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世界を楽しむ吸血少女
山脈エリアの上空の更に上
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初めてのバイトは、かなり忙しかった。人がいっぱい来たとかじゃなくて、覚える事があるからだった。電子決済と現金払いの二種類があるし、電子決済も色々あるから、ちょっと混乱する部分があった。慣れればどうという事もなかったけど。
デートの方は、かなり楽しかった。遊園地と併設されている水族館に行って、シロイルカとか色々見られたし、ちょっと興奮している光が可愛かった。
そんな忙しくも幸せな時間を過ごした後の日曜日。牧場の仕事を終わらせた私は、山脈エリアの上空に来ていた。結構前に、山脈エリアの上空にある青い靄の元に行こうとして謎の壁に阻まれた事があった。速度を上げて突っ込んだら、固い壁がゴムのような壁に変わったので、重要なのは速度だと考えて後回しにしていた。
【熾天使】を手に入れたという事もあり、もう一度挑戦してみても良いかなという風に思ったからだ。
【大悪魔翼】で飛んで、もう一度壁の有無を確認する。やっぱり、前と同じ透明な謎の壁が阻んでくる。その先には、大きな青い靄が見えている。青空とは別の靄だ。
「よし! やるか!」
【熾天使翼】に切り替えて、一度落下して距離を稼いでから、【飛翔】と連続【電光石火】で加速していく。すると、謎の壁の前に風の壁が私を邪魔してくるので、【暴風武装】で風除けを作り、更なる加速をする。これまでで一番の最高速度を出しながら、謎の壁に突っ込むと、私の身体に何かが纏わり付いてきた。まるで、真空パックに入ったかのような気分だ。
でも、押し返される事はない。そのままどんどんと進んでいる。そして、急にその抵抗が消え去って空に吹っ飛んでいった。
「わわっ!?」
急な出来事に、空中で前に向かって回り続けてしまう。羽を大きく広げてブレーキを掛ける。
「あぁ……驚いた。壁に穴が開いたのかな。さすがに、ゴムみたいって言っても、伸びる限度はあるもんね。それで、ここはどこなんだろう?」
私は今、青い靄の中にいる。【心眼開放】で固めようとしても靄が固まらない事から、ただ単に見えているだけという事が分かる。取り敢えず、横に移動するのではなく、上に上に移動していく。すると、靄の色が段々と黄色に変わり始めた。そして、靄を抜けると、仄かに金色と黄色に輝く雲が浮かぶ場所に出た。
「ここって、天聖竜がいた場所に似てる気がする。【索敵】に反応がないから、モンスターはいないみたいだけど、油断は出来ないか」
急に現れる事も無い話ではないので、警戒はしておく。このエリアを飛び回って調べて行くと、少し離れたところに、雲が重なっている場所を発見した。そちらに近づいてみると、私の他にも空を飛んでいる人がいるのが見える。プレイヤーでない事は分かりきっているので、NPCの天使だと思う。
そっちの方に飛んでいくと、白い天使の羽を生やしたNPCがこっちを見て目を大きく見開いていた。プレイヤーが来たからかなと思ったけど、すぐに、自分が最高位の天使になっている事を思い出した。向こうからしたら、急に偉い人が来たみたいな感じなのかな。そう思うと申し訳ないことをしている気がしてくる。
天使達は、私から少し離れて、頭を下げてくる。ものすごく話し掛けづらい。どうしようかと思っていると、上の方から男性の天使が降りてきた。その天使は、背中に燃える車輪を背負っていた。
『あなたは……熾天使様とお見受けしますが……』
「あ、はい。一応、【熾天使】ではあります」
『失礼ではありますが、あなたからは、禍々しさを感じます。そのご説明を頂けますか?』
「あ~……吸血鬼と悪魔と鬼と精霊と竜でもあります」
嘘を言ってもいずれバレる事だと思うので、正直伝えてみた。吸血鬼とかはともかく悪魔でもあると言ったら、天使がどんな反応をするのか気になるというのもあった。例え、ここで戦闘になるかもしれないとしても。
『……なるほど。こちらへお越しください。我らが代表に会って頂きます』
「あ、はい」
