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楽しく賑わう吸血少女

極意のその先

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「それで、これからどうする?」

 アークサンクチュアリへの道は開通出来たので、当初の目的は達している。ここから予定にないので、アカリがどうしたいのか確認する。

「う~ん……レベル上げしたいかな。出来れば、ここにいるモンスターで」
「じゃあ、私も付き合うよ」
「良いの?」
「うん。私も普段使いしないスキルを上げたいしね。ソイル達がいた方がマージンは取れるけど、戦闘に慣れるためにも二人だけでやろうか」
「うん。ありがとう」
「どういたしまして」

 せっかくなので、二人で一緒にレベル上げをする事にした。スキルを格闘戦特化に入れ替える。ブレス系で揃えたら、アカリを巻き込む可能性が高いので範囲攻撃はしないでおく。
 アークサンクチュアリから出て、少し歩いていると、正面からモウドクトカゲが向かってきた。

「来た。それじゃあ、行くよ」
「うん」

 血液を手と足に纏わせて、闘気を集中させる。そして、深呼吸をしてから【鬼】と【鬼気】【黒鬼気】を開放させる。額から白い角が二本生えて、赤と黒のオーラを身体に纏う。
 準備を整えたところで、【電光石火】でモウドクトカゲの懐に突っ込む。がら空きの喉の下を思いっきり殴る。この時に【加重闘法】を使って、拳に体重を乗せる。諸々を含めて強化された攻撃によって、モウドクトカゲがひっくり返る。
 そこに、遅れてきたアカリが連続で突き刺す。これで残り三割までHPを減らす事が出来た。
 モウドクトカゲの真上に跳び上がって、落下の勢いを乗せた蹴りを突き刺す。これにも【加重闘法】を使ったからか、あっさりと倒せた。

「やっぱり、結構強いかな」
「【鬼】?」
「ううん。【加重闘法】の方。【鬼】も強いけどね。何となく全部の力を引き出せている感じがしないんだよね。多分、進化しないと、真価を発揮しないんじゃないかな?」
「ん? ん~……あっ、真価ね」

 アカリがそう言った事で、自分が分かりにくい事を言った事に気付いた。音が同じだから、混乱するのも無理はない。

「進化前提のスキルって事?」
「まぁ、大体のスキルがそうだと思うけど、そうだね……っと、地面から来るよ」
「うん」

 そこから荒れ地に出て来るモンスターを次々に倒して行く。なるべく私が大きな攻撃をしてヘイトを稼ぎ、アカリが安全に戦えるように配慮して戦った。そうじゃないと、レベル上げも難しくなるから。
 一番苦戦しそうだったロックゴーレムは、アカリが爆薬を投げつけて爆発させて倒していた。生産職なりの戦い方の一つって感じかな。私は正面突破で倒したくなるけど。
 夕方になるまでレベル上げを続けて、夕食前に別れてログアウトした。
 再びログインした私は、双刀の隠れ里に転移した。すると、いつもと様子が違う事に気付いた。

「人が多い……ついに見つかったか」

  あの静かな環境が結構好きだったけど、今はプレイヤーがガヤガヤとうるさい。私は面倒臭いからやらないけど、ここを見つけた人が掲示板とかで広めたのだと思う。
 熱帯エリアを本当に隈無く調べていれば、運良く見つかる可能性が高い場所なので、いずれは見つかると思っていた。ただ、いざその時が来たら、ずっと見つからなければ良かったのにと思ってしまう。情報の独占がしたいとかじゃなく、いつもの双刀の隠れ里が無くなってしまうからだ。
 内心ため息をつきながら歩いていると、師範の家からプレイヤーが出て来た。

「くそっ! どうやったら収得出来んだよ!!」
「お前も駄目だったか……あの動きに対応するなんて難易度が高すぎるだろ……」
「でも、もう何人かクリアしてんだろ? アドバイスも載ってるじゃねえか」
「なら、やってみろよ。気付いた時には背後に回られて斬り刻まれるだけだぞ」

 話の内容的に、皆が皆クリア出来たわけじゃないみたい。まぁ、師範の背後に移動してくる技は、ほぼ反則に近いから仕方ない。背後に来るって分かっていても、どのタイミングが掴んで、どの方向から攻撃が来るか見極めて防御出来ないといけない。
 私は、結構運が良かった感じだし、普通に難しいのだと思う。その人達の横を通り過ぎて、師範の家をノックしようとしたら、即座に開いた。

