上 下
241 / 417
高く光へ昇り深く闇へ沈む吸血少女

蒼天

しおりを挟む
 蒼天竜が完全に消えたのを見て、ようやく一息つく事が出来た。

『【始祖の吸血鬼】により、蒼天竜から【蒼炎息吹】を獲得。【炎息吹Lv50】【火炎息吹Lv50】の進化のため、以上のスキルが収得不可能となります』

 【炎息吹】の進化が【火炎息吹】で、そのさらに進化したスキルが【蒼炎息吹】って事かな。【竜息吹】がなくなっていないから、【竜息吹】は関係ないスキルみたい。
 またドロップアイテムとして、蒼天竜の鱗×30、蒼天竜の爪×2、蒼天竜の牙×10、蒼天竜の眼×2、蒼天竜の羽、蒼天竜の火炎袋、蒼天竜の角×2が手に入った。

『蒼天竜を初めて討伐したので、【蒼天】を獲得しました』
『蒼天竜を討伐しました。称号【蒼天を阻む者】を獲得しました』

────────────────────

【蒼炎息吹】:かなり高温の炎を吐けるようになる

【蒼天】:蒼天を放てるようになる。

【蒼天を阻む者】:【蒼天】のチャージ時間が短縮される。

────────────────────

 高温の炎を吐けるのは嬉しいのかな。正直、判断に困る。【竜息吹】でも火傷でダメージを受けるのに、より高温の炎ってなったら、焼け爛れるのではと思ってしまう。
 さらに、【蒼天】というよく分からないスキル。説明も蒼天を放てるようになるという曖昧な説明だけだ。放つという部分から、何かを撃ち出すものと考えられるけど、蒼天竜がしてきた遠距離攻撃といえば、もう一つのスキルである【蒼炎息吹】だ。
 【蒼天】は、一度も使われていない。そもそも使わないのかすらも分からない。もしかしたら、私の戦い方のせいで、使う条件が満たせなかった感じかな。

「まぁ、使ってみようか」

 せっかく専用の称号まで手に入れたので、【蒼天】を装備する。

「……どうやって使うんだろう? 放つだから、蒼天竜も放てるような動作だよね。結構手足が自由に動いていたから、割とどんな動きも出来そうだけど……皆、ちょっと離れておいて」

 危険性を考えて、皆を離れさせる。
 下半身から放つものではないと思うので、手を使って色々と構えてみたけど、何も起こらない。

「後はブレスか」

 試しに口を大きく開いて力が溜まるようなイメージを持つ。すると、口の中が青く光り始めた。何か滅茶苦茶怖い。称号の効果から、チャージが必要というのは予想出来るので、そのまま力を溜めていく。光は、どんどんと強くなり、口の中というより喉の奥で熱いものが生まれてきた。
 これはまずいと思い、すぐに喉にあるものを空に向かって吐き出す。口の中から青い熱線が放たれた。驚いたのは、その太さが、私の口の大きさよりも遙かに大きかった事。口から出ているのだと思うけど、顔面から出ているのではと思われるくらいだった。
 曇っていた空の一部から雲が消え去る。

「ぁ……?」

 「うわぁ」って言ったつもりが、空気が抜けるだけで声が出てこなかった。その理由は、私が沈黙状態になった事にあった。恐らく、さっきの【蒼天】で喉が焼かれて沈黙状態になったのだと思う。
 【蒼天】に限らず、ブレス系はダメージを受けたりとデメリットが存在する。この理由は、私の身体が人間のものだからだと思う。まぁ、人間というよりも吸血鬼なのだけど。
 スノウ達に手振りで戻ってくるように指示を出す。そして、一人一人頭を撫でてあげる。今回は、皆に苦労を掛けてしまった。本当に強い相手だったしね。エアリーにもしてあげないと。

