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楽しく賑わう吸血少女

下水道の奥の奥

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 近づいてくるゾンビ達を隠密双刀で倒しながら走る。最近、自分の身体で戦っていなかったから、ちょっとしたリハビリを兼ねている。【竜王息吹】に【火炎武装】を組み合わせて、ゾンビ達を燃やしながら進んでいったので、割と楽ではあったけど、ゾンビの数が多すぎて嫌気が差してきた。

「【召喚・メア】」
『いやっほ~い♪ 【闇纏絞縛】』

 メアは出て来た直後に魔法を使用した。周囲にいたゾンビ達に闇が纏わり付いて、思いっきり縛っていた。縛られたゾンビ達は、じわじわと身体を削られて消えていった。その間に、奥にいるゾンビ達が次々に消えていく。

「このままマンホールの中に入るよ」
『おっ任せ~い♪』

 背中にメアが飛び乗ったのを感覚だけで確認して、【雷脚】を使い一気に駆け抜ける。同時に【疾風迅雷】で溜まった雷を【雷電武装】で隠密双刀に纏わせつつ、【暴風武装】も使用して、雷と炎を纏った斬撃を飛ばす。正面に道を作って、マンホールの中へと飛び込んだ。マンホールの中は、すでにメアの闇が届いていたので、すんなりと入る事が出来た。

「う~ん、もっと早く倒せるようになれれば良いんだけどなぁ。【召喚・エアリー】」

 やっぱり二人だけだと、厳しそうという判断でエアリーを召喚した。召喚された瞬間、エアリーはゾンビを一掃した。

「ありがとう、エアリー」
『いえ、お気になさらず』

 私達は、そのまま下水道を進んでいき、宙を浮いて、穴の中を覗きこむ。見た感じ、もう何もいない。ただ奥が見えないから、若干怖い。

「まぁ、どうにかなる事を祈るか。落ちるよ?」
『いえ~い♪』
『はい』

 メアは私の背中に乗りながら、エアリーは私の傍に添いながら、一緒に落ちる。前は悪魔擬きがいたから行けなかった場所を通り過ぎていく。

『お姉様』
「うん。見えてる」

 さすがに、床が近づけば私にも見える。【浮遊】で勢いを殺して床に着地する。

『う~ん……スリルに欠ける』
「どんな事を考えてたの……」
『もっと、ゴーって感じ♪』
「どんな感じだ……?」

 速さが足りなかったって感じかな。普通に自由落下だから、結構速いと思うのだけど、メアは満足出来なかったらしい。今度は、空高くからフリーフォールでもさせてあげようかな。てか、そもそも精霊って浮けるのに、スリルがあるのかな。
 そんな疑問を持ちつつ、周囲を見回す。

「汚物まみれでも文句は言えないと思っていたけど、割と綺麗?」
『はい。そういったものは見当たりません。ですが、念のため、レインを喚ぶことを勧めます』
「レインを? ああ、いざって時に洗えるからか。【召喚・レイン】」
『わぁ……またここ?』
「またというか、あの下にある場所かな」
『ふ~ん、じゃあ、掃除するね』
「あ、うん。お願いね」

 レインは綺麗好きなのか、すぐに下水道の掃除を始めた。それを見てから、周囲を見回す。一応、ここから先も続いているようで、一つの穴が開いていた。周囲には何もないので、その穴に入っていく。

『ここから先は、長く続いているようです』
「どの方角か分かる?」
『西方向です』
「西? う~ん……この先って、城に続いてる?」
『距離的には、続いていてもおかしくないかと』
『滅茶苦茶先まで続いてるよ。それに一本道』

 エアリーとレインの報告通りなら、本当に城まで続いていてもおかしく無さそうだ。ボスを無視して、城に入る事が出来る道なのかもしれない。実際に、そういうボス無視のショートカットは、ファーストタウンの地下道にあるので、無い話では無い。
 闇が続いているかもしれないと思って、メアも連れてきたけど、特に闇が出て来る事はなかった。