取り敢えず、即戦闘にはならなかった。忌避はされていないけれど、歓迎もされていないような感じがする。車輪を背負った天使について飛んでいくと、どんどん上の層の雲に近づいていった。そして、最上層の雲の上には、神殿のような建物が建っていた。これまで何もなかった事を考えれば、ちょっと異質さを感じる。いや、それだけここが特別という風にも見られるか。
『こちらです』
神殿に着くと、ここへのポータルが解放された。この場所は天上界という場所らしい。
車輪を背負った天使が神殿の中へと入っていくので、私もついていく。神殿の中は、そこまで変な感じはしない。壁はなく柱だけ構成されていて、中が丸見えの状態だ。その中央に、私と同じ赤っぽい羽を生やした天使と頭の上に四つの頭と羽が生えた何かを浮かべている謎の天使がいた。
『お連れしました』
車輪を背負った天使がそう言うと、熾天使が私の方を振り向く。熾天使は女性で、とても綺麗な天使だった。体付きはアク姉みたいだ。変なのを浮かべている方は長身の男性だった。本人は目を閉じているけど、上の四つの頭が目をガン開きにして、こっちを見ているので怖い。
『ご苦労様です。おや、あなた……あの時の子でしたか。試練を突破し、【熾天使】となったようですね。堕天はしていないようですが、そちらも時間の問題でしょう。それまでにやるべき事を進めていきましょう。この子の面倒は私が見ます。よろしいですね』
熾天使がそう言うと、二人の天使は頷いて答えた。
『では、こちらへ』
そう言われるので、熾天使の方に歩いて行く。そして、熾天使が差し出してくる手を取ると、急に周囲の空間が歪んで、別の場所に転移した。
『ここは、私のプライベートエリアです。他の目がない方が、あなたも安心出来るでしょう?』
天使にもプライベートの概念はあったらしい。さっき天使達がいた場所には家とかがなかったから、ちょっと意外に思った。階位が上の天使限定で持てるものなのかな。
「えっと……状況についていけてないんですが……」
『そういえば、何も説明していませんでしたね。私の名前はセラフ。先程あなたを案内してくださったのは、【座天使】のスローン。私と一緒にいたのは【智天使】のケルブです』
「あ、ハクです。よろしくお願いします」
『よろしくお願いします』
セラフさんは、優しそうな笑みでそう言う。ただ、自己紹介とさっきの天使達の紹介が終わっただけで、プライベートエリアに飛んできた理由が分からない。
『あなたは【熾天使】になったばかりで、まだ【熾天使】の力を引き出せている訳ではありません』
「でも、【神炎】は手に入れましたよ?」
『そうですね。ですが、【熾天使】は……ん? 【神炎】?』
「はい。【神炎】です」
セラフさんは、私の周りを歩きながら見てから、眉を寄せて何かを考え始めた。
「どうかしましたか?」
『いえ、あなたからは東の気配がしていらっしゃるので、てっきり【神風】の方かと思ったのですが……』
東の気配と言われて、真っ先に思い浮かんだのは随分前から始まっているクエストの『東方の守護者』だ。
「東方の守護者ってご存知ですか?」
『はい。青龍に認められた者の事ですね。もしかして、あなたが?』
「一応、そうなっているはずです。何で認められたのかは分かりませんが」
『当時から竜の力を持っていたのでは?』
「あ~……そうですね。確かに、持ってました」
『では、きっかけはそうでしょう。なるほど。あなたからの気配の理由は分かりました。【神炎】を手に入れたのは、恐らく天聖竜との戦いで、炎に関する何かを使用したのではないでしょうか?』
そう言われたので、天聖竜との戦いを振り返ってみる。でも、使ったのは血と刀くらいで、炎を使った覚えが……
「あっ、【蒼天】……」
思えば、あの時はずっと【蒼天】のチャージをしたまま吸血をしていた。その熱が炎って判定になったのかもしれない。
『覚えがあるようですね。話を戻しますが、【熾天使】は、根源に通じます。力を引き出すには、根源が必要となります。既に一つお持ちのようですが』
「あ、はい。【根源(血)】を持ってます」
『血の根源でしたか。では、火の根源を手に入れるには、少々掛かりそうですね』
「そういえば、根源って、根源の紙がなくても手に入るんですか?」
『【熾天使】であれば、手に入ります』
【熾天使】は、本当に特別なスキルっぽい。根源が手に入るという事は、【支配(火)】も完全支配に進化出来るという事になる。
