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因縁に決着をつける吸血少女

永正さんの形見

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 通路を進んでいくと、小さな部屋に着いた。そこは、魔法陣があるだけで物は置かれていない。でも、【心眼開放】で靄を見つける事が出来た。固めてみると、一本の刀が出て来た。

「何で刀? 永正さんの?」

 名前は竜狩刀というらしい。竜を狩るための刀って事かな。これは、師匠に見せる事にする。他に見つけられるものはなかったので、魔法陣の上に乗る。そのまま転移すると、死霊術士の墓場の前に出た。

「……あれで終わりか。アク姉達は終わったのかな?」

 しばらくの間、死霊術士の墓場の前でアク姉達を待ってみる。入口の横でしゃがんでいれば、【隠蔽色】が発動して、他の人やモンスターから見えにくくなる。レイドに挑戦する人達からも発見されにくくなるだろう。
 五分くらい待っていたら、アク姉達が転移してきた。

「ハクちゃん!」

 いち早く私を見つけたアカリが駆け寄ってきて、そのまま抱きついてくる。いきなりパーティーから消えたし、心配掛けちゃったみたいだ。私も背中に手を回してアカリを抱きしめる。

「ハクちゃん、大丈夫だった? 何があったの?」

 アカリの後ろからアク姉に訊かれる。

「私がやってるクエストに関係した事だったみたい。別の場所に連れていかれて、胸糞悪い戦いをしたってだけ。良い修行にはなったかな。そっちは大丈夫だったの? エアリー達もいなくなっちゃったでしょ?」
「まぁ、大丈夫ではあったよ。アカリちゃんが大活躍だったんだから」
「そうなの?」

 アカリの話題が出たら、アカリの身体がピクッと反応した。肩に頭を付けているから、顔を見る事は出来ないけど、恥ずかしいとか思っているのだと思う。後で、からかおう。

「てか、これって私はレイドクリアした事になってないよね」
「でしょうね。また行ってみる? クエストフラグに気を付ければ良いでしょ?」
「えっ、良いんですか?」
「私は良いけど」

 アメスさんの提案に皆も了承してくれる。次に挑めるようになるのが二時間後なので、それまでパーティーを分けて、レベル上げをしてから再び挑んだ。精霊の皆も心配してくれていたので、ちゃんと安心させておいた。
 そうして挑んだ死霊術士の墓場は、呆気なくクリア出来た。合体してから私が吸血したら、骨がどんどん消えていって、核の破壊がスムーズに出来た。それに、アカリが活躍したという理由も分かった。それは、核の破壊だ。細剣の細さを活かして、骨の隙間から核を正確に貫くという攻撃は、スケルトン相手に効果的だった。そうして倒した死霊術士からは、死霊術士の長杖、死霊のローブ、死霊術士の骨、死霊術士の核が落ちて、スキルとして【死霊誘引】が手に入った。そして、称号として【死霊の主】というものも手に入った。死霊系モンスターを強化する称号で、テイムモンスターか【死霊術】を持っていないと意味のないものだった。私は、【蒼天】用に称号は固定にするから、称号自体にあまり興味がなくなっていた。
 レイドも終わったので、皆でギルドエリアに戻る。

「今日はありがとうございました」
「どういたしまして。こっちこそ、楽しかったわ」
「うん。ハクちゃん達と冒険なんて久々だったしね」
「こっちも楽しめましたわ」
「ハクちゃんだけ楽しめないのは、私達にとっても嫌でしたから」
「また、良い感じのレイドがあれば誘う」
「それじゃあ、おやすみ~」

 皆それぞれ言いたい事を言ってからログアウトしていった。最後に残ったのは、私とアカリだ。

「それじゃあ、私もログアウトするね」
「うん。今日は、心配掛けてごめんね」
「ううん。クエスト関係なら仕方ないし、誰も予想出来なかったからね。でも、お詫びの気持ちがあったら、次の土曜日にデートして欲しいな」
「どっちで?」
「勿論、現実で」
「うん。全然良いよ。それじゃあ、初デートになるわけか。楽しみにしてる」

 ただ、デートをするだけではお詫びにならないと思ったので、アカリに近づいて頬にキスをする。

「それじゃあ、またね」

 頬を押えて呆けているアカリに手を振って、私もログアウトした。
 そして、夕飯などを済ませてから、再びログインする。明日は学校なので、そこまで長くはログインしない。ただ一つだけやらないといけない事がある。
 ギルドエリアに降りた私は、すぐに刀刃の隠れ里へと転移した。師匠の家をノックする前に、扉が開いた。