『水、飲む?』

 レインからそんな提案を受けた。声に出して返事を出来ないので、頷く事で返事をする。レインから貰った水が喉の中を通っていく。これで沈黙状態が解除されれば嬉しかったけど、そこまで都合良くはいかなかった。
 そして、私は重要な事に気付いた。沈黙状態だと、皆をギルドエリアに戻す事が出来ない。皆を帰すためには、魔法のように声を発する必要がある。それが出来ない以上、三人を帰す事が出来ない。仕方ないので、このまましばらく待機する。喉の違和感が取れたところで、沈黙状態が解除された。大体五分くらいかな。

「あ~……うん。ちゃんと、声が出る。皆を帰せないのは不便だね」

 そして何より恐ろしいのは、【蒼天】の最大威力は、もっと上だと思われる事。私は、これ以上溜めるのはまずそうという勘で放ったので、本来の最大溜めには、まだ時間が掛かるはず。

「一回はやった方が良いか。その前に、今日はお疲れ様。皆は、先に帰って休んで。【送還・スノウ】【送還・レイン】【送還・ライ】」

 三人をギルドエリアに帰した後、空に向かって飛ぶ。最大威力を地上で撃って、地上に大きな影響があると困るので、比較的安全であろう空中から空に向かって撃つ事にする。

「よし! 最大溜めで頑張ろう!」

 また口を大きく開けて、【蒼天】を溜める。しばらくすると、喉に熱いものを感じる。さっきは、ここで放ったけど、その先を目指す。喉の熱さがどんどんと増していき、HPを削る程になっていく。それだけでなく、肺の方まで熱さが落ちてきて、胸も熱く感じる。口から発せられている青い光もどんどんと強くなっている。口からスポットライトが出ているかのようになっている。
 光の強さと喉の熱さがこれ以上上がらなくなったタイミングで、【蒼天】を放つ。最早、身体全体から出しているのではと思われる程の太さになった【蒼天】が天に昇る。周囲の雲が消え去り、雪嶺エリアに空が戻ってきた。
 【蒼天】から輻射熱でも出ているのか、私の身体も炙られたかのような感覚を受けていた。HPが【貯蔵】分の五割も削れている。これを地上で撃ったら、地表が融けていたかもしれない。そう考えると、空で使ったのは正解だった
 そして、変わらず沈黙状態になった。これは、確実みたいだ。私の喉が進化したら変わるのかもしれないけど、変わる兆候なんてないので、そこは諦めるしかない。
 沈黙の時間は、さっきよりも延びて、七分くらいになっていた。

「レインの水の効果もあったのかな? まぁ、それはまた今度でいいや。取り敢えず、【蒼天】の検証をしていかないと」

 私は、残った時間で【蒼天】の検証を進めていった。後でも良かったけど、私の主力の一つになる可能性を秘めている事に気付いたので、早々に検証を済ませて、戦闘に組み込みたいと思った。
 その結果、【蒼天】を使うには一定以上の溜めが必要だという事が分かった。その溜めは、喉が熱くなる一歩手前くらい。つまり、最低でも最初に放った時の威力があるという事になる。さらに、この溜めの間は動いても問題ない。それと、口を大きく開く必要もなく、放つ時にだけ口を大きく開く必要があるだけだった。
 それを考えると、沈黙状態と自傷ダメージというデメリットよりも威力というメリットが大きすぎる。なので、これからは積極的に使っていこうと思う。沈黙状態は、魔法を使わない私にはデメリットにもならないからね。
 【蒼天】の検証を済ませた私は、空を飛んでファーストタウンまで戻ってギルドエリアに転移した。態々飛んで移動した理由は、蒼天竜との戦闘や【蒼天】の検証が雪見の里の周辺からでも見られていた可能性があるからだ。
 私が雪見の里に来ると思って、待機しているプレイヤーがいないとも限らないので、一気にファーストタウンに移動した。実際、そういう事に近い出来事はあったわけだしね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