「他の属性は手に入らないんですか?」
『そうですね……あらゆる属性を手に入れた熾天使もいますので、手に入る可能性はあります。私がそうですし』
「なるほど……」
根源に通ずるという【熾天使】には、まだまだ隠された何かがありそうだ。
デートの方は、かなり楽しかった。遊園地と併設されている水族館に行って、シロイルカとか色々見られたし、ちょっと興奮している光が可愛かった。
そんな忙しくも幸せな時間を過ごした後の日曜日。牧場の仕事を終わらせた私は、山脈エリアの上空に来ていた。結構前に、山脈エリアの上空にある青い靄の元に行こうとして謎の壁に阻まれた事があった。速度を上げて突っ込んだら、固い壁がゴムのような壁に変わったので、重要なのは速度だと考えて後回しにしていた。
【熾天使】を手に入れたという事もあり、もう一度挑戦してみても良いかなという風に思ったからだ。
【大悪魔翼】で飛んで、もう一度壁の有無を確認する。やっぱり、前と同じ透明な謎の壁が阻んでくる。その先には、大きな青い靄が見えている。青空とは別の靄だ。
「よし! やるか!」
【熾天使翼】に切り替えて、一度落下して距離を稼いでから、【飛翔】と連続【電光石火】で加速していく。すると、謎の壁の前に風の壁が私を邪魔してくるので、【暴風武装】で風除けを作り、更なる加速をする。これまでで一番の最高速度を出しながら、謎の壁に突っ込むと、私の身体に何かが纏わり付いてきた。まるで、真空パックに入ったかのような気分だ。
でも、押し返される事はない。そのままどんどんと進んでいる。そして、急にその抵抗が消え去って空に吹っ飛んでいった。
「わわっ!?」
急な出来事に、空中で前に向かって回り続けてしまう。羽を大きく広げてブレーキを掛ける。
「あぁ……驚いた。壁に穴が開いたのかな。さすがに、ゴムみたいって言っても、伸びる限度はあるもんね。それで、ここはどこなんだろう?」
私は今、青い靄の中にいる。【心眼開放】で固めようとしても靄が固まらない事から、ただ単に見えているだけという事が分かる。取り敢えず、横に移動するのではなく、上に上に移動していく。すると、靄の色が段々と黄色に変わり始めた。そして、靄を抜けると、仄かに金色と黄色に輝く雲が浮かぶ場所に出た。
「ここって、天聖竜がいた場所に似てる気がする。【索敵】に反応がないから、モンスターはいないみたいだけど、油断は出来ないか」
急に現れる事も無い話ではないので、警戒はしておく。このエリアを飛び回って調べて行くと、少し離れたところに、雲が重なっている場所を発見した。そちらに近づいてみると、私の他にも空を飛んでいる人がいるのが見える。プレイヤーでない事は分かりきっているので、NPCの天使だと思う。
そっちの方に飛んでいくと、白い天使の羽を生やしたNPCがこっちを見て目を大きく見開いていた。プレイヤーが来たからかなと思ったけど、すぐに、自分が最高位の天使になっている事を思い出した。向こうからしたら、急に偉い人が来たみたいな感じなのかな。そう思うと申し訳ないことをしている気がしてくる。
天使達は、私から少し離れて、頭を下げてくる。ものすごく話し掛けづらい。どうしようかと思っていると、上の方から男性の天使が降りてきた。その天使は、背中に燃える車輪を背負っていた。
『あなたは……熾天使様とお見受けしますが……』
「あ、はい。一応、【熾天使】ではあります」
『失礼ではありますが、あなたからは、禍々しさを感じます。そのご説明を頂けますか?』
「あ~……吸血鬼と悪魔と鬼と精霊と竜でもあります」
嘘を言ってもいずれバレる事だと思うので、正直伝えてみた。吸血鬼とかはともかく悪魔でもあると言ったら、天使がどんな反応をするのか気になるというのもあった。例え、ここで戦闘になるかもしれないとしても。
『……なるほど。こちらへお越しください。我らが代表に会って頂きます』
「あ、はい」
取り敢えず、即戦闘にはならなかった。忌避はされていないけれど、歓迎もされていないような感じがする。車輪を背負った天使について飛んでいくと、どんどん上の層の雲に近づいていった。そして、最上層の雲の上には、神殿のような建物が建っていた。これまで何もなかった事を考えれば、ちょっと異質さを感じる。いや、それだけここが特別という風にも見られるか。
『こちらです』