「いらっしゃい。稽古していくでしょ?」
「いえ、今日は別の用事で来ました。大事な用事です」
「そう? じゃあ、中に入って」

 本音を言えば稽古はしたいけど、時間的にも話だけにしておいた方が良いだろうと思って断った。師匠の家の中に入って、テーブルを挟んで向かい合うように座る。

「実は、とある場所で邪聖教司祭の亡霊と戦ったんです。その際、その司祭が【死霊術】で喚び出した存在が、刀を持っていました」
「!?」

 これには、師匠も驚いていた。恐らく、これだけで私が何を言いたいのか理解したのだと思う。

「永正さんという方に覚えは?」
「……師匠の名ね」
「やっぱり……永正さんは、最期に馬鹿弟子によろしくなと言っていました」
「……そう。師匠は強かった?」
「えっと……実は、強制的に操られていたので、本来の強さではないみたいでした。力だけ師匠よりもあるなという印象です。でも、稽古は付けて貰えました」
「師匠は、相手の悪いところを見抜くのが得意だったから、良い稽古になったでしょう?」
「はい。それと、これも見つけたんですが、師匠は、何かご存知ですか?」

 そう言いながら、竜狩刀を師匠に渡す。竜狩刀を受け取った師匠は、懐かしいものを見るような目をしていた。

「師匠の刀ね。竜を狩る事に特化した刀と言われているけど、実際に吸った血は、人の方が多いでしょうね」

 何か滅茶苦茶物騒な事を言っている。ただ、自分の血を武器に纏わせている私が言えた事ではない気もしていた。ある意味、自分の血を一番吸っているようなものだし。

「永正さんは、里で最強だったらしいですね。本気の永正さんと戦ってみたかったです」
「へ? いや、師匠は里最強じゃないわよ。最強は私」
「え?」
「師匠に弟子入りして、すぐに師匠は超えたから、里で最強は私よ。だから、狐面を使えるわけだし」
「えっ……そんな制約があったんですか?」
「そうよ。そもそも強さがないと狐は使えないから。下手したら、死ぬもの」

 そういえば、黒狐は生気を削ると言っていた。だから、私から補給しているわけだし。あのゴミが、永正さんを最強って言っていたのは、隠れ里を襲った時に師匠がいなかったからだったみたい。

「この刀は、あなたにあげるわ。自分の使いやすいように作り直しなさい」
「えっ!? でも、永正さんの形見ですよ?」
「だからこそよ。こんなところに飾って置くよりも使われる方が喜ぶわ。あなたのことも認めているみたいだし。そもそもこれ、作り直さないと使い物にならないわよ」

 そう言って、師匠が刀を抜く。すると、刃がボロボロの状態だった。私の目でも分かるくらいだから、本当にヤバい状態ではある。

「えぇ……」

 正直、あまり気は進まない。永正さんの形見だから、しっかりと師匠が持っておくべきと思ってしまうからだ。

「師匠からの免許皆伝の印とでも思いなさい。あっ、私じゃないわよ? 私からの免許皆伝は、別にあるから。ちょうど良いから持ってくるわ」

 そう言って、師匠はどこかに歩いていってしまった。ついていくという選択もあったけど、何となく大人しく待っておく事にした。三分程すると、師匠が刀を持ってくる。

「はい、これ。」
「ちょっ、わっ……」

 師匠が投げて渡してくるので、慌てて受け取る。結構古そうな刀だ。でも、何だか使い込まれたような雰囲気がする。

「これは?」
「私が昔使っていた刀よ。名前は人斬り」
「……何か、そういう名前を付けないといけない制限でもあるんですか?」
「さぁ? ネーミングセンスは、私じゃないから。歴とした名刀だから、それも材料に使って」
「えぇ……」

 師匠から二振りの刀を渡されてしまう。免許皆伝というのは嬉しいけど、こんな大事なものを貰って良いのかが分からない。

「ソルさんの分は……」
「あの子には、もうとっくの昔に渡しているわよ。あの子は貰ってくれたのに……あなたは貰ってくれないのね……」
「あ、いや……うぅ……あ、有り難く頂きます」
「はい。もう返却は不可よ。しっかりと使い込みなさい。それは、もうあなたの力よ」
「はい」

 刀をアイテム欄に仕舞おうとすると、師匠に止められる。

「ちょっと待ちなさい。仕舞うなら、自分の血に仕舞っておくと良いわ」
「え、でも、このままじゃ使えないんですよね?」
「そうよ。でも、騙されたと思って仕舞っておきなさい。多分だけど、それが一番良いと思うわ」
「そうですか? 分かりました」

 言われた通り、血液に仕舞う。

「それじゃあ、私はもう行きますね」
「ええ、師匠のことを伝えてくれたありがとうね。それと、師匠を解き放ってくれた事も」
「はい。次に似たような報告をする時には、邪聖教を滅ぼしたって言えるように頑張りますね」
「ええ。私が言える事じゃないけど、気を付けて」
「はい」

 今日は、これでログアウトする。新しく得た刀。これを自分の武器へと変えるために、久しぶりにラングさんの店に行かないと。それは、明日以降の持ち越しだ。
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