので、ここに人がいたという確かな証というだけの場所だ。【心眼開放】にも、何も引っ掛からない。
 他に怪しい場所はないので、周囲を飛び回って色々と探してみたけど、結局石碑以外に何かを見つける事はなかった。本当にただ【慣性制御】を手に入れられるだけの場所みたい。でも、雰囲気は良い場所なので、私としては結構好きだ。
 その空間の探索を終えたところで、ギルドエリアに戻った。アイテム欄に大量の鉱石やら宝石やら水晶やらがあるので、それを共同倉庫に全部入れるためだ。その作業をしていると、後ろから急に手で目隠しをされた。

「だ~れだ?」
「アカリ」
「正解!」

 アカリはそう言いながら、後ろから抱きしめてくる。正面からじゃないから、私も抱きしめ返せないのが歯がゆい。

「ハクちゃんは、何をしてるの?」
「鉱山エリアに行ったから、素材をここに入れてるところ。そうだ。私の身体から鉱石とかが採れるようになったから、色々と入れておくね」
「身体から……?」

 顔は見えないけど、アカリがきょとんとしているのが分かる。私だって、急に身体から鉱石が採れると言われたら、どこかに頭を打ったのかと心配になってしまうし。

「スキルでね。鉱石と宝石と水晶が採れるようになったの。それに、普通に鉱山でソイルが大量の素材を採ってくれたから、一生困らないくらいの素材があると思うよ」
「へぇ~、どれどれ……えっ!? えぇ~……市場に出回ってないものから、高値で取引されてるものまである……」
「凄いでしょ? 後、これはアカリにお土産ね」

 アカリに坑道の隠し部屋で見つけた採掘王の鶴嘴をあげる。

「うぇ!? 【極採掘効率上昇】が付いてるし、耐久力無限!? な、何これ!?」
「何か隠し部屋で見つけたんだ。私はソイルがいるし、アカリが自分で素材を採りに行くときとかに使えるかなって思ったんだ」
「さすがに、悪いよ……」

 さすがのアカリもちょっと遠慮気味だった。アカリが興奮しているくらいだし、本当に良いものみたい。だからこそ、アカリに貰って欲しい。私は使わないから、タンスの肥やしみたいになるし。

「じゃあ、アカリが何かで返してくれれば良いよ」
「何かって……何で? 私が出せるものは、ハクちゃんが要らないものだし……新しい防具や服の構想もないし……」

 アカリが本気で悩んでいた。割と冗談で言ったのだけど、本気で受け取ったらしい。こうなるとアカリも譲らないので、アカリの手を引っ張って、正面に来させる。そして、正面からアカリの事を抱きしめてあげながら、耳元で囁く。すると、アカリが顔を真っ赤にして、小さく頷いた。
 これで、ちゃんと取引完了だ。相互利益の状態と言いたいところだけど、どちらかと言うとアカリの方が大きいかもしれない。私の要求は、そういう要求だったから。
 アカリの可愛い顔も見られたところで、今日はログアウトした。
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