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楽しく賑わう吸血少女

地下に残された情報

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 資料の全てに目を通して、今度は机の方を調べに向かう。その中で、私はエアリーに話し掛ける。

「ねぇ、エアリー」
『何でしょう?』
「私は、マシロとどう接すれば良いかな? そもそもマシロを解放するべきなのかな?」

 マシロがされてきた事は、正直想像も出来ない。拷問なんてものとは無縁の暮らしをしていた私に、マシロがされてきた事を想像しろと言われても難しいに決まっている。でも、絶対に苦しかったはず。私達が一緒にいて、マシロがその事を思い出さないとは限らない。また、マシロがそんな想いをするのなら、いっそ解放してあげた方がマシロのためなのではと思ってしまう。

『お姉様は、どうしたいのですか?』

 エアリーの返事は、私への答えではなく、質問での返しだった。

「私は……マシロに笑顔になって欲しいかな」
『では、お姉様が、マシロに笑顔を取り戻してあげれば良いと思います。この状況で解放されれば、マシロがまた同じような人の元に喚び出される可能性がありますよ』
「……それって、マシロが応えたらの話でしょ?」
『応えないと言い切る事は出来ません。寧ろ、マシロには、それに応えないといけないという強迫観念があるように思えます。ここにある資料を読んだ後は、強くそう思いました』

 確かに、これはエアリーの言う通りだ。人の言う事に従わないといけないという風に躾けられていれば、召喚に応える可能性は高くなるはず。その場から生まれるだけだったら良いのだけど、メアという例がある以上、既に生きている精霊が喚び出される事もあると分かる。それは、エアリーも一緒っぽく思えるけど。

「そう……だね。それじゃあ、どうすれば良いのかな?」
『待ちましょう。マシロが心を開いてくれるのを。無理矢理は嫌なのでしょう?』
「まぁ、そうだね。どこまでいっても時間か」
『こればかりは仕方ないかと』

 マシロには、ギルドエリアに待機して貰うのが一番なのかな。私としては、外を見て欲しいという気持ちもあるのだけど。ここら辺は、マシロとの相談が必要かな。
 机には何もなかったので、このまま四階に移動する。
 エアリーの報告にもあった通り、四階の間取りは北の屋敷とは違った。部屋が二つあり、屋根裏へと続く梯子は既に掛けられている。その内の一室に入ると、そこは寝室だった。ただ、この寝室も下の部屋同様にボロボロに荒らされていた。靄もないので、次の部屋に移る。次の部屋は扉に鍵が掛かっていた。鍵を開けるのは、影で出来るので、そのまま開ける。
 その部屋には壊れた祈りの霊像が置かれていた。ここでマシロを召喚したという感じかな。それ以外の情報はないので、壊れた祈りの霊像を回収して屋根裏に移動する。
 屋根裏には、大量の絵画が置かれていた。その絵画は悪魔のようなものばかりだった。

「これ……アークサンクチュアリにあった絵と似てる……悪魔か。そういえば、悪魔を作るためって書いてあったっけ。悪魔って何なんだろう?」
『お姉様では?』
「いや、まぁ、そうなんだけど」

 【大悪魔】を持っている以上、私自身が悪魔であるという事は正しい。ただ、ここの絵やアークサンクチュアリの絵にあるようなおどろおどろしい姿にはなっていない。つまり、悪魔は姿を表すものではないはず。

「まぁ、悪魔についての考察は、また今度にしよう。メアからも話を聞きたいし」
『交代しますか?』
「ううん。エアリーの空間把握が必要だから、交代はなし。屋根裏にも何もないみたいだから、地下に行こう」
『はい』

 エアリーと一緒に地下へと向かう。地下への入口は、同じ場所にある。それに鍵の構造も同じなので、影で普通に開ける事が出来た。

「セキュリティ面がヤバいな」
『この開け方をするのは、お姉様だけでは?』
「……」

 何も言えなくなったので、扉を開けて地下へと下りる。そして、地下の惨状に思わず眉を寄せた。そこにあったのは数々の拷問器具っぽいものだった。拷問器具に詳しくないから、どう使うものか分からないけど、何かそれっぽいものって事は分かる。
 さらに、周囲の壁に血がこべり付いているところから、ここで拷問が行われていたと考えられる。マシロから血が出るのかは知らないけど、ここでマシロが拷問されていたかもしれないかと思うと胸が締め付けられる。
 正直詳しく調べたいとは思えない。だから、周囲を見回して資料もしくは靄がないかだけ確かめる。

「ない。下に下りるよ」
『はい』

 心なしかエアリーの声も硬い。私と同じように感じているのかもしれない。地下二階に下りると、研究室のような場所になっていた。ただここを見ただけでは、何の研究室か分からなかったけど、あの資料を見た後なので、すぐに寄生生物の研究をしていた場所だと気付いた。
 苛立ちを覚えつつも、情報を探す。すると、床に紙が散らばっているのが見えた。ほぼ確実に資料なので、拾い上げて中身を読む。

「やっぱり寄生生物の研究か。後は……」

 大体が、寄生生物が出来るまでの記録みたいなものだったけど、途中で別のものが混じっていた。それも記録ではあった。マシロへの拷問の記録だ。顔を顰めつつも内容を読んでいく。罵詈雑言から魔法による躾、鞭による躾、魔力吸収による責めなど様々な拷問を受けていたらしい。抵抗すれば、その分だけ拷問も酷いものになっていく。その中で、何度か存在が消えかけたらしい。完全に消してしまったら、研究が出来ないので、そこら辺の調整はしていたみたい。それが良い事とは決して言えないけど。
 そうして、段々と従順になっていたマシロを光に閉じこもらせて、寄生生物を寄生させ、マシロの魔力で生きながらえ、闇を集め続けさせたみたい。

「ふぅ……」

 つい重いため息が溢れる。拷問の記録を仕舞って、他の資料を集めていくと、ゾンビ達の研究もされていた事が分かった。ゾンビ無限湧きの魔法陣を作ったから、そこら辺の研究もしっかりとしていたって事だと思う。

「色々してるんだな……」
『破壊しますか?』
「いや、良いよ」

 どうせ破壊したところで、元に戻るだろうしね。一時のストレス発散にしかならない。それに、そのストレス発散も大して効果ないだろうし。本当に、ここにいたであろう人達が、もう死んでいる事が残念で仕方ない。生きていたら、全員血塗れにさせたのに。
 そんな事を思いつつ、周囲を見回すと端っこの方に靄があるのが見えた。【心眼開放】で固めると、ロザリオになった。

「天聖教が関わってるの?」

 ロザリオと言えば、天聖教だ。実際に手に入れた事もあるから。ただ、そのロザリオとは違う形をしていた。

「え……邪聖教のロザリオ?」

 ロザリオにも型があるから、違う種類の天聖教のものと決めつけていたのだけど、実際には邪聖教のものだった。つまり、この件に邪聖教が関わっているという事だ。

「邪聖教……あっ、だから、悪魔?」

 天聖教が天使を祀るなら、邪聖教が悪魔を祀っていてもおかしくはない。そして、この屋敷で行われていた研究は悪魔の創造。色々と繋がる。

「潰すべきは、邪聖教か」

 邪聖教について詳しく調べる理由が増えた。クエスト云々よりも、邪聖教を潰すという方がメインになりそうだけど。南の屋敷全体を調べて、マシロの事がよく分かった。分かった事は嬉しいけど、同時に最悪な気分になった。西のコンセプトとしては、合っているのかもしれないけど、ちょっと胸糞過ぎる気もする。早くどうにかしてあげたいな。
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