「久しいな。中に入れ」
「はい」

 師範と一緒に道場に移動する。

「【双剣】と【双刀】を極めたようだが、極意の先はまだのようだな」
「【双天眼】は、常に使用しているので、今では使っている状態が普通になっていますが、これは極意の先ではないですよね?」
「その通り。それは、ただ【双天眼】を完全に使いこなしているだけだ。頭痛もないのだな?」
「ないですね」
「ふむ。では、後は経験だけだな。今回は、儂も本気でやろう」
「はい」

 師範が双剣を構えるのと同時に、私も双血剣を構える。最初に仕掛けたのは、師範の方だった。いつもの背後に回る動き。それは私も見越している。【心眼開放】で動きをスローモーションにして、師範の動きを読む。
 師匠よりも動きは遅いけど、それは師匠と比べての話。普通の攻撃と比べたら、かなり速い。振り向きながら、振られる二本を弾く。その流れのまま、蹴りを放つと、師範は再び背後に移動した。蹴りをした勢いで身体が流れているので、次に振られる師範の攻撃は防げない。
 だから、防がずに避ける方を選ぶ。【重力操作】で蹴りをした方向に重力を発生させて、流れのままに落ちていく。
 これには、師範も驚いていた。でも、それで動きを止めるような人じゃない。すぐに追いついてくるので、重力を戻して迎え撃つ。師範の縦横無尽な連撃を防いでいく。それを見ていて思ったけど、この連撃は私もよくやる攻撃だった。知らず知らずのうちに、師範の影響を強く受けていたのかな。
 ただ、この状況で問題が一つあった。師匠の時よりは余裕があるけど、反撃を入れる隙がなかったのだ。普通の戦いなら、影や土、風などで無理矢理隙を作るし、何なら炎を吐くか【蒼天】を適当にぶちかますのだけど、師範や師匠との稽古では、そういう別の武器は使わないと決めている。純粋に武器とそれ以外のスキルで対応したい。
 だから、師範の動きを観察しながら、ひたすらに攻撃を防いでいく。もっと速く、もっと速くと考え続けながら防ぎ続けていると、本当に身体の動きが速くなっていた。私が師範の攻撃に反応するのと同時に、身体も動いている。感覚の反応と身体の反応のタイムラグがほぼない。攻撃を認識して、防ごうと思ったら防いでいる。
 このおかげで、ようやく師範の隙を作りだす事が出来た。師範の身体に黒百合が触れる寸前で手を止める。その時には、師範も動きを止めていた。

「ふむ。成ったな」
「これが、極意の先……」

『条件を満たしたため、以下のスキルを解放します。【超反応】:感覚と身体の反応速度を大きく上昇させる。控えでも効果を発揮する』

 何かの条件を満たしたらしい。多分、師範との稽古が条件になっているのかな。でも、これが極意のその先らしい。

「後は、【二刀流】だな」
「そうですね。そっちは、師匠に鍛えて貰っています」
「それが良い。【二刀流】も極めたら、また来い」
「はい。そういえば、弟子が増えたみたいですね」
「大して期待出来ないがな。お前程熱心に稽古に来る気もしない」
「あ~……まぁ、その可能性はありそうですね」

 【双剣】を手に入れたら、それで終わりと考える人がいてもおかしくはない。実際は、レベルが50になったところで、一旦来ないといけないから、そこだけ来るとは思うけど。

「そうだ。師範に訊きたい事があるんですけど、大丈夫ですか?」
「何だ?」
「天聖教もしくは邪聖教、雪狼会について何か知りませんか?」

 結構情報が少ないので、師範にも確認しておく。

「詳しくは知らんな。様々なところに支部を持っているとは聞く。だが、縮小しているとも聞くぞ」
「なるほど……」

 山脈エリアの頂上にあった聖堂みたいな場所も管理されなくなっていたので、縮小されたと言われても驚きはない。でも、こうなると、痕跡を探すのが一番になるのかな。

「邪聖教の方は分かりますか?」
「そっちは分からないな。天聖教から離反したもの達の集まりという事しか分からん」
「そうですか……」

 さすがに、都合良く分かったりはしなかった。まぁ、ここは仕方ない。

「何かあるのか?」
「複雑な因縁が絡んでいるので、簡単に言うと、邪聖教を壊滅させたいって感じです」
「なるほどな。力になれずすまない」
「いえ、気にしないで下さい。それじゃあ、次は【二刀流】を極めてから来ますね」
「ああ、刀刃の隠れ里で扱いて貰え」
「はい!」

 早く【二刀流】も極めて、師範からお墨付きを貰いたいな。
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