上 下
301 / 417
因縁に決着をつける吸血少女

本格的な古城探索

しおりを挟む
 ギルドエリアの自分の部屋に来た私は、闇霧の始祖から貰った邪聖教と雪狼会の報告書を読む。

 邪聖教は天聖教から分かれた組織で、悪魔を崇拝している。ただ、特定の悪魔を崇拝しているという訳では無く、悪魔全体を崇拝している。その中で、悪魔を創造する邪聖教の中でも異端扱いされていた一派だけど、一定以上の成果を上げていたため、邪聖教の中では大きな一派となっていた。
 その内、この一派が邪聖教を支配するようになり、邪聖教の在り方が悪魔創造に傾いた。それから邪聖教は過激派が増えていき、潜伏派と過激派に分かれた。潜伏派は、悪魔創造のために様々な場所に潜伏し、研究を進めていった。その潜伏先には、忘れ去られた街も含まれていた。
 吸血鬼が治めるこの街では、研究を思い通りに進める事が出来ていた。その中で街の管理職にまで登り詰める事が出来たのは、邪聖教にとっては幸いと言うべき事だろう。
 別の街では、悪魔を召喚するための方法を模索していた。召喚した悪魔を通じて、新たな悪魔の創造を目論んだからだ。邪神を蘇らせようとするもう一つの邪聖教一派を隠れ蓑に研究は進められたが、そもそも悪魔を召喚する事が出来ずに終わったため、断念したらしい。因みに、この邪神は、邪聖教の中では悪魔の一種と考えられている。
 また死霊術の開発にも、邪聖教が関わっていたらしい。死者を呼び覚ます術が悪魔に繋がると考えていたが、実際には、ただ死んだ相手を喚び出すだけの術でしかなかった。
 天聖教の中にも一定数潜伏していたらしいが、こちらの情報はほぼほぼないに等しい。潜伏していた期間とかは書かれているけど、その後の成果などはない。天聖教の中にいても悪魔に繋がる事は出来なかったらしい。
 後は、補足としてアークサンクチュアリにあるあの建物に悪魔の絵画があった事だけど、教徒への教えのために用意させたものであって、邪聖教が集めたものではないとの事だった。

 簡単に言うと、そういう事が書いてあった。次は雪狼会の方だ。

 雪狼会には、邪聖教との繋がりがあった。雪狼会は、邪聖教の過激派が組織したもので、位置的には邪聖教傘下という事になるらしい。雪狼会が主にしていた事は、今後の邪聖教の活動にて邪魔になるであろう相手を排除する事だった。
 この中には、悪魔を倒せるかもしれないものの排除も含まれる。排除の仕方は実力行使から、暗殺まで多種に渡る。
 だけど、その内の任務の一つで恨みを買い壊滅状態になった。生き残りはいたみたいだけど、それも散り散りになった。それぞれ別組織に所属して、仕事を続けたみたいだけど、その組織も弱っていき、最終的に海を渡ったらしい。

 二つの報告書には、本当に有益な情報が載っていた。これで、私も動きやすくなる。

「散り散りになった先には、ツリータウンとか魔法都市も含まれるのか。そっちでももう一回調べないと。後は、大洋エリアの先にある新大陸か。今は、古城エリアを探索したいから、もう少し後になるかな」

 闇霧の始祖の元に通うだけで、あまり古城エリアを調べられていない。一度探索を始めた以上、しっかりと調べ終えてから次に行きたい。

「後は、これを師匠に報告……は、しないでおこう。下手すると、新大陸に向かいかねないし」

 師匠なら海を走って渡りそうなどと馬鹿みたいな事を考えていると、扉がノックされた。

「どうぞ」

 入ってきたのは、アカリだった。この前も似たような感じで来たから、てっきりアク姉かと思ったのだけど、そこは予想外れだった。

「どうしたの?」
「ううん。何でもないよ。ハクちゃんの部屋に灯りが付いてたから居るかなって」
「そう。でも、ごめんね。そろそろ出ようと思ってたから」
「気にしないで。こっちでも顔が見られて良かった」
「私も同じ」