Alliance Possibility On-line~ロマンプレイのプレーヤーが多すぎる中で、普通にプレイしてたら最強になっていた~

百々 五十六
ファンタジー
極振りしてみたり、弱いとされている職やスキルを使ったり、あえてわき道にそれるプレイをするなど、一見、非効率的なプレイをして、ゲーム内で最強になるような作品が流行りすぎてしまったため、ゲームでみんな変なプレイ、ロマンプレイをするようになってしまった。 この世界初のフルダイブVRMMORPGである『Alliance Possibility On-line』でも皆ロマンを追いたがる。 憧れの、個性あふれるプレイ、一見非効率なプレイ、変なプレイを皆がしだした。 そんな中、実直に地道に普通なプレイをする少年のプレイヤーがいた。 名前は、早乙女 久。 プレイヤー名は オクツ。 運営が想定しているような、正しい順路で少しずつ強くなる彼は、非効率的なプレイをしていくプレイヤーたちを置き去っていく。 何か特別な力も、特別な出会いもないまま進む彼は、回り道なんかよりもよっぽど効率良く先頭をひた走る。 初討伐特典や、先行特典という、優位性を崩さず実直にプレイする彼は、ちゃんと強くなるし、ちゃんと話題になっていく。 ロマンばかり追い求めたプレイヤーの中で”普通”な彼が、目立っていく、新感覚VRMMO物語。

Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~

NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。 「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」 完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。 「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。 Bless for Travel そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

VRMMOでスナイパーやってます

nanaさん
SF
ーーーーーーーーーーーーーーーー 私の名は キリュー Brave Soul online というVRMMOにてスナイパーをやっている スナイパーという事で勿論ぼっちだ だが私は別にそれを気にしてはいない! 何故なら私は一人で好きな事を好きにやるのが趣味だからだ! その趣味というのがこれ 狙撃である スキルで隠れ敵を察知し技術で当てる 狙うは頭か核のどちらか 私はこのゲームを始めてから数ヶ月でこのプレイスタイルになった 狙撃中はターゲットが来るまで暇なので本とかを読んでは居るが最近は配信とやらも始めた だがやはりこんな狙撃待ちの配信を見る人は居ないだろう そう思っていたが... これは周りのレベルと自分のレベルの差を理解してない主人公と配信に出現する奇妙な視聴者達 掲示板の民 現実での繋がり等がこのゲームの世界に混沌をもたらす話であり 現実世界で過去と向き合い新たな人生(堕落した生活)を過ごしていく物語である 尚 偶に明らかにスナイパーがするような行為でない事を頻繁にしているが彼女は本当にスナイパーなのだろうか...

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

【野生の暴君が現れた!】忍者令嬢はファンタジーVRMMOで無双する【慈悲はない】《殺戮のパイルバンカー》

オモチモチモチモチモチオモチ
SF
 昔は政府の諜報機関を司っていた名家に生まれ、お嬢様として育った風間奏音(かざまかのん)はしかし、充実感の無い日常に苛立ちを覚えていた。  そんなある日、高校で再会した幼馴染に気分転換にとVRMMOゲームを勧められる。この誘いが、後に世界一有名で、世界一恐れられる"最恐"プレイヤーを世に生み出す事となった。  奏音はゲームを通して抑圧されていた自分の本音に気がつき、その心と向き合い始める。    彼女の行動はやがて周囲へ知れ渡り「1人だけ無双ゲームやってる人」「妖怪頭潰し」「PKの権化」「勝利への執念が反則」と言われて有名になっていく。  恐怖の料理で周囲を戦慄させたり、裏でPKクランを運営して悪逆の限りを尽くしたり、レイドイベントで全体指揮をとったり、楽しく爽快にゲームをプレイ! 《Inequality And Fair》公平で不平等と銘打たれた電脳の世界で、風間奏音改め、アニー・キャノンの活躍が始まる!

処理中です...