神殿に着くと、ここへのポータルが解放された。この場所は天上界という場所らしい。
車輪を背負った天使が神殿の中へと入っていくので、私もついていく。神殿の中は、そこまで変な感じはしない。壁はなく柱だけ構成されていて、中が丸見えの状態だ。その中央に、私と同じ赤っぽい羽を生やした天使と頭の上に四つの頭と羽が生えた何かを浮かべている謎の天使がいた。
『お連れしました』
車輪を背負った天使がそう言うと、熾天使が私の方を振り向く。熾天使は女性で、とても綺麗な天使だった。体付きはアク姉みたいだ。変なのを浮かべている方は長身の男性だった。本人は目を閉じているけど、上の四つの頭が目をガン開きにして、こっちを見ているので怖い。
『ご苦労様です。おや、あなた……あの時の子でしたか。試練を突破し、【熾天使】となったようですね。堕天はしていないようですが、そちらも時間の問題でしょう。それまでにやるべき事を進めていきましょう。この子の面倒は私が見ます。よろしいですね』
熾天使がそう言うと、二人の天使は頷いて答えた。
『では、こちらへ』
そう言われるので、熾天使の方に歩いて行く。そして、熾天使が差し出してくる手を取ると、急に周囲の空間が歪んで、別の場所に転移した。
『ここは、私のプライベートエリアです。他の目がない方が、あなたも安心出来るでしょう?』
天使にもプライベートの概念はあったらしい。さっき天使達がいた場所には家とかがなかったから、ちょっと意外に思った。階位が上の天使限定で持てるものなのかな。
「えっと……状況についていけてないんですが……」
『そういえば、何も説明していませんでしたね。私の名前はセラフ。先程あなたを案内してくださったのは、【座天使】のスローン。私と一緒にいたのは【智天使】のケルブです』
「あ、ハクです。よろしくお願いします」
『よろしくお願いします』
セラフさんは、優しそうな笑みでそう言う。ただ、自己紹介とさっきの天使達の紹介が終わっただけで、プライベートエリアに飛んできた理由が分からない。
『あなたは【熾天使】になったばかりで、まだ【熾天使】の力を引き出せている訳ではありません』
「でも、【神炎】は手に入れましたよ?」
『そうですね。ですが、【熾天使】は……ん? 【神炎】?』
「はい。【神炎】です」
セラフさんは、私の周りを歩きながら見てから、眉を寄せて何かを考え始めた。
「どうかしましたか?」
『いえ、あなたからは東の気配がしていらっしゃるので、てっきり【神風】の方かと思ったのですが……』
東の気配と言われて、真っ先に思い浮かんだのは随分前から始まっているクエストの『東方の守護者』だ。
「東方の守護者ってご存知ですか?」
『はい。青龍に認められた者の事ですね。もしかして、あなたが?』
「一応、そうなっているはずです。何で認められたのかは分かりませんが」
『当時から竜の力を持っていたのでは?』
「あ~……そうですね。確かに、持ってました」
『では、きっかけはそうでしょう。なるほど。あなたからの気配の理由は分かりました。【神炎】を手に入れたのは、恐らく天聖竜との戦いで、炎に関する何かを使用したのではないでしょうか?』
そう言われたので、天聖竜との戦いを振り返ってみる。でも、使ったのは血と刀くらいで、炎を使った覚えが……
「あっ、【蒼天】……」
思えば、あの時はずっと【蒼天】のチャージをしたまま吸血をしていた。その熱が炎って判定になったのかもしれない。
『覚えがあるようですね。話を戻しますが、【熾天使】は、根源に通じます。力を引き出すには、根源が必要となります。既に一つお持ちのようですが』
「あ、はい。【根源(血)】を持ってます」
『血の根源でしたか。では、火の根源を手に入れるには、少々掛かりそうですね』
「そういえば、根源って、根源の紙がなくても手に入るんですか?」
『【熾天使】であれば、手に入ります』
【熾天使】は、本当に特別なスキルっぽい。根源が手に入るという事は、【支配(火)】も完全支配に進化出来るという事になる。
「他の属性は手に入らないんですか?」
『そうですね……あらゆる属性を手に入れた熾天使もいますので、手に入る可能性はあります。私がそうですし』
「なるほど……」
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