 アカリの事を軽く抱きしめてから、屋敷を出て行く。そして、再び古城エリアへと戻った。

「【召喚・エアリー】【召喚・メア】【召喚・マシロ】」

 いつもの三人を喚ぶ。

「いつも通りよろしく。私は、色々と調べて行くから」
『はい。分かりました』
『マシロ、マシロ。この前試したやつやろ♪』
『えぇ……まぁ、良いけど……』

 何か、メアとマシロで試していた事があるみたい。ちょっと心配ではあるけど、本当に危険な事なら、エアリーが止めるだろうから放っておこう。私も気になるし。

「そういえば、一階って何があるの?」
『南北に外へと繋がる場所があります。それ以外は、大きな部屋がいくつかありますね』
「食堂と厨房かな?」

 廃城下町エリアにあった屋敷から考えて、そんな気がした。

『そうですね』

 エアリーも頷いて答えたので、本当に厨房と食堂がありそうだ。近くにある部屋から入ると、滅茶苦茶大きな食堂があった。収容人数は数百人にはなると思う。そして、そこには沢山のモンスターがいた。全部ダークナイトというところには驚きだけど、さらに驚く事が起きた。目の前でダークナイト達の胴体が消滅したからだ。

「虚無?」

 散々自分でも使っていたものだから、すぐにその正体には気が付いた。でも、私が使ったものじゃない。これが、メアとマシロが試していた事なのだと思う。

『大成功♪』
『微調整が難しいわね……』

 メアは成功した事を喜んでいたけど、マシロはちょっと不満足みたい。微調整って言っているから、合わせているのはマシロの方なのかな。割と、メアも調整とかは上手そうだけど、ぶっ放したい派なのかも。

「てか、【魔聖融合】無しで虚無が作れるの?」
『ふふん。支配を持ってるからね』
『互いに混ざり合うように意識しているから出来るだけで、一人では出来ないわ。私とメアの合わせ技ってところ。作りやすさで言えば、姉様の方が上よ』

 二人で息を合わせないと、虚無は作り出せないらしい。そう考えると、自由に作り出せる私の方が優れている。ただ、複数ターゲットでの虚無生成は出来ないので、そこら辺は二人の方が優れている。一長一短って感じかな。

「まぁ、倒せるなら良いけど、あまり危険な事はしないようにね」
『うん♪』
『分かってるわ』
『ええ、危険だと判断したら、私がお説教します』
「よろしくね、エアリー」

 エアリーのお説教と聞かされて、メアとマシロが嫌そうな顔をしていた。エアリーのお説教は、ちゃんと効果があるらしい。精霊達のまとめ役をしてくれて助かる。
 皆が警戒している間に、私は食堂を調べて行く。取り敢えず、【心眼開放】で見えるものはなし。後は、普通に落ちている何かがあるかどうかだ。

「特に何もないか……変わったところもないし、普通の食堂みたいだね。規模以外」
『絵画の類いもありませんね。城下町とは違うようです』
『闇も均等に広がってる』
「不自然に闇が固まっていたら、何かあるって感じ?」
『負の感情が残っていたり、呪われていたり?』

 メアの闇感知を活用しておいた方が良さそう。

「何かあったら知らせてね」
『うん!』

 そんな話をしていたら、マシロが視線だけで何かを訴えていた。自分も何かやることが欲しいとかかな。あそこまで怯えていたマシロが、こんな訴えを出来るようになったのは、嬉しい事だ。

「マシロには、灯りをお願いしようかな。テーブルの下とか、ちょっと暗いから」
『分かったわ』

 嬉しそうにそう言うマシロの頭を撫でてあげてから、しっかりと探索を進める。結局、食堂には何もなかった。続いて、食堂から扉一枚で繋がっている厨房に入って調べたけど、そっちも何も無かった。厨房も異常な広さがあった。