「スキルのおかげで見えてるけど、結構暗いなぁ」

 下水道って事もあって、灯りが何もない。なので、本当に暗い場所になっていた。元々ここを歩くようには作っていないとかなのかな。一応、今のところ汚物が落ちているという事はない。レインの掃除が行き届いているだけかもだけど。

『お姉様、この先大きな空間があります』
『円状に水が流れてる。中央には、円形の足場があるよ』
『おぉ~、何も分からん♪』

 エアリーとレインが、この先にあるものを報告してくれた。その二人を真似したのかメアも何も分からないという事を報告してきた。役に立ちたいのかなって思ったけど、楽しそうに私の周りを飛んでいるので、全く気にしていなさそうだ。本当に、今までの精霊の中で一番お気楽な子かもしれない。

「モンスターは?」
『私が感知出来るモンスターはいません』
『水の中も同じだよ』
「ってなると、ただ開けている場所に出るって感じか。念のため、警戒はしておいて」
『うん』
『はい』
『あいよ~♪』

 そのまま歩いていき、開けた場所に出た。報告通りの構造で、中央の円柱の縁に添って掘られた穴に水が溜まっている。ただ、堀は結構深く水の溜まり具合も少しって感じだ。空を飛べるけど、落ちたら面倒くさそう。
 円柱の半径は五十メートルくらいあるから、そうそう落ちる事はないと思うけど。でも、地下の下水道に、こんな広い場所がある事に違和感がある。それは、世界観的違和感よりもゲーム的違和感だ。

「ボス戦専用に作った場所みたい……嫌な予感しかしない……」

 そう思いつつも軽く跳んで、中央の円柱に移る。すると、天井が割れて、何か降ってきた。降ってきたのは、街で見つけたキメラのぬいぐるみを厳つくしたようなモンスターだ。名前もキメラなので、ぬいぐるみの元となった存在である事が確定した。
 ライオンの首、山羊の首、ドラゴンの首、鷲の羽、肉食獣の身体、蛇の尻尾を持っている。よくこれをデフォルメ出来たなって思うくらいに厳つい。ぬいぐるみがあっても、これを受け入れる事が出来るようになるとは思えない。てか、あの地下室よりも遙かに大きい。

「おぉ……まさかのイベント戦かぁ。いつも通りやろう……って、メアは知らないか」
『う~ん……吸血重視?』
「正解。拘束をお願い」
『おっ任せ~い♪』

 先に動いたのは、キメラの方だった。羽で空を飛んでから、急降下攻撃をしようとして、羽を斬り落とされて落ちた。

『思ったよりも柔らかいですね』

 エアリーの技のおかげだとは分かっていたけど、エアリーも予想外だったらしい。まぁ、見た目よりも柔らかいって感じかな。
 キメラの身体に周囲の堀から飛び出してきた水が纏わり付いて凍った。そこから何重にも拘束が追加される。その間に、メアがドラゴンの首を消し去った。

『弱っ!?』
『思ったよりも力がない。何で?』

 メアもレインもキメラの弱さに驚いていた。三人の話から考えるに、キメラが何らかの要因で弱体化しているみたいだ。まぁ、こっちにとっては好都合だけど。要因は、北の屋敷でやっていた研究かな。
 レインの拘束で動けなくなったキメラに飛び乗って、吸血を始める。すると、HPがどんどんと減っていった。その速度は、想定よりも遙かに早く、一分もしない内に血を吸いきって倒す事が出来た。キメラがポリゴンに変わったけど、スキルは獲得出来なかった。まぁ、五割だからこういう事もあるけど、それよりも気になる事があった。

「何このドロップ?」

 模造獣の肉、模造獣の爪、模造獣の牙、模造獣の毒牙、模造獣の角、模造獣の毛皮というドロップだ。模造獣がキメラというよりも、キメラの模造をした獣って感じがする。それだと、弱さの理由にも説明が付きそう。

「まぁ、いいや。皆、お疲れ様。レインは堀の中、エアリーはあの天井の奥を調べて。メアは、私の護衛をお願い」
『うん』
『はい』
『護衛♪ 護衛♪』

 メアは、いつも楽しそうだ。まぁ、ちゃんと護衛してくれるのなら、私としては困らないし、私も楽しいから良いけど。
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