「他に部屋はある?」
『後は、外ですね』
「オッケー。それじゃあ、外に出ようか」

 こうして古城エリアの探索が本格的に始まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

Alliance Possibility On-line~ロマンプレイのプレーヤーが多すぎる中で、普通にプレイしてたら最強になっていた~

百々 五十六
ファンタジー
極振りしてみたり、弱いとされている職やスキルを使ったり、あえてわき道にそれるプレイをするなど、一見、非効率的なプレイをして、ゲーム内で最強になるような作品が流行りすぎてしまったため、ゲームでみんな変なプレイ、ロマンプレイをするようになってしまった。 この世界初のフルダイブVRMMORPGである『Alliance Possibility On-line』でも皆ロマンを追いたがる。 憧れの、個性あふれるプレイ、一見非効率なプレイ、変なプレイを皆がしだした。 そんな中、実直に地道に普通なプレイをする少年のプレイヤーがいた。 名前は、早乙女 久。 プレイヤー名は オクツ。 運営が想定しているような、正しい順路で少しずつ強くなる彼は、非効率的なプレイをしていくプレイヤーたちを置き去っていく。 何か特別な力も、特別な出会いもないまま進む彼は、回り道なんかよりもよっぽど効率良く先頭をひた走る。 初討伐特典や、先行特典という、優位性を崩さず実直にプレイする彼は、ちゃんと強くなるし、ちゃんと話題になっていく。 ロマンばかり追い求めたプレイヤーの中で”普通”な彼が、目立っていく、新感覚VRMMO物語。

Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~

NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。 「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」 完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。 「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。 Bless for Travel そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

VRMMOでスナイパーやってます

nanaさん
SF
ーーーーーーーーーーーーーーーー 私の名は キリュー Brave Soul online というVRMMOにてスナイパーをやっている スナイパーという事で勿論ぼっちだ だが私は別にそれを気にしてはいない! 何故なら私は一人で好きな事を好きにやるのが趣味だからだ! その趣味というのがこれ 狙撃である スキルで隠れ敵を察知し技術で当てる 狙うは頭か核のどちらか 私はこのゲームを始めてから数ヶ月でこのプレイスタイルになった 狙撃中はターゲットが来るまで暇なので本とかを読んでは居るが最近は配信とやらも始めた だがやはりこんな狙撃待ちの配信を見る人は居ないだろう そう思っていたが... これは周りのレベルと自分のレベルの差を理解してない主人公と配信に出現する奇妙な視聴者達 掲示板の民 現実での繋がり等がこのゲームの世界に混沌をもたらす話であり 現実世界で過去と向き合い新たな人生(堕落した生活)を過ごしていく物語である 尚 偶に明らかにスナイパーがするような行為でない事を頻繁にしているが彼女は本当にスナイパーなのだろうか...

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

【野生の暴君が現れた!】忍者令嬢はファンタジーVRMMOで無双する【慈悲はない】《殺戮のパイルバンカー》

オモチモチモチモチモチオモチ
SF
 昔は政府の諜報機関を司っていた名家に生まれ、お嬢様として育った風間奏音(かざまかのん)はしかし、充実感の無い日常に苛立ちを覚えていた。  そんなある日、高校で再会した幼馴染に気分転換にとVRMMOゲームを勧められる。この誘いが、後に世界一有名で、世界一恐れられる"最恐"プレイヤーを世に生み出す事となった。  奏音はゲームを通して抑圧されていた自分の本音に気がつき、その心と向き合い始める。    彼女の行動はやがて周囲へ知れ渡り「1人だけ無双ゲームやってる人」「妖怪頭潰し」「PKの権化」「勝利への執念が反則」と言われて有名になっていく。  恐怖の料理で周囲を戦慄させたり、裏でPKクランを運営して悪逆の限りを尽くしたり、レイドイベントで全体指揮をとったり、楽しく爽快にゲームをプレイ! 《Inequality And Fair》公平で不平等と銘打たれた電脳の世界で、風間奏音改め、アニー・キャノンの活躍が始まる!

処理中です...